吾れ先導者たらん GA-8・戦闘後
影と灰
執念、か。
これが君の執念なんだね……
しつこいわね。何か文句でもあるの?
道理なんてなくても、後の祭りであっても、無駄に終わる定めでも――やると腹を決めたら、私はやるのよ!
私たちが何のために戦ってると思ってるの?
あなたの小難しい説教も、頭が痛くなるほどの長話も、あなた自身訳がわからなくなるような戯言だって――どれもあなたの執念じゃないの?
あなたも、私も、他のみんなも、執念のためにここにいるのよ!
唐突に銃声が鳴り響いた。
ただ、その狙いはアンドアインではなかった。
その瞬間、彼は自分の手から銃が抜け落ちたのを感じた。
彼は不意に、「これでいい」と思った。
彼の銃はラテラーノに残るだろう。
彼がその思いを言葉にする日は永遠に来ないかもしれないが――誰がラテラーノを愛さずにいられるというのだ。
あの安寧の日々、喜びの歳月、愉快なひととき……
この「愛」のために、彼は悔やみ、負い目を感じ、恥じ、疑った。
彼は永遠に、真の意味でラテラーノ人になることはできないのかもしれない。
しかし、彼の銃はこの地に留まる。その考えが頭をよぎった瞬間――
目の前の者が彼をにらみつけたこの瞬間――
在りし日の安寧が気泡のように水面に浮かび、小さく弾けてかすかな水しぶきを上げた。
彼はこれまで、信心と懐疑の道の上を果てしなく歩いてきた。
道から道へ、そしてまた次の道へと。
やがて道は荒野となり、自身の根源は失われてしまったと思い込んでいた。
しかしそうではないのかもしれない。
多くの物事において、そうではないのだ。
彼は小さく感謝を述べた。
過去から未来、時間と空間におけるすべての歴史の中で、その感謝を耳にする者はいないだろう。
しかしもう十分だ。
随分遅かったね。どこかで寝ちゃったのかと思ったよ。
しょうがないじゃない、ちょうどいい狙撃ポイントを探すのも大変なのよ。
そこまでよ、アンドアイン。抵抗はやめ……
(小声)執念のために……ここにいる……
危ない!
まだアーツを放つ余裕があるの!?
……人は、いかにすれば救いを得られるのか。
いや、救いを得るのではない……いかにすれば尊厳を持って生きられるのか、だ……
君は自分の正義によって私の前に立ち、私は自分の正義によってここまで歩んで来た。
迷いによって、執着によって、終着点のない放浪によって……道はとうに私の足下に敷かれていたんだ……
なぜ希望を「救い」に委ねねばならない? そうだ、私たちの成すことすべては、救いを得るためではない……
自らが救済者となる資格を得るためだ。
アンドアイン、目が覚めた? 顔を上げてちゃんと私を見なさい――さっきまでの戦いは、まるでサンドバッグを相手にしてるみたいだったわ。
私は私の道を行くよ。これがアレから与えられた使命であろうとなかろうとね……
君にも感謝しなければね、フィアメッタ。
どういたしまして。あなたの葬式では、お友達にあなたが悟りを開いたことを伝えといてあげるわ。
でも今は――
いやぁ残念、今はまだその時じゃねぇんだよ。こいつはまだ使えるんでな。
柱がやられた? フィアメッタ、崩れちゃう前に早く!
誰よ……!
今回の爆破はれっきとした合法の催し事だぜ。さっき俺自ら申請書を書いて、自分でハンコを押したからな。
オレン!!
オレン、一体何をしているの? 私にすり寄ってきたのはこれが目的だったの?
……もうバレちまったか……
(小声)アンドアイン、先に行け。後から追いつくからよ。
……
フィアメッタ、モスティマ、いずれまた会うことになるかもしれないが……
どこで再会しようとも、互いにまだこの執念を抱き続けていることを願うよ。
君の言う通り、私たちはそうした執念によって存在しているのだからね。
ちょっとあなた、困るんだけど。
それ、うちのホテルの看板よ。さっさと下りてくれないかしら。護衛隊に通報するわよ!
というか――
あなた車椅子でどうやってそこに登ったの?
意外となんとかなるものよ。
あら、遠くで煙が上がってる……また爆発? 最近ちょっと多すぎないかしら……サミットって言うけど、まるでお祭り騒ぎね。
あのー、ちょっと申し訳ないんだけど……下りるの手伝ってくれたりしない?
アハハ、登るのは簡単でも、なかなか下りられないのってあるあるよね。
ふざけるな、ラテラーノの管理能力はどうなってる! 納得のいく説明をしてくれ! あの危険な連中が起こした爆発のせいで、私のコレクションが壊れたんだぞ!
ラテラーノの啓示の聖鐘が鳴ったのは千年ぶりらしいな? 教皇聖下が我々を歓迎するためにわざわざ鳴らしてくれたのか?
正直、この野蛮な方々と同じ部屋にいるのは耐えられませんわ。教皇聖下のお顔を立てるためでなければとっくに……
連れてきた料理人に食事の用意をさせておけ。もう二度とラテラーノの晩餐会に参加するつもりはない。
こんな人たちが、ほんの僅かでも変化をもたらしてくれるのでしょうか? ほとんどが投機目的で……いや、投機目的の人すらマシな方かもしれませんね。
もたらしてくれるさ。これは奇跡の都市であるラテラーノにしかできぬことだ。永遠に公正なラテラーノがやるに相応しいこととも言えよう。
教皇聖下、私も……我ら自身に祈りを捧げます。
君がそこまで緊張するとは珍しいこともあるものだな。
私は老いた。大それたことはもう何もできん。最後まで足を踏み出し続けるしかないのだよ。
教皇聖下、短波放送設備の架設が完了しました。
ありがとう。
受け継いだ聖徒の名に恥じぬようにせねばな。
テラ各国からやってきた使者の皆様、イヴァンジェリスタⅪ世がここにご挨拶を申し上げます。
我々はまさに挑戦の最中にあります。「ラテラーノが」ではなく、テラのすべての国家がです。
皆様もご存じの通り、今日のテラ諸国は移動都市の車輪の上に建てられています――これは単に移動都市の実情を述べているわけではありません。
「現代国家」の概念とは、移動都市の誕生と共に打ち立てられたものなのです。
かつて、「国家」とはただの集落でした。共同で生活していた人々が天災の下に集い「国」を成したのです。国境とはすなわち、人々の視野の境界線でした。
しかし、移動都市の誕生が国家を変えたのです。
そして、人と同じように、国家間の交流が密になればなるほど軋轢が生じるものです。
いえ、歴史を「軋轢」などと軽い言葉で要約すべきではないのかもしれません。
私はガリアの滅亡をこの目で見ました。
光り輝く「世界の首都」が一夜にして滅びたのです。咆哮する装甲戦艦は声をからし、向かうところ敵なしだったガリアの古参近衛隊は炎と煙になりました。
それにより犠牲を払ったのはガリアだけに留まらず、文明そのものも大きな犠牲を支払うことになりました。
あの「ガリア人の皇帝」と、その彼が従える恐れ知らずの軍でもってしても、大地の中心に君臨する大帝国を存続させることは叶わなかったのです。
――では、天災の猛威の下、テラ人が築き上げてきた文明を守ることができるのは一体どんな存在なのでしょうか?
ラテラーノ人はかつて、大地全土を巻き込んだあの戦争のために奔走しました。そして、荒野と王廷を行き交うトランスポーターは見事ラテラーノの信用と名声を勝ち取りました。
その折に、我々サンクタはすべての国が安寧と平和を渇望する声を確かに聴いたのです。
しかし世の人はまた、あまりに多種多様な「平和」が城や宮廷、天幕の片隅に形作られる様を見たはずです。
そこに蔓延る不公平な取り決めは、予想だにしない瞬間に崩壊し、国家の安寧を転覆させます。
大地を掃討するが如き侵略や国家拡大は見られずとも、様々な黙契や取引が目の届かないところで交わされ、国家や人の運命を左右しておるのです。
そんな最中、今日ここに啓示が降臨しました。
私は、どの国においても平和が築かれ始めたその瞬間から、監視を行い検討を重ねることで、ごく少人数の間で交わされる秘密や黙契が排除されるのが望ましいと考えております。
過去の時代に執着せず、この大地の明るい未来を願う皆様には、ぜひともこれらの問題を考えていただきたい――
一つ、我々の文明はどうすれば永遠に存続することができるのか?
一つ、平和への挑戦は一体どれだけの人への挑戦を意味するのか?
一つ、いち国家の安全はどれほどの国家の安全を意味するのか?
この大地で生きていくには文明が必要不可欠です。他者に安寧がもたらされなければ、自身にもたらされることもないのです。
ゆえにここで、共同の取り決めと合意に基づき、各国一丸となって相互的に安全を保証する組織を設立することを提案いたします。
我々は国家の利害や安危において、想像よりも密接に繋がっているのですから。
テラに暮らす我々は、最後まで共に存続すべきです。