翠玉の夢 DV-4・戦闘後
無人の路地
六体目のパワードスーツを停止させた。
これで全部か?
そのようだ。十三分の足止めをくらったな。
――いや、待て。
反応あり、七体目を捕捉!
――
気をつけろ、ドクター! そちらへ向かったぞ!
――
任せておけ。
あなたの足が反応するより早く、瞬きの間にサリアが目の前へと現れた。
彼女はライン生命製のあの盾を、クルビアの街中には持ち込んでいない。
代わりに自らを盾とするのだ。
交差させた腕からエナメル質が急速に膨れ上がり、パワードスーツの一撃を防ぐ。
……害虫が。
サリアの低い声が聞こえた。
暴走するクルビアの技術の産物に対して、彼女は常々そう思っているのだ。
その表情と姿勢から、次の動作が読み取れる。
「害虫」を駆除せんとする時、彼女は時間を無駄にはしない。
サリアの手がパワードスーツの胸部に突き込まれれば、その瞬間そこには黒々とした穴が空き――
それは破壊される、あるいは「死を迎える」ことになるだろう。
――その時、あなたの脳裏にある考えが浮かんだ。
ダメだ、サリア!
その耳に届いたのは初めの一音節だけだったかもしれない。だが、彼女は瞬時に動きを止めた。
それは、長い間共に戦ってきたあなたへの信頼の表れだ。
しかし、彼女の拳がコアから逸れても、攻撃の余波はパワードスーツの頭部パーツを破砕するには足るものだった。
無数に飛び散る金属片の中に、それとは異なる金色が――
髪の毛のような、何かが見えた。
ドクター、危険だ! 離れていろ――
あれは……
パワードスーツが倒れ込む。
と、破片がばらばらと落ちていき、髪が、肌の一部が、そして片方の目があらわになった。
その目はこちらを見つめている。
怒り、驚き、混乱……一瞬の間に、あなたは多くの感情を見た。
そして、そうしたあらゆる感情が偽りの外殻と共に剥がれ落ちた時――その瞳が助けを求めていることに気付いた。
ゆえに、あなたは手を差し伸べる。
初めまして、ミュルジス。
マイヤーズ、これはどういうことだ?
わ、わからない……わからなくなっちまったんだよ、リーダー……
とにかく、モル先生を放せ。
先、生を……
……
無理だ、できない。
俺の言うことが聞けないのか?
……あんたこそ、なんでまだそいつらと一緒にいるんだ?
情けをかけるなって言ったのも、俺たちはそいつらに実験動物扱いされてるんだって言ったのも……全部リーダーじゃないか……!
一緒にやろうって説得してきたのもあんたなんだぞ……! 俺はモル先生のこと、いい人だって思ってたのに……!
……真っ先に俺を裏切るのがお前になるとは思わなかったよ。
サムやほかの連中ならまだしも……お前はいつも、俺の話を一番よく聞いてくれてたじゃないか。
要するにそれって、俺が従順すぎるってことでもあるだろ。
俺は昔、上司の命令通りにやった結果鉱石病になった……そうしてここへ来て、今度はあんたの言う通りにやってきた。
あんたたちは有能で賢くて、勉強だってたくさんしてる人間だ。だから従ってれば間違いないと思ってたのさ。
それなのに、今……俺たちは皆死にかけてる。
なあサニー、目を覚ましてくれ! このままじゃ、俺たちみんなその研究者たちに殺されちまうんだぞ! なんせそいつらは、まだ何もかもをコントロールできるなんて思い込んでるんだからな!
……
信じてくれないなら、そいつの持ち物を確かめてくれ。きっと録音用の機械を隠してるはずなんだ。そいつは、俺たちとあの銀色の化け物を観察するためについてきてるんだよ!
……ウビカ博士。もしこの状況を打開する方法があるなら、今すぐ話してくれ。
エレナ……
……オリヴィア。確かに、実験のことは言ってなかったけど……
キミに嘘をついたりなんて、絶対にしないよ。
それにサニー、マイヤーズ……キミたちにも嘘なんてついてない。
私は……本当に、アレへの対処法なんて知らないんだ。
アレのデータを記録して、研究しようとしてるのは全部、目の前の問題を解決したいからでもあるの……さっきも言った通り、これも私の仕事だから。
……うん。
マイヤーズさん。私には、エレナが嘘をついてるとは思えない。
ジョイスを解放してもらえる?
は……はは、ははは……
開拓者はフィリオプシスをじっと見つめると、突然手を挙げた。
サイレンスの喉まで叫び声が出かけたその時、ドローンは主人の意を受けて、開拓者の体に思い切りぶつかる。
けれども彼は単に、フィリオプシスの手からあるものを――
数時間前、彼自身が彼女につけてやったはずの緊急医療用バングルを奪い去っただけだった。
……
俺は……一体、何を……
――モル先生……
あんたは、俺を恨むかな。俺に良くしてくれたこと、後悔しちまうのかな……
俺みたいな奴には……あんたに救われる資格なんてない。
医師は友人たちの元へと戻ってきた。彼女は依然静かで、美しく、傷一つない状態だった。
それでも、この場からは誰も逃れられはしない。このラボが彼らの墓となるのだ。
誰一人助かるはずもない。この忌々しいバングルは、この腹立たしい会社にはめられた枷でしかなかった。
自由を得るための、たった一つの方法はといえば……
その時、マイヤーズがそのバングルを口の中へと押し込んだ。
マイヤーズ!
リ、リーダー……
何やってるんだ! 今すぐ吐き出せ!
! このバングル……
鎮痛剤が中にまだたくさん残ってる……!
こんな量を一気に飲み込んだら、心臓が持たないよ! ショック状態になっちゃう!
見たこと、あるんだ……これを、こっそり……飲み込んだ奴……
そんなことした奴はみんな死んだじゃないか!
ああ……そうなりゃ、幸せだろうと……思ってさ。
やめろ、いいから吐き出すんだ!
クソッ……俺が押さえてるから、こいつの腹を殴ってくれ、サム!
げほ、ごほっ……う、ごほっ……!!
バングルの影が見えた……! もう一回!
オリヴィア、あの人を助けないと――
……オリヴィア?
……ジョイスが……
……
――プログラム、起動します。
め、目が覚めたの!?
――なんて暗いんだ……
外は……どうしてこんなに暗いんだろう?
く、暗いって……? 照明なら全部ついてるけど……
もしかして、目の調子が悪いとか……?
……光が……
光が欲しい……光のある場所は……とても温かいから。
共に進もう……
怖がらなくていいんだ……
ちょっと、ジョイス……聞こえてる?
聞こえてないみたい。
何が起きてるの?
私にもわからないけど……ジョイスらしくない言葉遣いだ。
ええと、彼女の病気って……
ジョイスのことならよく知ってるから、はっきり言える。手術の前にせよ後にせよ、こんな喋り方はしてなかった。
……確かに。
驚いてるみたいだね。そうなると、ジョイスに何が起きたのか、あなたにはわからないということになる。
これは、この状況がとっくに、コントロールできる範疇を超えていることを意味するはず。
エレナ。この実験について……話すべき時が来てるの。
じゃあ、ドロシーは本当に……
ううん。何にせよ、私はこの実験で誰かが傷付くところなんてみたくない。ジョイスが傷付くならなおさらね。
キミの言う通り、一緒に問題解決に当たるべきだったのかも……
大丈夫よ、エレナ。もう迷わなくていいわ。
みんなをここに招き入れたのは私だもの。サイレンスさんであれ、開拓隊の仲間たちであれ、真実を知る権利がある。
あんた……ずっと俺たちを監視してたのか?
あなたたちが心配だったのよ。
だって、みんなが足を止めてお喋りをしている間は、代わりに扉を閉めてあげる人が必要だし……
じゃあ、銀色の化け物を食い止めてたのはあんただ、と?
そんなふうに呼ばないであげて、サニー。
みんなにはちゃんと聞こえてるのよ。
……
ねえ、エレナ。私の親愛なる助手さんに、もう一つお願いしてもいいかしら。
みんなを連れて、会いに来てくれない?
あなたから説明しにくいことは、私が説明するわ。
それに……知っての通り、私のラボが一番安全な場所だから。
外に敵影は無し……
きっと、リーダーさんやサイレンス先生を追っていったんだろうな……
……通信はまだ遮断されたままみたいだ。
多分これは、大抵の通信機器に干渉できるようにされてるはず。ここにMechanistさんがいてくれたら、何とかできたかもしれないけど……
っ、誰ですか?
もしかして……リーダーさん?
動かないで。
その声は……
メアリーさんですか?
悪くない記憶力ね。
ど……どうしてあなたがここに……?
言いなさい。あいつはどこに隠れたの?
あいつって……サニーさんのことですか?
ええ。今すぐ出てくるように伝えなさい。……あの男、子供の影に隠れようだなんて一体どういうつもりなのかしら!
あの、失礼ですが……僕はもう大人ですよ。
確かに、自分ではそう思う年頃でしょうね。
さあ、教えて。あいつらはどこへ行ったの?
開拓者の皆さんでしたら、近くのバラックに……
あなた……嘘をつくときに自分の耳が動いてるって自覚はある?
え……えっ?
今のは嘘よ。
だけど、あなたがかなり騙されやすいのは確かみたいね。
知ってることを全部話したほうが良いと思うわよ。一番手っ取り早いから。
でないと、そうね……この電気を復旧させたのはあなたでしょ? それだけでもう公務執行妨害に当たってもおかしくないわよ。
本当の悪者を連行できないようなら、代わりにあなたを連れて行ってもいいかもね。
そ、それは困ります……!
ドクターには迷惑をかけたくないですし……!
じゃあ、どうしてためらってるの?
信じてもらえるかはわからないんですが……
僕たちはさっき、これまで見たこともないような何かに――変形能力を持つ銀色の物体に襲われたんです。
それで……あいつはこの中にいるんだな。
そうだよ。ここがドロシーのラボで、研究エリア全体の中心なの。
確実、なんだよな?
どうしたの? 急に顔色が悪くなってるけど……
……何でもない。
誰しも、真相に近付いたら緊張くらいするものだろ。
――サム、俺が言ったことを覚えてるよな? 準備しといてくれ。
了解。
ウビカ博士、この扉を開けてもらえるか?
もちろん。
(小声)……エレナ。
(小声)何?
(小声)開拓者たちの様子がおかしい……
(小声)でも、ここまで来ちゃったし……
(小声)私を説得したのはキミなんだよ。私たちは皆、問題を解決するためにここへ来たはずじゃない。
(小声)だけど、彼らもそうかは……
博士、皆待ってるんだが。
そうね、私も待ってたわ。
さあ入って、みんな。
エレナの手は生体認証装置に置かれてはいなかった。
しかし、ラボの主人の意志によって、そのドアは開かれた。
よく来てくれたわね。
ライン生命アーツ応用課主任、ドロシー・フランクスよ。この359号実験基地の責任者でもあるの。
私のラボへようこそ。
……やっと会えたな。
行くぞ、サム。かかれ!