翠玉の夢 DV-6・戦闘後
夢からの解放
……サニー。
俺たちは自発的にこうしてるんだ。
モル先生……あんた、一体誰の言葉を代弁してるんだ……?
……
メッセージを――
これまでと異なるメッセージを受信しました。
うっ……
ジョイス、頭が痛むんじゃ……
身体状況に問題はありません。
ですが、不正なデータがシステム中枢に侵入しています。追加の処理が必要です。
……不正なデータって……?
っ……サニー、俺たちはわかってるんだ……
これは……リスクのあることだって。
どうなるかなんて、わからないけど……俺たち自身で選んだことなんだ。
――データ送信が中断されました。システムの判断によると、以上のメッセージはサニーさんに宛てられたものです。
……今の、俺たちの仲間みたいな喋り方だった……
そちらの仮説を確認することは出来ません。
フィリオプシスが感じ取ったデータの出所は不明です。
本当なのか、サイレンス先生? モル先生には俺たちの仲間の声が聞こえてるのか!?
……ジョイス。あなた今、「感じ取る」って言葉を選んだ?
はい。
夢の内容が変化しました。
どんな夢を見たの?
解析不能です。
何だか、いつもと違う目をしてる……もしかして、悲しんでるの?
大脳辺縁系の信号に強い波動が検出されました。
……ダラ……
またダラレイドさんのことを思い出してたの? ……まさか、九号デバイスはドロシーの実験とも関係があったとか……?
きっかけは論理的な繋がりではなく、感情でした。
私はこう感じたのです。「これは我々の選択だ」、と。
あなたたちの……選択……
……
――サニーさん。私が全力で彼女の過ちを正すと約束したら、今は一度、ドロシーのことを見逃してもらえない?
……俺たちはあんたが助けてくれたことに感謝してるし、実験の真相を明らかにしてくれたことにはなおさら恩義を感じてる。
だから、あんたなら俺たちの味方になってくれると信じたいけど――
こいつが二度と実験を再開しない、なんてこと保証できるのか?
……
できない。
だけど、万が一本当にそうなったら、次は私があなたに代わって、この件に片を付ける。
ふぅ……実験は中止になって、ドロシーは怪我をせずに済んで、被験者たちも少しずつ意識を取り戻してるなんて……
あの状況からこうなれたのが、まだ信じられないくらいだよ。
そのように感じるのは正常な反応です。問題ありません。
キミがあのタイミングで目を覚ましてくれて本当によかったよ。
あんなに怒ってるオリヴィア、初めて見たから……
しても、どうしてキミには被験者たちの声が聞こえたのかな?
あの人たちの意識はドロシーの作った「メインコア」で繋がれてたとはいえ、キミはその外にいたんだし……一体どうやったの?
九号デバイスと「メインコア」は無関係なんでしょ?
正確な判断を下すには、有効情報が不足しています。
ですが、夢から覚める時、マイヤーズさんの声が聞こえました。
それって……
あの廊下で一悶着あった時のこと? その前にも何度か戦闘はあったけど、どうしてそれでは目が覚めなかったのかな……?
不思議だなあ……
でも、何とか解決してよかった。オリヴィアのお陰だよ。
はい。事前の予測通りです。
改めて思ったけど……オリヴィアって、本当に変わったよね。
知り合ったばかりの頃は、なんていうか……大学ではよく見るタイプの、物静かでシャイで、ちょっと無口な優等生って感じだったけど……
その説明はフィリオプシスの記憶とも一致しています。
さっきなんて、ドロシーを問い詰めたかと思うと守ろうともして、もう別人みたいだったよ。
まるで……ほかの誰かさんみたいな……
その「誰か」として連想した対象は、サリア主任ですか?
な、なんで言っちゃうかなあ……!?
私がこんなふうに言ってたこと、オリヴィアには秘密だからね!
サイレンスさんは、その程度のことであなたとの友情を疑いはしません。
……うん、わかってる。
でも、友達として、こんな大変な時に嫌なこと思い出させたくないからさ。
了解しました。
よし、じゃあ行こう。私も仕事をしないとね。
通信は……まだ復旧してないのかな? うーん、ボスから連絡来てそう……
それに姉さんも、今頃山ほどメッセージ送ってきてるんだろうな……
ドロシー、私と一緒に研究エリアから離れてくれる?
……少し待っていて。
実験を中止した今、彼らはきっとこのラボを残したりなんてしないはず。
それなら、一つ……持ち出さないといけないものがあるの。
それは……写真?
ええ。
写ってるのは、開拓者の人たちみたいだけど……
この子は……あなた?
……私がサニーに話したことは、全部本心なの。
私のお母さんと、親戚の人たちはみんな……開拓者だったの。
だから私は小さい頃から、あの人たちが夢を語る姿も、奮闘しているところも、苦労する様子も全部見てきた。
私に夢を追うチャンスを与えてくれたのは……そういう人たちの献身だったのよ。
だけど、大抵の開拓者たちは、私のような幸運には恵まれないものなの。
じゃあ、あなたの家族は今……
……ほとんどは、私のそばから去って行ったわ。
昔、アイアンフォージ工科大学が私を招待してくれて、ごく少数のいわゆる「天才」を集めたサマーキャンプに参加したことがあったんだけど……
その時、お母さんがいた臨時基地が天災に破壊されてしまってね。
研究者になるという私の夢は、お母さんの夢でもあったのに……私が奨学金を得て、特例合格を認められたということを伝えてあげられもしなかった。
……つらい思いをしたんだね……
ねえ、サイレンスさん。本当に、この実験を止めるのが正しい選択だと思う?
被験者のみんなは――追い詰められて行き場をなくしたあの人たちは明日にも破滅してしまうかもしれないのに。
それを、救うことができたはずなのに……
私の大事な人たちみたく砂嵐に飲まれる必要なんて、ないはずなのに……
……
どうしてそんなことを聞くのかな? サイレンス。
いいかい? この実験がなければ、あの子はハイドン一号実験室を出て数日のうちに死んでいたはずなんだ。
私たちがあの子を救い、生活の面倒を見ているおかげで、あの子は快適な生活を享受し、科学の進歩に貢献することができているんだよ。
荒野でひっそりと死んでいく感染者の子供たちに比べれば、あの子は本当に幸運だ。
――私は君を信頼しているからこそ、こうして重用しているというのに……君は些細な運用上の問題をあげつらえて、私と科学そのものとを非難しようというのかい?
……わからない。
私が答えるべきことではないと思うから。
実際、気付かせてくれたのはジョイスだった。
私が、あなたたちの――あなたのやることに、絶対に賛同できないとしても、私だけの基準ですべてを判断すべきじゃない、ってことに。
だから……自分を信じられなくなったり、不確実な未来に苦しめられたりすることは、私たちが選んだ運命なんだと思う。
研究者として、求める答えは自分で探すしかないんだ。
手はずは整ったか?
はい。こちらの人員がすでに基地へ入り、研究エリアに近付いています。
よし、そのまま準備していろ。
大佐殿、遅くなって申し訳ありません。ですがどうか、もう少しだけ時間をください……
……クルーニー。基地に外部の人間がいるとは聞いていないぞ。
外部の、と言いますと……例の製薬会社でしょうか?
ご心配なく。彼らはライン生命のパートナー企業ですので、私が必ず――
君の保証になど意味はない。
我々が求めているのは結果だけだ。
申し訳ございません。少し遅れは出てしまいますが……
結果が出せないのなら、こちらに迷惑だけはかけてくれるな。
――今言ったことを忘れるなよ。
……
予定通り続行してよろしいですか?
……ほかに選択肢はないだろう。
わかりました。
そうだ……
特殊通信チャンネルに繋いでくれ。
あれ……急に繋がった……?
……エレナ。
主任?
よかった! ずっと連絡しようと思ってたんですけど、繋がらなくて……私のメッセージは届いてましたか? 基地で起きたことはすべて書いておいたんですが。
ドロシー……フランクス主任の実験で、トラブルが発生していたんです。あ、でも、安心してください。私とサイレンス研究員で対処しましたから。
それに、開拓者たちも落ち着きを取り戻して、研究エリアを離れていきました。
……ああ、知っている。
も……もうご存知なんですか? 流石ですね。
君は為すべきことをしてくれた。このあとの片付けは、ほかの社員たちがやってくれることになっている。
ってことは、警備課の人たちが? やっと来てくれるんですね!
ふぅ……それなら安心です。とはいえ、研究エリアに保管されたままの「伝達物質」のことはちょっと心配ですけど……
そちらの対処は彼らに任せて、君は撤収しなさい。
ですが主任……やっぱり私も残って手伝います。ドロシー以外でこの実験に一番詳しいのは私ですから。
私は今監視ステーションにいるんだぞ。主任が二人もいる状況で、事態を制御できないとでも?
いえ、そういうわけでは……
それなら、言う通りにしなさい。今すぐ基地を離れるんだ。
理由をお聞きしてもいいですか?
そんな意味のない質問で、私の時間を無駄にしないでくれ。いいからすぐに監視ステーションへ来なさい。
……はい、主任。
……
何か問題が発生したのですか?
主任……フェルディナンドさんが、すぐに撤収しろって。
……?
オリヴィアに伝えておいてくれる? 警備課の人がこっちに向かってるって。
あなたはどうなさいますか? ここを離脱するのですか?
実は……主任の反応、なんか変だったんだ。ドロシーがしてたことを知らなかったのなら、実験の結果に対して無関心でいるのはおかしいよね?
フェルディナンド主任、まだエレナさんが撤収していません。
……
計画を中断されますか?
……その必要はない。
続けろ。
ほかの奴らはみんなもう出たよな?
おう。
次。
……? あいつら、何やってるんだ?
ああ、なんかの予防処置だとか言ってたぜ。鎮静剤でも打ってくれるんじゃねえか?
俺たちも随分大騒ぎしちまったからな。
……さっき言ったこと、忘れるなよ。あいつらに何か訊かれたら、全部俺がやったって言ってくれ。
安心しろ、お前一人に背負わせたりなんかしねえよ。
お前って奴は……
次。
……サニー・ロマーノだ。
名前は聞いていない。
あんたらのリーダーに伝えてくれ。誘拐の件は全部俺の独断でやったことだって。
……
右手を出せ。
……注射が終わったら、この件の片付けに入るんだよな?
うわっ……!? どうした、ウビカ博士。急にぶつかってきたりして……
注射を打っちゃダメ!
仕事の邪魔をするおつもりですか。
それが仕事だって言うなら、「偶然にも」その注射器に入ってるのは私の仕事の成果なんだけど……
きちんと用途を説明してあげたほうがいい?
えっ……? こいつら、あんたたちが呼んだんじゃないのか?
キミったら、信じる相手も疑う相手も間違いすぎじゃないかな!?
とにかくそのバングルも取って! 早く!
……バングルって、これか?
そう! 注射してるのを見て、ジョイスが目を覚ました時のことを思い出したんだ!
あれは――このバングルの影響だったんだよ!
キミたちに配られたバングルは全部改造されてるんだ! ドロシーのラボにあったのと同じセンサーが入ってて、「伝達物質」に触れると……
そうだ、主任に報告しなきゃ……! 最初から誰かに仕組まれてたんだってこと……!
もう! 通信がまた――待って、また途切れた……?
どうしたんだ?
……
そういう……ことだったんだ。
じゃあ、私はずっと……
きゅ、急に泣きそうな顔するなって……!
……違うよ、私はただ――
ううん、今はそれどころじゃないね。
この件はまだ終わってない。キミたちの敵は初めからドロシーじゃなかったんだよ!