この炎が照らす先 FC-2・戦闘前
不幸な再会
フィッシャー、子爵から手紙が届いたぞ。何やら急ぎの……
……フィッシャー?
おい、また何か難しいことでも考えてるのか?
……申し訳ございません。
お前がパズルと向き合ってぼんやりしてる間も、あのアルモニとかいうフェリーンは休みなく動いてるんだぞ、このトレント郡でな。
ご安心ください、ぼんやりなどしていません。彼女に対する監視も少しも緩めてはいませんよ。
調査に進展はないようだがな。
もしこの観察期間で、彼女が未だヴィクトリアに対する責務に忠実であることが証明できたなら、それは裏切り者一人を捕まえるより喜ばしいことですよ。
お前が喜ぶ姿なんて見たことないが。
……前の作戦でヘマをやらかして、もうこのオフィスじゃそのツラは拝めないもんだと思ってたよ。
作戦自体は失敗してないのですから、「ヘマ」という言葉には語弊がありますよ。
病院の検査結果は?
急性感染。傷口の中に活性源石の欠片が多数入り込んだようで……もちろん、病状はすでに安定していますので、心配はご無用です。時折痛みは生じますが、計画には影響ありません。
しかし、診断結果はまだ上に報告しておりません。
私にはまだ、アルモニの調査任務を遂行する能力があると自負しておりますし、この大量にある情報の断片を引き継ぎたいと思う者はいないでしょう。
このカモフラージュの向こうにある真の目的を突き止める責任は、私にあります。
……その間、私は皆さんと距離を保ちますので、ご安心を。
俺にだって山ほど緊急事態を片付けてきた経験がある。お前に気を遣われるまでもねぇよ。
上が未だにお前の出入りを許可している以上、俺たち特殊行動隊はお前の調査をサポートし続けるさ。
なんだ、感謝の言葉もないのか?
ハハッ、まあいい、少し冗談を言ってみたくなっただけだ。お前はいつも気を張っているからな。
子爵の手紙をちゃんと読んでおけよ。
……これは、招待状?
なるほど。
……君の言うことを聞けって? 私たちをどこへ連れて行くつもりなんだ?
これ以上、荒野の奥深くに進んでどうするんだ。君が指し示す方向には集落なんてないぞ。
あそこには草一本生えてないし、野獣を狩るどころか、野イチゴすら採れないんだ。それに、いつ石混りの雨が降るかわからない……天災トランスポーターだって通ろうとしないルートだぞ!
あの沼を抜けるには何日もかかるってことはわかってる。食いモンなら、ヴィクトリア人のキャラバンを見つけて奪えばいいだろ。
それに、薬だってあの医者がたくさん持ってるしな。
彼女は医者じゃない……そもそも私たちを町まで送り届けたらそこでお別れだって約束したじゃないか。それより、君は彼女を何だと思ってるんだ? 薬箱か?
君のわがままのために、みんなは自分の持ち物や、命さえも君に差し出さなければならないとでも言うのか?
黙れ、ヴェン! 文句があるなら一人で行きやがれってんだ。どうせアンタにゃできねぇだろうがな。
……
臆病者は生きていけねぇぞ。
セルモン!
……
おっと、「リード」さんのお出ましだ。なぁ、「リード」ってのはたしか「葦」っつー意味だよな?
その名前、マジで気に入らねぇぜ。石やら泥と変わんねぇ、どこにでもあるんだもんな。アンタを呼んでんのか道端の草を呼んでんのかわかりゃしねぇ、ハハッ。
何を言い争ってたの?
あの……君に言わなきゃならないことがある。私たちはトゥラの町に行けなくなった。
さっきラジオで言っていたんだが、トゥラにある二つの工場にダブリンへの物資提供の疑いがあるらしくてね。軍が強制的に人々を排除しようとして衝突が起きているらしいんだ。
今町に向かっても、輸送車に乗るどころか近付いただけで捕まってしまうだろうね。
ハァ……せっかく強い人に協力してもらって、どうにかここまで逃げてきたっていうのに。
ハッ、輸送車に乗りさえすりゃ、良い暮らしが手に入るみてぇな物言いだな。
工場から別の採掘場へと逃げ込めりゃ、いつか幸運が舞い込んで、輸送車がターラーじゃない場所に連れてってくれるってか……そんな簡単にいくと思ってんのか?
そうやって多くの人が脱出できたのを知っている。
そいつらがいなくなったのを見ただけだろ。村を焼かれて、近くの荒野じゃ農作物は育たないからここを去った。だがそいつらが最終的にどこへ行ったか、生きてるか死んでるかは知らねぇだろ。
それにどこだったら──どこまで行けばターラーから逃げたことになるか、アンタわかってんのか? 地図にも記されてねぇんだぞ?
そんな難しい問いの答えなんて、誰にもわからないさ。私が答えられないからって、君が正しいとも限らないだろう。
……やめよう。ここでの知り合いに食料を分けてもらえないか交渉してくるよ。いくらここでわめき散らしていても、食料は湧いてこないからね。
……とても悲しそうな顔だった。
当然さ、あいつは嘘が嫌いだからな。この状況で他人に借りを作るとなりゃ嘘をつかなきゃならねぇ。必ず返しに戻ってくるってな。
……手伝ってくるよ。
アンタの話し方は、よそから来たヴィクトリアの将校みてーだし、誰も信じちゃくれねぇよ。それともアンタ、嘘をつくのがそんなに得意なのか?
私はただ、人のものを奪うやり方が嫌いなだけ。
それと、キミのわがままも……私は嫌い。それこそ一番の嘘に見えるよ。
キミの友人は確かにこの付近でダブリンを見たと言ったんだな?
そうじゃなきゃこの周辺を避ける理由なんてないでしょ? キャラバンの間でも噂は広まってるの。今は誰もが遠回りをしてでも、ここら一帯の通行を避けたいと思ってるのよ。
もしあなたたちが安全を保証してくれなければ……私たちがここまで来ることは絶対になかったわ。
うーん……もうすぐ目的地なのに、まだ何も見つかってないべ。
うーん、何日も前のことだから、すでに立ち去ってしまったのかもしれないわ。
あの時、ダブリンは先を急いでる様子だったと聞いてるわ、だから私の友人のキャラバンを無視したのかもしれないわ。
んー、その人が見たのはどれくらいの人数? それとどっちの方向に行ったかわかる?
あっちよ。人気のない荒野の方角に向かったって。具体的な人数は数えられなかったし、細かく数える勇気もなかったと言ってたわ。
もちろん嘘なんてついてないわ。私たちも、武器を持ったダブリンどもじゃなく普通のターラーのごろつき程度ならちっとも怖くないんだから。
……ここは貧しい場所でしょ。流れてくるごろつきなんかは結構多いのよ。だから当然私たちもある程度の安全対策は心掛けてるの。
前にオークグローブ郡が長距離移動すると知って、うちのキャラバンもこの辺りを通るルートに変更しなきゃいけなくなった時は、大枚はたいてうちの連中に武器や防具を用意してあげたくらいよ。
待って、チェンちゃん……あそこを見て。
ん?
あそこに……ダブリンみたいな格好をした人がいるべ。
ハァ……最近あまりにも厳しい税条例が発表されてね。以前なら、みんなここまで困ることはなかったのに。
ヴェン、それとそっちの異郷のお嬢さん……君たちの力になりたいのは山々なんだけど、恥ずかしいことに、十数人分の食料を分けてあげる余裕なんてないんだ。
そもそも君たちはそんなに大人数なんだし、自分たちでどうにかできないのか?
私たちは貴族たちの獲物をこっそり狩ることだってできないんだ。君も知ってるはずだろ? スカハンナ原野ではもう何年も鎮火の鐘が鳴り続け、お腹を空かせた人間が猟をすることを阻んでる。
よせよ。本当に餓死する直前なら、そんな決まりごとなんか気にする奴はいないだろ? そうやって人に助けを求めてるのは、ただ君たちが怠け者ってだけじゃないか!
違うよ、そんなことはない……彼らはみんな決まりを重んじているんだ。だから私は彼らに代わって食料を分けてもらおうとしてるだけで……
──だったら、何か担保はあるか。
すまない、ヴェン……今はもう口約束じゃ無理なんだ。
……本? ダメだって、こんなものベッドの脚の高さを調整するのにも使えやしない。
こんにちは、誰かいますか?
今のは──
無視していい。
病気の女がまた人を連れて物乞いに来たんだ、ほんと迷惑にもほどがある。もしドアを開けたら、あいつはドアの枠にしがみついて一時間はしつこくせがんでくるぞ。
しかもあいつは感染者なんだ! うちのドアから石が生えやしないかと気が気じゃないよ!
ハァ……あの物乞いたち、去年の冬には死ぬかと思っていたのに……病気になったのは可哀想だけど、あちこちで人に嫌われるようなことばかりしてるからな。
でも、この声……ま、まさか? でも聞き間違うはずは……
……
ヴェン、彼女を知ってるの?
ま、まだわからない……窓の隙間から覗いて……いや、やっぱりやめておこう……
……戦っている音がする。
誰かが感染者たちを追い払おうとしているの?
違う、村の外だ。道路の方から聞こえてくる。
これだから嫌になるよ……腹を空かせた奴は、なんだってするんだから。
これ以上待ってる余裕はねぇぞ! ぐずぐずしてると、キャラバンが行っちまう。
ヴェンの奴は、今日も食い物を手に入れられないに決まってんだ。恥ずかしげもなくあちこちで人に頭下げてっけどよ。
そもそも、俺たちはダブリンに加わってヴィクトリア人と戦争するんじゃねぇのかよ? だったら一足先に奴らのものを奪ったっていいだろ。
でも、私たちがこんなことしてるのを見たら、リードさんがきっと怒るわよ。
構うもんか。まだ戦う力が残ってるうちに奪いに行かなきゃ。空腹で動けなくなってからじゃ遅いんだぞ?
それにここへ来て何日も経つってのに、キャラバンを見たのはこれが初めてだ。次いつチャンスが来るかわかんねぇだろ?
だったらリードさんを説得して一緒にやりましょうよ。そうすれば成功する確率が少しは上がるでしょ?
……もういい、あいつの話はするな。アタシらの目的が、あいつに何の関係があるんだよ。
それともアンタは、あいつみたいなよそ者に助けられ続けることを望んでんのか?
行くぞ、やるんだ。