この炎が照らす先 FC-7・戦闘前
生命の煌めき
若き詩人よ、私では君に答えを与えることはできない。その役目は後世の者に託そうではないか!
ちょうど、今夜はもう一つ皆様にお伝えしなければならない重要なことがある。
──恐らくこれが我ら「ターラー人の家」にとって最後の集まりとなるだろう。
これはこれは、伯爵、何をおっしゃいますの? 私たちの計画は、まだ始まったばかりではありませんか?
心配することはない。ターラー人がなすべき自己の探究は、確かにまだ始まったばかり。役目を終えるのは、私個人が主催する小さな集まりだけだ。
──そうだろう、私の忠実な従者よ?
ゴホッ、ゴホゴホッ……
……申し訳ございません、旦那様。私はただの使用人であり、そのようなことについてはわかりかねます。
外は大雪ですし、旦那様も体調が芳しくないご様子……お車なら、いつでもご用意いたしますが。
必要ない。
ウィリアムズ君、この吹雪の中を少しだけ私と歩いてくれるかね?
……光栄の至りです、伯爵。私が身を寄せている旅館にはそもそも薪すらないので、このような吹雪など大したことはございません。
本当か? いや……そうだったな、ターラー人居住区の冬季税条例を議会が施行するのを止めなかったのは私だ。
このような寒い気候では、火が不可欠だというのに。
行こう。君の演劇作品についてもっと深く語り合おうではないか。それと、君が田舎で蒐集した物語や、ターラーの本来あるべき姿について。
静かにしろ……すげぇ重たい足音が聞こえねぇか? 手強い兵士に違いねぇ。
行くぞ、反対側に隠れるんだ!
焚き火がまだ燃えていますね……一本抜いて松明代わりにしてもよいでしょうか?
いいぜ、後でついてってやる。
おい──リード! 聞こえるか!
リード──
返事がねぇ……こっちだ、こっちに隠れろ! しばらくしたら二手に分かれて探すぞ!
リードが見つからなくても、バグパイプとチェンを見つけるぞ!
……
……チッ。
貴様ら軍の作戦の邪魔をする気か?
だったらどうした? 見つかったんならやるだけだ。ヴィクトリアの軍人を相手にすんのはこれが初めてってわけじゃねぇ。
「リード」。
彼女を呼ぶ声が、何度も何度も煙と霧を貫いて届く。
リードは自分の進むべき方向がわかっていた。
みんなはこの争いに巻き込まれるべきじゃない。助けなきゃ──
──うっ!
惜しいな、少々狙いがずれたか。
あら? この件をリーダー以外に報告した覚えはないのだけど……
まさかダブリン内部に情報網を張り巡らせているのは自分一人だけだとでも思っていたのか?
君はあの傀儡を連れ戻そうとしているが、目下それを実行するのに相応しい者たちは、私の部隊をおいて他にいないはずだが。
ええ、それについてはほんとに感謝するけど……あなたの目的は、私の行動の監視? それとも自らの手で彼女を排除すること?
もし彼女が、これ以上影としての身分に甘んじることを拒むというのであれば、私の剣は君のアーツよりも速く動くだろう。
主のいないヴィクトリアで、各々が腹を探り合う様子は見飽きた。このような茶番をダブリンの中でまで演じ続けさせる必要はない。
キミが私を始末しに来たということは……ダブリンはもう、準備が完全に整ったの?
ああ。君は残された唯一の不安要素だ。
傀儡らしく考えることを少なからず学んで、広い視座を持てるようになったと思っていたが、君の愚かな善良さには心底失望したよ。
もし君が初めから亡霊部隊の行動原則に従って、すべての目撃者を一掃していれば、度重なる失敗など起こるはずもなく、ここまでの局面に発展することもなかった。
……
これで傷は二ヶ所だ。ドラコの身体機能に影響を与えるには不十分だが、たとえ他のダブリン兵がいなくとも、これは一方的な戦闘にしかなり得ないことは理解できただろう。
君に、リーダーへ反旗を翻す資格があるとは到底思えん。
あ、ああ──
(……ターラーの民間人たちはこの方角か。バグパイプとリードも呼び声が聞こえれば、きっとこっちへ駆けつけるはず。)
耐えるんだ! 今行く!
チェンさん? よかった、ようやく返事があった……
……速い! どこから攻撃してきた?
チェン・フェイゼ……「チェン警司」。
──
チェンは声のする方に向かって剣を突き出したが、刃は濃い霧の中に吸い込まれただけだった。
彼女はわずかに寒気を感じた。
あなたは、ヴィクトリア軍に手を出すことが、ウェイ・イェンウ様にどのような影響を及ぼすか考えたことはありますか?
……私は自分のやりたいようにやるだけだ、それにあの男と何の関係がある?
私はただ、紛争に巻き込まれた罪なき者たちを救うために行動しているだけだ。お前は外交的な観点から私を諌めようとしているが、まず自分の胸に手を当てて疾しいことがないか考えてみるんだな。
あなたは事の複雑さから目を逸らしたいだけかもしれませんが……一つ熟考の後にご回答いただきたい質問がございます。
あなたはなぜヴィクトリアにいらしたのですか?
あるいは、あなたは誰のためにヴィクトリアにいらしたのかと聞くべきでしょうか?
……
私の出身、私の一族、あるいは私の個人的感情……どれも私たちの目の前の紛争とは無関係だ。
お前が何をどう疑おうとも、私は今、ただこの手にある剣でもって答えるだけだ。
今すぐ──そこをどけ。
見つけた、フィッシャーさん!
平和的な話し合いに来たわけではないようですね。
ダブリンの部隊は目の前にいます。貴方の敵が誰なのかは一目瞭然のはずですが。
悪いけど、今のうちの任務は救出だからね……部隊でうちらを包囲して、アーツで目くらませまでした人を味方とは思えないよ。この霧を払わなきゃうちらが突破できないのも事実だし。
では私を止めることですね。
彼女を倒しなさい、時間を無駄にしないように。
はっ!
ふぅ……弾薬があればよかったのに。やっぱり複数人を相手にする状況はしち面倒くさいね。
……第二テンペスト特攻隊隊員、フィオナ・ヤング。コードネームは「バグパイプ」。
ヒロック郡事件に関する貴方の報告書はすべて拝見致しましたが、貴方の行動に対し、私は心から敬意の念を覚えました。
もし可能であれば、我々は戦うことではなく、手を取り合う選択をすべきです。
ヒロック郡事件の真相を追っておられるのであれば、我々はここでダブリン兵を捕虜にした後、正規の手続きに則って取り調べをし、貴方も欲する情報を得られるでしょう。
いや、いいよ。うちは他人の嘘を見破るのは得意じゃないし、尋問もそんなに上手くできないしね。
こちらの誠意を示すために、情報を一つお教えしましょう。
赤鉄親衛隊。
彼らが何者かご存知でしょう。そして思い出してみてください──今夜ここに現れたダブリン兵の戦い方を。
……
ん? 今一瞬視界が晴れたような気が……おめーさん、このアーツを維持するのはかなり負荷が大きいんじゃない?
この計画に影響を及ぼすほどではありません。もちろん、いかなる者にも私の計画を破壊させるつもりはありませんが。
これは我々諜報員の戦争だと考えていただいて構いません……本当の戦争の勃発を防ぎ、幾千万の人々の平穏な暮らしを守るために、私は一歩も踏み違えることを許されないのです。
任務の出来に良し悪しはあっても、それ自体が正しいか正しくないかの判断は難しいよ。
……石?
あれっ、ヴェンさん! おめーさんどうして一人で来たの? ここは危険だべ!
わ、私もわからないよ。霧が濃くて迷ってしまったみたいなんだ、アハハ……
ほら、早く逃げて! ここは本当に危険だから!
ハァ……それはわかってるよ。でも君を助けないと。もっと危険な場所で戦ってる人だっているんだし……
だ、大丈夫だ。私のことなら心配しないでくれ。私だってクワを使えば敵をやっつけられる。
……貴様ら、そんな拾いものの武器で俺を止めるつもりか?
ハッ、アンタがアタシらのリーダーを捕らえようとしてるんなら、止めねぇわけにゃいかねぇだろ?
リーダー? 貴様らやはり──
やはりグルだったかって? そうさ、でなきゃあいつを助けに来るわきゃねぇだろうが。
あいつは強ぇし、逃げる時にゃアタシらを先導することができる。もうあいつなしじゃやってけねぇんだ。
……背後から不意打ちだと?
よくやった、モラン!
ダメです、このボロボロの刀では防具を貫けません。だったら……
やめとけ、そいつに火ぃ付けようったって無理だぜ。その薪には油が塗ってねぇからすぐに消えちまう……
っ──くそっ!
──
彼女の攻撃は兵士の腕に火傷を負わせただけだった。彼女の目に、怒りと苦痛の混ざった表情の兵士が軍刀を振りかぶる姿が映った。
軍刀が彼女の手を掠めた。持っていた薪は叩き切られて泥に落ち、煙を上げた後、火はゆっくりと消えた。
ハッ……十分だ。そいつはうまく刀を振れなくなってやがる。
来いよ、アンタの相手はアタシだ。
さて……その刀、いつまで握ってられるだろうな? 無理しなくていいんだぜ。
笑わせるな。攻撃を防ぐ以外、貴様に何ができる?
……セルモン、私のことは置いていってください。
聴こえませんか? 数人がこちらへ来る足音がします。
……
……ああ。
……ターラー人か?
アタシらか? そうだ。
だがアタシのこの服は死んだ人から勝手に貰ったもんだ、アタシはアンタらの仲間じゃねぇ……
行け、ターラー人。安全な場所へ早く。
……私は、あの人と敵対するなんて言った覚えはない。
あの人が犯した過ちを、私が代わりに正したいだけ。
君は戦争を前にして、道徳などを追い求めるのか?
なら臆病者と偽善者を演じていればいい。ヒロック郡の時のように脅迫され、ペニンシュラ郡の時のように裏切られるがいい。
白刃が夜風を切り裂く。金属のぶつかる鋭い音と将校の責め立てる声が、一体となってリードを突き刺す。
しかし彼女はそれを聞いてはいなかった。彼女の耳には、風の音に混じる、より耳障りな泣き叫ぶ声が聞こえていた。
この奪い合いの中で、無防備なターラー人たちが血を流し、何人も倒れているのを彼女は知っていた。
彼女は、泣き叫ぶ一人一人の名を暗誦することができた。数時間前には彼らの声が故郷の民謡を歌うのを聴いていた。
……あの人にはただ、この泣き声が聞こえないだけ。
キミは、自分たちが救おうとしているターラー人とは誰なのかを、自らに問いかけたことはある?
……火?
キミたち……リードのアーツに巻き込まれないよう気を付けろ!
えっ?
……彼女は今、かなり熱くなっている。
だがこの炎はまるで、彼女自身のものではないかのようだ。
ドラコの炎は、とっても綺麗でしょ?
……これも予想の範囲内です、アルモニさん。
でもここにもう一人、炎のパフォーマンスに魂を奪われた可哀想な人がいるわ。
……
私もあなたとお知り合いになりたいところだけど、その前にあなたは自分のお友達のことをもっとよく知るべきだったわね。
でも、これだけのヴィクトリア人の部隊を頑張って相手してくれたことには感謝するわ。彼のアーツがここまで弱まれば、後続の追撃の援護には不十分だもの。
……まるでヒロック郡の時みたい。あなたたちが勇敢であればあるほど、私は同情しちゃうわ。
ここでの戦闘はもうおしまいよ。行くといいわ、ダブリンはあなたたちに刃を向けないから……なんなら護送してあげたって構わないわ。
……必要ない。
か、彼女は何を言ってるんだ? バグパイプさんの知り合い? 戦うつもりじゃ……ないんだよね?
うん……行こう。
リードの所に。
……随分と彼女に良くしてあげるのですね。
もしそばにあのターラー人がいなければ、もちろん口封じを選択していたわ。
だけどあの軍人さんが、私たちのドラコに、ダブリン以外に居場所がないって気付かせてくれればそれはそれでラッキーでしょ。
……今、貴方がたの武装部隊はこちらへ集中しているようですね。
ええ。あの可哀想な子は私たちに追われて、北西へと逃げたわ。
フッ、あちらはウェリントン公爵領の中心部です。
あそこに入れば、彼女の行動すべてはダブリンの支配下に置かれることになる。
そして当面の急務は……知り過ぎた人たちのお掃除をすることになるわね
あなたが生きて持ち帰れる情報なんて、あなたの死そのものが語る情報と大差ないのよ。
セルモン、もう少しゆっくり歩いてください……私たちは今どこにいるのですか?
多分テントから森の中へ二百メートルくらい走った所だな。ハッ、あの兵士はアタシらがやったし、今はもう誰も追って来てねぇぜ。
痛ッ……安全な場所に着いたら、傷口の手当てをするか。それから他の奴らを呼んで、アンタを迎えに来てもらう。
そもそもヴェンみてぇに戦いに向いてねぇ奴は、戦場で時間を無駄にするべきじゃねぇ。アタシみたいに戦える奴が行くべきなのさ。
まったく……アンタの方があいつよりずっと戦える。
……セルモン、後ろから大きな音が聞こえます。何が起きているのでしょうか?
私には……光が微かに見えるだけです。
ハッ、よく見えねぇのはマジもったいねぇぜ。あれはきっとリードがアーツで起こした火だ。
壮大な眺めですか?
ああ。
ま、アタシはあいつの実力をとっくに知ってたけどな。
しかし……荒野の夜は、こんなに寒かったのか……?
彼女たちの歩みが緩やかになった。モランの手も、もうそれほど力強くは引かれていない。
セルモン、安全な場所に着いたのですか?
悪い知らせだろうと怖れはしません……教えてください。
彼女たちは前へと進む。風の音、遠くからの爆発音と叫び声の中、モランは必死にセルモンの声を聞き分けようとしていた。
その瞬間までに予兆はあったはずだ。セルモンはそこで足を止め、何か言うべきだった。あるいはせめて、ターラー人の運命に対して軽蔑の笑い声を上げるべきだった。
しかしモランが感じ取れたのは、足を一歩踏み出した瞬間、自分を前へと引くその手が、不意に垂れ落ちたことだけ。
その場にひざまずいた彼女は、自分が触れているものが、粘り気のある血なのか、湿った泥なのかわからなかった。