紅炎遣らう落葉 CF-3・戦闘前
向き合いて斬れ
これは、第二回目の音声記録だ。記録者は変わらず、ロドス行動隊A4隊長、ヤトウ。
時刻は午前九時十五分。天気、曇り。現在は蒼暮山地に戻り、前進を続けている。
少し前、私とノイルホーンは一連の突発的な事件に巻き込まれた。
その際に未知の生物……リオレウスと遭遇したものの、芳しくない結果に終わっている。
また、その後付近の村――露華村に到着し、鉱石病の原因調査を開始したところ、村人による妨害を受けた。なお、その行動の原因は現状不明だ。
加えて我々は村人たちへの検査を進めていく中で、この地域の住民は源石の影響を受け始めてから数年経過しているという結論に至った。
手がかりを総合的に分析した結果、鉱石病の感染源を特定するためにも森でリオレウスを追跡すべきと判断し、行動を開始している。現時点までの進捗はそれなりに順調と言ったところか……
うっ――この森は木々が生い茂っており、少々邪魔くさい……ノイルホーン、斧を貸してくれ。
……何だこれは? 私は斧を頼んだはずだが……なんだかでこぼこしているし、勝手に動いているような――って、うわっ!
オリジムシじゃないか!
オリジムシ、ニャ?
どうしてこんなものを……?
骨はないのに、殻が硬くて……素材には持ってこいだニャ! 最高だニャ!
まったく……ノイルホーン! どこに行ったんだ?
ニャー、ご覧くださいニャ。この植物の実をつっつくと……ぽんと弾けますのニャ。
これは、こうして遠くまで種を飛ばしているのですニャ。わたしの知るバクレツの実に似ていますニャ。
もしかして、リオレウスの行方に何か関係してるのか?
いいえ、特に関係ありませんニャ。
……はあ……
……我々に同行しているこの生き物たちは、ほかの大陸から訪れたという、フェリーンに似た種族……
アイルーだニャ!
自称アイルーだ。彼らはリオレウスに関する知識を持っている。
アイルーたちの助けを借り、そこにA4の対処経験を組み合わせることで……
ヤトウ! こっちに進むぞ!
違いますニャ! リオレウスはあっちに向かったのですニャ!
だってお前、さっきはこっちだって言ったじゃねえか……
それは先ほどの痕跡の話ですニャ! リオレウスはここでまた木の幹に身体をこすりつけているんですニャ!
ですから、今度はあっちなんですニャ! もう、あなたってケストドンみたいな人ですニャ!
ケストドン? ってなんだ……?――おっと! おいおい、誰が倒したんだこの木。
ケストドンというのは、そこら中走り回って木にぶつかってしまうモンスターですニャ!
……問題解決は目前に近付いているものと思われる。音声記録は以上だ。
ノイルホーン。アイルーたちも聞け。
我々はもう二時間歩いているが、リオレウスの影すら見ていない。
これ以上そうして時間を無駄にするようなら、あの洞窟に置いていくぞ。
……しーっ、静かにしてくださいニャ。
ニャニャ?
ほら、見てくださいニャ。お花の上に羽虫がいますのニャ。
でも、草むらのほうには……
ええ――小さな生き物が隠れているんですニャ!
虫に近付いてるみたいだニャ。
暗がりから危険が密かに忍び寄っているのに、あの虫は何も知りませんニャ……
捕食者は身を潜めて好機をうかがっているのですニャ! そのチャンスこそ――今ですニャ!
あ! あの生き物、煙を出してますニャ! 羽虫がふらふら落ちていきましたニャ!
わわ……頭が、くらくらするニャ~……
は、は、はっくしゅん!
あっ! もう、何やってるんですニャ! くしゃみなんてするからみんな逃げちゃいましたニャ!
急に、眠たくなってきて……お空に、素材がいーっぱい……ぐるぐる回ってたのニャ……
ふーむ……羽虫もあの煙にやられた途端落ちてきましたし、あの煙の効果ですかニャ?
記録を取っておきますニャ。……眠くなる煙を出す小型生物……狩りに役立ちそうですニャ。
小型生物と羽虫、羽虫とお花、ハンターとモンスター……どれもよく似た関係ですニャ。
ニャ~……似てるニャ……
ええ。一つ、とっても気になることがあるんですが……テラは我々の大陸とまったく異なる場所でありながら、我々の知るものと似たものがたくさんあるんですニャ。
それをある程度把握した今では、村の人たちも、観察してきた生き物たちも、我々の大陸との相違点より共通点のほうが遥かに多いように感じますニャ。
これまでの森林調査の結論として――この場所の生物形態は我々の知るそれと大きく異なるものの、内在するルールのようなものは一致していると思われますニャ。
つまるところ、植物と草食生物、そして肉食生物……捕食と被食が基本的な生物の関係を構築しており、その規則性が同じということですニャ。
こうして両者の類似性の高さを意識してみると、実に不思議な感じがしますニャ。
大きく異なるところはありませんから、以前話した通り、過去に蓄積した知識があれば、この場所の把握も捗りそうですニャ。
加えて、わたしはこの場所でのリオレウスの活動データを間近で記録することができるわけで……こうなるともはや唯一無二のテラ研究員に……!
さすがはわたしですニャ! ニャ~ッハッハッハ!
生態学の研究をするつもりなら、源石の影響は考慮しておけよ。
源石ですかニャ? ノイルホーンたちはよくそれに言及していますけど、現状はっきりとした影響は確認できませんニャ……
まあ、大した問題ではないですニャ。ノイルホーンの様子を見ていればわかる通り、こちらの人はみんな頭が悪いですからニャ。実のところ、源石なんて単なる少し変わった石かもしれませんニャ!
ただ……この森を見るたびに、違和感を覚えるというか、何かが欠けている感じはするんですニャ。それが何なのかはわかりませんがニャ……
うーん、何でしょうニャ……
あなたはどう思い――
あれ? ノイルホーンじゃないですかニャ。
? 俺に話してるつもりじゃなかったのか?
違いますニャ! 相棒ったらどこ行っちゃったんですかニャ……?
……記憶違いでなければ、話にあったのはアレか?
俺が見てこよう。
踏まないように気をつけろよ。
ん、そういや臭羽獣については『オリジムシでも分かるテラの生物大百科』にも書いてあったな。出発する前、バニラからも口酸っぱく言われたし……
「森で気をつけるべき生き物トップ3に入ります!」とか、「見つけたら迂回すべきです、あれは空中の悪夢ですよ!」とか……
なんでも、臭羽獣の背中にはまぶしいくらいの銀色の羽が生えてるらしいが、正面から見ると真っ黒で、幽霊みたいに見えるんだと。
つまり、地面に銀と黒の混じった羽がたくさん落ちてたその時は、奴らの巣がその近くにあるはずだ。
その巣に踏み込んじまったら最後……
ヤトウ! ノイルホーン! 相棒が見つからないんですニャ!
何? どこではぐれたんだ、あいつ。
話している間に、どこかへ行ってしまったようですニャ……
――この音、聞こえるか?
ああ、何かが羽ばたく音がするな。
だんだん激しくなってきてるが……
向こうからだな。
見に行ったほうがいいか……?
ニャ!
あっ、居た! どこ行ってたんだお前!
ノイルホーン! これあげるニャ!
はあ? なんだこれ……
うおっ、待て待て! またどっか行くつもりか!?
ノイルホーン、それは……
まさか……
臭羽獣の卵じゃないか。
げっ! こら、そこの鍛冶屋! 戻ってこーい!
うわっ――やめろお前ら、こっちくんな! 卵を盗んだのは俺じゃねえんだ!
すぐ返してやるから――お、俺のツノをつっつくんじゃねえ!
うっ、くっせえ……おえっ……
ヤトウ! 見てないで助けてくれよ!
それにお前も! 卵勝手に持ってくるなんて、二度とこんなことすんなよな!
ノイルホーンの献身から得た教訓を述べよう。
森の中で臭羽獣の羽毛を見つけたら、絶対に縄張りの中に入らないこと。
もちろん、卵に触れるなどもってのほかだ。
そんなことをしたら最後……
待っているのは、嵐のような悪臭攻撃なのだから。
……逃げきれたか? 追ってきてないよな?
道が塞がれているし、これ以上追っては来ないだろう。
そうか……つ、疲れた……
水でも飲むか?
待て、こちらには来るな。
においが漂ってこないように盾を構えろ……水は投げてやるから。
ヤトウ……
今の状況くらい理解できているだろう。距離を保つのが最善だ。
ノイルホーン、くさいですニャ! あっち行ってくださいニャ!
あっち行ってほしいニャ!
お前らなあ――って、おっと……!?
なんか少しめまいがするな……ツノをつっつかれたせいか……?
いや、それどころか地面が揺れてるような……俺がおかしくなったのか?
――違う!
立て、早く!
たくさん、たくさん来るニャ……
モンスターがたくさん、山を駆け下りてきてますニャ!