紅炎遣らう落葉 CF-4・戦闘後
風掴む羽
ありゃ角獣だな……! ほら、学者先生は早く木に登れ!
間に合わねえ――ヤトウ!
わかってる!
ニャ! これでも喰らえニャ!
お前、何を投げ――
くっせえ……! なんだ!? また臭羽獣が来やがったのか?
効いているようだ! 角獣の群れが方向を変えたぞ!
今使ったのは何だ?
羽獣のフンで作った、こやし玉だニャ!
なるほど、今のくさいのはそれでしたかニャ! こんなに素早くこやし玉を作るなんて、さすがは相棒ですニャ!
こやし玉をモンスターにぶつければ、においに耐えられず逃げていくのですニャ。わたしたちが今ノイルホーンを避けているのとまったく同じ理屈ですニャ。
やめろその言い方!
だが、これでは方向を変えさせただけだ。角獣たちに無闇やたらと走り回られるのは困る。リオレウスの痕跡がなくなってしまう可能性があるからな。
しかしあの暴走っぷり、普通じゃねえ感じだったな。原因は何なんだ……?
今は理由を考えるより、暴走を止めるのが先決だ。
わたしの推測によると、あの規模の群れであれば、先頭に群れを導いている個体がいるはずですニャ。
そうなのか? であれば、そいつだけを斬ればいい。簡単な話だ。
……そいつだけを斬るってのは?
言葉通りの意味だが。
どうやるつもりだよ?
直接斬り込む。
本気か? あの数の角獣が、あんな勢いで突っ込んでくるんだぞ。そもそもああなった原因もわからねえし……
それを探っている時間はない。援護してくれ、手早く済ませるぞ。
待て、その前に――さっきの……こやし玉はまだ残ってるか?
たくさんあるニャ!
よし。――なあ、学者先生。先頭の角獣にこやし玉をぶつければ、ほかの角獣もうまいこと散ってくれるって考えてもいいか?
先ほどの反応を見る限り……理論上はそうなりますニャ。
ただし、その効果も長続きはしないでしょうニャ。それに、こやし玉は至近距離で投げないとはずれるかもしれませんニャ。
わかった。木の上から近づいてみよう。先頭の角獣を狙いやすいように、なるべく近くまで寄ってみる。
ヤトウ、お前はほかの角獣たちが散った瞬間に飛び降りて、先頭の角獣を仕留めてくれ。
了解した。
だが、いいのか? それではお前が……
もっとくさい目に遭うだけさ。問題はねえ。――うえっ……
……
まだ……まだ間に合う……
奴らは速すぎる。若く力がみなぎっていて、手に負えねえ相手だ。
かつて抑圧されてたものが勢力を広げてるのさ。この森の危険が減ることなんざない。
数え切れない過ちを犯してきたあんたの身体も、随分衰えた。
いいや。
そんなのは……ただの言い訳だ。
行こう。奴らを追うぞ。
……あれは……
あそこですニャ! 見えましたニャ!
群れの前のほうにいる、黄色くて大きなツノがキラキラしているあれが、群れを導いてる角獣だと思いますニャ!
こっちに突っ込んできますニャ!
――俺はできる。俺にならできる。
集中しろ。
来るぞ、構えてくれ!
待て待て……鼻栓が落ちた!
今だ!
え? ――っだあ、もうどうにでもなれだ!
スーパーこやし玉アタック! 成功しましたニャ!
――ハアッ!
何とか……なったか?
ああ。
予想通り、奴らは落ち着いたみたいですニャ。
ノイルホーン、お前……
わかってるって、くさいんだろ? 言われなくても離れるっての!
そうじゃなくて……怪我をしてるぞ。
ああ、これか。大した傷じゃねえし……
幸い、応急処置用の薬がまだ残っている。来い、私が手当しよう。
お……おう。
二人とも、これを見てくださいニャ。
先ほど討伐したモンスターなんですが、鼻の周りに灰白色の粉がついているんですニャ。
ん? これ……
わたしはこの粉を見て、我々の故郷にいるエンエンクという生物を連想しましたニャ。エンエンクが出す煙のようなフェロモンは、モンスターを興奮させ、夢中で走り回らせることができますのニャ。
それを利用してモンスターを誘導するというのが、ハンターさんにはおなじみの手段なんですニャ。
……どっかで見たことあると思ったら、柏生の爺さんちにあった瓶に入ってた粉だ。ってことは、もしかしてあの爺さんが……?
きっとそうだと思いますニャ。
俺たちが森に入ったことを知ったから、この粉で角獣の群れを暴走させて邪魔をしようと思った、とか?
「森に入るな」とか「俺の獲物に近付くな」とか言われたしよ……
それは違うだろうな。
っていうと?
昨日の昼頃、あの人が森へ入っていくのを見たんだ。私たちは洞窟でのトラブルを経て偶発的に森へ来たんだから、彼にこちらの行動を知ることはできまい。
加えて、森の中で我々を見たというのも考えにくい。その場合こちらも彼を見かけているはずだからな。
確かに。向こうの目的だってリオレウスを探すことだしな。こんな騒ぎが起きりゃ、痕跡がなくなっちまうことくらい爺さんはわかってるだろう。
そう考えると……角獣の群れに何かするつもりで近付いたものの、状況が変わって制御不能になった、とかが妥当な線か?
……やめよう。こんなことを考えていても意味がない。それより、リオレウスを捜索しなくては。
大変ですニャ! 相棒がまたいなくなっちゃいましたニャ!
さっきまで一緒にいたはずなのに、木から降りてみたら……
おいおい……! 臭羽獣のおかわりは勘弁してくれよ!
ニャ……
ん? 今、向こうからアイルーの声がしたような……
よかった、いましたニャ! 相棒、何があったんですかニャ!?
……においのせいで気を失ってるみたいだな。
……この任務、これ以上悪いことが起こらなければいいんだが。
太陽は今まさに衰えつつある。
見ろ。枝葉の間から零れた光すらも揺れて、底から聞こえる夜闇の声が次第に大きくなってくる。
一時の衝動で……間違った道へ踏み出した獣どもめ。
お前らはもう、森の夜闇から戻れない。
……黙れ。