紅炎遣らう落葉 CF-5・戦闘前
猛る荒くれ者
あんたは乾いた血を嫌っている。矛先を鈍らせるからな。
今夜もあの日と同じだ。湖の中に月が映ってる。
軟弱で無能、ただただ隠れてばかりいた……あの時、何かが違ってたら……
……静かだな。
そう見える夜ほど残酷なものだ。忘れてはいけない人を思い出させるから。
覚えてるよな……俺が言ったこと。俺たちはよく、湖の近くの野営地で休憩を取ってた。焚き火を囲んで、獣どもの対処法について一緒に考えてたんだ。
はぜる焚き火に、焼いた肉の匂い、だろう。全部覚えているさ。
俺は……忘れるわけにはいかない。
時間だ。あの怪物を待たせすぎるなよ。
……あの光は……?
――! 野営地のあった方角だ……
誰かいるのか?
……すでに去ったあと、だな。
この焚き火……
テラの星空は……一見して、故郷の空と同じようにも見えますが、星の位置が全然違いますニャ。
ニャニャ? 変な雲が見えますニャ。おかげで星の光が遮られちゃいましたニャ。にしても、見たこともない雲ですニャ……これは記録する価値がありそうですニャ。
ノイルホーンから聞いた話では、テラの気候は故郷と大きく変わらないようですニャ。
風、雷、雨、雪……よく似た生態環境はよく似た自然の循環を生み出しますから、これも摂理ですニャ。
彼は、そのほかにも……「天災」というものがあると言っていましたが、我々の思う「天災」とはどこか違うもののようでしたニャ。
本当にノイルホーンの言葉通りなら、それはアマツマガツチが現れた時のような恐ろしい災害ですニャ。ただ、天災は源石によって引き起こされる現象だと言ってましたしニャ……
石が災害を引き起こすなんて考えられない話ですニャ。そんなこと本当にあるのでしょうかニャ?
この目で確かめたことのない現象など、認められませんニャ。ですが……テラの特殊性は概ね、この源石と関係しているようには思いますニャ。
直接天災を観測できる機会があれば良いのですがニャ……
ニャ? ノイルホーンたちが帰ってきましたかニャ?
って、あれは……! ニャニャ!
明……
明。
はあ。爺さん、あんたまだ生きてたのか?
死ぬに死ねなくてな。
醜く愚かな畜生どもに、この俺は殺せない……お前とは違うんだ。
おいおい、しぶとさ自慢かよ。そんな頭刺されても這いずって進む獣みたいな有様で?
無様にもほどがあるだろうが。
言ってろ……俺は、自分の狩りをやり抜くだけだ。
この森に百匹、千匹、いや万匹を超える獣が残っていようが関係ない……奴らを根絶やしにするまで、俺は止まらない。
どんな怪物が待ち受けていようとも……俺は奴らを殺す。一匹残らずな。
お前と言い争ってる時間はないんだ……俺はあのでかいのを追う。
ごほっ――にしても、大した爪痕だな。
ここに降りたばかりか。……飢えているらしいな……さぞかし血肉が欲しかろう。
今夜はもう無理そうだな。
黙れ。
死ぬ思いして戦ったばかりの怪我した爺さんに何ができるっていうんだ? 雨も降ってるし、あんたを助けてくれる人なんか一人もいないんだぞ。
このまま進めば本当にくたばることになる。何せあんたは、本物の獣じゃないからな。
俺は……お前みたいにヤワじゃない。
本当は自分でもわかってんだろ。
……落ち葉で痕跡を隠しておけば見つかるまい。
これで……奴は俺の、俺だけの獲物だ。
真面目な話……あんたのやってることに意味なんかあるのか?
また俺を責めるのか。
俺はただ、お前の代わりに……お前がやるだろうことをしているだけだ。
本当にそうか?
そうさ。ひたすら森に突っ込んでは獣どもを追いかけて、斬って、刺して、骨に守られた心臓を切り裂き、満身創痍で帰ってくる……
頭の中には狩りしかない。……お前の一番好きなことだろう?
こんなに時間が経ったのに……あんたはまだ俺のことをわかってくれないんだな。
ふん……わかってないだと? そういうお前はどうなんだ? 自分のしたことは正しかったと言い切れるのか?
お前は一度も俺の話を聞きやしなかった。俺の気持ちを理解しようとしたこともなかったじゃないか。
あの夜、お前の石頭が俺の忠告を一言でも聞き入れていたら。
こんな森に入らずにいてくれたら……あんな、誰かもわからんような有様にゃならなかっただろうが。
……俺は決して、奴らみたいにお前を見捨てたりはしない。
……
まだわからないのか? 俺がやっていることは全部……お前のためなんだ。
違う。こんなのあんたの自己満足だ。それ以外の何でもないだろ。
……本当はわかってるくせに。
もう、あんたの声なんて届かないってこと。
また会ったな、柏生さん。
野営してたのはお前らか……
森に入るなと言ったはずだが。
ここに入るかどうかなど、我々の自由だ。あなたの言う通りにする必要はないしな。
呆れた連中だ……本当の恐怖ってもんを知らずに入ってくるとは。
命を落とすことになるんだぞ。わかるか? 待っているのは死だ!
そうだとしても……どんな恐怖が待ち受けていようと、私たちは任務をまっとうするだけだ。
ひとまず背負ってるものを下ろしてくれないか?
これは俺の物だ……! 勝手に盗み出しといて何を言う!
申し訳ない。あなたが自分のものを持っていくことに反対するつもりはないが、私たちの物は置いていってほしいんだ。
すぐにこの森を出ていくなら、こんな物は必要ないだろう。俺の邪魔をするんじゃない!
いいや、出ていくことなどできない。
わかったぞ、よーくわかった……お前らは俺の邪魔をしに来たんだな……あいつらみたいに、俺のすべてを奪うつもりなんだろう?
考えすぎだ。私はあなたの身を案じているだけで、それ以外のことに興味はない。
柏生さん。あなたもここに来たということは、やはり我々の目標は同じものであるはずだ。
あなたがそういった態度を取る理由は理解できないが、無論教えてくれと言うつもりもない。
ただ、一つ提案がある。――暫くの間だけでいい。あなたと共闘させてくれ。これで問題の多くは解決できるはずだ。
黙れ! 奴は俺の獲物だ、お前らには絶対渡さん!
だったら、これ以上仕事の邪魔をしないでくれ。
同じ獲物を追っている以上、あなたの行動がこちらの邪魔になるかもしれない。
野営地で朝まで待機し、その後村へ帰るよう勧める。
ヤトウ、そんな言い方すんのは……
ッ……よくも……
帰れ! 元いた場所に帰るがいい!
断る。
待て待て――二人とも落ち着けって!
俺は……お前らを……
見えたニャ!
見えたって何がですかニャ?
ハンター諸君、速やかにここから撤退めされよニャ! 焚き火を消し忘れぬようにニャ!
あっ! この声は……!
かがり火に惹かれてリオレウスが近付いておるニャ!
リオレウスが?
奴が来たのか!