紅炎遣らう落葉 CF-TR-1・戦闘前
襲来!天空の王者!
左へ。
このくらいか?
もう少し右だな。
……ダメだ、届かない。背伸びしてもらえるか?
あと少しだけ高く……
よし、この高さを維持してくれ。
お、おう……
こら、肩を動かすな。
これでも努力してんだけどなあ……
すぐ終わるから我慢しろ。
……はいはい。
ほら、終わったぞ。下ろしてくれ。
はぁ……はあ……キツかった……
なかなか良質なサンプルが採れたな。
なあヤトウ、提案があるんだが。
言ってみろ。
思うに……
その前に、ピンセットを。
はいよ。それでだな……
テープも。
これか? で、その提案なんだが……
これじゃなくて青いやつだ。サンプルの分類には注意してくれ。
わ、わかったよ……
それで、何が言いたいんだ?
あー……次の外勤任務の時は、ハシゴの持ち出しを申請できねえかなと思ってさ。
却下する。荷物を増やしすぎると機動力に影響が出るし、不測の事態が起きた場合危険が及ぶからな。
さて、このサンプルも検査に回してくれ。何か有用なものが見つかるといいんだが……
了解。
ところで、なぜハシゴの持ち出しを申請しようと思ったんだ?
……何でもねえよ。ちょっと聞いてみただけさ。
サンプルの簡易検査結果が出たぜ。活性源石粒子はなし……前回と同じか。
またか……採取済みのサンプルはこれでいくつになる?
大気、土壌、生物、環境表面と色んな検査用サンプルを採取してきたが……合計十七箇所のポイントで二十三個採ったことになるな。
その二十三個すべてから、何の異常も検出できないというんだな?
ああ。
……妙な話だ。
しかし、考えてみればこの近辺では二日前に大雨が降ったはず……源石粒子の検査結果にも影響したのかもしれない。
道中、何か気にかかったことはあるか?
んー……焼け焦げて折れた樹を見たことくらいだな。
大方、雷にでも打たれたんだろう。……仮にそれが異常事態の手がかりだとしたら、森の中に火を噴いて暴れ回る怪物か何かがいることになるからな。
収穫なしと認めたくはないが……現状の検査結果を見る限り、このままサンプル採取に時間を割くのは非効率的だ。
調査方針を変えよう。この地域の感染者に、直接聞き込みをするというのはどうだろうか?
いいと思うぜ。感染者の移動経路を調べれば、源石の場所を特定するにも役立つだろうし……ただ、一つ気をつけとかねえとな。
こういう丘陵地帯の村は、外との交流なんてほとんどねえはずだ。住民に聞き込みしようったって、多分簡単にはいかねえぞ。
構わん。必ず説得してみせるさ。
じゃ、決まりだな。近々でそれっぽい症例報告があったのは「露華村(つゆはなむら)」だ。この山の麓にあるらしい。行ってみようぜ。
……ん? この報告、村側から送られてきたやつか。医療支援の要請が来てるみたいだが……向こうからロドスに連絡を取ってくるなんて珍しい村だな。
では、一層注意を払いつつ山を下りていこう。何か見落としがあるかもしれん。
(レコーダーの録音ボタンを押す)
これは、第一回目の音声記録だ。
時刻は朝の七時三十七分。天気、晴れ。現在地は、極東の蒼暮山地北部だ。
記録者はロドス行動隊A4隊長、ヤトウ。同じくA4所属であるオペレーター・ノイルホーンと共に、この地域での鉱石病対応任務に取り組んでいる。
情報によると、この辺りでは最近鉱石病の感染者が増加しているとのことだ。原因は異常な源石粉塵拡散にあると推測されるが、現状それが人為的なものである可能性も捨てきれない。
今、我々は蒼暮山地の森周辺にいる。すでに簡易的な観測とサンプリングを行ったが、環境に起きた異変に関する手がかりはいまだに……
ヤトウ、来てくれ! 大発見だ!
……記録を一時停止する。
どうした? ……まさか、これがその「大発見」か?
落ち葉の下に……随分たくさん虫がいるようだが。
これはミズグモの幼虫でな。
ふむ。それで?
あ~……悪い、パッと見でなんか変だと思ったんだが、改めて聞かれたらどこがおかしいのか忘れちまった。
思い出したら教えてくれ。……さて――いまだに手がかりはないものの、調査は続行する。一回目の記録は以上だ。
そうだ、思い出した!
聞こう。
この間、ドクターにもっと本を読んでみろって言われてな。ミントに勧めてもらった『オリジムシでも分かるテラの生物大百科』ってのを読み始めたんだが、挿絵がたくさんあってすげえ面白いんだ。
要点だけ言え。
その本にミズグモの生息環境について書かれてたんだよ。それによると……「ミズグモは卵を水たまりに産み、幼虫は浅い水の中で生活する」らしい。
そんで成虫になったら、どこかへ飛んでいっちまうんだと。
つまり……
なんか変だろ? 水たまりでもねえ場所に幼虫がいるのはさ。
単に湿った環境というだけでも生存はできるのかもしれないぞ。
少なくとも、あの本にそれっぽいことは書かれてなかったぜ。
……待てよ。この辺りは木が密集しているとはいえ、生え方としては均等に見える。
だというのに、なぜこの場所に落ち葉が集中しているんだ……?
一度掘り起こしてみないか。
そう言われても、俺だってスコップなんか持ってきてねえんだけど……
……
……
わかったわかった。俺がやるよ。
これは……
うわっ、なんだこれ。でっかい爪痕だな……
極東の山に……こうも大きな羽獣がいるものだろうか。
例の本には、これについては何か書かれていなかったか?
さすがにそこまで覚えてねえなあ。
そうか。しかし、とんでもない爪痕だな。私の刀と同じくらいの大きさがあるぞ。形状を見る限り羽獣のようだが、この大きさで、ここまで深く抉られているとなると……
この痕の主は……家ほどの大きさがあってもおかしくないだろう。
そんなでっかい生き物がマジで実在すんなら、ケオベが大喜びしそうだな……食べ放題だ~とか言ってよ。
逆に、私たちを軽々と引き裂いてしまいそうでもあるがな。ん……?
ノイルホーン、サンプリングの器具をくれ。
はいよ。ちゃんと防護措置取るんだぞ。
ああ。……これで爪痕からサンプルを……よし。
検査に回してくれ。
おい、ヤトウ……
結果はどうだ?
活性源石粒子、ありだ。
まさか本当に反応が出るとは……
うわっ……!?
な、なあ……
巨大生物に関する記録はなし。付近での目撃報告もなし、か……一体どこから……
ニャー!
なんか今、ニャーとか聞こえなかったか……?
そもそも、本当に生物が残した痕跡なのか? これほど大きな羽獣となると、どんな姿をしているのか想像もつかないし……
爪痕から検出された活性源石粒子についても……感染源となった源石の在り処もわからないし……
ああ、それにあの落ち葉の山……
ニャー、ニャー!
……? 変な声を出すんじゃない、ノイルホーン。
今はこの爪痕の記録が先だ。準備に取りかかってくれ。
ヤトウ……
それ、俺の声じゃねえぞ。
何を言って……わっ!ひっ!
こいつ一体何なんだ?
私が知るわけないだろう!
下がれ、まずは距離を取るぞ!
おう! 見た感じ、地元のフェリーンか……?
わからん。私もこんなフェリーンは見たことがない。
リオレウスが来ますニャ!
おいおい、一匹増えたぞ!
油断するな! 攻撃に備えろ!
戦闘準備!
待った! ヤトウ、あいつらの動きを見てくれ。
(ぴょこぴょこと踊る)
リオレウス! リオレウスですニャ!
なんか、踊ってるみたいじゃねえか……? 悪意はなさそうに見えるけど……
そこのお前、名を名乗れ! お前たちはフェリーンか? 言葉は通じるのか?
……フェリーンではなさそうに見えるな。……知能の低い動物の一種か……?
そもそも、奴らは今なんと言っていたんだ?
えーと……二オレースとか言わなかったか? 爪痕か、あるいはそれを残した生き物をそう呼んでるとか……?
失礼ニャー! 知能が低いのはそちらですニャ、ツノのお嬢さん!
この爪痕の主が来るって言ってますのニャ!
すぐそこまで、リオレウスが近付いてるんですニャ~!
うおっ、しゃ、喋った!?
しかもなんか失礼とか言われてるぞ……
リオレウス? そいつは一体何なんだ?
……これ、なんだろニャ? 見たことない道具だニャ……
うおわっ! 黄色いやつが俺らの測定器を!
に、逃げやがった! こら、待て!
あっ! なにやってるんですかニャ、止まりなさいニャ~!
おわっ、白いの! お前も待てっての!
追うぞ!
まあちょうどいいですかニャ! このまま急いで逃げますニャ!
あいつら、どうしてあんなにすばしっこいんだ……!?
私に聞くな!
ほら、早く! リオレウスが来ちゃいますニャ!
聞いてる感じ、さっきから……
何かが来る、って繰り返してるみたいだが。
今でも、あの午後のことはありありと覚えている。
泥まみれになった靴、二十三回行って収穫なしのサンプリング。
落ち葉の下に隠されていた巨大な爪痕。どこかフェリーンに似た、ふわふわとした生き物。
ああいや、フェリーンと彼らを一緒くたにするつもりはないんだが……とにかく。
あの時、我々の頭上を覆った大きな影は、大地を焼き尽くす業火のようだった。
その脅威は、空からやってきたのだ。
ノイルホーン!
おう!
迎撃準備を!