ダーティマネー CV-2・戦闘前
二重の備え
えっ、そんな……
ちょっと、お嬢さん、どこへ行くの?
彼を探さないと――
ジェシカ!?
……フランカ先輩? ローラさん?
うそ本当にいた。どうやって来たの?
報告、ジェシカの所在がわかったわ、例のレストランよ。しかもお口のまわりをテカテカにしちゃって……ちゃっかりお店のメニューも把握済みのようね。
了解、銀行の方もだいたい片付いたから、これから向かう。
やっと来たのね。あたしたちもう待ちくたびれて腹ペコよ、優等生サマ。
ここが思ったよりも街はずれで、探すのに時間かかったんだよ。
はぁ……まあ、ここしかないみたいだし、しょうがないわね。
ちょっと、そこのお嬢さん。マイルズを無事に送り届けてくれたことに関してはとても感謝してるけど、あたしの料理にケチをつけようってんなら話はまた別よ。
あー、そういうことじゃ。こんな凍えるような寒いところであったかいご飯が食べられるだけでもありがたいわ、文句なんてあるはずないじゃない。そうでしょ、ローラちゃん?
え? ああ、そうだね、あたしちゃんもそう思う! うちのママとおばあちゃんの料理よりも美味しいよ!
あら、わかってるじゃない! お嬢さん、あなたのお母さんとおばあさんは何してる人なの? 料理人とか?
えーっと、ママはお医者さんで、おばあちゃんはエンジニアだよ。二人ともあまり料理が得意じゃなくて……うちの料理担当はだいたいパパなんだ。
プッ、プハハハハハハハ!
レオーネ、笑い過ぎじゃないの?
コホンッ、いやいや気のせいだって。飯を食おうな、飯を。
あの……おかみさん、お水はありますか? 良ければ一杯頂きたいのですが。
はいはい、とってくるね。
女店主はテーブルにある空のコップを手に取ると、窓を開けて外の分厚く積もった雪にそれを突っ込み、なみなみとすくった。
少し待ってて、溶けたら飲めるから。
そうだ隊長、どうして銀行の人が迎えに来たのか結局わかった?
現地の政府機関がギリギリで回ってて、わたしたちに協力する余力がなく、それで今回の件の全権を銀行に委ねたらしいよ。
はぁ? まあいいわ、で、銀行側はなんて?
「全力でサポートいたします」「ただし具体的な内容については一度持ち帰って検討させていただきます」、ざっとまとめるとこんな感じだね。
チッ、やりづらい相手ね……あなた、まさかはいわかりましたと引き下がって、ご飯を食べに来たわけじゃないでしょうね?
彼らにはリソースも人手もないけど、お金だけはたんまり握ってるから。
でもわたしたちだって経費が不足してるってわけじゃないですし。ただ……銀行がちゃんとサポートしてくれるっていうのなら、デイヴィスタウンでもっと多くの労働者を雇うというのはどうですか?
動力炉で事故が起きてからというもの、大多数の住民は区画を去ることを選んだからね。いま町にどれだけの労働者が残ってるのかもわからないよ。
道理でね。もう八時になるっていうのに、窓から明かりが漏れてるアパートはほとんど見当たらないんだもの。
実はそんなに人手はいらないんだよね。修理作業はあたしちゃんと小隊メンバーでできちゃうからさ。必要なのはエネルギータワーに詳しい人だよ。銀行から誰か適任者を紹介してくれてたりする?
いや、特には。
コホンッ、あのよ――
レオーネさん……?
さっきはあんたの通信機の修理にかまけて自己紹介を忘れてたな。
レオーネ・テルメン、ここの採掘工場の発破技士だ、よろしくな。
採掘工場の発破技士……そんな方がなぜ、まだ町に残っていらしたんですか?
ま、他にもここを離れたがらない頑固野郎が何人もいるからな。俺なんざ四歳の時からこの採掘工場育ちだ、今さらほかの場所に行ったところで馴染めやしないさ。
年初めに事故が起きた時も、俺がすぐさま人をかき集めて対応したんだ。完全には修復できなかったが、しばらくの間稼働させることには成功したよ。
そのおかげで、今もまだ稼働しているわけですしね。あなたのお力ですよ。
この話はもういい、過ぎたことだ。それよりさっき言ってた報酬のことだが……
あっ、それについては……任務の要件は可及的速やかに作業を完了させることですので、日当制ではありません。ただし、必要な経費および食費と宿泊費は毎日支払われます。
報酬は動力炉の復旧後に一括清算となり、早く復旧できれば、それだけ金額も上乗せされます。
もちろん、協力の観点から、報酬の一部前払いも可能ですよ。
具体的な数字は?
あなたの場合、業務は顧問になるかと思いますので、二ヶ月で解決した時の報酬は4万、一ヶ月以内であればその倍、一週間以内であれば……
さらに倍か?
もっとです、20万になります。
交渉成立だ!
おじさん、随分と快く引き受けるのね?
20万だぞ、大金だ。
ここじゃお金がいくらあったって使い道がないんじゃない?
青いな。20万ってのは、若者が飲んで食ってはしゃぐには十分かもしれねぇけど、中年の債務返済の当てとしちゃ焼け石に水くらいの額でしかないんだよ。
……債務? 借金があるんですか?
俺だけじゃない、区画の全員が借金を抱えてる。はぁ……ここまで話したからには、全部ぶっちゃけるか。
あんたがここに来るなり尋ねた、例の雪原へ歩いて行った男のことだが、あれも大方借金がかさんでのことだろう……ここじゃよくある話だ。負債を抱えて破産し、行き場を失って仕方なく……
何も持たないで、雪原に……
……そんなの、到底生き延びられるとは思えません。やはりあの時止めておくべきでした。レオーネさん、今から探しに行っても間に合うと思いますか?
はあ、やめておくんだな、助けられやしない。
……
……ジェシカ、これは君のせいじゃないよ。
コホン……ローラ、ほかにレオーネさんに話しておくことはある?
えーっと……そうだ、おじちゃん、資料があるなら明日ここに来る時に持ってきてほしいんだけど。
よし、わかった。それとほかに何人か採掘労働者を知ってるが、そいつらのことも――
必要ないよ、おじちゃんだけで十分。
そう言うなって、もう何人か呼ぼう、な? わかるだろ、この場所にこだわらない若者はみんな出て行っちまって、残ったのは……
俺みたいなジジイばかりなんだ。
ベニー、来てくれてありがとうな。わしは本当にもう大丈夫だ。だから、そろそろ家に帰りなさい。これ以上遅くなったら、レオーネが心配する。
まだ練習問題が終わってないんだ……それに、家へ帰りたくない。父さんとは……いや、何でもない。
レオーネの奴は確かにちとせっかちな性分だが、長年一緒に暮らしてきてわかるだろう? お前さんのことは本当に大事に……
マイルズ、わかってるよ、僕はただ……
……まあいい。冷えとらんか? 火鉢にもっと薪を入れようか?
平気、十分暖かいよ……ねぇマイルズ、今日マイルズを家まで送ってくれてた人たちって、助けてくれたっていうBSWの……?
そうだ、エネルギータワーの修理を手伝いに来てくれたと言っていたな。タワーが復旧して暖房さえつけば、わしらもこんな火鉢で暖を取る必要はなくなる。
でも、エネルギータワーが直ったって……区画が元通りになって、何もかもが良くなっていくわけじゃ……
……お前さんは一日中心配事ばかりしているな。そんなことじゃ髪が抜けちまうぞ。
父さんはこんな心配をしないからね。僕が代わりに考えなきゃ、ほかに考えてくれる人もいないよ。以前ならまだカールがいたけど、今はもう。
ベニー……
マイルズ! マイルズはいるか? 感謝しろ、良い仕事を見つけてきてやったぞ! これで動力炉は直るし、大金も舞い込んでくる!
父さん? どうしてここに?
ベニー、お前もいたのか。
お前はここで勉強しててくれ。父さんはマイルズを連れてBSWのお嬢ちゃんたちと顔合わせをしに――
とっくに会っとるじゃないか。わしは彼女たちに助けてもらったんだから。
おっとそうだったな。
ほかの連中のとこには行ったのか?
……一通り当たってみたが……もういなくなっちまってたり、これから引っ越すとか言ってたり、あとはもうどうでもいいとかほざいてる奴しかいなくてな……
まだ動力炉のことで苦労してもいいと思ってそうなのは、あんたと俺くらいのもんだ。
セーフハウスが正式に運用できるのは明晩になりそうだから、緊急集合場所はひとまずここにしよう。
ローラ、明日のエンジニア小隊の指揮は君に一任する。最短期間で区画の移動能力を復旧するように。
オッケー。
フランカとジェシカには、色々とやってもらいたい仕事があるの。とりあえず、一人はわたしと来てほしい。もう一度銀行に向かうから。それで、もう一人は……
区画の周囲や無人地帯の安全状況を確認してもらいたいんだ。銀行の人の話では、この頃よく外から野盗が入ってくるらしいから。
あの……そっちはわたしが行ってもいいですか?
いいわよ、それじゃ銀行の方にはあたしが行くわね。われらがリスカム隊長を悩ませた連中が一体どんなものか、見てみようじゃないの。
みんなよく聞いて。事故からしばらく経ってるし、活性源石粉塵はほとんど床面に落ちて、タワー内はほぼ安全になってる……とはいえ、今も基準値を超えたエリアがまだ一部残ってるみたい。
危険エリアの位置はすでに端末に同期してあるよ。
出力は低いけど、エネルギータワーは稼働状態にあるから、今回は稼働させながらの緊急修理になる。作業時はしっかり防護をして、何かトラブルが発生した時はすぐ報告してね。
二人には感謝しないとね、ありがとちゃん! お爺ちゃんたちがいなかったら危険なエリアを一つ一つ時間をかけて調べるはめになってたよ。
役に立って何よりだ。わしは人生のほとんどをこの場所に費やしてきた。通路の中のボロ屋より、むしろこっちを「我が家」だと思っとるくらいだよ。
んじゃおうちにがっつり手を加えちゃうよ、マイルズさん。
ああ、存分にやってくれ。
うっ――!
……ここまで壊れてるのに、よくまだ燃えてるなコレ。まさに奇跡だね。
ああ、数年前にマイルズと俺でここの燃焼室を補強したんだ。事故防止と、それからボイラーで源石燃料以外のものも燃やせるようにするためにな。
今年の冬に入ってから、初めの方は廃棄された源石製品がまだあったが、最近じゃ燃やせる木が見つかれば御の字だしな。
とりあえず……状況を見ながらやってみるしかないね。
Aチーム現着、ほかの小隊も位置と状況を報告して。一分後に故障箇所の調査を開始するよ。
Bチーム、位置につきました。コンバインドサイクル装置の損傷は目測でおよそ30%です。
Cチーム、到着しました。冷却システムは完全に破損しているようですが、冬季の低温環境を利用し臨時で空冷システムを作ることは可能です。
Dチーム、位置につきました。灰処理ダクトは現在順調に稼働中、各チームの要求に応じて随時速度を調整できます。
了解。それじゃあ、みんな準備して――
作業開始!
隊長、最後の巡回ポイントに到着しました。
道中で野盗の痕跡は?
いえ……運転の途中には何も発見していません。
ジェシカ、わたしはこれからフランカと引き続き銀行の相手をするのに専念する。そちらも気を付けて行動して。
ただもし何かあれば、こっちの都合を考える必要はないから、すぐに連絡すること。わかった?
はい。
ヘレナさんの話だと、ウッドロウさんは狩りの帰りにこの近くを通るらしいけど……会えるといいな。
松ヤニの匂い……どうしてここでこんな匂いがするんだろう?
松の枝……誰かがここで火を?
誰かがあそこを通って……ん? あれは? ウッドロウさんが区画の外から帰ってきたのかな?
ハァハァ……ウ、ウッドロウさん、待って、待ってください!
後ろにいるのは……
まずい!
ウッドロウさん! 危ない!!
なんだ!? クソッ、また邪魔が入った。
……なぜここに?
ウッドロウさん、この付近は野盗が潜んでいる可能性があります。すぐに区画の安全なエリアまで戻って……
あの、どうしてそんなに怒った顔を?
お前は本当に余計なことばかりしてくれるな。
ですがさっきの人は背後からあなたを不意打ちしようとしていて、わたしはそれを助けようと……
俺が苦労してようやくあの野郎を引っ張り出したってのに、お前のその銃弾ですべての手がかりがパーになっちまった。
そ、そんな……ごめんなさい、えっと……?
な、何を調べてるんです? お詫びに何か力になれることがあれば……
ここに野盗が潜んでるってことには気付いたようだが、あいつらがここに来る目的が何か、考えたことはあるか?
生活が苦しくて……物資の略奪とか?
俺たちですら腹を満たすのに苦労する区画の物資なんぞにあいつらが目をつけるとでも? あいつらは普段、キャラバンを襲って物資を奪うことを生業としてるんだぞ。
じ、じゃあ一体何の目的で……?
最近、区画から人間が大勢消えてる。そいつらが失踪する前に、この辺りのチンピラどもと親しげにやり取りしているのを目撃した住民がいる……
次はこっちが訊く番だ、お前はここへ何しに来た?
わたしは……割り当てられた任務に従って、区画の外に潜む野盗が動力炉の修理に影響を与えないよう、区画周辺の無人地帯の安全を確保しに来ました。
お前一人でか……?
いえ……ほかに数名のチームメイトがいます。それに、ウッドロウさんもここにいますし。
俺は関係ない。じゃあな。
そうだ! 弾の件――
あっ、行っちゃった……