ダーティマネー CV-1・戦闘後
孤独の地
ううっ……ヘレナ、今日は一段と寒いな。
炭もそろそろ少なくなってきてるから、節約しないと。
じゃあ燃料にうちの請求書をくれてやるよ。山のように積み上がってるぜ? どうせ燃やしたところで銀行から次々と送られてくるだろうしな。
オッホン。
風邪か? しゃあねぇな、今家に帰ってその紙くずを持ってきてやるよ。
(小声)空気を読みなさいよ! 周りをよく見て……
あ? あー、シルヴィアか。
お、おはようございます、レオーネさん……
銀行のお方がこんなボロいレストランにお越しになるなんて、何かご用でも?
い、いえ。すみません……
フンッ。
もう……そうだ、随分とベニーの姿を見てないのだけど、あの子最近どうしてる?
学業に勤しんでるよ。毎日、日付が変わるまで勉強してる。
学校はとっくに廃校になったんじゃないの?
隣に住んでるセレーナさんがむかし教師をやっててな。ベニーの年で学校に行けないのは可哀そうだってんで、彼女の家で勉強を見てくれてるんだ。
それは良かったわ、ベニーはとても賢い子なんだもの。もう学校に行けないとわかった時は、ひどく悲しんでたわよね。
そうだな、あの頃のあいつはいつも思い悩んでいた。
レ、レオーネさん、べ……勉強なら私も教えることができます……
そうね、シルヴィアはクルビアで一番の商学部を卒業したんだもの――
こいつから何を学ぶってんだ? 大人になったら銀行に就職して、人に請求書を送りつけろってか?
そ、そんなことは……
レオーネ! 早く食べないと朝ごはんが冷めるわよ!
フン……
……お代はテーブルの上に置いておきますね……仕事があるので、お先に失礼します。
レオーネ、デイヴィスタウン住民の借金は別に彼女が貸し付けてるわけじゃないのよ。どうしてそんなにひどく当たるの?
そのセリフはほかの奴に言えよ、俺よりきつく当たってるぞ。
何と言おうとあの子はあたしたちが子供の頃から見守ってきたじゃないの……
だからこそ……腹が立つんだよ!
まったく。
お待たせして申し訳ありません。そこまで遅れていなければよいのですが。
ぜ……全然そんなことないので、大丈夫ですよ。初めまして。
お名前を伺ってもよろしいですか?
私のことは、は……
クシュンッ――!
大丈夫ですか? どれくらいここでお待ちになっていたんですか?
朝から……待っていました。本日到着とだけ知らされていて……具体的な時間はわかりませんでしたので。
朝から? 今はもう午後よ、ずっとここで待っていたの?
はい……
三時間前に到着予定時間更新の旨を区画に向けて送ったのですが。
……わ、私は何も聞かされていません。
おかしいわね、誰に言われて来たの?
うちの……支店長です。
支店長? 政府にも支店長がいるの?
違うんです。わ、私は政府の人間ではなく……地元の銀行で働いている者です。
え? じゃあ政府の人間は?
それは……えっと……実は、デイヴィスタウンの政府は……
……
リスカム隊長、戻ったよ。そっちがあたしちゃんたちを迎えに来てくれた人?
シルヴィア? あいつらはお前さんを迎えに寄越したのか?
は……はい、マイルズさん。
お爺さん、どうしてデイヴィスタウン政府は顔を出さずに、銀行で働いてるこのシルヴィアさんを寄越したの?
はぁ……それは自分たちで直接銀行に聞いたほうがいい。わしは細かいことまではよく知らんから話せん。
それじゃ、フランカ、君はマイルズさんを家まで送り届けて。そのついでに、デイヴィスタウン内を見て回って、ここの状況を把握しておいてほしい。
……わかったわ。
ローラはほかのメンバーを連れて、セーフハウスの設置を頼む。車両と物資を置くのに適した場所を見つけてね。もし途中でジェシカに連絡がついたら、すぐにわたしに報告して。
はーい。
わたしはシルヴィアさんと銀行に行って……どういうことかを確認してくる。
面倒事を自ら引き受けてくれて感謝するわ、優等生サマ。
……
それぞれ用事が済んだらどこで落ち合おうか?
それなら、町で唯一まだ営業しているレストランにするといい。採掘工場へ向かう道の途中にある。おかみさんはヘレナといって、とても良い人だ。
お前さんたちがずっと話題にしているそのジェシカとやらも、無事町に入ったのなら、きっとそこで足を休めるだろう。
そうですか……では、各自そのように。
リスカムさん、銀行はもうすぐです……
なんだか道中、皆さんがわたしたちを見るなり避けていましたね……これならフランカに装備を預かってもらえばよかったです。
いえ、それはあなたのせいではなくて……
うっ……
おい、ぶつかっといて挨拶もなしかよ……
終わりだ……
あの……? 大丈夫ですか?
……何もかも終わりだ。
え? あの! どうかなさったんですか?
なんだあいつ……魂が抜けてるみたいだったぞ? どこへ向かってるんだ?
シルヴィアさん、彼をご存知ですか?
いえ、私は……その……
とにかく……ま、まずは銀行に行きましょうか。
……コミュニティが急速に発展するにつれ、大小様々な移動プラットフォームが開拓地に次々と建設されていきました。
しかし当時のクルビアには、開拓地を専門に取扱う金融機関はごくわずかしかありませんでした。
……最前線において多くの開拓者の生活状況を調査したのち、創設者は開拓地に根を下ろすことを決意。それからこの地で最初の銀行を設立し、中下層の人々のために経済的支援を提供しました。
彼は信用に重きを置き、善意をもって人を助け、各々が複雑な事情を抱える開拓地において、銀行に足を運ぶすべてのお客様に対し、行き届いたサービスを可能な限り提供しました。
彼の努力と善意はすぐに多くの人々の目に映るようになりました。
以来、弊行は地元政府と緊密な協力関係を築き、鉱業や開拓企業と連携し、迅速に事業を拡大して参りました。私たちはデイヴィスタウンのような町の一つ一つの発展を応援しています。
……
まさにレジェンドと呼ぶべき偉業です。そうは思いませんか?
あなたは……?
リスカム様、大変お待たせいたしました。わたくしは当銀行の支店長です。直接お迎えに上がれなかった失礼をお詫び申し上げます。
いえ、町が厳しい状況にあるのは十分わかりました。多少不自由な点があるのも無理はありません。ただ……
リスカム様、そうかしこまる必要はございません。おっしゃりたいことがあればご遠慮なくどうぞ。
でしたら、お言葉に甘えて。我々が協力する予定だったのは政府機関であり、銀行ではありません。デイヴィスタウン政府に何か問題でも発生したのですか?
シルヴィアさん、リスカム様に事の次第をご説明差し上げていないのですか?
支店長、私は……
シルヴィアさんは一人で寒空の中を半日も待っていてくれました。今の彼女に最も必要なのは温かい飲み物と毛布だと思いますが。
おっしゃる通りですね。シルヴィアさん、病欠として半休を与えますので、帰ってゆっくり休んでください。
え、はい……それでは失礼します、リスカムさん。
待って、シル――
リスカム様、何かございましたらわたくしにお申し付けください。区画のリソースには限りがございますが、ご満足いただけるよう尽力いたしますので。
それに関しては大変感謝いたしますが、質問を避けないでいただければもっと助かります。
BSWの任務依頼人は現地政府のはずなのに、なぜ我々を出迎えたのが御行の行員なのでしょうか? 現地政府機関の責任者はどちらにいらっしゃるのです?
……
こちらへどうぞ、リスカム様。
デイヴィスタウン政府のオフィスは、地元銀行のガレージにあるとでもおっしゃりたいのですか?
昨年の破産手続きに際し、地元政府は複数の機関を廃止し、大半の公務員を解雇しました。しかしそれでも巨額の債務を返済するには足りず、最終的に庁舎までもオークションにかけたのです。
では町長は? どちらに?
残念ながら、前町長が残りわずかな財政資金を持ち逃げして以降、彼に代わる相応しい候補者はまだ選出されていません。
今日に至るまで残っているのは、ご覧の通り町長秘書と数名の……臨時職員のみです。
いやー、はは、どうもどうも。我々は十分満足してますよ。もし銀行が無料でオフィススペースを提供してくれなければ、路頭に迷うところでしたからね。
当然のことをしたまでです。あなた方の努力に比べれば取るに足りません。
ここの政府機関がまだ機能しているなら、わたしたちは――
いやいや!
我々としてもあなた方に協力したいのは山々なのですが、あいにくどうしてもそちらの業務をサポートできる人手が……
……ではどなたが関連事項を取り仕切るんですか?
今回の業務についてはそちらの支店長に全権を委任しているので、今後何かあれば彼女を訪ねてください。
という次第です。わたくしがいつでもご対応いたしますので。
……では正式な委任状を発行していただきたいのですが。
秘書さん、リスカム様にいつ頃その委任状をお渡しできますか?
すぐに、できるだけ早く用意します! ただ昨日から公印が見当たらなく……すでに探させてはいるのですが!
よろしく頼みますよ。
では……リスカム様、我々の協力の成功を願っております。
……
わたくしのオフィスへご案内しますので、ご足労いただけますか、リスカム様。業務を開始する前に、色々と話し合わなければならないことがございます。
わかりました。
待ってください、支店長、少々お待ちを!
まだ何か?
あの……最近気温がとても低くて、ガ、ガレージの暖房温度をもう少し上げていただけないでしょうか? みんな寒さで凍えており……
……もちろん構いません。ご要望があれば、いつでもお応えいたしますよ。
隊の仲間とどこかで落ち合う約束はしているのか?
それは……ま、まだです。でも、大丈夫です。どこか場所を探して彼女たちを待つので……
ハクシュン!
デイヴィスタウンにレストランがある、そこで待つといいだろう。
ど、どこにあるんですか……? あ、案内していただかなくてもいいので、大体の方向を教えてもらえば……
……
まあいい、ついてこい。
……
…………
あれ? あの人は……区画の住民かな?
……手ぶらでどこに行くんだろう。
すみません! そこの方! どうされたんですか?
えっ、区画の外に出るんですか? 危ないですよ!
あなたのことですよ! こっち、こっちです! 聞こえてないんですか?
あの! すみません!!
男はジェシカの呼びかけに何の反応もなく、ただ黙って雪原の中を進む。
彼の前方には、白一色に染まる景色が果てしなく遠くまで広がり、暗く青白い空と繋がっていた。
ジェシカの視界の中で、男は次第に広い雪原に押し出されて青い線となり、しばらくすると小さな点となって、最後は白銀の中に完全に埋もれて消えた。
雪の上の足跡以外に、彼がそこにいたことを証明するものは何一つない。
……
どうした。来るのか、来ないのか?
あ……今行きます!
ヘレナ、戻ったぞ……
ウッディ? やっと帰ってきたのね!
待て……マイルズはどうした?
マイルズはこの嬢ちゃんの仲間が救出した。
お嬢ちゃん、あんたは……?
わ、わたしは……
……途中で出会った傭兵だ。通信機が故障して、仲間とはぐれたらしい。仲間の情報を得るために町に連れてきてやった。
そうか。なぁ、その通信機を見せてみな。少しいじってやりゃ直るかもしれない。
えっ、いいんですか……お手数おかけします。
なーに、あんたの仲間はマイルズを助けてくれたんだろ? 通信機を直してやるくらいどうってことないさ。
ところで、あなたたちは何をしにここへ……?
……わたしたちは州政府からの依頼を受けて、デイヴィスタウンの動力施設を復旧し、区画を航路に戻す手伝いをしに来たんですが――
なんだって? 動力施設の復旧? からかってるわけじゃねぇんだよな!?
まったく、すぐはしゃいじゃって。
お嬢さん、あなたとお仲間がここに何をしに来たにせよ、マイルズを助けてくれたことには心から感謝するわ……ここ数日彼の身が心配で心配で、夜もろくに眠れなかったんだから。
おい……無事だったんだからもういいだろ? 食いもんはあるか?
なかったけど、あなたが持って帰ってきてくれたじゃない。
おっと、そうだった。
これって母獣?
ごめんなさい……わ、わたしのせいで……
この期に及んで、誰もそんなことに構っちゃいられん。肉さえあれば万々歳だ。
それもそうね……二人とも座って、何か適当に飲んでて。あたしは獣肉をさばいてくるから――
ちょっと、もう行っちゃうの? 何も食べてかなくていいの?
ああ。
レオーネさん……通信機の損傷は深刻ですか?
大した問題じゃない。ちょっくら倉庫を漁ってくるか、まだ使える代替部品があるかもしれん――
はいはい、機械いじりは一旦おいて、これを食べてみて。
クラックリングか? こいつはいい!
だがこれっぽっちじゃ……全然足りないぞ。
足りないと知ってるんならがっつくんじゃないよ、そこのお嬢さんがまだ手すら付けてないのに!
っと、アハハ……
わたしなら大丈夫です、レオーネさんは通信機を修理してくれてるんですから……たくさん食べてください。
気にしなくていいのよ。ここみたいな寒い場所は、みんなで助け合わないとやっていけないの。ほかに何か助けが必要なら、遠慮せずあたしたちに言ってね。
ありがとうございます、ヘレナさん。
そうだ。さっき区画の外である男性を見かけたんですが、話しかけても何の反応もなく……そのまま何も持たずに外の雪原に向かってひたすら歩いて、遠くへ行ってしまいました……
彼に何かあったんでしょうか?
……
お嬢さん、よそから来た人が首を突っ込むことじゃないわ、まずはお腹を満たしなさい。
すみません、ですが……もう一つだけお聞きしてもよろしいでしょうか?
はぁ……このお嬢ちゃんときたら、来て早々随分と質問が多いな。何だい?
ウッドロウ・ビアンキさんという方について伺いたいのですが――
はあ……?
ごめんなさい、ご存知ないようですね。ほかを当たってみます……
いや、そうじゃねぇって、どういうこった?
さっきあなたを送ってきたのが、そのウッドロウよ。