OP:LA CR-2・戦闘前
アシンメトリー庭園
た、大尉! ご報告が!
続けろ、手短にな。
調査を頼まれていた件ですが、目星がつきつつあります。
カジノで聞いた話では、近々あのコミュニティに大量の鉱石病抑制剤が運ばれてくる予定だそうです。あそこには大量の感染者がいますから、妨害できれば……
運んでくるのは何者だ?
ロドスとかいう製薬会社です。ドッソレスでなかなか評判が良く、カンデラさんとも付き合いがあるとか……些か厄介そうではありませんか?
確かに……考えものだな。
それで、この前の作戦中に現れた奴らの正体は掴めたか?
申し訳ありません。尽力してはいますが、まだ……
レイネルの方は? 把握できていない支援者がいる可能性は?
そちらも、今のところ何も。
まさかとは思うが、文字通り本当に空から降ってきた……なんて言うつもりじゃないだろうな?
……もしかすると、我々の調査を妨害しようとする者がいるのかもしれません!
だとしたら、それはいったい何者だ?
……
おっと、そういえば一つ可能性はあるな……どうして今まで気づかなかったのかというくらいだ。
お心当たりでも?
俺はドッソレスじゃそれなりの立場にいる……ならば取って代わろうと狙う輩が少なからずいるはずだ、と思ってな。
そいつが普段から俺の周りにいて、いまも目の前で嘘の報告をしている……なんてこともありえるだろう。なあ?
そんな、ご……誤解です! 私にそんなつもりは、決して! 私が忠誠を誓っているのは、最初から最後まで大尉お一人のみです! 信じて下さい!
ふん、そうだな。お前に限って、そんなのありえないか。
え、ええ、そうですとも!
ともあれ、そういう面倒ごとに構っている暇はない。まずは目下の問題について考えなければ……どうにかして一挙両得を狙える手は……
コミュニティのギャングどもを叩き潰し、レイネル側の妨害もできるような手段があれば……
……そうだ、思いついた。お前、例の四人の戦術は覚えてるか?
ゲートではかなり長時間並ばされるって聞いたんだけどな。
ゲートの責任者が俺の友人でね、色々融通利かせてもらったんだ。この車もその人から借りたやつだよ。
あんたがそんなに顔が利くなんてね。
そんじゃ、さっさと薬の配達を済ませちゃおっか。任務を終わらせたら、その辺のビーチでゆっくりくつろぎたいからね。
そう急がなくても大丈夫だって。今回行く目的地は、かなり面白いコミュニティなんだ。きっと気に入るんじゃないかな。
へー、どういうこと?
そこの人たちの多くは、特殊な精神的生産活動に勤しんでるんだ。生活や身の回りのあらゆるものに対する感情を、独特な言葉と手段で表現しているのさ。
小難しい言い方するなあ……もうちょい分かりやすく説明してくれない?
つまり、アーティストがたくさんいるところってことだよ。
報告します、準備が一通り整いました。
大尉、ご安心ください。服は着替えましたし、奴らが戦闘時に使う合図も全員に覚えさせました。
奴らのなまりや戦術を真似るのは、少々難しいかもしれませんが……BSW出身の隊員がいるので、彼に先陣を切らせます。
その隊員が持っていた銃も、隊員たちに装備させています。それから源石爆弾やランチャーもいくつかありますので、使えるかと。
はい、薬を最優先として、極力人目につかない場所を選びつつ、あえて退路を残し、命までは奪わず逃亡を許す、ですね。承知しております。
ええ、もちろんです、大尉! 全てお任せください!
隊長、奴らの車がすぐそこの交差点まで迫ってます!
総員、行動開始!
エルネスト……あ、あのさ、道の真ん中に何か見えない?
誰かが落としたバッグかな。
待った――違う! あれ、源石爆弾だ!
源石爆弾!?
ブレーキが間に合わない! 跳び下りるよ!
マズい、薬が!
あの箱は特別製だから、爆発の位置が相当悪くなければ平気だと思うけど……
大丈夫? 立てる?
平気、ちょっと擦りむいただけ。
それより見て! 変な連中が……車の方に駆け寄ってきてない?
ちょっと! 車の中には何もないってば! あたしたちはこっち!
……シカトされちゃった。
でも変だね。観光客ばっかりだって聞いてたけど、なんか傭兵っぽい格好してるよ?
さっきの爆弾と関係あるのかも。俺たちも行ってみよう――
テキーラがそう言い終える前に、傭兵らしき者たちは車内から目的のものを見つけたようで、振り返りもせずに駆け出した。
そして残った者たちはカタパルトとテキーラに向け、銃を構える。
銃!?
エルネスト、あいつらいったい何者?
……俺が聞きたいくらいだよ。
君たち、その薬をどうするつもり?
撃て!
クソッ――
伏せて!
接敵した! 六時の方向だ!
ファイア! ファイア! 制圧射撃を続けろ!!
アリータ、ケガはない?
大丈夫。まともに銃を撃ってるのは一人だけみたい。他はだいたいランチャーを使ってるっぽいけど、あれならなんとか――
リロードする! 援護を頼む!
十二時の……方向……味方、ダウン……
ダメだ、数が多すぎる。薬を追うなんてできそうもないよ。
ひとまず向こうの裏路地に向かおう。あそこからなら撒けるかも。
(小声)そうしよう。あたしが援護する。
(小声)10メートル、5、3……アリータ、頼んだ!
ストリートアートだらけのコミュニティがなんだって? そんなこと聞いてどうするつもりだ?
もうすぐそこでお祭りをやるって、チラシに書いてあったから。興味があるの。
そんなので興味を持ったのか。無闇に行くのはやめとけ。あそこは厄介な連中のたまり場だからな。
行かない方がいいよ。あそこは感染者が大勢いる場所だからね。
感染者が? 病人がたくさんいる場所なのか?
あんた、何バカなこと言ってやがんだ……
道を尋ねても埒が明かないな。かなり危険な場所のようだが、それでも行く気か?
ええ。それにしても、タクシーの運転手すら向かいたがらない場所だなんて……
危険な場所のようだし、Elaに報告して四人で動いたほうが賢明だろうな。
ねえ、そこのお二人さん。俺のレンズが捉えた景色に興味ない? この構図、特徴、風格。うーん、こりゃまったく芸術品だよ。
あなたねえ。許可なく勝手に写真を撮るのはマナー違反じゃないかしら?
一度カメラをこちらへ渡してもらえるかな?
まあまあそう怒らないで、美男美女が台無しだよ。見ればきっと気に入るはずさ。ほら、どうだいこの写真。美しい瞬間をうまく捉えてるだろう。
とりあえず、見てみなって。
画面には顔をしかめながら、去り行くタクシーを見つめる二人が写されていた。巻き上げられた土煙のせいか、一人はやむなく腰に手を当て、もう一人は軽く鼻を覆っている。
何の変哲もない日常に潜むユーモラスな瞬間を切り取ったその一枚には、見る者を愉快な気分にさせる何かがあった。
ふふっ……なかなか悪くないわね。
確かに、誉めざるを得ないな……いい腕をしてるじゃないか。
気に入ったんならよかった。こいつが今ならたったの15ドルだ。同価値のソルかドゥカートでもオッケーだよ。
悪いがそれを買う気はないし、データも削除してもらおう。私たちの写真が知らない場所に流出するのは避けたいからね。
へえ……それは構わないけど、だったら20ドルだな。それ以上はまけられないね。
お金を払うつもりはないわ。
まさか、踏み倒す気じゃないよな?
はぁ……まるでごろつきのやり方じゃないか。
払わないってんなら、こっちにも考えがあるけど?
チッ! あいつ、逃げる気よ!
追いかけても無駄だよ、お二人さん! 写真がどこに流出するか楽しみに待ってな! ハハハッ!
*パリスラング*、バイク相手じゃ追いつけん!
焦る必要はないわ、カテブ。向こうはタイヤの跡をこんなに残してくれてるもの。
あ、やっと見つけた! ずいぶん探したんだけど、写真の用意はできてんの?
いやあ、ちょっと小遣い稼ぎをしてたもんでさ。写真の方はきっちり仕上げるから、今夜受け取りに来てよ。
アンタってホント……いっつも締切ギリギリで出してくるよね。
ごめんって。今度フルーツソーダおごるからさ。
わかったから、さっさと帰って写真の調整して。今夜中に出さないとぶん殴るよ。
わかったわかった! そんじゃ姉御、また後で!
まずいわね。このまま追いかけたいところだけど……お仲間らしい彼女に見つかると面倒だわ。
なにか手はないものか……
二人が物陰から顔を出すと、少女は集中した顔つきでスプレー缶を構え、路地裏の壁に彩り豊かなグラフィティを描き始めた。
(小声)おっと……もしかすると、我々はすでに気付かれているかもしれないな……
(小声)どういうこと?
(小声)見てくれ。あれを描きながら、常に顔を左へ向けて、目配せしているように見える……彼女は、誰かに合図しているんじゃないか?
(小声)確かに、あり得るわね……彼らの耳の構造は私たちと違うみたいだし、静かにしていても聞かれてしまうのかも……
クソッ……こんな時に発作なんて……ううっ……
待った、急に倒れたぞ。
あれは……病気の発作か!
マイヤー、周囲の警戒を頼む!
ちょっと――
カテブ、一体どうしたの?
ずいぶん眉間にシワが寄っているけど。
君はそのまま動かないでくれ。
Docは身をかがめると、倒れた少女の体を調べ始め――
次の瞬間、表情を歪めた。
どうしたの?
Docは口と鼻を覆うと、地面に転がっていたスプレー缶を拾い上げた。
この缶に入った溶剤、品質検査の基準を満たしていない可能性があるな。
……そうだとして、質の悪い有機溶剤を吸っただけで昏倒することなんてあるのかしら。
分からない……私にできるのは、全力で彼女を助けることだけだ。
お嬢さん、意識はあるか!?
注射薬……打って……ポケットに、入ってるやつ……
わかった、これだな?
(弱々しげに頷く)……
君が薬を携行していてくれて助かった。でなければ、私には手の施しようがなかったよ。発作の原因はすぐには特定しづらいからな。
てっきり、顔料が揮発する匂いが強烈すぎて気を失ったのかと思うところだった。
こんなの、毎日嗅いでるし……そんなわけないじゃん……
しかし、これは効き目の高い薬なのだな。随分具合が良くなったように見えるよ。
……まあ……それが最後の一本なんだけどね。
ほら、水よ。
うん、ありがと。
それで、君のおうちはどこかな? 我々が送っていこうか?
子供扱いはやめてくんない……?
っていうか……アンタら、アタシが怖くないの?
まさか。私はパリ生まれだから、怖いストリートギャングの類もさんざん見てきたくらいなんだ。何とも思わないさ。
ははっ、ギャングって……そんなこと言ってんじゃないってわかるでしょ。
悪いが、ぴんと来ない。どういう意味で言ったのかな?
本気で言ってんの? マジで変わってんね……
少女が右脚のガーゼを思い切り剥がすと、膝の横に生えた源石結晶が露出した。
これが怖くないわけ?