テラ飯 DT-3・戦闘前
黄金ニンジン
はぁ……はぁ……
ふんふーん……♪
この荒野、果てが見えないな。ったく、いつまで歩けばいいんだか――おい、なに楽しそうにしてんだよ……
ふんふふーん♪ だって、この世界の魔道具が手に入ったんだよ?
ただの売れ残りだけどな……
チルチャックだって、新しい鍵開けの道具を見つけたらワクワクするでしょ?
それに私、この世界に来てからずっと、前みたいに魔法が上手く使えなくて困ってたんだ。なんだかここには、私が制御できてない……変わった魔力があるみたいな感じがして。
だけど今は、杖代わりになりそうなこのD32鋼製の「ライト」があるから!
あの社長さんが言うには、この素材は大容量のエネルギーを伝達できるらしくて、こっちの魔法使いはこれで魔道具を作ってるんだって。だから私もこれを通せば上手く魔法が使えるようになるかも!
実際、社長さんがこれを使って閃光魔法みたいなものを使うところも見たことだし!
努力なくして良い物を手に入れることなど、できんように思うが。
社長さんは私に見込みがあると思ったから、これをくれたんじゃないかな。
なんだか私、この世界の魔術の原理にすごく興味が湧いちゃった。
うーん……それなら、今のうちに練習しておいたらどうだろう? マルシル、それで木の実を打ち落とすことはできるか?
この辺りは実の成っている木が本当に少なくて、水辺にすら数本しか生えていないからな。今を逃すともう手に入らないかもしれないし。
ただあの実を食べてみたいだけでしょ……まあいっか、練習代わりにやってみよう!
うーん……
よーし……!
すべてが静寂に満ちている。
何も起きないな。
そ、そんな!? 社長さんには普通に使えてたし、これが応えてくれてる感じもするのに……!
不良品つかまされたんじゃないのか?
ふんっ! もう一回!
ううーん……!
またも、すべてが静寂に満ちている。
やっぱり何も起きないな。
マルシル、それ本当に使えるやつなのか……?
やっぱり元の杖でいいのでは?
単なる慣れの問題だから! 少し時間をくれたら、使い方がわかってくるはず……
ふっ――
それっ……!
おお、上手くいった!
マルシル、君はやっぱり……あれ?
どうして自爆したんだ?
……
げほ、ごほごほごほっ!
げっほげっほ、ごほっごほごほっ!!
言わんこっちゃない……
なんで……? どうして、魔術が端から出てきたの……?
ここの魔道具って、どうしてこんなに扱いが難しいんだろ……?
これだからわしは魔法は好かん。
これは、そうじゃなくて……っ! げほ、ごほごほっ!
もう一回! 次こそ絶対成功させるんだから!
社長さん! このライトなんだけど、ちょっと問題があって――
なんだと! 俺の大事なライトをタダでやったってのに、クレームでも付ける気か?
そっ……そうじゃなくて! これに関する本がないかを聞きたかったの。もっと体系的に学びたくて……
あるわけないだろ、ここをどこだと思ってんだ? さっきも言ったがここは倒産寸前のひなびた工場なんだぞ。完成した武器と鉱石機械しか置いてねえよ!
ほら、いらないなら返してくれ! ったく、こうなると思ったよ。あんたらはそいつの良さをわかっちゃいねえんだ! そいつには夜空の全部を照らすことだってできるのに、少しも響かねえのか?
こんなに良い商品が、良さが伝わらねえばっかりに結局一つも売れないなんてよ……おかげで工場も閉める羽目になっちまって……それでも折角、少しは見る目のある奴らに出会えたと思ったのに……
そ、そういうことじゃないんだけど……! でも、ないならしょうがないか。まずはここの魔術の原理を理解してからもう一回試してみよう! とにかく……譲ってくれてありがとう!
じゃあ、俺たちは引き続きロドスを探すとするか――
は? また荒野の旅に逆戻りってか? こんな広い世界、バカ正直に歩き続けてちゃ、ロドスを見つける前にクタクタになっちまうよ……
うーん……ここに馬車はなさそうだ、が……
ご主人、これは……?
この車のことか?
ああ、こういうのも車と呼ぶものなのか……値段を聞いても?
おいおい! 確かにうちは落ち目だが、それでこの車の価値まで下がるわけじゃないんだぞ。あんたらじゃ手が届きそうには見えないな。
それはそうだが……
足を使って地道に探すしかないのか……
ほれ工場長、昼食ができたぞ。
今の話、聞いてたんだけど……どうせ工場はもうすぐ閉鎖しちゃうんだし、売れるものは売ったほうがいいんじゃない? でないと、お給料が払えなくなっちゃうかも……
この頃はまかないもずっとニンジンおにぎりだけど、前に言ってくれたじゃない。今日の慰労会では、皆の新たな門出への祝福をこめて、黄金ニンジンのバーベキューを振舞うって!
だが、奢ろうにも俺はすかんぴんだし、車を売ったら売ったで、いよいよ何にも残らなくなっちまうじゃないか……!
ほら、あんたらはもう帰ってくれ。俺たちは慰労会の準備をしなきゃならないんだ!
……慰労会?
やれやれ……準備と言ったって、ニンジンも米も揃ってるだろう。
うちの工場ができた当初は、開業祝の席に黄金ニンジンが出てたのになあ……
……
はぁ……
俺だって、黄金ニンジンを出せるなら出してやりたいさ。それでも今はどうにもならん……
できることなら、俺もこの伝統にはこだわりたかったんだが……
……
……
その黄金ニンジンを食べることが……ここの伝統なのか?
ああ、そうさ。
節目の食事会なんかには、必ず黄金ニンジンが出るんだ。
でも、今日は仕方ないわね。今さら黄金ニンジンを手に入れようとしたって、どこで? って話だし……焼肉とニンジンご飯があれば簡単な食事会としては十分でしょ。
その食材、見せてはもらえんか?
このカゴの中のニンジンと、そっちの肉を使うつもりだが……
……何するつもり?
なるほど、わかった。
食材のことだが、わしに任せてもらいたい。
お前たちの別れがしかるべき形になるように、わしが食事を作ってやる。
……え?
あんたが……?
(小声)ちょっとセンシ、一体どうしたの……?
(小声)元々あいつが俺たちの仲間に加わったのも、ライオスの下手な料理を見てられなくなったって経緯だろ。
(小声)大方、ちゃんとしたメシを食ってない奴が許せないんだろ……
食事とは生活の一部であるだけでなく、人々が思いを込めて作るものでもあるのだ……わしにはそれがわかる。
ゆえに、黄金ニンジンを手に入れるのを手伝おう。
ほ、本当か?
しかし、その黄金ニンジンというのは何なのだ?
名前からして、金色をしたニンジンだろうか?
あんたたち、レム・ビリトンの人じゃないんだな。
黄金ニンジンはこの辺りの伝統的なご馳走なんだ。レム・ビリトンの二大名物、つまりは鉱石とニンジンを兼ね備えたものだよ。
お前たちは鉱石まで食べるのか? 調理方法は?
鉱石なんて食べるわけないでしょ! 黄金ニンジンはニンジンに金粉をかけて作るんだけど、その金粉は「純金オリジムシ」の分泌物でできているの。ただ、今はそんなものを買うお金がないのよ。
とはいっても、純金オリジムシを見つけられたら、今からでも作れるでしょうね。
わかった。
では、その純金オリジムシはどこにおるのだ?
坑道でも荒野でも、ひと気のない場所ならどこにでもいるよ。
たとえば、向こうにある穴はオリジムシの巣穴だ。あっちの坑道の入り口にも二つ巣があったな。あの辺りは草が生えてるし、多分オリジムシが出ていったあとで、もう何もいないだろうが。
ただ、この辺の純金オリジムシはあらかた捕獲されてるだろうし、見つけるのは難しいかもな。
ふーむ……
さてと、工場はたたまれちまうが、最後の仕事がまだ終わってなくてね……俺はもう行くよ。もしあんたたちが本当に純金オリジムシを見つけてくれたなら、心から感謝しよう!
(小声)確かにちょっとお腹は減ってきたけど、ロドスを探す件はどうなるの?
俺たちが黄金ニンジンを提供できたら、この車の値引きを考えてもらえないか?
……ううむ……考えておこう。
間違いなくここにいるぞ! オリジムシの這う音が聞こえる!
うえっ……多すぎだろ!
で、どうやって例の純金オリジムシを見つけるんだ?
そもそも、オリジムシなら俺たちも見てきたけど、あいつらかなり攻撃的だったよな。あれを落ち着かせられるのはビッグ・ボブぐらいのもんだ。分泌物を採取しようったって簡単じゃないだろ……
どうやら……戦うしかなさそうだな。
わかった。
みんなは下がってて。もう一度このライトを使って――今度こそ、これでちゃんと魔術を放ってみせるから!
マルシルはライトを手にして目を閉じると、その中に流れる力を感じ取ろうとした。
変な意地はるなよ、また自爆したらどうする……
待て!
――えっ?
ライトから発せられる光は、センシの制止を受けても止まらず、さらにまぶしさを増していく。
マルシル、無暗に全滅させないようにするのだぞ。仕留めるにしても一匹ずつ――
いや、待った……そんなこと言ってる場合じゃなさそうだ。
あのライト、なんか……
まばゆい光がマルシルのそばへと次第に集まって、彼女の髪がエネルギーの動きに合わせてなびいていく。
目を開けていられない……!
な、何が起きてるの!?
向こうのオリジムシに気付かれた!
わ、わかってるけど、制御ができなくて……
大丈夫だ、マルシル。もう一度試してみよう。今度は成功するかもしれないだろう。
周囲から汲み取った魔力を感じて、力を指先からライトへ流して、放つ――
魔法を学び、行使するには、強い集中力と緻密さ、そして真摯な姿勢を以ていくつもの壁を乗り越えていく必要がある。
だが、真に必要なのは、魔法の至高の概念を理解し、受け入れ、覚悟を持つことだ。
そうして、この世界の見たこともない魔法に対して、マルシルがある領域に達したとき、奇跡が起きた―――
やったか!?
やった……のか!?
(慎重になり立ち止まる)
わからない……何かを放出した気もするけど消えちゃったみたい。
あ、でもまた、集まってきてるのを感じる……気を付けて!
思ってたよりずっと強力そうだよ!!
(眉をひそめる) ッ…………!!
爆発しそう!
四人は岩陰に隠れ、ぴったりと身を寄せ合って、爆発の衝撃を岩で防ごうとした。
その後しばらく待っていると、徐々に不気味な音が地面の下からせり上がってきた。
ガラ……ガラガラ……
何の音……?
(注意深く縮こまる)
だけど、ここにいるのはどれも純金オリジムシじゃなさそうだよね……?
とりあえず一旦この場を離れて、別の場所を探してみようか?
だが、何やら足元がぐらついた気がするぞ。
確かに、足元から音がするな。……あのさ、もしかしてさっきの魔法が――
足元にいいいいっ!