テラ飯 DT-3・戦闘後
黄金ニンジン
……気をつけろ! どうやら坑道に落ちたようだ!
先ほどの工員の話からして、オリジムシはこの坑道に営巣しているはず!
あの工場はもうすぐ閉鎖されるから、誰もこの巣に構わなかったということか……?
この中に純金オリジムシはいるかな……?
向こうの群れは普通のオリジムシばかりに見えるな。
気付かれる前にここを離れよう!
……ここにも純金オリジムシはおらんようだな。どれも普通のオリジムシだ。
『ボブのグルメガイド』によると、純金オリジムシは荒野で見かけることが多いようだ。「岩の隙間や洞窟に生息している」「ほかのオリジムシと同様の習性」とあるが……
ここなら見つかってもおかしくないような……
……ところで、頭に何かくっついてるけど?
ん? あっ!
これは……オリジムシの幼虫か? 甲羅の部分ができたばかりみたいだ。まだ比較的柔らかいな。
そのうえ、甲羅を固めるために必死で粘液を分泌しているから、体温がかなり上がっている。頭に這わせているとぽかぽかして気持ちいいぞ。
マルシルも試してみないか?
……絶対いや!
この先に進むのはまずいな……
オリジムシ以外にも、色んな生き物が動いてるのが聞こえる……
なあ、もうこの辺りで引き返そうぜ。
だが、純金オリジムシがまだ見つかっていないからな……
……本当にそんなのここにいるのかな?
純金オリジムシの分泌液ってなにか別のもので代用できたりしないのかな?
もう少しだけ進もう。黄金ニンジンを心待ちにしているあの若者たちを悲しませたくない。
それに、純金オリジムシを見つければ、あの車を買えるかもしれんのだろう。
うん……
シッ、足音を立てるなよ。
後ろにいる群れも、純金オリジムシではなさそうだな……どいつもこいつも金色じゃないし。
じゃあ何なの……?
――アシッドムシだ!
ビッグ・ボブ曰く、こいつは腐食性の強い粘液を出すらしい! 粘液がかからないように気を付けろ!
マルシル……!
わかった!
強い魔法は使うな! 全滅させてはならんと言っただろう!
そ、そこまで構ってられなくて――
(詠唱)――
わっ!
召喚術――ダメ、間に合わない! 防御魔法を――魔力が足りないかも……
もうっ、やっぱりここじゃ上手く魔術が使えない……
そうだ、閃光魔法は……?
もう一回、ライトを使って――!
社長さんがこれで光を放ってたってことは、これを使って閃光魔法を強化することもできるはず……だよね? それがこの魔物たちに効くかどうかはわからないけど……
マルシル、急いでくれ! オリジムシがどんどん増えてるぞ!
ああもう、やるしかないか……! 光をーー!
うわっ!? あの一発で……!
わっ、上手くいったみたい! こっちの魔術がどういうものか、少し掴めてきたかも!
やったね、私のライト! あなたのおかげで、うまくいきそう!
言ってる場合か! 粘液が飛び散ってんだぞ!
肌に触れないように気をつけてくれ!
あれ、なんだか調子が……?
……あれっ?
ライトの先端に集まっていた光が暗くなっていき、正常に動作していたはずの部品も嫌な火花を発して、ジジジと音を立てる。
そうしてそのライトは、マルシルが反応するよりも早く、真っ黒な煙を出して地面へ落ちた。
あっ……!
マルシル、大丈夫か! 君のほうにも粘液が飛んでるぞ!
うう……私のライトが……
壊れちまったな……
戻ったら、直せるかどうかあのご主人に見てもらうか?
ううう~……
む……?
……この粘液……
良い香りがするな。先ほどの粘液とは違って、むしろ……
……
これは……甘酸っぱい!
何だって?
本当だ!
おいおい……虫の粘液なんか舐めるなよ。
うーん……実に甘酸っぱい! これは美味しいぞ!
色も美しいし、金色に輝いている!
金色……?
D32鋼製のライトから放たれた魔法の影響を受け、粘液の色が金色に変わり、味も良くなった……
これなら、純金オリジムシの代用にもなりそうじゃ!
うーん……元々腐食性だった粘液が魔法で食べられるようになるなんて、不思議なこともあるものだ。
しかし、元となる粘液はオリジムシの体内に蓄えられているから、それを集めて食用液に変える作業が必要だな!
まさかこの地面に飛び散ってる粘液を集めるとは言わないよな……
うむ。食材は健全で清潔なものでなければならないからな。地面に落ちた粘液は味見に使っただけで、これを用いて料理はしない。
これでは量も足りんしな。
黄金ニンジンを作るためには、やはりオリジムシの体内にある粘液を集めねばならんだろう。
どうやって集めようか?
マルシルの魔法を怖がって逃げてしまったオリジムシたちが戻ってくる前に、この場の気を失っているオリジムシたちから粘液を集めるとするか。
……だけど、ライトはもう壊れちゃったし……
杖で、同じ魔術を使えないか?
……わかった……とりあえずやってみる……
うーん……
どう?
粘液は……特に変化なし。
もう少し続けてみるか……?
うん……!
……これでどう?
やはり変わらないな……なぜだろう? マルシルの魔法もなんだか途切れ途切れだし……
うん……この世界に来てから、ずっとこんな調子なんだ。さっきあのライトを上手く使えた時は、魔力の源を十分に感じられたんだけど……
もしかしてあのライトには何かしらの増幅効果があったのかも……
だから、それを介さずに閃光魔法を放とうとすると、魔力も威力も不足してしまう、とか。
つまり、やっぱりあれがないと……
……おいライオス、いつまでオリジムシで遊んでるんだ! マルシルの言ったことちゃんと聞いてたか?
魔術のことは俺にはよくわからない。マルシルの判断に任せるよ。
――わかった!
なにが?
今の私の魔力とこの杖だけじゃ、粘液の状態を変えられるほどの閃光魔法は撃てない!
D32鋼を使って魔法の威力を増幅して初めて、粘液に変化を起こせる――つまり、今のままじゃ何度やってもダメ!
やっぱりライトが必要なんだ!
だが煙を上げているこれを使って魔法を放てば、俺たちまでこのオリジムシのように気絶してしまうのでは……
もう、信用ないなあ!
私の計算ではうまくいくはずなんだけど……
……はぁ。さっきは、この世界の魔術が少しは理解できたと思ったのに、ライトはこんな有様だし……
この道具は、どうやら粘液による腐蝕を受けていないようだな。そのなんとか32というのは、この銀色の金属のことなのだろう?
マルシルの言っていたことを思うに、魔法を増幅したのはこのD32鋼という素材であって、どんな外観であっても魔法を放つことはできるんだろう?
……え? たぶんそうだとは思うけど……
なんで急にそんなこと聞くの?
うーん……
ふむ……
……えっ?
ねえ、どうしてこっち見てるの!?
いやああ! 私のライト! やめて、それで鍋を作ったりしないで!
まあまあ、黄金ニンジンさえ作れば、ロドスが早く見つかって、結果的に早く戻ってファリンを助けにいけるだろ。
よいせ!
よっと!
そう嘆くなって。お前らも俺のピッキングツールでミミックの身をほじっただろ。
ライトはそういう道具じゃないの!
俺もあの時同じようなこと言ったぞ。
鍋の完成じゃ!
うわああっ!! いやああ!!
案ずるな。見た目が変わっただけで、この道具が役立つことには変わりはない。
その見た目が大事なの!
では早速試してみないか? この粘液を、甘酸っぱい液体に変えてみよう。
……さようなら、私のライト……
あなたと過ごした時間はすごく楽しかったよ……
安心しろ。この犠牲は無駄にはせん。
(詠唱)――
さて、最後の作業だ。こいつを全部運び出して、分別したうえで廃品工場に売り払うぞ。
あぁ……名残惜しいなあ……
ここで色々作って食べてた頃が懐かしい……夜食を作ったり、バーベキューやパーティーをしたりして……
はぁ……
ん? 何の匂いだ……? いい香りだな。
あれ……本当だ。
一体どこからだ? 外で誰かが料理でもしてるのか?
黄金ニンジンのフルコースを用意したぞ。
な……何だと?
本当に純金オリジムシを見つけたのか?
いいや。だがその代わりに、ニンジンを金色に変えられるものを見つけてきた。
これはお前たちが伝統とする黄金ニンジンそのものではないが、色はよく似た出来栄えだ。
思うに、別れの前に囲む最後の食事にふさわしいものになったのではないだろうか。
それに、社長さんがくれたライトがなかったら、このフルコースは完成しなかったんだから!
D32鋼のライトがあったおかげで、私はこの世界でも上手に魔術を使えるようになれたんだ。
だからあなたの作ったものは、誰にも見向きされないガラクタなんかじゃない!
ほ……本当か?
どうだ?
ん? これは……
なんだか甘酸っぱいぞ!?
うむ、そうであろう。
だが、とても美味しいな……! みずみずしいフルーツの香りを口にしているみたいだ!
うむうむ、そうであろうとも。
ふーむ……アシッドムシをこんなふうに食べるのは、ビッグ・ボブも想像していなかっただろうな。
こうして加工した後なら、炭酸飲料やソルベにしてもおいしそうだ……!
ありがとう、工場長……まさか本当に黄金ニンジンを食べられるなんて……
俺に言ってどうする……礼ならあいつらに言え。
それにしても、この黄金ニンジン……一番初めの頃にお前たちと食べたような味とは違うが、それでもつい昔を思い出すな……
あの時、お前たちは黄金ニンジンを食べながらこう言ってたよな。俺と一緒に、ここをレム・ビリトン一の工場にするんだ、ってさ!
ふふっ! 若い頃は誰しも夢を持つものでしょ。
それに、今だって悪くないでしょう。一からやり直せばいいだけなんだから。
そうだな。俺の商品を認めてくれた人もいるわけだし、まだ夢を追い続けることもできるかもしれない……
そうだよ。このタイミングで、車に乗ってあちこち行ってみるのはどうだ。お前の夢が叶う場所だってきっと見つかるさ!
そういえば、車の件……
あんたたち、俺の車を買いたいとか言ってたな。
ん? ……ああ!
売ってくれるのか?
……だが、俺たちの手持ちじゃとても無理だよな……
ああ、こっちも売る気はない。この先も、この車頼りで生計を立てることになるしな。
そっか……
だがその代わり、レム・ビリトンのどこかに行く分には送ってやっても構わんぞ!
ほんとに?
本当だとも。
それも、タダでな!
この黄金ニンジンのこと、あんたたちには本当に感謝してるんだ!
さてと、食べ終わったら出発するか。エンジンが動く限りはどこまでだって行こうじゃないか!