テラ飯 DT-4・戦闘後
串焼きと予言
ッ――
目が覚めましたか。
あんたは……?
私の名はアルゲス。
私は本日、この森に災いが訪れるという運命を視ました。ゆえに近辺を逍遥し、雪中に倒れる貴方を見つけたのです。
……俺の他に、誰か見なかったか?
生憎ですが。
くそっ……探しに行かないと。
うっ……
その怪我は程度の軽いものではありません。いま暫し休息を取るべきです。
……
貴方はサーミフィヨド――サーミ人ではないようですね。
……仲間と一緒に、迷い込んじまったんだよ。オークコップって奴が言うには、「サーミのご意志」とやらが俺たちを北へ導いてくれてるそうでね。
オークコップ……オークの樹の子ですか。
知ってるのか?
幾らかの噂ばかりを。その名は、サーミの言葉で「知恵」を表すものです。
「知恵」? じゃあ……あんたはサイクロプスって知ってるか?
……
……どうした?
私は、災いに悩まされる人々を数多く視て参りました。そして、死というものは……決して珍しくはありません。
だというのに、なぜ私は、貴方の身に殊更多くの死を視たのでしょうか?
チルチャックはまだ見つからないか?
うん……
この辺りは樹木も多いし雪もしっかりと積もっている。身体能力も優れているから、大きな怪我を負った可能性は少ないだろう。
だといいんだが……魔物に見つかる前に、俺たちで見つけないと。
先ほど逃げていったあの奇妙な角獣に遭遇してしまったら危険だ。
うむ。そのうえ、問題はそれ一つではないからな。
ごめんなさい。
いや……君のせいではないよ。
だが、どうして一人でこんな森に?
おいら、ここで狩りをしてたから……
この辺りに住んでいるのか?
違うよ、おいらはロドスに住んでるの!
ロドスって言った!? 私たち、今その場所を探してるの!
え? お姉ちゃんたち、ロドスに行きたいの?
そう! 私たち今、帰り道を探してるとこなんだけど、その手掛かりがロドスにあるって聞いて。
帰り道? お家が見つからないってこと? かわいそうだね……
あなた、ロドスの人なんでしょ? 案内してもらえない?
え~? でもおいら、まだ帰りたくないな……
どうして?
だって、まだお腹空いてるから!
なるほど……
では満腹になったら、ロドスに帰ってもいいと思うか?
うん、いいよ!
……まさか本当に、こんなところで手がかりが見つかるなんて。
もしかして、これがサーミのお導き?
あっ、でもね……
おいら、目を付けてた獲物を見失っちゃったんだ。
食料ならここにも――むっ。
どうやら、俺たちも先ほど食料を失ってしまったようだ。
……一つ提案があるんだが――
仲間を探すのを手伝ってくれないか? 代わりに、俺たちは君の魔物狩りを手伝う。その後ロドスへ案内してもらう。という段取りでどうだろう。
うん、わかった!
なんと無邪気な子だ。お前、名は何という?
おいらケオベ! ケーちゃんって呼んで!
俺の身に……多くの死を視たって?
はい。
過去から未来へ連綿と続く数多の死の中で、貴方は生きてここにいます。
……
オークコップの話じゃ、サイクロプスには未来が見えるらしいな。
あんたがそのサイクロプスなのか?
ええ。
だったら、俺の運命とやらを教えてもらえないか?
……サイクロプスの遠見に映るのは災いのみです。
別にそれでもいいさ。教えてくれよ。俺と、仲間たちの運命ってやつを。
……
貴方のお仲間は、果てなき氷原へと向かっています……
いいえ、彼らは自ら北を目指しているわけではありません。彼らは……暗黒に、そして虚無に呑まれたのです。
どういう意味だ?
彼らは悪魔の穢れを受けたのです。
悪魔!? なんだそいつは?
……この地を彷徨う存在です。
悪魔は、すべてを蝕み、穢れをもたらします。
そうして穢れを受けた生物は虚無に飲まれ、一切の自我を失うのです――
顔の正円……
目以外には何もない顔みたいだった。
……其方衆はすでに、悪魔に穢された生物を見たのですか?
……
チルチャックは少し考えると、ケガをした腕を手で押さえたまま、洞窟の外へ歩いて行く。
災いってのは避けられるのか?
その問いに答えるとするならば――私も試みているところです。
……だったら、俺も試みてみないとな。
ということは、ロドスは巨大な船なのか?
うん! ロドスはおっきくてね、色んな場所に行くんだよ!
そっか、だから見つからなかったんだ!
……くんくん……
どうしたの?
血の臭いがする。これ、おいらの獲物だよ! 「一つ目怪獣」が近くにいるんだ!
……本当に嗅覚が鋭いな。
ん? ケーちゃん、今「一つ目怪獣」って言った?
そうだよ。あの角獣は目が一つしかないから、「一つ目怪獣」だ!
ねぇ……オークコップが言ってたこと、覚えてる?
サイクロプスがどうとかってやつ。
あれはただの推測なんだし、啓示の結論はそこじゃないってこともありそうだなって。
たとえば、サーミの意志は、私たちにサイクロプスを探させたいわけじゃないとか。
実はサーミは、私たちがケーちゃんに会うことも、この「角獣」に遭遇することも知っていて、ああいう啓示を与えたのかも?
……
いずれにせよ、ここで出くわしたからには……
まずはあいつを片付けよう。
倒した……?
ああ、そのようだ。
ふぅ……これでチルチャックのことも少しは安心かな。
早く探しに行ってあげよう。
わしに提案がある。
闇雲にチルチャックを探すよりも、この場で火を起こすべきではないか。
獣を引き寄せる可能性もあるが、目印にもなるはずだ。
うーん……だけど――
腹が減っては戦ができぬ。何をするにも、まずは空腹を満たしたほうがいい。
……そうだな。
たとえチルチャックが来なかったとしても、何か腹に入れておけば捜索も捗るだろう。
この「一つ目」角獣はどうする?
一緒に食べようよ!
うむ、賛成じゃ。
でも――
以前聞いた話だが、地域によっては、神の啓示を得るために、生贄として捧げられた動物を殺し、それを食べるという風習もあるという。
思うに、サーミの意志も同じことを望んでいるのかもしれん。
だったら――
はいはい。最初からそのつもりだったんでしょ、ライオス。
では、火を起こすとしよう。
チルチャックが気付くといいが。
……
完成じゃ。
うぅ……正直、このお肉すっごい不気味なんだけど。
味見をしてみたが、普通の肉と大して変わらなかった。
仕方ない……これより不気味なものも食べたことあるしね。
えっ、本当に美味しい!
ケーちゃん、そこで何してるの?
ほかにも大物がいないかなーと思って!
でも、いないみたい。さっき落ちちゃったドゥリンのお兄ちゃんも見当たらないよ。
探しに行く前に、まずは食べよう。こっちにおいで。
うん、今行くー!
おーい!
あっ、さっきのドゥリンのお兄ちゃん!
はぁ――はぁ――
お前、あの時飛び出してきた奴か……
ごめんなさい。おいらのせいで落ちちゃったんだよね。
はぁ……はぁ……何でもいい、それより全員無事なのか?
うん、何ともないよ。
ならいい……
災いだかなんだか知らないが、何も起きなかったじゃねえか。
みんなはあっちでお肉焼いてるよ! お腹いっぱいになったら、お兄ちゃんのこと探しに行こうって言ってたの。
一緒に行こう、きっとみんなお兄ちゃんに会えたら喜ぶよ。
……あいつら、どんな時でもメシのことだけは忘れないよな。心配して損した……
待てよ、肉を焼いてるって? 一体何の肉だ?
「一つ目怪獣」のお肉だよ。
「一つ目怪獣」!?
お前らまさか……!
あっ、みんな来た。
ちょうどいい、ちゃんと言ってやらないと。
おい、お前ら――
チルチャックは振り返り、自分を放って肉を焼いていた仲間たちにきちんと言い聞かせてやろうとした。
しかし、その言葉は喉元で引っかかる。
……
みんな、そろそろ帰ろう。
この世界に長居しすぎちゃったもんね。
ファリンはもう、これ以上待てないよ。
ああ。
ゴーレムに植えた野菜を収穫しなければ。炎竜も、わしに料理されるのを待っていることだしな。
彼らの顔は、もはや見慣れたそれではなく、虚空に覆われていた。
そして彼らの発する声もいくらか途切れ途切れになり、どこから声を出しているのかさえ、チルチャックにはわからなかった。
お前ら……穢れを受けた角獣を食ったのか!?
チル■■■■、どうして■ち止まってるんだ? 行こ■。
ファリン、ファ■■、■■――
お……お前ら、どこ行くつもりだ?
北だ、北を目指■う。
果てに、扉に、家に帰るぞ、■■に帰るんだ。
帰るって……そんな扉が北にあるのか?
サーミの啓示ってのは、そのことだったのか?
でも、どうしてそんなこと知ってるんだよ!?
俺たちは■■、俺たちはその■からやってきた。
■■はその■■へ帰る。
みチ、かエル、ふァリん――
■■■、■■、■■■。
■■■■■■■■■■■炎竜■■■■■■!
その瞬間、チルチャックはとても複雑な感情に苛まれた。
彼は少しパニックを起こしていた。災いというのはどうやら本当に避けられないらしい。仲間たちがこれほど憂慮すべき事態に陥っているのに、自分にはどうすることもできないのだ。
しかし一方で、怒りもこみ上げてきていた……
なんせこの状況は……こいつらの自業自得だ!!!!
チルチャックは瞬きをしただけのはずだった。しかし、気付けば不思議と、三人はすでに彼の近くに現れていた。
そして次の瞬間には、三人は彼のすぐ隣にいた。
彼の目から見れば、三人は瞬間移動しているように見えた。それは空間までもが三人の顔の空洞に飲み込まれたかのようだった。
そうしてすぐに、彼らは森の奥深くへと消えていった。
チルチャックは暫し立ち尽くし、それから深いため息をついた。
背後からはサイクロプスの足音がして、そう遠くない場所にいる少女の顔には戸惑いの色が浮かんでいる。
だが、彼は足を踏み出し、立ち止まることなく、消えた三人を追いかけ始めた。
あの憂いを帯びた瞳をした女性に、今起きたことを説明するのが恥ずかしかったのだ。
何より、あの三人は彼の仲間だった。……ゆえに、このまま去っていくのを黙って見ているわけにはいかない。
おい、お前ら! 待てっつってんだろ――!!
その怒号は黒き森の上空に響き渡り、しばらく消えはしなかった。
待ってよー、おいらも一緒に行くー!