幕開く者たちPV-4・戦闘前体裁ある来客
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リターニアヴィクトリアカズデルシラクーザレム・ビリトン
ウルサス炎リターニアヴィクトリアカズデルシラクーザレム・ビリトンラテラーノ

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幕開く者たち PV-4・戦闘前

体裁ある来客

1100年11月7日 a.m. 8:30

警察官

ラヴィニア裁判官、つい先ほど、このエリアで例のヴァルポの目撃情報がありました。

彼女は非常に警戒心が強く、ほぼ毎日住処を変えているようです。ここしばらくの間に彼女が訪れた場所をすべて調査して、ようやくおおよその位置を突き止められました。

ラヴィニア

……「イングリッド・ヴェネツィア」。

ロースクールで学んでいた頃、法理学の先生がその名前を挙げていたことがあるけれど、昨夜は思い至りもしなかったわ。

その先生は当時、シラクーザの残忍さと好戦的な気質はこの地に住む種族の特性ゆえではなく、この土地そのものに由来しているのだと仰っていたけれど……

つまりはおとなしいはずのヴァルポも、シラクーザに来ると「狼よりも残忍なヴァルポ」へと染められてしまうということなの。私たちの法律は、こうした避けられない変化を制限する必要があるわ。

警察官

イングリッドは、五つの移動都市の裁判所に二十余りのケースファイルを残していますが、そのどれもが現地でのヴェネツィアファミリーの急速な勢力拡大に端を発するものでした……

そしてファミリーもまた、彼女が復讐や裁判から逃れられるよう、常にあらゆる手を尽くしていました。

ファミリー内部では、ヴェネツィアは実の娘よりも彼女のほうがお気に入りだなんて噂もあったようです。

しかし1094年、イングリッドは突然ファミリーを去りました。

ラヴィニア

どういうこと?

警察官

正確に言うと、裏切ったんです。

当時ヴェネツィアの自動車産業はテルニへ進出しており、そこへタンクレーディファミリーが現地の合金資源を奪い取るべく挑発を仕掛け、激しい衝突から、暴力沙汰にまで発展してしまいました。

グレイホールの二大ファミリーが激しく争うこととなり、その時はヴェネツィア本人までもが闇討ちに遭っています……

そしてその間、イングリッドはタンクレーディファミリーの幹部を襲撃し、十件以上の殺人事件を起こしていました。

奇妙なことに、ミズ・シチリアが自ら介入し、双方がようやく交渉のテーブルに着けるという時にも、イングリッドはドンの命令を無視して、止まらず行動し続けたようです。

当時の記録を見ましたが、彼女が用いた手段は……ゾッとするようなものでした。

ラヴィニア

……

そんな行動をとった理由は?

警察官

不明です。

いずれにせよ、イングリッドの行動は、ミズ・シチリアの権威を公然と挑発するようなものであり、彼女本人は犯行後に行方をくらましてしまいました。

そのため、怒りの矛先はヴェネツィアファミリーに向かい、一時は危うくテキサスファミリーと同じ運命を辿るところでした。

ラヴィニア

……

若き裁判官は、そのヴァルポが都市で数多の命を奪うさまを、そして昨日ワイナリーで会った彼女が、常に口元に浮かべていた微笑みを脳裏に描いた。

ラヴィニア

……


警察官

ラヴィニア裁判官?

ラヴィニア

殺人事件を起こし、挙句ファミリーを裏切った一流の殺し屋が、突然ヌオバ・ウォルシーニに……それも、ちょうどカルネヴァーレの時期に現れてしまった。彼女を自由にさせるわけにはいかないわ。

警察官

と仰いますと……

ラヴィニア

ヌオバ・ウォルシーニに身を置くファミリーはいずれも身元調査を受けた上で、構成員と武器のすべてを登録し、厳格な管理の対象となっている……

この状況ではイングリッドのような人間は、本人にとって本意かどうかにかかわらず、誰かの武器にされる可能性が極めて高いわ。

何はともあれ、まずは彼女を制御下に置かなければ。

警察官

そうですね。ただ……このエリアは広いもので、彼女の正確な位置まではまだ特定できていないんです。

ラヴィニア

彼女とその子供に関する情報が正しければ、彼女の行き先には心当たりがあります。

ラヴィニアはそう遠くない場所にある、目立たない看板に――「ロドス事務所」に目を向けた。


エンジニア部オペレーター

やれやれ。カルネヴァーレのせいで、普段資材を仕入れてる店も今日から休みだってさ。

事務所の物資の備蓄状況、端末上のデータも早いところ更新しておかないとな。

ヴィジェルさん、大丈夫かな? 本艦から支援に行った医者は、病院に行ったきり音沙汰ないけど……

医療部オペレーター

それが、わからないんだ。今回の支援行動は機密レベルが高くて、私の権限だとヴィジェルさんの最新の測定データを確認できないんだよね。

ペナンスさんを訪ねてもみたけど、やっぱりあんまり情報を広げたくないみたいで。

エンジニア部オペレーター

仲間を信じよう。俺たちは俺たちで、後方支援の仕事を頑張ればいいさ。

医療部オペレーター

あれ、PRTSのお知らせが入ってる。「ヌオバ・ウォルシーニ事務所の警備レベル引き上げ申請を承認」だって。申請者は……

ペナンスさん?


ルナカブ

ここにもロドスのセーフハウスがあったとは……どうやらロドスの人間は、牙獣のようにたくさんの巣穴を掘るようだな。

すぅ、はぁ……ほかの奴に気づかれないように、急いで体力を回復するのだ――

(ぐぅ~……)

ルナカブは天井と換気ダクトの間で縮こまったまま、空っぽの自分の腹を力なく押した。

ルナカブ

……それにしても、ここは蜂蜜のような甘い匂いがするな。

ダメだ、気をしっかり持たないと。時間があるうちに、この矢を今より鋭く磨いて――

えっ、先にご飯を食べてもいいのか? アンニェーゼ、前はそんなふうに言ってなかっただろ。狩りの時は、辛抱強く待たなきゃいけないと――

……

アンニェーゼには負けてほしくないのだ。ルナカブのお腹は、まだ待てるぞ。

ほかのことはアンニェーゼの言うことを聞くけど、これだけは譲れないのだ。アンニェーゼをがっかりさせたくないから。

ルナカブは部屋の隅に身を縮めたまま、ほとんど本能的に弓を握りしめ、狙いを定めた。

ルナカブ

(狼じゃない。でも、アンニェーゼも嫌ってる匂いだ。)

イングリッド

私はそんなに鼻が利かなくてね。君がどっちの子なのかまでは区別がつかないんだ。

でも君たちのどちらか一人が、ここに隠れているのはわかるよ。

10秒あげるから、この場所を出てくれるかな。私は外で待っているよ。

もちろん、ロドスの人に会わないように君を片付けるのは難しくはないけれど、多少リスクがあるからね。

リサの同僚に悪印象を残さないようにしたいんだ。協力してくれないかな?

ルナカブ

……

イングリッド

どうやら、交渉の余地はないようだね――

……

随分対応が早いね。面白いな。

前衛オペレーター

みんな、まずは武器を下ろしたほうがいいぞ。

出入口は封鎖したし、防御システムも全部起動した。これ以上事を荒立てないでくれ。

イングリッド

……

ルナカブ

お前たち、ルナカブを罠にかけたのか?

前衛オペレーター

えっ……罠?

うちのセキュリティシステムが普通に動いてるってだけなんだが。

イングリッド

……ロドスは本当に期待を裏切らないね。

前衛オペレーター

俺たちに攻撃の意図はない。これはあくまで、自分たちの資源や事務所を守るためのものなんだ。

悪いが二人とも、しばらくここで待機してもらえるか。すぐに政府が引き継ぎに来るから。

ルナカブ

(小声)アンニェーゼ、何か脱出の方法は……アンニェーゼ? アンニェーゼ……どこにいるのだ?

ラヴィニア

またお会いしましたね、イングリッドさん。

登録も受けないまま、ヌオバ・ウォルシーニで殺傷力の高い武器を使用し、都市内の企業に物的損害を与えた容疑で――

今回は、身元調査のためご同行いただく必要があります。

イングリッド

……その子はどうなの?

イングリッドは、今も周囲を警戒しながら観察している少女を指さした。

ラヴィニア

はぁ、彼女も一緒に連れていきましょう。

ルナカブ

アンニェーゼにはルナカブが必要なんだ。

ルナカブの狩りはまだ終わってな――

(ぐぅ~……)

その場にいた全員が、一斉に彼女に目を向けた。

ラヴィニア

食べ物もご用意しますよ。

ルナカブ

……

ラヴィニア

ではイングリッドさん、こちらへ。どうか警察の手を煩わせないようお願いします。

イングリッド

その子を守ろうとしてるの?

ラヴィニア

無論、それも考慮のうちです。

イングリッド

いいよ、一緒に行ってあげよう。だけどこれは、貴方に敬意を表してのことだからね、ラヴィニア。


政府職員

ラヴィニア裁判官、二人の情報登録が完了しました。

こうなれば、あとの手続きは、さほど複雑ではありませんね。

イングリッド

言ったでしょう? 協力は惜しまないって。

ラヴィニア

……レオンから、例のゲームについては聞いています。あなたも彼女と同じような立場なのですか?

ラヴィニアの視線がそばのルナカブに向けられた。

ルナカブ

うむ……はちみつクッキーをありがとうな。

ルナカブは口の中の食べ物を懸命に咀嚼しながらも、周りの人々から目を離しはしなかった。

ルナカブ

それで、ルナカブはもう行ってもいいか? まだ大事な用があるのだ。

イングリッド

ラヴィニア、私は牙じゃないよ。先にも言った通り、私はただ、娘のために正義を求めるただの母親さ。

ルナカブ

こら、ルナカブの弓に触るな!

政府職員

……裁判官、本当に彼女を管理下に置かなくていいのですか? 万が一ということも……

ラヴィニア

安心して。考えがあるの。

ルナカブさん、私のことは覚えていますか? 今は警察に囲まれているのですから、軽はずみな行動をしないようにしてくださいね。

私のそばにいてくれませんか。それがお互いにとって良いことですから。どうか私を信じてください。

ルナカブ

ルナカブはアンニェーゼしか信じない。

ラヴィニア

ベルナルドも私を信じてくれていましたよ。

ルナカブ

……あいつはもう死んだのだ。

ラヴィニア

ですが、彼の子はまだ生きています。

ルナカブ

……あ、アンニェーゼに相談したい。でもさっきから、なぜか何も答えてくれないのだ。

ラヴィニア

大丈夫ですよ。私のそばにいてくれたら、トラブルの多くは回避できますし、そのアンニェーゼさんに連絡する時間もたっぷり取れるはずですから。

ルナカブ

……

イングリッドは静かにその場に立ち、ラヴィニアがルナカブを説得するのを見ていた。

荒野の気配に満ちた少女が迷っているのを見て、彼女はチャンスが近づいていることを悟った。

ラヴィニアがアンニェーゼの牙を管理下に置いてくれたら、色々と手間が省けるだろう。

身を隠したもう一人の牙のほうは、必ず向こうから訪ねてくるとイングリッドは確信していた。

???

事前に連絡をくだされば、こうした誤解をディチェンテを持って解く方法はいくらでもありましたのに。

お久しぶりです、義姉さん。

ラヴィニア

アントニオさん。

アントニオ

ごきげんよう、ラヴィニア裁判官。イングリッド・ヴェネツィアの身分登録に必要な身辺資料と企業証明を提出しに参りました。

イングリッド

君は――

アントニオ

義姉さん、この件は私にお任せください。我々はこれまでずっと、政府とは良好な関係を維持してきましたので。

裁判官さん。イングリッドさんが近頃ヌオバ・ウォルシーニのルールに反する行いをしていることは承知しております。けれど、彼女はまだ深刻な過ちを犯したわけではないですよね?

申し訳ないのですが、少し彼女の過失について確認をさせてください。身分登録のない状態での、公共の場における武器の無断使用。おっと、それと他社企業の財産破損、で間違いはありませんね?

ラヴィニア

……ええ。

アントニオ

後者につきましては、ヴェネツィア自工が当該企業と迅速に損害賠償のご相談をさせていただきます。

ラヴィニア

何が目的の発言か、はっきり述べていただいて構いませんよ。

アントニオ

保釈ですよ。義姉さんを家へ連れて帰りたいのです。家の者が皆、会いたがっていましてね。

イングリッド

アントニオ、待った。私はファミリーを巻き込むつもりはないよ。君たちのほうも、私のためにシティホールとの関係を悪くする必要はない。

アントニオ

これは義姉さんだけのためでなく、ファミリーを思ってのことでもあるのです。あなたがどう考えていようと、お義父さんも私も、義姉さんのことは今でもファミリーの一員だと思っていますから。

我が家の人間に、ヌオバ・ウォルシーニで不名誉な前科を負わせたくはないのです。

加えて、「ファミリー」という言葉を過分に忌避する必要はありません。それが我々の生活の根底にあることは周知の事実ですから。この都市は、単に相応の態度を求めているだけなのです。

率直な物言いをお許しください、ラヴィニア裁判官。

ラヴィニア

ヴェネツィア自工と我々が長期的な協力関係を築けているのは、双方の率直な姿勢に頼ってのことだというのは理解しています。

ですがアントニオさん。本当に企業全体の信用を担保として、イングリッドさんの身元を保証しようと言うのですか?

アントニオ

いけませんか? これがドンに対してであっても、私は同じように答えますよ。

ヴェネツィア自工から、政府にお約束いたします。保釈期間中、イングリッド・ヴェネツィアには法律に反する行いをさせないと保証しましょう。

そして仮に、彼女に罪があるという明確な証拠を見つけた時は、私自ら彼女と共に裁判所へと向かいます。

ラヴィニアは頭を悩ませた。相手の要求はすべて、正当な主張だ。

イングリッドには確かに保釈権がある。だが……それは今であるべきではなかった。

ラヴィニア

拒めないと知っていて言っているんでしょう? あなたは確かに、政府との付き合い方がお上手ですね。

アントニオ

あなたは融通の利かない方ではないという確信がありますもので。

というのも、あなたはその目立った弓をお持ちの方がどんな人物かを――さらには、今夜彼女が何をしていたかを知りながら、厳しく取り締まってはいらっしゃいませんから。

ラヴィニア

……

ルナカブ

……?

アントニオ

では、行きましょうか、姉さん。

正式な保釈手続きはほかの者が済ませてくれます。――義姉さんがシラクーザに戻ってきた理由はよく知っていますよ。リサのことは我々が力になりましょう。

イングリッド

……

ラヴィニア

ヴェネツィア……この件はあなたたちにも関係しているの?

慌てる政府職員

――きゃっ!

ラヴィニア

どうしたの?

慌てる政府職員

い、今どこからともなく牙獣が出てきて、私を噛んだんです!

ラヴィニア

牙獣?

待って――ルナカブさんは?

慌てる政府職員

彼女ならここに――

職員は突然固まった。彼女の隣には、誰もいなかったのだ。

慌てる政府職員

うそ、どこに行ったの?

冷静な警察官

裁判官、たった今、かなりすばしっこい奴と交戦しました。

狩りのテクニックがどうとか、アンニェーゼがどうとか呟いていたんですが、止められず……ほかのメンバーが現在追跡中です。

ラヴィニア

そう、わかったわ。

……


アントニオ

正直な話、ファミリーが極東への事業拡大を検討する時でも来ない限り、二度とあなたに会う機会はないものと思っていましたよ、義姉さん。

イングリッド

その呼び方はよしてほしいな、アントニオ。そこまで親しい仲でもないし、私はもうファミリーの一員ではないからね。

アントニオ

……

いいでしょう。

イングリッド

君に対する彼らの態度を見るに、次期当主は君なんだろう。

君はますますドンに似てきたね――事を行う時の気迫どころか、外見までも。

その耳と尻尾とか……ベラと結婚したから似てきたのかな? それとも、こっそり手間をかけているとか?

アントニオ

イングリッドさん、あなたという人は……

相変わらずですね。口出しをされるのはお嫌いなのに、ご自分は容赦なく物をお言いになるのですから。

イングリッド

そうかな?

アントニオ

ともあれ、お久しぶりです。お義父さんも私も、ずっとあなたに会いたいと思っていました。

イングリッド

そう。

アントニオ

お義父さんに引き取られ、手ずから育てられたあなたは、私がファミリーに加わった頃にはすでに、最も強い信頼を置かれていましたね。あの可愛がられようは、実の娘のベラにも劣らぬほどでした。

その一方で、ボリバルから逃げてきたある男は、ただ飢え死にを免れるために構成員となりました。彼にはツテなど何もなく、尻尾を巻いておとなしくしているしかなかったものです。

男は、戦闘能力という点では、ほかの狼と比べて大して優れているわけでもありませんでした。そんな彼が、どうしてこれほど大きなファミリーで足場など築けましょう?

あなたに、ヴァルポとしてペッローに向ける同情心があったのか、あるいは単にドンの最も信頼する部下として、下の人間をなだめる必要があったのか……

いずれにしても、当時あなたが至る所で助けてくださらなければ、私はとうに死んでいたでしょうね。

イングリッド

考えすぎだよ。

ドンはその一生の中でたくさんのことを気にかけているけれど、何よりも第一に考えているのはディチェンテだ。だからあの人はファミリー内での排斥や軋轢など決して許さない。

アントニオ

そういう話をしているのではないのです。

イングリッド

というと?

アントニオ

私は「次代のヴェネツィア」にならねばなりません。でなければ申し訳が立ちませんので。

六年前、テルニでタンクレーディファミリーと激しい抗争を繰り広げていたあの日。あなたは、私をしかばねの山の中から引っ張り出してくれました。

イングリッド

それは君のためではないよ。

タンクレーディファミリーが企てたドンへの暗殺計画が、当時まだ九歳だったリサに危害を及ぼしたんだ。

襲撃を画策したのが誰であれ、そいつは死ぬべきだろう。

アントニオ

……わかっています。私はただ、事実を認めているだけです。あなたが私の命を救ってくれたという事実を。

イングリッド

君たちにはもっと大事な用件があるんだろう。そういう前置きはいらないよ。

ヌオバ・ウォルシーニに着いて、情報を集めていた時、バーで君たちの功績を吹聴している人がいてね。

「アントニオはヴェネツィアに同行してミズ・シチリアに面会を求め、一人で交渉のテーブルに着いた。隙を見て繰り出された詰問にも負けず、ファミリーのためにテルニの工場を一つ守り抜いた。」

……欲しかったものはもう手に入れたんだろう?

アントニオ

本来、あの場にいるのはあなたであるはずでした。

ですが、あなたはわが道を行き、シラクーザから逃げ出した。

イングリッド

……

アントニオ

私が思うに、あなたはヴァルポでありながら、誰よりもシラクーザ人らしい方です。

初めてあなたについて任務に出た時のことを、私はいまだに覚えています。路地で待ち伏せに遭い、顔をナイフで切られて血を流すあなたを、最初私は病院に連れて行こうとしましたが……

あなたは、相手がこちらを仕留めたと思い込んでいる今こそが、奴らのアジトの警戒が薄れる好機なのだと言いましたね。

「もっと非情になりなさい、ペッロー。」

「シラクーザに、そしてファミリーに身を置いて、毎日死と隣り合わせで生きていては、何を失っても不思議ではない。」

「君に覚悟がないのなら、さっさとボリバルに帰るといい。」

あなたは常に我々の誰よりも優れた結果を残しており、私にとって手本となる方でした。

ゆえに、あなたがたった一度の旅行をきっかけに、今でも我々とは顔を合わせたこともない極東人と結婚しようと、突然リサを連れて帰ってこようと、私は気にしませんでした。

誤解のないよう言いますが、無論私はあの子を愛していますし、お義父さんとベラも同じです……我々はあの子に最高の部屋と最高の教師をあてがい、あなたを愛するようにあの子を可愛がりました。

当時、お義父さんはよく言っていましたね。あの子はあなたを強くするだけで、弱みになることはないと――

イングリッド

アントン、もういい。それ以上喋らないで、煩わしい。

私は過去を懐かしむために帰ってきたんじゃない。リサを傷つけたのは誰なのか、教えて。

アントニオ

……そこまで急いでいるのですか? その話はお義父さんに会ってからでもいいのでは?

どうか戻って、力を貸してください。イングリッドさん。

リサのことについては、ファミリーとしても負い目がありますし、必ずお力になりますよ。

イングリッド

もうファミリーには関わりたくないんだ。それがお互いのためだから。

アントニオ

聞いてください、イングリッドさん。我々は、やっとの思いでヌオバ・ウォルシーニに地盤を築きました。新たな都市に新たな秩序、やらねばならないことは山ほどあります。

お義父さんは年を取り、ここ数年は期待できそうな若者もおりません。ご存知の通り、あの人は変化を望まぬ性格です。けれど、ファミリーが後れを取るのはもっとお嫌いなのです。

加えて、私とお義父さんに追い打ちをかけたのは、ベラの死でした――

イングリッド

あの子、死んでしまったの?

アントニオ

ええ。昨年のことです。貴方もご存知のように、ずっと身体を悪くしていましたから。

あなたが必要なのです、イングリッドさん……そして思うに、私よりもお義父さんのほうが、あなたのお戻りを望んでいることでしょう。

イングリッドは口を閉じ、ペッローに冷ややかな視線を投げた。

アントニオ

……戻ってきてくだされば、リサの件の真相をお伝えします。

イングリッド

どうやら、君と話すのもここまでのようだね。

君の一存で、ラヴィニアのもとから連れ出してくれたことには感謝をするが、あんなことをする必要はなかった。

私には私の計画があるんだ。

イングリッドは手を振り、身をひるがえして立ち去ろうとした。

アントニオ

あなたがヌオバ・ウォルシーニに到着したその日から、お戻りであることは知っていました。

ファミリーがあなたを忘れたことはないのです。

それと……懐に隠していた、ヴェネツィアの紋章が見えました。あなたはご自分で仰るほど平静ではないのでしょう。

ファミリーの門戸は、いつでも開かれていますよ。

イングリッド

……

そうか……君はもう、シラクーザ人になったんだね。

アントニオ

その言葉、誇りに思います。


???

待て、イングリッド。あんたが興味を持ちそうな情報があるんだ。

イングリッド

ああ、この間、アントニオと一緒にいた人たちだね。

彼とは、たった今話がついたはずだけど。

カポネ

いいから聞け。ルキーノ・デ・モンターノの行方を知ってるんだ。俺たちが捕まえて、その後ヌオバ・ウォルシーニにあるヴェネツィアファミリーのシマに連れて帰ったからな。

あんたをあいつのもとへ連れていくことはできねえが、具体的な場所を教えることはできる。

イングリッド

どうして自分の主人を裏切るような真似を?

それと、どうしてウンベルトがそれを頼んできたことを知っているのかな?

カポネ

うっ……説明できねえ事情があるんだよ!

ガンビーノ

待ってくれ、こいつは嘘は言ってねえんだ。

*シラクーザスラング*、なんだか知らんがこの情報をあんたに教えろと迫ってきた奴がいてな。あのガキとあんたの関係なんざ俺たちにはわからねえ。ただ生き延びるためにこうしてんだよ!

イングリッド

生き延びるためって?

きちんと話してくれないようなら、それはそれで命を落とすことになるよ。

イングリッドは己の剣とその扱いを熟知している。どうすれば実際に命を奪えるか、そしてどうすれば刃を向けた相手に「命を奪うことなど簡単だ」と思い知らせることができるかを知っているのだ。

今の状況は後者であるということを、残念ながらカポネとガンビーノは理解していなかった。

???

つまらないなあ。キミなら本当にやると思ってたのに。

カポネ

クソッ、あんた本当に狂ってんな!

ラップランド

彼の首は案外丈夫だから、斬り落とすにはちょっと力がいるかもしれないよ。

イングリッド

……ラップランド・サルッツォ?

ラップランド

あれ、ボクを知ってるの?

イングリッド

一度会ったことがあるからね。

随分大きくなったけれど、その笑顔はよく覚えているよ。

ラップランド

そうだった?

覚えてないや。

イングリッド

十年前、ブルネッロでのことだ。私は仲介者として、君たちサルッツォとモレッティファミリーの紛争調停に向かった。

当時の君はまだ十何歳かで、サルッツォファミリーが苦しい戦いの中、窮地に立たされているのは明白だった。にもかかわらず、アルベルトの期待を受けた跡継ぎである君が試みたのは……

その機に乗じてサルッツォファミリーのすべてを葬ることだった。

ラップランド

アハハ、若気の至りってやつだよ。

人は成長するものだからね。今では――シラクーザのすべてがボクの敵だよ。

イングリッド

……

どうかしているね。

ラップランド

そんなふうに笑顔で口にするってことは、本気で言ってるわけじゃなさそうだね。

イングリッド

なぜこんな情報を伝えてきたのかな。サルッツォファミリーとヴェネツィアファミリーがこの都市で利権争いをしているとか?

ラップランド

サルッツォの存亡なんて、ボクと何の関係があるの?

イングリッド

――?

ラップランド

ボクはただ、あの見習いサルトリアさんからスーツを二着受け取る予定があるだけなんだ。彼に会ったら急かしておいて。

お客さんを待たせるのは失礼だって伝えてほしいな。

イングリッド

……まあいい、自分で確かめるとするよ。

ラップランド

キミって、シラクーザ人としてはつまらないけど、母親としてはすごく面白い人だね。

イングリッド

……

ラップランド

キミたちときたら、伝言だけでこんなに手間取るなんて。

カポネ

あのなあ、俺たちに何かさせるにしても、せめてボスに一言連絡させてくれよ。ヴェネツィアファミリーに追われるのは御免なんだ。

ガンビーノ

で、ほかに何をやらせようってんだ? ラップランド。

ラップランド

あれ、二人ともあんまり乗り気じゃなさそうだね。

安心して。あのペッローの部下を引き抜くことには興味ないから。

カポネ

――!?

ラップランド

キミたちはただ、彼のそばでいい子にしてて。必要に応じて、さっきの人を助けてあげれば十分さ。

もちろん、ご褒美もあるよ。キミたちがずっと探している、あの行方不明のトラックの在処を教えてあげよう。

ガンビーノ

……あんた一体何がしてえんだ?

ラップランド

キミたちに「次代のヴェネツィア」の前で手柄を立てさせてあげたいんだ。

まさしく、キミたちに相応しい報酬でしょ?

カポネ

嫌な予感がするぞ、ガンビーノ。俺たち、今度こそ本当に終わったな。

ガンビーノ

……そうだな。