幕開く者たち PV-9・戦闘前
狼群と群狼
――!
まったく、聞いてられないよ!
そう興奮するでない、ドリー。この音楽家もデタラメを言っとるわけではないんじゃよ。実際、シラクーザの伝説では、羊は斯様なイメージを持たれておるのじゃからな。
どうしても腹立たしいと言うのなら、羊のフロート車からあやつの頭に飛び乗って踏んづけてやればよい。どうせ今夜は何が起きても誰も不思議がらんじゃろうからな。
わたしはただ、あの狼たちと追いかけっこするのが好きだっただけなのに。当時のシラクーザでは、彼らとのかくれんぼが数少ない楽しみだったからね……
なのにその結果、シラクーザ人には、わたしがあの狼たちを「恐れてる」と思われてるわけ? 何が噂の種になるやらわからないものだね。
いったい誰が蒔いた種だったろうな。
なにそれ皮肉?
それで、エンペラーはシラクーザ人の間でどう認識されてるの?
おいビッグビーク、こいつに黒衣の歌手の偉業を教えてやりな!
いいじゃろう……昔々、音楽が大嫌いなファミリーのドンがおってのう。そやつは自分の都市で音楽を禁じておったんじゃ。何年もあと、黒衣のペンギン歌手がやってくるまでな。
その歌手は広場で辺り構わず歌いまくった。しかし、市民には音楽という概念がなかったので、ただの騒音としか思われず、彼らは歌手をとっ捕まえてドンに差し出そうとしたんじゃ。
じゃが、そやつはとても俊敏で、どんなにたくましい若者でも捕らえることはできなかった……
ゆえに歌声はやまず、ますます多くの人間が歌手を捕らえようと加わって、次第に彼らの乱闘は人々を巻き込み、ダンスになっていったんじゃ。
そうして激怒したドンが自ら歌手を捕らえにくるまで、その歌手は三日三晩歌い続けた。外に出たドンはその瞬間、お祭り騒ぎの人波に埋もれてしまい、二度とその姿を見ることはなかったという……
すっごく賢い正義の味方みたいに聞こえるな。エンペラーよりもわたしのほうが知恵があるのに。
こいつは知恵じゃなく姿勢の話なのさ。ペングイン伯爵による音楽への姿勢の表れ! まさに自由と抗争だ! ドリー、お前さては前に渡したサイン入りアルバムを聞いてねえな?
……
そろそろ行くとしよう。後ろの者の邪魔をしては悪いじゃろう。
(情熱的に演奏する)
(情熱的なファイヤーダンスを披露する)
(さらに力のこもった演奏をする)
(負けじと腕前を披露する)
アキッレ? アキッレ、どこにいるの?
やれやれ、ご自分が見知らぬ人間と30分も共に歩いていたことにようやくお気づきになりましたか?
あら、その声……前にテルニで裁判官をしてらした方ですよね! ごめんなさい、あの時はライカファミリーの人から噓の証言をしろと迫られて――
(自分のマスクを叩いて見せる)何を仰る、過ぎたことです。それより、カルネヴァーレのルールを破っておいでですよ。
周りの皆さんも、マスクをしていますよね。今宵は立場も貧富も種族も関係なく、過去の恨みも水に流して過ごしましょう……ビールを一杯いただけますか? ヌオバ・ウォルシーニに乾杯!
群衆が三名の獣主のそばを通り過ぎていく。ドリーの分身が行ったり来たりしているのを誰もが目の当たりにしていたが、それに騒ぐ者はいなかった。
カルネヴァーレの奔流の中では、「奇妙」と呼ぶにふさわしい波しぶきなど一つとして存在しないのだ。
十数台の巨大なフロート車が連なって、狼、羊、ペンギン、猫、犬……と、大地各所に散らばった伝説の獣たちが一つの都市に集い、群衆を先導していく。
伝統演劇や即興の演出が通りを埋め尽くし、音楽家とパフォーマーが競い合うように腕前を見せ、キッチンカーのオーナーは繰り返し声を張り上げ、ビールやピッツァ、アイスクリームを売っている。
アハ! 噴き出す火山よりも賑やかな場所だね。
前にやっておったカルネヴァーレより良いものじゃのう。あの手のパーティーは、太っちょですら嫌っておったからな。
裏社会の人間がマスク被って総出で殺し合った挙句、都市全体を血まみれにすることを「パーティー」とは呼ばねえんだよ。この言葉を侮辱してくれるな。
類は友を呼ぶとは言うが、シラクーザ人とあの狼どもは本当によく似てやがる。
数千年前だか数万年前だかに、俺らがあの殺すことしか知らねえバカ狼どもを嫌って毎回パーティーからハブってたら、連中は勝手に狼主のゲームなんてもんを作りやがった。
だが幸い、シラクーザ人もようやく少しは成長してきたな。人生には殺しや縄張り争いよりも祝福に値するものがあるってことを知ったわけだ。
あの頭のかてえ狼どもについては――
のう、太っちょ。わしらが「おかしい」と思うことについては、あやつらもきっと同じように感じておるはずじゃろう……
ゆえにやはり、あやつらと話し合わねばなるまいて。わしらは「同胞」なのじゃからな。
狼たちの中には、それほど愚かでない者もおる。それでも連中は、あのくだらんゲームが終わるまではどんな言葉も聞き入れはせんのだ。
ここはひとまず、炎国の言葉にならって「郷に入っては郷に従え」でいくとするか。
パーティーは楽しまねえとな! もっと面白えイベントを用意してくれよ、シラクーザ人ども!
1100年11月9日 p.m. 9:25
風がディミトリの顔に吹きつける。
彼は、昨日自分が去る時には窓が閉まっていたことも、ラヴィニアが看護師に対して、晩秋は室温に気を付けてほしいと言っていたのも覚えていた。――視線を上げれば、ベッドは空だ。
久しぶりだな、ディーマ。
ごめんなさい、レオントゥッツォさん。この方がどうしてもと押し入ってきてしまって。シティホールにも裁判所にも電話が通じず、ラヴィニア裁判官にも連絡が取れないのですが……
問題ない。そちらの仕事に戻ってくれ。
いつ目が覚めたんだ?
まばゆいライトが夜空をかき乱し、室内をも明るく照らしている。窓の外からは空まで響く群衆の喧噪がかすかに聞こえていた。レオントゥッツォは窓辺に立ち、カルネヴァーレに沸く都市を眺める。
彼は病衣からすでに着替えており、少し前まで昏睡状態だったようには見えなかった。
数時間前だ。
まさか久しぶりの再会の場が、レストランではなく病室になるとはな。
気を失う前の予定を覚えてるんだな。そりゃよかった。脳にダメージを受けてはなさそうだ。
……
チッ。
目が覚めたばかりだってのに、やたらちゃんとした格好してるな。まさかカルネヴァーレの会場に向かうつもりだなんて言うなよ。
看護師から言われたはずだ。今は横になって休むべきだって……まだ包帯も取れてないんだろう?
少しめまいはするが、薬を飲んだから問題ない。
今夜は数十万の市民が街を練り歩き、共に騒いで、ヌオバ・ウォルシーニ設立一周年を祝う時だ。
もとの計画としては、開拓区からスタートしたパレードは、九つの区画にある二十三の通りを通過して、その途中様々なイベントが開かれることになっていた。
最終的には、真夜中に都市のシンボルである裁判所広場に到達し、俺がそこで演説を行って、皆と共に新たな一日の訪れを迎える予定なんだ。
シティホール側が、ほかのイベントでその空白を埋めてくれるさ。
身体がもっと回復してから、正式に市長就任を宣言すればいいじゃないか。
ディーマ、お前はそう思うのか?
レオントゥッツォが振り返った。
この時になっても、ラヴィニアは演説の中止を民衆に通知していない。彼女が忙しさにかまけて忘れるとは思えないんだ。
ここ数日の間に起きたことは、大まかに把握している。
港湾エリアでの交通事故と、立て続けに起きた港での火災……そんな時に市長が今夜予定していたイベントを欠席したら、民衆はどう思う?
仮に、それでもカルネヴァーレを無事に終えられて、俺の欠席が単に俺個人の信用を少し損なうだけであれば、それは大したことじゃない。
だが、今この瞬間、窓の外に輝く煌びやかなライトの下に、何かが隠されているとしたら、俺はその現場にいなければならない。単純な話だろう。
さて、会食は台無しになってしまったが、そちらはまた日を改めて開くとしよう。
いいや、今日だ。
……
カルネヴァーレが始まった今は、街中がせわしなく動いてる。医者がさっき言っていたように、シティホールも裁判所も電話が通じないほどだ。
向こうにはこの瞬間、お前のために割く人手はないだろう。
だが、俺のほうは何人か連れてきてる。食事のあとで、お前を現場まで送り届けてやるよ。
……選択肢はないぜ、レオン。
この数日の出来事を把握してるなら、俺とサルッツォの件についても少なからず聞いてるはずだろう。だが、お前はそのことに触れなかった。
お前に伝えたいことがあるんだ。今日がその絶好の機会なんだよ。
レオントゥッツォは旧友を見つめた。
ディミトリの言葉に脅しが含まれていることを、理解していないわけではない。だが、彼はしばし沈黙したあとに、旧友に手を差し伸べた。
ならば、お前の手を借りよう。
ああ。昔みたいにな。
オバアサン、大丈夫?
……
あらまあ、迷子になってしまったのね。
レッド、最後の真狼探してる。時間、たくさん無駄にした。
焦らないで、レッド。あなたのせいではないのだから。
真狼の毛皮には匂いがついているものよ。昔、おばあさんが嗅ぎ分け方を教えたわよね。
けれど、最後の真狼は毛皮を編むのが上手で、自分の匂いを完璧に隠してしまうような相手なの。彼は……
……サルトリア。
オバアサン、今もレッドを、導いてくれてる。
レッド、すぐに、真狼見つける。オバアサン、待ってて。
……デ・モンターノ。
――
クソッ、*ウルサススラング*!
ど、どうした、リュドミラ?
……赤い服が見えた。
また例のあいつか? どこだ?
この先の路地だ。たった今見た。見間違えるはずもない。
ちょっとタイヤを交換してただけの短い間に、どうしてそいつが出てきちまうかな……
……
追うのか?
いや。行くぞ、エイレーネが待っている。
前回は奴を追うためにソマーを事故の現場に残してしまったんだ。それでそのあとも、とんでもないことが山ほど起きた……
おかしな話だが、奴に会うたびにツイてない出来事が次々に起こるんだ。まるで解けない呪いみたいにな。
私たちは今日、残忍な狼の群れを相手取ろうとしているが、奴らのやり方はもう見てきた。
だから今度は、あんたたちのそばに居ないと。
はぁ、あまり気にするなよ、リュドミラ。
赤い服の奴って、お前が復讐しようとした時に弄んできたうえに、お前の師匠を殺した相手でもあるんだろう。もしも同じ立場だったら、俺はお前よりよっぽど暴走しちまうと思うよ。
それじゃ、こうしよう。今夜のごたごたが全部片付いたら、みんなで一緒にそいつを探してやるから、思いっきりぶん殴って、車の後ろにつるし上げて灰まみれにしてやろうぜ。
俺たちがいるからには、もう二度と我らがツキなし娘をいじめさせやしないさ。
ふっ。バカ言ってないで、行くぞ。
ここか……チッ、わかりづらい場所だな。
ボス、うちの人間は全員持ち場につきました。それにしても、こんな大事な時に現場で見なくていいんですか?
ここから見てみなさい。
裁判所広場?
ここまで来るのにあちこち曲がってきたもんで、別のエリアに出るんじゃないかと思ってましたが、この家はこんなに裁判所広場から近かったんですね。窓に貼られてるポスターまでよく見えるな……
この家は目立たない場所にありながら、広場と周囲の道で何が起きているかをはっきりと見ることができるのです。
すべての決着がつくまで、私はここにいます。何かあればすぐに命令を出しましょう。
この忙しい時にどうやってこんな場所を見つけて、買うところまで済ませたんです?
この家はずっと私の名義ですよ。
ヌオバ・ウォルシーニに来て間もない頃に買ったのです。以来時折休憩に来ていましてね。
……裁判所とシティホールの建物を見ながらですか?
……それで、ドンの様子はどうです?
安心してください。屋敷には人を残してますし、今夜は部屋から出る必要がないように、ウイスキーと葉巻をたくさん用意しておきました。それと、コレクターズ版のレコードもね。
では、港は?
ガンビーノがもう段取りを済ませてます。今夜この都市の場所を特定して近づけるのはうちの陸上艦だけですよ……時間を見るに、そろそろですね。
調達できる限りの車は全部、ヌオバ・ウォルシーニ港付近に着いてます。陸上艦の接続が終わり次第、船に乗せてる「貨物」を下ろして、構成員全員に持たせる予定です。
そのあとは、俺たちの仕事ですね。
パレードはどこまで来ていますか?
ヌオバ・アルテ区です。あそこは劇場や娯楽施設がしこたま並んでるもんで、通り沿いでも色々パフォーマンスをやる予定で、観光客向けのフロート車のイベントもあるんです。すごい賑わいですよ。
となると、まだ一時間以上はかかりますね。
付近にいる構成員の数は多くはありませんが、彼らはいずれもファミリーの精鋭です。以前都市に運び込んでおいた武器も持たせていますし……
ヌオバ・ウォルシーニの警官の大半が沿道で治安維持にあたっている今、広場の警備は相対的に薄くなっています。この隙を突いて、なるべく迅速に裁判所とほかの行政ビルを制圧しましょう。
そうして港と裁判所を掌握し、さらに陸上艦からの補給を受けることによって、ヴェネツィアファミリーは実質的に、ヌオバ・ウォルシーニのすべてを支配することができるというわけです。
一晩中パーティーに興じていた数十万のヌオバ・ウォルシーニ人たちが、目を覚ます時が来たのですよ。
……ふと思ったんですが。
何でしょう?
シティホールの予定では、パレードが広場に到着した時に、レオントゥッツォが就任演説として、新たな秩序だのシラクーザの未来だのについて語ることになってましたけど……
その時、奴らを迎えるのが完全武装のヴェネツィアファミリーであるからには、あなたも何か言ってやるべきじゃないですか?
その必要はありません。
今この時、あなたが気にするべきことは、あまりに長くヴェネツィア自工の従業員として働いていたせいで、武器を握る手が鈍っていないかということだけです。
それはもちろん――
カポネ、あなたたちの経歴については良く知っています。シラクーザの歴史上最初の都市戦争は、シチリア人によって起きたものでしたね。
あなたたちは都市で暴れ回り、抵抗しようと声を上げたすべての人に武器を向け、鎌で敗者の尻尾を刈ったと聞いています。
ある意味では、これこそがシラクーザで最初の「カルネヴァーレ」だと言えるでしょう。このうってつけの名が付けられたのは、後々になってのことですがね。
ですから――シチリア人よ、証明してみせなさい。あなたたちこそがシラクーザの歴史を開いた者だということを。
……
あー、そういう話はガンビーノにしてやったほうがいいと思いますよ。「シチリア人」って言葉を今でも口癖みたいに使ってるのは、あいつくらいのもんですし。
龍門からウォルシーニ、そしてこの都市……ここ数年、俺たちは色んな場所を転々としてきたんです。ミズ・シチリアがファミリーを捨てて以来、シチリア人は足場を築くのも難しいくらいでね。
だからこそ、引き金の引き方を忘れたりなんざしませんよ。
ハハハ、いいでしょう。
では、始めなさい。
カルネヴァーレ万歳! 風船をどうぞ、警察官さん!
ああ、ありがとう……って、待った!
もうパレードは来てるのか? 前の交差点の担当からは連絡が来てないんだが……
うぐっ――ごほ、がはっ……お前たちは……
あーあ、想像以上にひどい対応力だな。
そりゃそうでしょ。市長様の宣言映画みたいに、警官どもがあっという間に私たち全員を制圧できるとでも思うの?
だってこいつら、警察になってせいぜいまだ一年くらいでしょ?
ヌオバ・ウォルシーニにファミリーは存在しないし、普段は交通事故の調査しかやってないんだから、生きるか死ぬかの状況に対応するような覚悟も実力もあるわけないじゃない。
広場左の警備は片付けた。
右も完了。
裁判所と行政ビルの間の通り二つも片付いてる。生存者なしだ。
事務員が何人か資料を運びに出てきたが、入口で捕まえたから……
クソッ、一人裁判所に逃げてったぞ――
グチグチ言うのはその辺にしろ。
時間だ、やれ!
テキサスさん、今何時ですか?
十一時だ。
ほら、頼まれてたウイスキー。氷を入れておいた。
ありがとうございます。
そのルートマップなら何度も見てるだろう。少し休んだらどうだ。
広場周辺の部外者には全員離れてもらいましたし、ヌオバ・アルテ区からこの場所までの道路の規制も完了しました。あとはパレードが通過するのを待つばかりです。
考えはまとまりましたか?
……
フロート車に立って真夜中の演説をするのが、当初の予定にあった市長代理ではなく、「最後のテキサス」だというのは、無用の混乱を引き起こすんじゃないか?
その心配には及びません。
今夜のフロート車はどれも伝説に語られる残忍な、あるいは神秘的な獣ばかりです。そして、多くの市民たちはマスクをして、群狼を演じるわけですが……
どんな獣も、どんな人も、今宵はこのヌオバ・ウォルシーニで共に歩むことになるのです。
それを思えば、「最後のテキサス」が全市民に向けてこの先の美しい展望を語ることは、かえってカルネヴァーレのテーマに合致していると言えるでしょう。
さらに言えば、レオントゥッツォの代わりを務められるような大物ゲストなどほかに思いつきませんからね。
お前が書いてくれた原稿、もう一度読ませてもらえるか……
ご負担をおかけして申し訳ありません。今はどうしても、あらゆる不確定要素に備えておかねばならないのです。
野営地から戻ってきて以来、ずっと落ち着かない様子だな。
こちらで出来ることは最短で進めましたが、潜在的な危険は完全に取り除かれてはいませんので。今夜は――
……
げほ、ごほっ――ラヴィニア裁判官、た、大変です……!
身体に血が……何があったんですか?
広場に突然大勢の人が現れて、警官たちを制圧してしまって……
相手は何者ですか?
全員スーツを着て、カルネヴァーレのマスクをかぶっているので……わかりませんでした。
ですが、あの様子からして、ここに押し入ってくるつもりなんだと思います……!
とにかく、傷を手当してもらってください。私が見てきますから。
ダメです、裁判官! 広場は奴らに囲まれていますから、今出て行くなんて――
本当にそうだとしたら、ここに隠れていても何の意味もないでしょう。
……
私も行こう。
お願いします。
あなたはここにいてください、ラヴィニアさん。
外のことはあたしに任せて。
エイレーネさん?
外にはファミリーの連中が待ち構えてます。奴らのターゲットはこの裁判所と、裁判官であるあなたなんですよ。
……
あたしは、あなたを守りに来たんです。
守る、ですか?
一体どうやって――
あれは……?
ラヴィニアが窓辺に駆け寄った。
長い間、暗闇で眠っていた獣の群れがついに狩りを始めたのだ。
同じ衣装を身にまとい、マスクをかぶった人々が次々に近くの路地から現れて、裁判所へと迫ってくる。彼らは一糸乱れぬ動きで、すぐに非常線を越えてきた。
だが、彼らはそれ以上進めはしなかった。
突如視界に飛び込んできたのは一台のトラックだ。それは急ブレーキで横につけると、彼らの行く手を阻む。トラックが吹き飛ばしたバリケードが宙を舞い、鈍い音を立てて地面に落ちた。
続けて、二台目、三台目……トラックが次々と広場に滑り込み、あらゆる方向から突撃を試みる群衆を阻んでいく。
突如現れ、驚くほどの連携で連なり合うそれは、まるで波をせき止める堤防のようだ。
……
……
安心してください。これであいつらは、ひとまず裁判所に近づくことはできません。
どこかで見たような光景だな……
もしかすると、レオントゥッツォさんの就任宣伝映画で見たのかもしれませんね。
暴動を起こしたファミリーの連中がトラックで押し寄せてきて、裁判所を取り囲み、警察の手が届かない無法地帯を作り出すあのシーン……
映画の制作を手伝ってなければ、こんな方法はすぐには思いつきませんでしたよ。
エイレーネが窓を閉めた。
さて、ラヴィニアさん、急ぎましょうか。
まだ解決すべきことがたくさん残っていますから。
……