挽歌が灰に還る時EA-7・戦闘前灯火を燃やす者
フォントファミリー

フォントサイズ

⌘/Ctrl+
拡大
⌘/Ctrl−
縮小

地図

ウルサス炎カジミエーシュクルビアボリバルリターニアヴィクトリアイェラグカズデルシラクーザレム・ビリトンサルゴンミノスラテラーノシエスタイベリア
ウルサスカジミエーシュクルビアリターニアヴィクトリアイェラグシラクーザサルゴンミノスラテラーノシエスタイベリア

名前

挽歌が灰に還る時 EA-7・戦闘前

灯火を燃やす者

「リーダー」

ヒロック郡まであとどれくらい?

アルモニ

まだかかるわよ。

「リーダー」

姉さんが……これを知らないはずがないよね。

アルモニ

正直に言うと、すべてが上手くいってると思いこんでるのは「雄弁家」たちだけね。

「リーダー」

じゃあ、どうして私についてきてくれるの?

アルモニ

選択肢があれば、私だって前の野営地でゆっくり眠りたかったわ。

「リーダー」

姉さんはどうして私を止めないんだろう?

アルモニ

さあね。あなたに期待してるんじゃないかしら。

「リーダー」

だけど、姉さんがあんな眼差しを見せたことは一度もなかった。私が影になることを受け入れてから、姉さんは……

アルモニ、お願いだから……姉さんに伝えてほしい。私はこんなことは望んでないって。

アルモニ

ヒロック郡へ行きたくないの?

「リーダー」

うん。それに、もし姉さんの機嫌が良かったら、もう一つ伝えてほしいことがあるんだ。今後、私は――

……

ううん、何でもない。

アルモニ

わかったわ。気は進まないけど、伝えておいてあげる。「雄弁家」の目を掻い潜るのは骨が折れるけどね。

「リーダー」

うん、ありがとう。できれば急いでもらえると嬉しいな……

……姉さんの……嫌気が差してしまう前に。


アルモニが姿を現したのは、ヒロック郡に着いてからのことだった。それが何を意味するのかを、彼女は理解していた。

その夜、砲声が轟き、結晶が伸びゆく中で、彼女は腹から血を流し、ヒロック郡の街道に倒れた。

けれど恐怖はさほどなく、むしろ肩の荷が下りたような気すらしていた。これで自分も、こうして命を落とした普通の人々と同じように死ねるのだ、と彼女はそう思った。

だがその時、彼女は見た。そう遠くないビルの上から、紫の炎がやってくるのを。

そして初めて、恐れを抱いた。

あの炎が、こちらに気付かぬまま、街の人々と同じ傀儡に変えてしまうのではないかという恐怖。

あるいは気付いて、負傷したまま連れ戻し、姉の影としての役目を続けさせるのではないかという恐怖。

彼女は炎と目を合わせ、そこから己の未来にまつわるヒントを得ようとしたが、見えたのは嫌気が差したような様子だけだった。

彼女が最も恐れていたことが、ついに現実になったのだ。


死した赤き龍が横たわっている。

命ある赤き龍の背後で、はぐれ者の守人はすべてを悟るに至っていた。


ネモス

……彼女はあなたを騙していたんですね。

気高い赤き龍

違う、姉さんは誰も騙してなんかいない。

ネモス

あなたが街の皆を道連れになどしないと見越していたからこそ、彼女はこんな芝居を打ったんですよ!

あなたに身体を貫かせることで、自分は束縛を逃れて――本来それほど脅威にならなかったはずの紫の炎を、皆を焼き尽くさんばかりに広げたんです! サウィン祭の前夜を狙って!

気高い赤き龍

姉さんはサウィン祭のことなんて気にも留めていなかったはず……そんな祭りのために、どうしてこんな危険を冒したんだろう?

ネモス

私も紫の炎を宿していますから、感じるんです。胸の辺りで燃え盛る死の炎が、これまでになく、感覚を失いそうなほどに冷たくなっているのを!

彼女が今、ターラー全土を手に入れようとしているのか、あるいは単に正気を失い、街の全員を道連れにしようとしているのかはわかりませんが、それはもはやどうだっていいことです!

気高い赤き龍

ううん、ターラーはもう姉さんの手中に収められているし、彼女が正気を失っていたとも思えない。だとすると……

姉さんは――

……

ネモス、姉さんの遺体はまだそこにある?

ネモス

確認してきます。


はぐれ者の守人は眉をひそめた。彼女はこれまでの人生において、これほどの悪意を抱いたことはなかった。そして、それゆえこれほど大きな覚悟を決めたこともなかった。

ネモス

遺体は――

彼女の返答は燃え盛る炎の音にかき消された。

気高い赤き龍

姉さんが何を企んでいようと、ナ・シアーシャはまだ燃え尽きてはいない。返し火の儀式は続けられる……絶対にやり遂げないと。

ネモス

あなたの仰りたいことはわかりました。

街の人々に伝えてきましょう。彼らが崇めていた邪悪な赤き龍は死んだのだと。

気高い赤き龍

ブリギッドはどこに?

ネモス

街を離れて霊の守人の元へ向かうように頼んでおきました。

気高い赤き龍

だけど、どうやってみんなにエブラナの死を伝えるの?

ネモス

棺を引いて歩くんですよ。あの龍には相応しい報いです。

街には棺桶すら足りてはいませんが、彼女は道端で死んだ無名の人ではありませんから、棺に納められるだけの価値はあるでしょう。

気高い赤き龍

……

ネモス

気が進みませんか?

気高い赤き龍

そうじゃなくて、今初めて気付いたんだ。エブラナがどんなに醜悪な道を歩いていたのかということに。その道は今ではこちらに手招きをしていて、だけど私には……ほかに選択肢なんてない。

行って、ネモス。私が時間を稼ぐから。

ネモス

時間を稼ぐというのは、黒い霧を相手にということですか?

気高い赤き龍

そうだよ。もし、黒い霧がサウィン祭を狙って街へやってくるのなら、私がそれを止めて見せる。

今から待ちきれないくらいだよ。どうすれば赤き龍の炎を暗闇に還せるのかを、黒い霧に尋ねるその時が。


謎の女性

「今から待ちきれないくらいだよ。どうすれば赤き龍の炎を暗闇に還せるのかを、黒い霧に尋ねるその時が。」

どうですか?

この展開に沿って進めれば、鏡の中の人物と赤き龍の結末にも答えが見えてきますよね。

しかし、作家はそこで勢いよく立ち上がった。

作家

あなたは何者ですか? 何が目的なんですか?

謎の女性

私の目的は、あなたが最後まで語らなかった物語を補完することです。

それにあなたは、私を「真実の継ぎはぎ」を好む輩だと思っていたのでは? 今やこの通り、我々は真相に近づきつつあるのですよ。

作家

もうやめてください。私は帰りま――

謎の女性

どうしてもご自分で結末を語りたくないのなら、やはり私が物語を補完することにしましょうか。

ふいに誰かが目を見開いた。それに驚いた鏡の中の人物は思わず手を放してしまい、没頭していた赤き龍はかがり火の中に落ちていった。炎が燃え盛る中、鏡の中の人物はその隙に鏡へと逃げ込んだ。

しかし火の勢いが弱まっても、赤き龍は姿を現さなかった。人々はそれゆえ焦燥に駆られた。

鏡の中の人物は皆に事情を説明したいと望み、また赤き龍を帰ってこさせる方法を探そうとした。だが赤き龍を失った今、彼女はもはや鏡から出ては来られなかった。

謎の女性

いかがでしょう?

作家

……

謎の女性

先ほどからずっと、新聞ラックを気にされていますね。新聞というのは、事実だけを報道するとは限らないものですよ。

作家はちらりと酒場の入り口に目を向けた。

そうして、自分が酒場から駆け出す光景を想像してみたが、あまりの滑稽さに噴き出しそうになった。

新聞が「事実だけを報道するとは限らない」と考えれば、目の前の人物が何者なのかがようやくわかってくる。となれば、なぜ自分の元を訪れたかも明白だ。

いずれにせよ、もはや逃れようはない。

しかし同時に、彼はあることに気が付いた。

それは、もしかすると自分は本当に、望む結末に辿り着けるかもしれないということだった。

彼女が誰であれ、物語の話をしている限り、二人は対等だ。

彼は先ほどまでの消極的な考えが少しずつ薄れていくのを感じた。

作家

お嬢さん、あなたが誰だろうと、何が目的だろうと構いませんが、物語というものはそのように綴られるべきではありません。

あなたは未完の物語を一つ先へと進めただけで、結末はいまだ見つかってはいませんから。

一つお尋ねしたいのですが、あなたは見たのですか……? 赤き龍がもう一匹の龍を殺す光景を。

謎の女性

これはあなたが見たという、赤き龍の彫像を広場へ引きずっていく英雄のお話と同じで、単なる「創作」ですよ。

作家

であれば、その創作に責任を持つべきです。鏡の中の赤き龍が、もう一人の自分を誤ってかがり火の中で焼き殺してしまったとして、そのあとは? 人々は、鏡の中へ戻った龍はどうしたのですか?

謎の女性

あなたはどう思います? 何かアイデアはありませんか?

作家は久しぶりにポケットからペンを取り出すと、テーブルの上のトランプを一枚手に取った。彼は何かを書こうとしたが、長らく使われていなかったペンはインクが乾いてしまっていた。

作家

もう少し……時間が欲しいところですね。

ですがもしかしたら……もしかしたら、繋げられるかもしれない。

謎の女性

繋げられるというのは……

あなたが最後に出版した物語のことですね?

作家がカードの上にペンを乱暴に走らせるうちに、ようやくインクが少し滲み出てきた。

「死が我々をすべての伝説と結びつけてくれますように」――ふと彼の脳裏にシェイマス・ウィリアムズの詩の一節が浮かんだ。

ウィリアムズはすでにこの世を去ったが、自分はもしかすると……本当に恐れ多いことではあるが……彼の紡いだ伝説と結びつきを得ることができるかもしれない。

彼はその詩句をカードに書き記そうとしたが、ペン先が紙面に残したのは途切れ途切れのインク跡だけだった。

作家

もしかしたら……

謎の女性

どうしたのですか?

作家は再び椅子へと、先刻よりも姿勢を正して腰掛けた。

彼はふいに、ある衝動を感じていた。それは、初めてシェイマス・ウィリアムズの詩を耳にした時と似た衝動だった。

彼をこうも落ちぶれさせた原因もまたそこにあったが、それでも彼は覚えていた。あの胸と腹を締め付けられるような、思わず歌い、叫び出したくなるような――

創作に対する衝動を。

作家

確かに、おかげさまでいくつか問題が解決したように思います。

先ほど私は、私が見たもの、信じたもの、語った言葉のすべてが食い違っていると言いましたね。ですがあなたのおかげで、それがようやく一つに結び付いたように感じるんです。

謎の女性

それは何よりです。

では、三つ目の物語を聞かせていただけますか?

作家

ええ……もちろん。

しかしそれには、あなたの協力も必要になります。

私が行き詰まった時には、あなたに語ってほしいのです。

これは私の物語ですが、あなたのものでもありますから。

初めからずっと。

謎の女性

ええ、喜んで。

作家の息は上がり、頬には興奮で赤みが差していた。しかし、ペンをいくら走らせようと、まともに文字は書けず、彼はとうとうペンをテーブルに叩きつけた。

――確かに、そうだ。

彼はもう、あの手の出来事は十分に見てきていた。

だが、それがどうしたと言うのだろう?

彼は単なる作家であり、今は己の書いた物語に結末を与えようとしているだけなのだ。