聖山降臨1101OS-ST-1・幕間崩落
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カジミエーシュクルビアリターニアヴィクトリアイェラグ
ウルサスカジミエーシュクルビアリターニアヴィクトリアイェラグ

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聖山降臨1101 OS-ST-1・幕間

崩落

優雅な青年

……私としては、そのご意見には同意しかねます。

確かにヴィクトリアは、依然この大地において最も強大な国家であるかもしれません。しかしだからと言って、そうした繁栄がいつまでも当然の如く続くとは限らないのです。

あの戦争の後、ヴィクトリアはガリアの遺産を滋養とし、四十年間の黄金時代を謳歌してきました……実際、その輝かしき歴史は誰もが知るところです。

とはいえ、時は流れ、かつては先進的だった生産力が唯一無二の優位性ではなくなったことで、ヴィクトリアは対外拡張の野心を消化するすべを失い、内部分裂の危険が表面化し始めました。

かの陛下は工場と商人の根深い対立を調停しようと試みられましたが、板挟みとなり、新たな解決策を提示することはできませんでした。

その結末はある種、必然と言えるものだったのでしょう――偶然にも、その直後リターニアで起きた政変もそれを裏付けています。

ですが、血で血を洗う争いの中で勝利を手にした者など今もって存在せず……獅子王が絞首台に送られてから十余年が経った現在も、政変の余波は留まるところを知りません。

そしてその間、「ブライトンの麦」に「マージー川事件」など、過去の利益の分配を巡る公爵たちの争いは絶えず続いています。

皆、我こそはこの争いの中で利益を手にする者だと信じており、それがヴィクトリアを行き詰まらせているということを直視していないのです。

今すぐに変革を遂げることができなければ、ヴィクトリアの次なる時代における命題は、激化の一途を辿る内戦となるでしょう。

……

権威ある年長者

聞くところによると、今日は大層弁の立つ若者が、皆の注目を集めていたそうだけど。

どうやら今日のパーティーの主役はあなたのようね。

優雅な青年

どうかご無礼をお許しください、敬愛なるカスター公爵閣下。

失礼ながら、正直に申し上げますと――私は大公爵の邸宅で大勢の見識ある方と面識を得られたらと期待していたのですが、いささか失望しております。

カスター公爵

あら、だとしたらあなたは、自分が公爵の閣僚を、ひいては議会の議長を務める実力すらあると考えているようね。

優雅な青年

この国の問題点を指摘するだけのことであればそう難しくはありませんが、解決するとなれば、一定の手腕と時運が必要ですね。

もっとも、現状それは私が考慮すべき問題ではないように思いますが。閣下はどうお考えでしょうか?

カスター公爵

ふっ……

あなたの母君のことは覚えているわ……見たところあなたは、彼女の謙虚さと礼節に学びはしなかったようだけれど、あの大胆で軽薄な性格は受け継いでいるようね。

……エンシオディス。

エンシオディス

こうしてあなたの注意を引かぬことには、異国から来た遠縁の親類になど興味を持っていただけないと思ったまでのことです。

カスター公爵

そう。とはいえ、心を動かす演説をしようと、大言壮語を多少並べただけでは、身を立てるには足りないわ。

これまでもこの屋敷を、野心的な若者が何人も訪れてきたの。ホール一杯の賓客の前で名を上げて、その後の社交界で他者からの称賛を浴びるためだけにね。

あなたはそうした若者たちとは違うということを、どう信じたらいいのかしら?

エンシオディス

私はヴィクトリア貴族の上客になるつもりなどありません。ただ、閣下に取引の申し出をしたいと望んでいるだけです。

イェラグとカスター公爵領は、資源と工業の面において互いに補完し合い、対等な協力関係を築くことができると考えております。

私は今、イェラグにおいて初となる国際貿易会社を設立しているところで、それゆえ閣下へのご提案をお持ちした次第です。

カスター公爵

……「対等」ですって?

エンシオディス

はい。

イェラグは今後三十年以内に、テラの勢力図において無視できない一勢力となるとお約束しましょう。

その時、両国間の協力は、双方にとって利益のみをもたらすものとなるのです。

カスター公爵

そんな約束ができると言い切る勇気は称賛に値するわ。

だけど、あなたにそこまでの資本があるとは思えないわね、坊や。

エンシオディス

ですが、閣下はこの提案に同意してくださるはずです。

先見の明ある政治家として、閣下はヴィクトリアが――いえ、「カスター公爵」が今抱えている困難を認識していらっしゃらないはずがありません。

状況をわずかにでも好転させうる可能性があるのなら、それを見逃す手はないでしょう。

今こうして閣下の前に立っていること自体が、私が投資に値する人間であることの証明なのですから。

カスター公爵

……自分の若さに感謝なさい。その若さのおかげで、そうして挑戦的な態度を取っても私の不興を買わずに済んでいるのだから。

では、若く先見の明ある政治家として、その聡明さを以て私の質問に答えてもらいましょうか。

源石回路も普及していないような国が、どのようにして、三十年でこの大地において「無視できない一勢力」になるつもりなの?

エンシオディス

閣下が懸念を持たれるのも無理はありません。確かに、工業と科学技術はいずれも重要なものですが、国家には、より重要なものがあるのです。

一つに団結した国が、どれほど驚くべき力を発揮するか――失礼ながら、ヴィクトリアの政情の特殊性ゆえに、閣下はご想像がつかぬやもしれません。

しかし、私は信じているのです――


最後に主は最も高き山の頂に立ち、遠き湖を指してこう仰いました。

「汝らは来た道を心に刻み、忘れぬようにせねばならぬ。」

「いまだ訪れぬ風雪を畏れ、盲目的に己の見たものを信じぬようにせねばならぬ。」

「弓矢と鍬、種をしかと握り、放さぬようにせねばならぬ。」

「兄弟を愛し、隣人や友を愛すべし。また兄弟を愛するように、山と石、そして草木を愛すべし。」

「この掟に従うならば、汝らはこの大地において二度と災いに打ち負かされることはなく、汝らの故郷は、永久に安寧を保つであろう。」

……


蔓珠院長老

巫女様、時が近付いております……

エンヤ

お医者様はなんと? ……やはり、どうにもならないのですか?

蔓珠院長老

ええ……この数年間、イェラグの医師もヴィクトリアの医師も、大長老のお身体に残った毒を取り除こうとあらゆる手を尽くしてくれました。

ですが結局、大長老の命を奪わんとしているのは病ではなく、時の流れなのです。

エンヤ

そうですか……

今から……お見舞いに行ってもよろしいでしょうか?

蔓珠院長老

もちろんでございます……

我らのイェラガンドに……巫女様、どうか大長老をお見送りください。


エンヤはそっと扉を開いた。

寝台には危篤の老人が横たわっており、干からびたその胸はほとんど上下していなかった。物音が聞こえたのか、彼は必死に耳を扉のほうへ向け、弱弱しく口を開く。

大長老

エンヤ……お主か……?

エンヤ

大長老……

お加減はいかがですか? お水を飲まれますか?

大長老

いいや……

エンヤ……聞いておくれ……

エンヤ

まだ何か、身共に何かお聞かせくださるのですか?

大長老

この日は、来るのが遅すぎた……

そうは、思わぬか……

エンヤ

そんなことは……

大長老は、身共の師として多くのことを教えてくださいました。

大長老

お主は、本当によくやってくれた……

じゃが、わしは……師としても、長老としても、失格じゃ……

イェラガンドの、敬虔な民ですら……なかったんじゃからな……

エンヤ

なぜそんなことを……?

大長老

実のところ……もう、幾年も前から……わしには、イェラガンドの声が、聞こえておらんのじゃ……

日夜祈りを捧げ……幾度も、経典を唱えたが……どれほど努力しても……もはやわしには、応えてくださらない……

わしは、途方に暮れ……恐れを、抱いた……

それでも、やめるわけには……いかなかった……

わしは……イェラガンドのお心が、民を守ることのみにあるのなら……イェラガンドに代わって、それを行ったとて……主のお心に、背くことには……ならぬであろうと、考えた……

蔓珠院の権威を、揺るがぬものとし……イェラグの民の、蔓珠院への忠誠を……永遠のものと、したかった……

じゃが、わしは……多くの過ちを犯した……

エンヤ

「他人に嘘をつくことはできても、主を欺くことはできない。」

我らの行いはすべて、イェラガンドの御目を逃れられはしません。

主は知っておられるのです。あらゆる人々の犯した過ちと、それに対する後悔を。

大長老

ああ……わしも、そう信じておった……

しかし、長い時が経っても……イェラガンドは、一向に……罰を下しはしなかった……

ゆえに……わしは、信じることをやめたのじゃ……

それでも、昨夜……わしはまた、イェラガンドの夢を見てのう……

主は、わしを責めることなく……ただ、鏡のような湖へと、導いてくださり……こう仰った……

「すべての河川は、この地へと注がれることだろう……」

それを聞き、わしは……己にも、時が来たのだと、悟った……

わしは、己の罪を……悔い改めたい……いや、そうせねばならぬ……だというのに……もはや、遅すぎる……

エンヤ

……

大長老

エンヤ……

正直に……答えておくれ……

おぬしには、まだ……イェラガンドの声が……聞こえておるのか?


主に従わんとする者たちは、常にその教えに耳を傾けねばならない。

俗世の雑音は時として主の声を妨げ、風雪もまた主の導きを遮ってしまうことがある。

主はとこしえに善なる存在であり、主に背く者は道を踏み外すということを、常に忘れてはならぬ。

善を成すことは悪を成すことより遥かに難く、赦すことは恨むことより遥かに難く、謙虚であることは傲慢であることより遥かに難い。

この道を往く者は、それが苦難に満ちたものであることを心得ねばならない。その理に反すれば、正しき道に戻ることはさらに難しくなる。

……


ラタトス

ユカタン、うるさいよ。

あんたはいつから、スキウースみたいに落ち着きのない奴になったんだい。

ユカタン

すみません、お義姉様……ですが、今はどうしても……

私にできることは何もありませんから……彼女の代わりに祈ることくらいしか……

ラタトス

あんたとスキウースと来たら、昔から我慢が足りないんだよ。

いいかい、スキウースは私の妹で、いずれはブラウンテイル家の当主になる人間なんだ。この程度のこともこなせないはずがないだろう。

なんたって、あのバカは身体が丈夫だからね。あんたも覚えてるだろ? あいつが八歳の頃、家を抜け出してユングフラウに登ろうとして、崖から落ちて足を折った時のこと。

あの時は、この先一生この子は両足で歩けないだろうと誰もが思ってたってのに、二ヶ月も経たない内に、何事もなかったみたく元気に飛び跳ねてたじゃないか。

でも、そう考えると……あれ以来誰もあの時のことは気にしちゃいなかったが、まさか後遺症が残ってなんかいないだろうね?

いやいや、まさか……あんなの昔のことだ。医者もあの子を、駄獣みたいに健康な子だと言ってたし。

ああまったく、ヴィクトリアから来た医者なんかが本当に当てになるのかね。もしあのバカに何かあったら、全員ひっ捕まえてやるから……

*イェラグスラング*! もう四時間も経つってのに、どうしてまだ出てこないんだか!

ブラウンテイルの衛兵

ラタトス様、メンヒ隊長からご連絡が――

ラタトス

黙ってな!! 今は煩わせるんじゃないよ!

ブラウンテイルの衛兵

はっ……

ユカタン

お義姉様、お互い少し落ち着きましょう。

きっと、イェラガンドがウースを守ってくださるはずです。

ウースは、私が今まで出会った中で誰より善良な人ですから……主が彼女を守らずして、誰を守るというのでしょうか。

ラタトス

ふぅ……

そうだね……その通りだ。

ああ、イェラガンド……

イェラガンドよ……もしもまだ、私の声に耳を傾けてくださるのなら……

この敬虔とは言えない私が持ち合わせた、すべての信心を今ここに捧げます。ですからどうか、この一度だけ祝福をお授けください。

過去のことを理由に、ブラウンテイル家を罰したいと仰るなら、すべての罰は私にお与えください。

どのような罰が下されるのであれ、お怒りのすべてを私がこの身で受けましょう。

ですがどうか、どうかあの子だけはお赦しください……

ユカタン

――!

ラタトス

我らのイェラガンドに……


乗客の皆様へお知らせいたします。銀心湖発ブリークゲート行きのKT392号列車は、天候の影響により、発車を一時間遅らせることが決定いたしました。

ご不便をおかけしてしまい、大変申し訳ございません。イェラグ鉄道一同深くお詫び申し上げます。

サポートが必要なお客様は、案内窓口のスタッフまでお問い合わせください。

……

イラつく観光客

まったくどうなってるのかしら。これがヴィクトリアの列車なら、いつも遅れるからまだわかるけど、イェラグまで来たのにここでもやっぱり遅延だなんて。

のんびりとした観光客

まあ、このくらい大したことじゃないだろう。少し待てばいいだけの話だ。正直、帰ればあの面倒な投資家どもの相手をせねばならんと思うと、もう少しここに居られたらとすら思うしな。

少なくとも、ここにいればただで美味しいホットミルクが飲めるんだからな……ふぅ。

しかし、天候の影響と言っていたか? 雪は降っていないようだが……


慌てた表情の女性

……


イラつく観光客

ちょっと、何? 列車も動いてないのに何を急いでるの?

慌てた表情の女性

すみません、通してください……

イラつく観光客

ダメよ! 待ちなさい!

この手口、見たことあるわ。あなた、スリなんじゃない!?

止まりなさい! とりあえず私物がなくなってないか確かめる間は……

慌てた表情の女性

――!

女性は掴まれた腕を無言で力強く振りほどくと、群衆のほうへ駆け出した。そうして彼女の姿は人々の中へと消えていく。

イラつく観光客

なっ……ちょっと! 誰か助けて! 泥棒よ!

スタッフ

お客様、盗られたものは何でしょう?

イラつく観光客

ええと、財布はある、ネックレスもある、端末もある……あら? 何もなくなってないわね。

じゃあ、今の人はどうして逃げちゃったのかしら?

のんびりとした観光客

多分、無賃乗車を試みてバレた不運な奴か何かだろう。

だから言ったじゃないか。ここは信仰篤きイェラグであって、戦後のロンディニウムじゃないんだぞ。誰も君のカバンを狙ったりなんてしないさ。

いやはや、なんということだ……

まさかイェラグでは、無賃乗車をしただけで戦士に命を狙われるとはな。


メンヒ

……捕まえた。

ライン生命のカロリンさんでしょう。

カロリン

……!

メンヒ

あなたの身元も、何をしたかもわかってる。このことを公にされたくなければ、私と一緒に戻って。

そうなれば、蔓珠院が公正な裁きを下すことになるけど――その前に、あなたが持っているものを渡しなさい。

女性は黙ったまま、抱えたファイルをぎゅっと握り締めていた。彼女はしばし考えこんだように見えたが、突然何の前触れもなく、口を開いた。

カロリン

みんな……

逃げて! この駅には爆弾が仕掛けられてるの!

メンヒ

――!

大きく叫ぶ女性の声が響き渡り、混雑していた駅はたちまち混乱に陥った。

その混乱の中、彼女の姿は再び人だかりの中に消えていく。

メンヒ

くっ……


ユカタン

ウース、よく頑張ったね……

スキウース

子供たちは……大丈夫?

ユカタン

心配するな、二人とも元気だよ。今はお義姉様が面倒を見てくれてる。

何も気にせず、ゆっくり休んでいてくれ。

スキウース

……はぁ……

ユカタン……私ね、さっき……何度か、イェラガンドの御前にいるように感じたの……

子どもの頃から今までにしてきた悪いことを、全部思い返したわ……八歳の頃、木に登って羽獣の卵を盗んだことまでね……

イェラガンドは、一体何を以てあたしを罰するおつもりなのかしら……

ユカタン

罰ならもう下ったんじゃないか? あの時は、二ヶ月近くもベッドに寝たきりになってただろう。

大丈夫だよ、ウース……どんな困難も、僕たちは手を取り合って乗り越えてきたじゃないか。それに、今はもう一つ頑張る理由が増えたしな。

僕たちで一緒に、「オーク」と「ベリー」の成長を見守っていかないと。

だから、イェラガンドが僕らを引き離すはずなんてない。

スキウース

ユカタン……外は雪が降ってるの?

この部屋……少し寒いわ……

ユカタン

じゃあ、暖炉に薪を足しておくよ。それから、もう一枚毛布をかけてあげよう。

さあ、安心して少し眠ってくれ、ウース。

大丈夫さ、イェラグの冬もいずれは終わる……春が来たら、家族みんなで湖へ花を見に行こう。

スキウースはゆっくりと目を閉じると、静かに眠りに就いた。

それは本来、幸福なひとときであるはずだったが……

どういうわけか、ユカタンは胸中に重苦しさを感じていた。

窓の外を見やれば、空には分厚く雲がかかっているものの、雪は一向に降ってこない。記憶にある限り、イェラグではこんな天気は滅多にないはずだった。

きっと今年の冬が寒すぎるだけだろう、と彼はそう思った。

ユカタン

冬が終われば、きっと状況は良くなるはずだ。


エンヤ

「神はいずこにも御座すもの。されどいずこにも見出せぬもの。」

主の存在を見出そうとする必要はなく、我々が主に従わんとする時には、主はそこにおられる――

それが経典に記された教義ですが、覚えておいででしょうか?

大長老

いいや……それではならぬのだ……

本当に主がいずこにも御座し、されどいずこにも見出せぬ存在なのであれば、一体誰がそのご意志を聞いたと言うのだ? 誰が――げほっ、げほげほっ!

エンヤ

大長老……どうかお休みになってください。そのようにご自分を苦しめることをなさらずに……

大長老

エンヤ……わしは見たんじゃ……

いまだかつてなき災厄が、カランドに降りかかるのを……

源石が、この土地を砕く様を……

主が……イェラグを見放される様を……!

エンヤ

……!

危篤の老人は突如突き動かされたかのように、目を見開き窓の外を強く睨んだ。その獰猛で歪んだ表情は、怒りを抱いているようでもあり、筆舌に尽くしがたい恐ろしい光景を見たようでもあった。

彼は干からびた腕を懸命に持ち上げ、何かを掴もうと伸ばしたが、その腕は力なく落ちていく。

その後しばらくして、残されたわずかばかりの最後の力を使い果たしたかのように、老人はようやく落ち着きを取り戻した。

エンヤ

大長老……

大長老

エンヤ……

最後に……祈りの言葉を唱えてくれんか……

『イェラガンド』の、最終章を……


「……最後には、すべての河川は、この地へと注がれることだろう。」

「これより先、汝らはひとり歩まねばならぬ。」

「歩むべき道は、ただ汝らの足元にのみある。」

主は言い終えると、一つため息をおつきになった。

そうして踵を返すと、元来た道へと歩み去り、風雪の中に消えていかれた。

……


メンヒ

逃げられるとは思わないで。イェラグ人はよその人よりも風と雪に慣れているの。だからあなたのアーツも、ここでは大して通用しない。

こちらとしては、ライン生命との関係を壊したくはない。そうでなければ、あなたが軍事機密を盗み出した以上、私はどんな手を使ってでもあなたをイェラグから出られなくしているところだから。

カロリン

……

……私が持っているのは、あなたたちの軍事機密じゃないわ。

メンヒ

その言葉をどう信じろと?

カロリン

……あなたたちはわかってない。

メンヒ

何がわかってないっていうの?

カロリン

このデータが何を意味するのか。あなたたちに理解できるわけがないから……

イェラグ人は……あなたたちは、自らの信じる「神」の庇護下で、あとどれくらい生きられると思っているの?

メンヒ

適当な言葉でごまかさないで――

何なの、あれ……

雲が……?

カロリン

逃げて――

その雪崩は、一瞬にして起きた。

轟音の後、長年静寂を保っていた雪山を何かが揺り動かしたのだ。幾年もの間積もり続けた雪が、岩と黒い結晶を巻き込んで一気に流れ落ちていき、天地は灰白色に覆われた。

山々は震え、山間には物悲しく恐ろしい音が木霊し続けていた。

この瞬間、ほとんどの人間は理解していなかった。

その時、千年以上にわたり被害を受けずにいたこの地に、初めて天災が降臨したのだということを。