聖山降臨1101OS-ST-4・幕間「降臨」
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カジミエーシュクルビアリターニアヴィクトリアイェラグ
ウルサスカジミエーシュクルビアリターニアヴィクトリアイェラグ

名前

聖山降臨1101 OS-ST-4・幕間

「降臨」

若い修道士

巫女様……

罪人アドソに従って蔓珠院ヘの裏切りを働いた修道士たちは、全員罪を認めました。今は別の寺院に拘留されており、巫女様のご判断を待っている状態です。

ご処断は、如何なさいますか……?

エンヤ

……

がらんとした本堂は、普段なら人で埋め尽くされている座席もすべてが空いている。

そして、巫女の前にはただ一人、若い修道士だけがおり、恭しく頭を垂れて彼女の判断を待っていた。

エンヤ

動乱の中で起きたことは、すべて耳にしております。

彼らはアドソ長老に惑わされ、過ちを犯したのでしょう。

しかし、その本心は常に、イェラグを守ることにあったのだと身共は信じています。

侵略者を前に、身を挺して蔓珠院を守った彼らの行いは、罪をあがなうに十分なものです。感情の上でも、道理の上でも、厳罰は望ましくありません。

よって彼らには、三家の領地で、この冬の農作業を手伝うことを義務付けるといたしましょう。そうして、日々唱えている経文を、いかにして実践すべきかを深く考え直す機会としてもらいます。

来年の春が来れば、蔓珠院への帰還を許します。

若い修道士

あの……

エンヤ

ほかにも何か気になることが?

若い修道士

無礼を承知でお尋ねするのですが……

巫女様は聖巡の際に、イェラガンドのご意志を耳にされましたか?

エンヤ

……なぜそのようなことを?

まさか、主の顕現を求めるべからずという教えを忘れてしまったのですか?

若い修道士はさらに深くうなだれて、ためらいがちに口を開いた。

若い修道士

人々は、ヴィクトリアによる侵略の際に主が再び奇跡を示し、侵略者を撃退なさったと信じています。

ですが私には、不思議と……主は我々に別れを告げていらしたように思えてしまって……

もしかして、あの天災が起きた時に、イェラガンドは我らのもとを離れてしまわれたのではないでしょうか。

これが不敬の罪に値するならば、私をお裁きください……

エンヤ

……

マシュー……あなたの名はマシューでしたね?

教えてもらえませんか。あなたがなぜ、蔓珠院に入ろうと決めたのかを。

若い修道士

私は五人兄弟だったのですが、我が家の畑では一家が食べていけるだけの食糧が採れなかったので、両親が末の子の私を蔓珠院に送ると決めたのです。

そうすれば一人分口減らしができますし、私も蔓珠院からのお手当をいただけますから……

とはいえ、真面目に勉強してきたのも本当です。この数年間、私はずっと心を込めて『イェラガンド』をそらんじてきましたし、ひたすらに主の教えを学んで参りました……

ですがいつからか、イェラグが大きく変わっていくのを感じ始めたのです。

周りには聞いたこともない事物が増え、中には『イェラガンド』にも記されていないようなこともありますし……

私は、十分な食べ物と、風雪をしのぐに足る住処があれば、幸福な日々を過ごせると信じていたのです。

それなのになぜ、今の我らにはそうしたものが揃っているにもかかわらず、かえって迷いが深まったように感じるのでしょうか。

もしや今のイェラグ人は、主の示された道を外れて、はるか遠くまで来てしまったのではないでしょうか。

だからイェラガンドは、我らのもとを離れてしまわれたのでは……

エンヤ

……

イェラガンドが、民に具体的な道を示したことなどありません。

最初のイェラグ人がこの山々を訪れ、ツルハシで凍土を割り、樹木で小屋を建てた時には、恐らく想像もしなかったであろうことに……

この地の人々は今や、星空の外にも目を向けています。

そして、具体的な道を示したことがないのと同様に、イェラガンドは我らに対して、如何なる危機も訪れぬ永遠の浄土を約束したことなどありません。

我々は、この先必ずさらなる困難に直面し、様々な試練の中で道を求め続けることになるでしょう。

いつの日か、主の御前に辿り着き、我々自身にまつわる問いを投げかけられるようになるその日まで。

若い修道士

ですが巫女様、先賢にして師であり、指導者でもあられるイェラガンドが、自らの民に対して何の命令も下されなかったと仰るのですか?

エンヤ

あれは命令とは言えないでしょうね。

考えてみれば、イェラガンドが我々に伝えようとしたことの中で一番大切なことは、とうに経典に記されていたではありませんか。


汝らは来た道を心に刻み、忘れぬようにせねばならぬ。

いまだ訪れぬ風雪を畏れ、盲目的に己の見たものを信じぬようにせねばならぬ。

弓矢と鍬、種をしかと握り、放さぬようにせねばならぬ。

兄弟を愛し、隣人や友を愛すべし。また兄弟を愛するように、山と石、そして草木を愛すべし。

この掟に従うならば、汝らはこの大地において、二度と災いに打ち負かされることはなく、汝らの故郷は、永久に安寧を保つであろう。

……


サイレンス

エレナ、まだ仕事中?

エレナ

あっ、オリヴィア。

サイレンス

この前の観測データをまだ処理してるって聞いたよ。邪魔にならなければいいんだけど。

エレナ

大丈夫だよ。カランドで収集したデータをもとに、コンピューターでモデル化して計算し直してるところでさ……

上手くいけば、空から来たものがイェラグに落下した時の具体的な位置を特定できると思うんだ。少なくとも、雪山をくまなく探し回るよりは早くね。

サイレンス

これは本当に重要な発見だったと思うよ。あなたの勇気と決心のおかげだね。お疲れ様、エレナ。

エレナ

当然の仕事をしただけだし、そんなに褒められても恥ずかしいって……

ところで……カロリン先輩の件、新しい情報は来てる?

サイレンス

ううん。

ただ、行方はまだ掴めてないけど、この数日の調査で、彼女がイェラグでスパイ活動をしていた証拠はたくさん見つかってる。

彼女に向けられた疑惑は、すべて事実だったと認めるしかないと思う。

エレナ

……

……カロリン先輩と一緒に働いてた時に見た、空について語るあの人の眼差しや、あの情熱は演技じゃなかったと思うんだ。

なのに、どうしてこうなっちゃったんだろう……

サイレンス

理想も、未来も、美しい言葉だし、軽やかでロマンに溢れていて、そこに形や重さは存在しないものだけど――

それを実際に担う人は、現実の重みに囚われてしまうものだから。

いつか直接、話ができる機会があるといいけど。

エレナ

……

サイレンス

そういえば、あなたの調査報告書は読ませてもらったよ。

現状、主要国家の学会において巨獣関係の議論が仮説段階に留まっているのは、これまで実際の観測に基づく証拠がなかったからだった。

多くの人からすれば、巨獣の存在なんて神秘学的な与太話だったんだ。

でも今回、イェラグで巨獣の存在を裏付ける生命の痕跡が発見されたということは、科学技術において次の突破口にすらなり得るような、貴重な成果だと思う。

この発見について公表するのは、とても意義深いことだよ。

エレナ

ありがとう、オリヴィア。

でも、今はまだ……公表するつもりはないんだ。

サイレンス

何か気になることがあるの?

エレナ

いや、そもそもさ……

発見に至る発端は単なる偶然だったし、ほかの二人――私の友達の助けがあってたまたまそうなっただけで、私は大したことしてないから!

ましてや、今の私たちは巨獣のことを何も知らないも同然なのに、そんなこと公表したところで、イェラグにもっと厄介ごとを呼び込んじゃうだけだし。

探求心が科学者にとって最も重要な資質であるとすれば、功を焦ることは一番の敵でしょ。

科学者は、功績や名声を得たいと焦り、書物に自分の名を残そうと焦り、挙句の果てには自分がまだ真理の途上にいることを証明してくれる答えまでもを焦って求めてしまうものだから。

でも今回は、焦るつもりはないの。

誰かに向けて自分の正しさを焦って証明する必要はないし、間違ってるならそれでいいと思ってる。

これまでに大地を探求してきた人たちがどれだけ間違ってきたかと思うと、私が過ちを犯さない「賢い人」になろうとする必要なんてないでしょ?

私にはまだ時間があるから、ここから旅立つ前に、まずはこの大地のことを「何も知らない」って事実を認めることから始めたいの。

サイレンス

良い考えだね……あなたの選択を尊重する。

エレナ

そんなに大したことじゃないって……

要するに、もっと時間をかけて今回の調査結果を仕上げたいだけだから。そうすれば半端な論文を発表して恥をかくこともないし――

あっ、計算が終わった……位置が特定できたみたい!

ここって……


ノーシス

……

デーゲンブレヒャー

彼はまだ戻ってないの?

ノーシス

君はもうしばし安静にしてからでなくては、ベッドから起き上がれないものと思っていたんだが。

デーゲンブレヒャー

要らない心配をどうもありがとう。

それより、結局彼の思惑通りになったようね。

周囲を見回せば、広い執務室に置かれていた多くの古い調度品は撤去されており、この部屋はひと際空虚な印象を与えていた。二人の会話も微かに反響しているように思える。

ノーシス

そうなるのは、これが初めてではないだろう。

デーゲンブレヒャー

自分で作った面倒ごとの山を彼がどう片付けるつもりなのか、楽しみにしていたんだけど。

あの人、結局全部あなたに押し付けていったのね。

ノーシス

随分と不満があるようだな。

デーゲンブレヒャー

あなたのために怒ってあげてると言ったら、信じる?

ノーシス

……

私は、彼が戻ってくる可能性など考えてもいなかった。

彼はいつも、それが敵だろうと、親友だろうと、誰であれ自分の意のままに動かしてしまうからな。

誰の意見にも耳を貸さず、勝手にすべてを計画し、誰もやりたがらないような仕事を周囲の人間に割り振って……

……挙句、一番の困難は自分で背負ってしまうんだ。

デーゲンブレヒャー

いまだに彼の肩を持ってるのなんてあなたくらいでしょうね。

私には、エンヤとエンシアの気持ちくらいしかわからないわ。あの子たちは、彼の頭を地面に押し付けてやりたいと思ってるでしょうから。

ノーシス

まったく……

デーゲンブレヒャー

それじゃ、これからはカランド貿易の重責はすべてあなたの肩にのしかかるってわけね。せいぜい頑張ってちょうだい、エーデルワイス会長。

あなたの事業が上手くいくよう心から祈ってるわ。

ノーシス

君の真心に感謝するよ。

ところで、私は今、黒騎士のためにポストを用意しようかと思っているんだが。

広報部長かイメージキャラクター、あるいはブランドアンバサダーか……どうあれ楽な仕事ではないぞ。

デーゲンブレヒャー

いいでしょう。私に勝てたら、ここに残ってその仕事を引き受けてあげるわ。勝負は今、ここでしましょう。

ノーシス

……やめておこう。

デーゲンブレヒャー

だったら、この話は無しね。

元気でね、ノーシス社長。

ノーシス

待ってくれ、デーゲンブレヒャー。

……本当に出ていくのか?

デーゲンブレヒャー

……?

ノーシス

今の状況が、彼の約束していたものと違うことは承知している。

「イェラグをどこよりも強い国にし、我々が活躍できるような舞台に変える」と、彼はそう言っていた。

確かに、現状のこの舞台は小さくはないが、我々に求められていることは決して当初の理想通りとは言えない。

ゆえに、嫌気が差したと言うのなら――

デーゲンブレヒャー

彼と働き始めてから、いつの間にか随分時間が経ってたみたいね。

楽しかったとは言えないけど、嫌気が差すってほどのこともなかったわ。

……でも、あなたは一つ勘違いしてるわね。

ここにいるのは、エンシオディスの部下でもなければ従者でもないし、ましてや彼にお守りをしてもらわなきゃならない幼獣でもないでしょう。

私たちは、彼が何かを作り出してくれるのを待っていたわけではないし、見返りを期待していたわけでもない。

単にそれぞれの道を歩いていて、偶然、多少長い間同じ道を歩いていただけよ。

だから、本当に私にしかできないことがあるのなら、その時は私を呼びなさい。

ノーシス

ふっ……そうか。

デーゲンブレヒャー

ただし、それには一つだけ譲れない条件があるわ。

……昇進式は無し。いいわね。

ノーシス

……


温厚で紳士的な男性

ようやくお会いできましたね。

……エンシオディスさん。

エンシオディス

ご足労いただき、誠に光栄です。イェラグでの旅は、順調でしたでしょうか。そうであれば良いのですが。

ジャクソン

ええ、順調でしたよ。秘書にスキーの予定を取り消されたことを除けばですが。あれは実に残念でした。

さて、まずはお礼を申し上げます。

クルビアの研究者との意見交換の場で、彼らは皆、カランド貿易がイェラグでご提供くださっている安全な労働環境を高く評価しておりました。

天災時の観測所への物資供給の保障から、情勢が不安定であった際の研究者の保護に至るまで、イェラグは現代の文明国家として、相応しい責任を果たしてくださっています。

ライン生命がイェラグでの科学調査業務を円滑に進めてこられたのは、あなたとあなたのチームの尽力あってのことです。

エンシオディス

我々は責務を果たしたまでです。

イェラグは、此度のクルビアとの協力を極めて重視しております。

そしてイェラグには、いずれ未来に、次なる変革の波が大地へと押し寄せた際、あらゆる手を尽くしてチャンスを掴む準備もございます。

ジャクソン

「未来」というのは実に魅力的な言葉ですよね。

ある意味では、クルビアもイェラグも共に「若い」国家です。

私は、その若さが必ずしも悪いことだとは思いません。

それがあればこそ、我々はより大きな勇気と活力を持って、他者に先んじて未来を掴みに向かっていけるのですから。

時に、イェラグへ来る途中、少々意外なお話を耳にしましたよ。

貴国は先日、ヴィクトリアのカスター公爵との間に、ちょっとした「行き違い」があったそうですね。

そこでお伺いしたいのですが、あなたにとって、ヴィクトリアはすでにイェラグ、及びライン生命の安全を脅かすような存在となっているのでしょうか?

クルビアには、イェラグと共に中核国家の国際秩序を維持する意志も、その能力もございます。

あなたがお望みであれば……

エンシオディス

……ご厚意に感謝いたします、副大統領。

ヴィクトリアはイェラグの隣国として、常にイェラグの発展を気にかけてくださっているのです。この点については、恐らくクルビアと同様と言えるでしょう。

ジャクソン

おや、それが我々への非難の言葉でなければ良いのですが。

エンシオディス

両国間の競争や衝突が避けられない以上、イェラグとしてもこの問題を無暗に複雑化させる意図はございません。

それよりも、率直で忌憚のない交流ができればと願っております。

このイェラグという古き地には、いまだ多くの謎が眠っており、それこそが、我々が協力を求める動機であったはずですので。

ジャクソン

歴史と宗教、古く魅力に満ちた謎……

噂によると、カスター公爵は、イェラグの守護神イェラガンドが見せた「奇跡」を目の当たりにしたからこそ、兵を引き上げることを決めたそうですね。

エンシオディス

カスター公爵は極めて優れた手腕を持つ政治家です。たった一度の奇跡のみでは、その意志を揺るがすことはできなかったでしょう。

彼女はただ、イェラグにおいて自身の政治的目的を達成するには、想像以上の代償が必要であることを悟ったがゆえに、イェラグを敵に回すことをやめたというだけのことです。

ジャクソン

見事な駆け引きですね……ですが、他者から見ればそれはある種の合図として映ることでしょう。

中核国家の勢力図の中に、新たな国が勃興し――イェラグは今後さらに苛烈さを増していく競争への準備を整えたという合図として。

あなたから見て、それは本意に沿うことなのですか?

エンシオディス

誰か一人の意によるものと言うよりは、これが避けられぬ結果だったと言うほうが正しいでしょう。

テラはイェラグに発展を遂げるための猶予を与えてはくれません。競争と衝突が避けられぬ定めなら、隣国にイェラグの決意を知らしめることは、必ずしも悪いこととは限りません。

イェラグは一時の遅れを理由に追いつくことを諦めはしない、ましてや武力の不足を理由に自らの利益を守らんとする決意を捨てはしない、と彼らに知らしめるのです。

競争によって更なる発展を促し、衝突の中で平和を求めていくというのがイェラグの選択ですから。

ジャクソン

エンシオディスさんにはつくづく驚かされますね。あなたの言動は如何なる場面でも、老練の政治家さながらです。

失礼かとも存じますが、最後にもう一つお伺いしてもよろしいですか?

あなたはカランド貿易の社長を辞し、その上で蔓珠院のイェラグにおける正当性は維持したわけですが――今のご自身のイェラグでの地位をどうお考えでしょう?

変革に努める先進的な改革者でしょうか、あるいは強大な権力を握る軍閥の長でしょうか、それとも舞台の裏に潜んだこの国の真の支配者でしょうか?

エンシオディス

それは恐らく、私が答える問いではありませんね。

何年も後に、後世の人々が今を歴史として語る時、彼らがシルバーアッシュの名を覚えているとしたら――

人々にはこの名を、イェラグの次なる時代を築いた数多の礎の一つと見なしてもらえたらと願うばかりです。


空っぽの屋敷には人影がなかった。

調度品一式は昔と変わらず、しかし新品同様に整えられており、そこに身を置くと隔世の感を禁じ得ない。

チェスター

旦那様、お帰りなさいませ。

エンシオディス

ああ。

彼女たちは、留守にしているのか?

チェスター

ええ、お嬢様たちは旦那様が今日お戻りになるとは知りませんでしたからね。知っていれば引き留めたのですが。皆で食卓を囲むのも随分と久しぶり――

エンシオディス

構わない。いずれ機会はあるだろう。

今日は久しぶりに、少し休もうと思う。

チェスター

であれば申し訳ないのですが、もう少しお手を煩わせることになりそうなのです。今しがた、旦那様宛のお電話が入ったところで。

いえ、お電話というよりは、超遠距離の情報通信でしょうか……とにかくクルビアの方が設置してくださった新しい機械です。今お出でになりますか?

エンシオディス

ああ、繋いでくれ。


エンシオディス

やはり、お前だったか……

こちらは順調だ。先日の件もお前の助力あってこそだった。あれはイェラグにとって、重要なものだったからな。

勝利した、というのは正しくはないだろう。

辛抱強く根回しを行い、長年積み重ねてきた、そのすべてが然るべき結実を迎えただけのこと。

どう転ぶかもわからない勝負は、我々の次の対局まで取っておくとしよう。


イェラグの研究員A

体表温度、17.8。データは安定しているな。

放射線測定値、97.5。こちらも安定。

イェラグの研究員B

各指標はいずれも安全圏内であり、ターゲットの状態も安定している。サンプリング作業可能と判断。

我らのイェラガンドに……正真正銘、宇宙から落ちてきた代物が、こうして我々の眼前にあるとは。

イェラグの研究員A

ああ、我らのイェラガンドに……イェラグの変化はあまりにも急すぎるように思うな。


ミュルジス

コンコン、エレナ、聞こえてる?

中はどんな感じかしら? 大丈夫そう?

エレナ

ええと……あんまり良くはないですね。この新型パワードスーツにまだ慣れてないのもあると思いますけど。

中が、急に真っ暗になっちゃったんです。変なスイッチにでも触っちゃったのかな……あっ違う、ミュルジス主任がカメラの前に……近すぎるみたいです!

ミュルジス

あら、ごめんなさい!


ミュルジス

まあほら、そんなに緊張しないで。この手のスーツは大体の機能が自動化されてるし、ちょっと厚手の防護服を着てるくらいの気持ちでいたらいいわ。

ナスティも約束通り、この新世代スーツには絶対的な信頼性を持つ脱出装置を搭載してくれたのよ。危ないことがあったら、すぐに中から射出してもらえるわ。

エレナ

射出ですか!? すっごく高く飛んで行っちゃうんじゃ――

いや、そんな心配してる場合じゃないか……

ミュルジス

肩の力を抜きなさい。これはあなたの研究者人生の中でもハイライトに当たる部分なんだし、今を楽しむべきよ。

それじゃ、準備はいい?

エレナ

そうですね、ここまで来たからには……

大丈夫です! 行きます……!

山々の奥深くには、ほとんど人が立ち入ることのない空っぽの土地が隠されていた。

そしてその土地の中央には、空から降ってきた謎の物質があった。その周囲に設置されている無数の観測装置は、古代の祭壇を彷彿とさせる。

エレナはパワードスーツを操縦し、ゆっくりと前進していく。

彼女は、操縦席の中にいながら、いくつもの熱い視線が自分に注がれているのを感じていた。皆がこの歴史的な接触を待ち望んでいるのだ。

その青黒く不規則な形をした物体はすでに目の前だ。エレナは何度か深呼吸してから、ようやくゆっくりと手を伸ばした。

そうして差し伸べられたロボットアームが、それに触れる。

爆発も、閃光も、予想外の出来事は何も起きず、その接触はただの握手のようだった。

それは、舞い落ちる雪のように柔らかに思えた。


ライン生命研究員

エレナ班長、サンプルの初期分析結果が出ました。

エレナ

どうだった!?

ライン生命研究員

それが、とても意外な結果で……

サンプルの中の成分の70%は特定不能で、我々の知るどの物質にも該当しませんでした。

ただ、見たところ物質構造に深刻な損傷があるようなのです。

加えて、残りの30%については断言可能なのですが……

その主要構成要素は、エルフの体細胞とほとんど同じでした。

ミュルジス

エルフ……ですって?

どうして……エルフが、宇宙から……?

ライン生命研究員

理由は想像もつきませんが、サンプル比較の結果から見て、これは明らかな事実です。

エレナ

その30%がエルフと同じだとして……構造が損傷を受けているのは、ここへ落ちてくる前に危険な目に遭ったからなのかな?

エンヤ

これが例の「隕石」ですね?

エレナ

エンヤ――じゃなくて巫女様、どうしてこちらに?

エンヤ

しーっ、お静かに……

こっそり蔓珠院を抜け出してきたんです。空から来たものを間近で見られるチャンスとあれば、逃せませんから。

それにしても、こうして見る限り異常は見受けられませんね。もう少し危険なものを想像していたのですが。

エレナ

未知の存在である以上、一定の危険はあるけどね。

これがイェラグに降り立ったのは、偶然や事故によるものなのか、あるいはイェラガンドが眠りに就いたことと因果関係があるのか……

現状、研究のとっかかりすら見つかってないんだ。

エンヤ

むぅ、科学者のお仕事も大変ですね……

おや? こちらのモニターは……

エレナ

ああ、それは音波を画像化する装置だね。

これまでの観測でわかったんだけど、この未知の物体から、ある亜音波が絶えず放出されてるんだ。

同一の周波数を繰り返していて、それがかなり規則的でね。

エンヤ

不思議ですね……その説明を聞かなければ、何かの文字だと思っていたところです。

エレナ

文字……?

エンヤ

ええ。周波数の形だけを見ると、古代のイェラグで使われていた情報伝達用の記号によく似ているのです。

それはとても簡素で、語彙も非常に少ない記号で、通常は岩や木に刻み付け、仲間に獲物の位置や凶暴な獣の出没情報を伝えるためのものでした。

こうして思い返してみると、やはりそっくりですね。

エレナ

ねえエンヤ、その記号、あなたはわかるの? 翻訳できる?

エンヤ

少し思い当たっただけですから、本気で解読を行うのなら、蔵経閣へ向かって『記憶と記号』という本を取ってこないと――

エレナ

ここにあるよ!

エンヤ

え?

エレナ

前に蔓珠院に忍び込んだ時、念のために貸出可能な本は全部スキャンしてきたの。端末の中に一通り……ほら!

エンヤ

まさかそんなことを……

エレナ

エンヤ、お願い……!

エンヤ

わかりました、やってみましょう。

エンヤはエレナから端末を受け取り、案内されるままにその古文書を開いた。

そうして、書物の中の図案と照らし合わせつつ、傍らの雪上に指で訳文を記していく。そうして出来上がったのは、ある一文だった。


滅びはすでに降臨した