辞歳行TA-3・戦闘後聚墨痕
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ウルサス極東炎カジミエーシュリターニアヴィクトリアカズデルシラクーザレム・ビリトン
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辞歳行 TA-3・戦闘後

聚墨痕

ズオ・ラウ

チェンさん、手に持っているものをお返しくださ――

チェン

人質を放せ!

モー・イー

その前に木錠を返して!

チェン・ジャオチェン

えっと、皆さん……あの、一旦落ち着いて、ゆっくり話を……

???

遠くからでも下の階の物音が聞こえたので、どこぞの器鬼がまた暴れ始めたのかと思えば。

まさか、三人の客人が武芸の勝負をしておられるとは。

ズオ・ラウ

リャンさん?

リャン・シュン

ズオ公子、ご無沙汰しております。

チェン

(ズオ公子……ロドスで聞いたことがある名前だな。)

リャン・シュン

閣内の禍乱がなかなか鎮まらず、どう解決したものかと案じていたところですが……

司歳台がズオ公子を遣わしてくださったのを見て、ようやく安堵いたしました。

ズオ・ラウ

いえ、私は……

リャン・シュン

……おや、私の勘違いでしたか?

ズオ・ラウ

監正様にはお考えがあってのことです。リャンさんのご心配には及びません。私がここにいる限り、必ず全力でご協力します。

リャン・シュン

では公子がこちらの女性の方を捕らえようとしているのも、監正様のご意思でしょうか?

ズオ・ラウ

彼女の名はモー・イー……山海衆の一員です。数日前に邙山町で騒動を起こしたほか、今回も器鬼が跋扈する百灶に姿を現しました。

行動の不審さゆえ、徹底的に調査しなければなりません。

モー・イー

ズオ持燭人におかれましては、本当に堅物で何一つ人情ってものが分からないのね。

リャン・シュン

山海衆ですか……

モー・イー

(チェン・ジャオチェンをしっかりと拘束し、警戒して後ずさる)

リャン・シュン

百灶には戒厳令が敷かれています。山海衆がこの場でいたずらに騒ぎを起こそうとしているなら……モーさんは、むしろ「勇敢」と称えられるべきかもしれません。

モー・イー

ふふっ。あなた、外見はそっちの持燭人よりも堅そうだけど、案外話が分かるじゃない。

じゃあ、このズオ公子を説得してくれない? とりあえず私ばっかり狙うのはやめろって。

リャン・シュン

私はなにぶん位も低く、発言力も持っておりませんので、ただモーさんにそちらの……私の同僚の方を見逃していただけるよう、お願いするばかりです。

「山川湖沼を遍く眺め、自然物理を尽く究める」ことこそ、千年前の山海衆最初の信条。無辜の人を傷つけることは、モーさんの本意ではないはず。

ズオ・ラウ

リャンさん?

モー・イー

あなた、なぜそれを……

……ふん。

しばしの沈黙の後、モー・イーは刀を鞘に収め、盾にしていた典水官を軽く押し出した。

チェン

大丈夫か?

チェン・ジャオチェン

ええ……

新入りの謄録郎さん、ありがとうございます。

リャン・シュン

お構いなく……

しかし、私の見当違いでなければ、その剣は……

陳家のお嬢さんが今の百灶にいらっしゃるとは、私も予想していませんでした。

チェン

玉門参知のリャン・シュン殿か。以前、玉門でウェイの側にいるところを見かけたことがある。

要職にある身で「位が低く発言力を持っていない」と言うのは、謙遜が過ぎるのではないか。

リャン・シュン

今の私は、この天鏡閣に勤める一介の謄録郎に過ぎません。お嬢さんは遠路はるばるお越しになったゆえ、私の辞職をご存じないのも無理はございません。

モー・イー

(ズオ・ラウの手に握られた木錠を凝視する)

ズオ・ラウ

まだ勝手に動く気か!

モー・イー

ちっ。印はともかく、その木錠はそもそも私のものじゃない!

ズオ・ラウ

……だから何ですか?

モー・イー

あなたねぇ!?

ズオ・ラウ

ここに来た目的を、正直に吐いてください。その返答次第で木錠の処分を判断します。

モー・イー

……言ってもどうせ信じないでしょ。

ズオ・ラウ

老天師はなぜあなたを百灶に遣わせたんですか?

モー・イー

はぁ……

あのお方が言ったのよ。戦争を前にして街が混乱してるから、手柄を焦る人や力を誇示する人が事件を起こすのは必至……「持燭人の小僧が都に戻れば、多数の妨害を受けるに決まってる。」ってね。

あのお方はリン少卿とユンさんを連れて行ったんだから、感情的にも理屈的にも、ズオ持燭人にも助っ人を用意すべきでしょ。

それで、「もしあの小僧の公務を妨害する者が現れたら、できる限りそばで助けてあげな。」って言われたわけよ。

じゃなきゃ、あなたみたいな朴念仁を好きこのんで助けるわけないでしょ?

ズオ・ラウ

……ではこの木錠は?

モー・イー

……

ズオ・ラウ

まだ隠し通すつもりですか!?

モー・イー

……母ちゃんの形見よ。

三人

……

ズオ・ラウ

えっ……

モー・イー

もう人質も解放したし、母ちゃんの形見もあなたの手にある。これ以上どうしろって言うの?

ズオ・ラウ

それは……本当に老天師の命令であったとしても、一度司歳台まで同行してもらいます。これまでの事件の数々について、はっきり説明してもらう必要がありますから。

これ以上騒ぎを起こさないのなら、事が終わった後に傷一つなく木錠を返すと約束します。

モー・イー

どうせ木錠を人質にして、私に言うことを聞かせたいんでしょ?

ズオ・ラウ

……

モー・イー

だから言ったじゃない、今の司歳台は――

リャン・シュン

皆さん、誤解が解けた以上、ひとまずこの話題は切り上げて、現状を整理しませんか?

望日二日前 午の刻

チェン

リャン殿、あなたはずっと天鏡閣にいたそうだが、あの無から現れた甲冑兵が何者か知っているのか?

リャン・シュン

それに関しては、私よりズオ公子からご説明いただいたほうがよろしいかと。

ズオ・ラウ

あれは「器鬼」と呼ばれるものたちです。

司歳台の研究によれば、一部の巨獣は命なき物に命を宿らせる権能を持っています。絵画、器具、文字……あらゆるものが対象になりうるのです。

現在百灶に現れている器鬼は、おそらく天鏡閣の史書に書かれた、大討伐時代の炎国軍隊の姿を借りた「字鬼」でしょう。

このタイミングでの出現は、おそらく陵墓内部の異常な動きと関係があります。ただ、なぜ現れたり消えたりするのかについては、私にも――

モー・イー

あれは巨獣の吐息よ。

「生物、之れに息を以て相吹く」。こいつらの出現頻度がどんどん上がってるのは、つまり――「あれ」が夢から醒めようとしてるってことよ。

ズオ・ラウ

なぜそれを知っているのですか?

モー・イー

言ったでしょ。巨獣の研究については、あなたたちの方が後発だって。

チェン

では、この字鬼はなぜ天鏡閣から発生しているんだ?

リャン・シュン

私は巨獣に関する学問に精通しているわけではございませんが、天鏡閣に関しては、一つ心当たりが……

ズオ・ラウ

リャンさん! ……そのお話はどうかご慎重に。

モー・イー

いい加減にしなさいよ。もうこんな状況なのに、まだその規則を頑なに守り続けるつもり?

チェン

司歳台の秘密を探るつもりはないが、今は緊急事態なんだ。情報を共有する必要がある。

ズオ・ラウ

……

ここに保管されているのは、かの消えた代理人がこの世にただ一つ残したもの……

「書刀」です。

チェン

書刀?

チェン・ジャオチェン

まさか、一度も開かれたことのない、天鏡閣の最上階に……?

ズオ・ラウ

あの書刀は極めて特殊なものです。例の代理人が消えてから、彼女がかつて心血を注いだものや、昼夜問わず側に置いていたものは、ほぼ全て消えてしまいました。

……ただ一つ、あの書刀だけを残して。

今、街で暴れている字鬼は文字から生まれたものですから、あの書刀と関係している可能性は高いでしょう。

二人

……

リャン・シュン

……それならば辻褄は合いますね。

ズオ・ラウ

というと?

リャン・シュン

……

チェン・ジャオチェン

先日から、兵部の方が何の理由もなく、何度も天鏡閣へ捜査に来ていました。

しかし、天鏡閣の事務はかねてより礼部の担当。そのため、リャン様は何度も粛政院に告発文を提出していました。

ここ数日、ようやく大人しくなってくれたところです。

ズオ・ラウ

兵部ですか?

確かに先程、大通りで巡防営の人たちが私を引き留めようとしていました……

リャンさん、まさか……太尉側が何か動いているのでしょうか?

リャン・シュン

……

モー・イー

その巡防営は、あなたたち司歳台の持燭人と同行してたじゃない。それについてはだんまりってわけ?

ズオ・ラウ

なっ……!

リャン・シュン

……

モー・イー

ふふっ、ただの憶測よ。

司歳台と太尉の一派が、何やら公にできないことを企んでる……とまでは言ってないわ。

ズオ・ラウ

派閥争いなど、司歳台とは無縁のものです!

チェン・ジャオチェン

あら、百灶朝廷の高官や貴族の中に派閥争いと無縁の人がいるなんて、聞いたこともないですね。

ズオ・ラウ

……戻って監正様に報告すれば、自ずと明らかになります!

モー・イー

ただの憶測って言ってるでしょ、そんなムキにならないでよ。

チェン

……だとしても、兵部が書刀を探す理由が分からないな。

字鬼に関わること以外で、書刀にはどんな用途があるんだ?

リャン・シュン

一般的な書刀は、文字を綴った竹簡の書き損じなどを削るために、古代で使われていた道具です。しかし、その代理人の書刀が持つ力については……私にはわかりかねます。

モー・イー

ズオ公子、何か詳しい話を知ってるんでしょ? さっさと吐きなさいよ。

ズオ・ラウ

……

その代理人は生前、長きに渡って炎国の史書編纂に協力していた者です。また、非常に特殊な権能を持っていました。

司歳台の記載によれば――「その筆は天人の際を究め、その刀は古今の変に通ず」。

その書刀は、どうやら一部の……触れられぬ物を削除、または改変できるもののようです。

一個人の名前、一個人の存在、さらには……一節の歴史まで。

二人

……

チェン・ジャオチェン

冗談はおやめください……そう簡単に歴史を変えられるはずがありません。

そもそも「歴史を改変する」とはどういうことです? 人々の記憶を書き換えるんですか? それとも、一言で多くの人々を消し去れるとでも?

ズオ・ラウ

巨獣の権能は我々の常識をはるかに超えています……一般的な道理で推し量れるものではありません。

ただ司歳台の研究結果では、かの代理人の書刀は事実としてそのような事象を成せるとのことです。

リャン・シュン

どうやら、ズオ公子も事情を完全にご存知というわけではないようですが……

書刀を手に入れようとする不届き者は、おそらくそれをどう用いるべきか熟知しているでしょう。

チェン・ジャオチェン

なんてこと……

では……結局私たちはどうすればいいんです?

不届き者の手に落ちるのを阻止すべきでしょうか? それとも、書刀の力を借りて街で暴れる字鬼を止めるべきでしょうか?

ズオ・ラウ

私の知る限りでは、書刀は何年も前から天鏡閣の最上階に隠匿されているはずです。また司歳台側も、書刀に何重もの封印を施しました。

封印を解くには二つの鍵が必要で、監正様と四番目の代理人がそれぞれ一つずつ所持しています。二人が同時にここに来なければ、封印を解くことは絶対に不可能です。

モー・イー

……もしかしたら、あなたが界園から持ち出した印が使えるんじゃない?

試してみたら?

ズオ・ラウ

――!?

なりません!

私たちは書刀の力も知らなければ、界園から持ち出した印についても全くの無知です。そんな軽々しい行動を取るのは――

モー・イー

あーはいはい。あれもダメ、これもダメ。じゃあ私たちは、歳獣が目覚めて百灶と相打ちになるのを指咥えて見てろってわけね。

チェン

……

リャン・シュン

先程から黙っておられますが……何か疑問に思うところでも?

チェン・ジャオチェン

チェン・フェイゼ、一体何を考えているんです?

チェン

……リャン殿、はっきり言ってほしい。あなたの言う「不届き者」とは誰のことだ?

リャン・シュン

お嬢さんが今回百灶にやって来たのは、ウェイ閣下の命を受け、私事を片付けるためではないでしょうか?

チェン

……

リャン・シュン

ウェイ閣下は今どちらに?

チェン

行方不明だ。

リャン・シュン

……

ズオ・ラウ

行方不明!?

ウェイ閣下は武芸に優れた方……常人がどうこうできる相手ではないはずです!

リャン・シュン

お嬢さんが百灶にいらしたのは、もしや……ウェイ閣下がすでに百灶におられると考えてのことではないでしょうか?

チェン・ジャオチェン

ふざけないでください! あの人の身分で勝手に都に来るなんて、「異心を抱いている」という糾弾を恐れていないんですか?

三人

……

モー・イー

ふふふふっ、最高ね。ここにもお偉いサマたちのドロドロした思惑があるなんて。

チェン

リャン殿、今は緊急事態である以上、建前はもう結構だ。

あなたから見て、書刀、巡防営、司歳台、そして兵部の異常な動き……それらとウェイの失踪には、関係があると思うか?

リャン・シュン

断言はできません。ですがウェイ閣下が失踪するまでは、ああいった異常な動きが露骨に行われることはなかったと記憶しています。

ただ、私の知る限りでは、果断で時に無鉄砲とも言えるウェイ閣下に対して、陛下は非常に慎重で、それを優柔不断と捉える人もいるほどです。あのような露骨な手段を取るとは……

チェン

だとすれば、もしやウェイの弱みを握った太尉の一派が奴を百灶に呼び寄せ、「歴史を改変する」書刀の力を借りて、何らかの……

いや、気性の荒いウェイのことだ。もし誰かに弱みを取られようものなら、百倍にして返すだろう。

まさか、奴自ら……!?

……違うな、奴が百灶に戻ったのは、真龍の勅命に従ってのこと。突然心変わりでもしていない限りは……だが、もし真龍に呼ばれたのなら、なぜあれほど人目を避けていたんだ?

リャン・シュン

……

人心測り難く、特に閣下の心は知れません。もしご心配であれば、「不変を以って万変に応ず」と言うように、まずはこの天鏡閣から着手し、書刀の由来を明らかにしてはいかがでしょうか。

モー・イー

「不変を以って万変に応ず」、よく言ったものね。

じゃあ、書刀でどんなことができるのか、それをどうすれば守れるのかについては、どこに行けば分かるのかしら?

リャン・シュン

皆様には――

ズオ・ラウ

(小声)リャンさん、彼女は――

リャン・シュン

上へ登っていただきます。

天鏡閣は上へ行くほど、所蔵されている書物は希少さを増します。上手く使えば、必ず大いに役立つでしょう。