辞歳行TA-4・戦闘前小雪崩
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ウルサス極東炎カジミエーシュリターニアヴィクトリアカズデルシラクーザレム・ビリトン
ウルサス極東炎リターニアカズデルシラクーザレム・ビリトン

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辞歳行 TA-4・戦闘前

小雪崩

故なき執念、寄る辺なき足掻き、謂れなき犠牲……数百年前から、お前は常に焦燥の炎に身を灼かれてきた。

我の覚醒を四、五百の周期に分け、一つの周期をさらに十二に分け、さらにそれを三十に分け、また分け、また分け……

一分、一秒ごとに、お前は胸の内で算当し、いつ訪れるとも知れぬ「終わり」を恐れ続けてきた……

せいぜいが幾度か夢を見た程度の時間に過ぎぬ。我の我よ、いつからそれほど軽慮浅謀の輩へ落ちぶれた?

ウァン

もしも一つの意志がなく、一つの主体がなく、時に尺度を定めようとする者もいないのなら、光陰とはただ無意味に巡るだけのものだ……

まさに、お前が陵墓で過ごした歳月と同じように。

何も知らず何も覚えぬお前に、その時間を定義する資格などない。

ふっ……所詮はただの夢だ。

消え失せる定めを前にして狂乱する夢の方には、資格があるというのか?

759年

覚悟した山海衆

山海八荒、尽く其の主に帰す!

炎国辺境軍

妖言で人々を惑わしおって!

覚悟した山海衆

はぁ、はぁ……

炎国辺境軍

武器を捨てよ。さすれば命までは取らぬ!

覚悟した山海衆

武器を捨てるだと?

我らは炎氏の血脈に知らしめに来たのだ。矩獣は目覚め、奴が永劫に続くと思い込んでいる国家など、この無限の天地と比べれば、黄粱(こうりょう)の夢に過ぎぬとな!

山海八荒、尽く――


ほろ酔いの官吏

さあ、飲め!

厚遇にうろたえる兵士

あなた様に酌をさせるなど恐れ多い――

ほろ酔いの官吏

遠慮するな!

数百年の時を隔て、我らはついに大討伐で漏らした最後の禍を討ち取ったのだ。この一戦をもって、炎国全域は完全に安泰となった!

この酒で、諸君らを称えよう!

厚遇にうろたえる兵士

ありがとうございます!

ほろ酔いの官吏

もちろん、お二人にもだ。

シュオ殿は先陣を切って一騎当千の働きをされ、軍心を大いに鼓舞なされた。ウァン殿の用兵と布陣も、まさしく神算鬼謀であった。

今日の矩獣討伐については、お二人こそ第一の功臣だ。

この一杯は、私の敬意を表すために飲み干そう。

シュオ

……ありがたくいただこう。

ウァン

……

ほろ酔いの官吏

ウァン殿。せっかくの機会だ。率直に話しておきたいことがある。

朝廷内で、ウァン殿に対する流言飛語が少なからずあったことは某も知っている。ウァン殿のことを、良からぬ企みを抱く異種族と見なすものばかりであった。

だがウァン殿は称賛も非難も意に介さず、炎国のために並ぶもののない功を立てられた。その高潔さは、まこと敬服に値する。

司歳台が代理人各位に課している制限は決して緩いものではないことは承知している。そのうえ、兄弟姉妹同士の団らんにまで干渉するとは、あまりに人情に欠ける措置だ。

今回都へ戻った後、必ずや陛下に奏上しよう。君たちの一家団らんを特別にお許しいただけるように……


泥酔した勅使

今日は実に良い日だった。酒の強さには自信があったが、さすがにもう限界だ……

実を言うとな、出征の前に上から命を受けていたのだ……代理人が何か仕出かさぬよう、よく見張っておけとな。

だが今日の一戦で、お二人とも……二心なき忠誠を、証明してくれた……敬服に値する!

それでは……見送りはここまでだ! どうか……お達者で!

役人は酔いが回り焦点の定まらぬ目と、ろれつの回らない舌で二人に別れを告げると、衛兵に囲まれながら次第に遠ざかっていった。

シュオ

……あの者は善人だが、密偵には不向きだな。

ウァン。もし彼にお前の行いを悟られていたら、我ら一家がどれほどの厄介ごとに直面していたと思う?

ウァン

兄さんは酔っている。

シュオ

いっそ酔夢であればどれほど良かったか。

……一体何故、矩獣を独断で見逃した?

ウァン

……

伏兵として一手残しておいた方が、無策であるよりは良い。

シュオ

ウァン、此度は誰と勝ちを争っているのだ?

ウァン

全員が感じているはずだ。我ら全員がそれを知っている……あれが目覚めつつあることを。覚醒の速度は、千年という従前の予測よりも遥かに早い。

他に助けとなるものを確保せねばならないんだ。

シュオ

矩獣は歳を除くのに協力すると同意したから見逃したのか?

ウァン

奴は山海衆すら守れぬほど弱り果てている。まだそこまで話していない。時期尚早だ。

シュオ

言っただろう。歳の影響から逃れる方法は、まだ他にもあるはずだと――

ウァン

言わんとしていることは理解している。お前はようやく自分自身と歳とのもつれを解きほぐした。「我」が「我ら」となり、「我ら」が「あれ」とならぬことを望んでいるのだろう……

だからこそ、「己」をあの剣に封じ込めた。立派だな……

だが、その後はどうなった? ふっ、司歳台は剣を兄さんに返したか?

我らは今なお桎梏をつけて生き続けている……

シュオ

枷は、身の外に在るものではない――

ウァン

本気で、誰もが自分と同じような境地に至れると信じているのか?

シュオ

……

ウァン

お前は何も忘れない。何一つ例外なく心に留める。数百年の間に人も、事も、物も、何もかもが川の水の如く流れてゆくとしても、シュオだけはシュオのままだ。

だが、誰もがお前のようになれるわけではない……

その境地に至るまで、シーにどれほどの時間をやるつもりだ? ユーはどうする? ユーをお前のように変えることが、本当にいいことなのか?

千年あっても到底足りない。そして、我らには千年すらも与えられていない。

もはや時は残されていないのだ。

シュオ

碁の道ではお前に及ばないが、私にも理解している道理がある。たとえ今は勝つための奇手が見えずとも、正々堂々たる本手は、過激な無理手に勝る。

ウァン

つまり兄さんは、この一局にもはや勝ち目はないと? 勝てぬのなら、せめて正々堂々と臨めば、たとえ敗れても恥じることはないと言いたいのか?

シュオ

何故そうなる……

ウァン

お前の方策では、私たちが望む結末に至ることはない。

シュオ

……では、どうすべきだというのだ?

もしお前が本当に実現可能な道筋を導き出したのであれば言え。私も共に行く。その方が幾分か勝算は高くなるからな。

どれだけ自信があるか言ってくれれば、お前の指図に従おう。たとえ私の命が必要だと言われても、喜んで差し出す。

……だが、お前は己が何をしているか本当に分かっているのか?

お前の心には自身の勝敗しかなく、危険を顧みることも、それがどんな結果を招くか考えたこともないのではないか?

ウァン

……

シュオ

教えてくれ。

ウァン

……

シュオ

答えろ。

ウァン

……

シュオ

有るのか、無いのか!

抑えきれない激情に駆られた代理人は、石机を思い切り叩こうとした――本来はそうするはずであった。

しかし、彼は人の身体にまだ馴染んでおらず、力加減ばかりか、叩きつける位置をも誤った。

ウァンが常に携えていた碁盤に、瞬時に一寸ほどの深さの亀裂が入る。

ウァン

……

シュオ

ウァン、これは――

ウァン

兄上が自ら作り上げたその「人」の肉体は、人でありながら碑を砕き石を裂くほどの力を持つようだ。感服するな。

シュオ

……話を聞け!

ウァン

必要ない。

私たちの中で、兄上の境地に至れる者は一人もいない。弟妹の生き死についても、兄上が案じる必要はない。

シュオ

ウァン!


ウァン

……どうしてここに?

リィン

怨憎が顔を覆っているよ。長兄と諍いでも起きたのかな?

ウァン

……

リィン

案の如くか。私がほんの少し酒醺を楽しんでいた間に揉め事を起こせるのだから、君たちも勤勉だ。

ウァン

兄さんに用があるなら、行けばいい。

リィン

どうしてそう応化というものを知らないのだろうね?

諍いのわけは知っている――歳を除くことだろう。

ウァン

……

リィン

このことで争うのが初めてでもあるまいに、同を求めて異を存することが、なぜできないの?

ウァン

事は生死に関わる話だ。その一言で流せるものではない。

リィン

まさか真の災いが訪れたその時にも、兄弟で争っているつもりじゃないだろうね?

ウァン

……

リィン

きちんと話すべき時に逃げてはいけないよ。後に引き延ばしてしまえば、些事も長じてしこりになるものだ。

ウァン

今日はいい。

リィン

兄さん……そう言わずに、ちょっと――

囲碁バカ、君は今年でいくつだ! 妹の前で童のように拗ねて、恥を感じないの?

ウァン

……


リィンが先を歩き、ウァンは緩慢に後に続いていく。

東屋の傍らで最年長の代理人が背筋を伸ばして座っているのが二人の目に入った。

リィン

長兄。

シュオ

下の妹か……

リィン

一度ならず伝えたはずだけど、「下の妹」だと、まるで私の妹を呼んでいるようで、私を呼んでいるように聞こえないね。少しは直す素振りを見せてくれてもいいんじゃないかな。

シュオ

すまない、癖がなかなか抜けないのだ。

リィン

長い時をかけてできた癖だからね。無理もない。

やれやれ。この碁盤は……喧嘩なら口ですべきところを、物に当たるなんて。君たちは三歳の子供か?

ウァン

……

シュオ

……

しばらくしたら良材を探し、新しいものを作ってやろう。

それとも、やはりこの碁盤がいいか? それならそれで構わない。ニェンかイーがいる時にでも、頼んで直してもらうとしよう。それでどうだ……?

ウァン

……必要ない。

リィン

はぁ……まるで人の世に足を踏み入れたばかりの頃に戻ったみたいだな。あの頃は、事ある毎に二人が争う姿を見ていたものだった。

当時の持燭人が不安げにこう聞いてきたっけ……

「あの争いっぷり、この先兄弟姉妹が全員野に放たれたら、どうなることか。なんとか予測をつけるか、いっそ争いは予約制にできませんか? 私も朝廷に奏上して避難を手配せねばなりませんし!」

シュオ

……コホン。

ウァン

……

リィン

こうしよう。長兄は今日のところは先に帰ってくれ、次兄とは私が話しておくから。

今回はこの妹が伝言役を引き受けようじゃないか。二人が怒りに任せて、また何か壊したりしないようにね。

シュオ

……いいだろう。

ではこの碁盤は……

ウァン

……置いて行け、私が直す。兄上が気を揉む必要はない。

シュオ

分かった。

リィン

ふむ、まだ拗ねているようだね。

ウァン

そんなことはない。

リィン

知ってるかな? 君が本当に心穏やかな時は、あの人を「兄上」なんて呼ぶことはないんだよ。

ウァン

……

リィン

それでは、話を聴こうか。一体どんな会話をしていたのかな?


リィン

……予想通りだね。

長兄のやり方は正々堂々たるものだけれど、それを巧遅と言われても否定はできない。ある日突然に歳が目覚めてしまえば、挽回の術はない。

そして君は……はぁ。

どうしても正面切って長兄と事を構えるつもりであったなら、せめて自分なりに良策を用意してから、騒げば良かったのではない?

兄さんは私たちの潔白を証明するために、命と同じほど大切な剣まで差し出したのだよ。本当に少しも感謝をしていないの?

ウァン

……

リィン

まさか本当に碁盤を壊されたことを怒っているわけではないよね?

ウァン

その程度……

ただあまりに悠長で漫然とした様子に、腹が立つだけだ。

リィン

兄弟姉妹の誰もが、万障繰り合わせることのできる道を探しているよ。それを言うなら、シーちゃんなんて怖がりながら時が過ぎるのを待つだけだけど、まさかあの子にまで腹を立てるの?

ウァン

まさか……そういうわけではない。

リィン

歳の覚醒が早まりつつあるのを感じて、皆が焦思するのも無理はない。一時言葉を誤るのも、争議を起こすのも、いずれも詮無いことだ。

それに、歳が目覚めるまでには、少なくとも百年単位の時を要するが、もし今炎国と袂を分かてば、混乱は一朝一夕の間に生じることになる。

何か? 私の今の発言も悠長だと思う? それならそう述べてくれれば良いよ。

ウァン

……そうは思わない。

先ほど、皆が道を探していると言ったな。

お前が探しているのは、何だ?

リィン

随分と耳が聡いね。

歳であれ、私であれ、つまるところは、どれも大いなる夢に過ぎないのだ。

先に言っておくが、これはあくまで不完全な考えで、どこまでできるのかは自分でも分かっていないからね。

だけど私は……一つの夢を残したいと思っている。

歳が完全に目覚めても、邪魔されることのない夢を。