辞歳行 TA-11・戦闘後
長生劫
太古より流れ込んだ記憶が四散し、歳の巨大で空虚な意識を洗い流していく。
残された意識は夢境の狭間を這いずり、留まるためにしがみつけるものを探した……
しかし今や夢境は、一字も刻まれていない書簡の如く空漠としており、色と模様の差異こそあれど、本来そこにあるべき人物や出来事を捕捉することは叶わなかった。
……歳は敗れた。
疑いようもない。
お前は歳の肉体を奪い、取って代わろうとしている。だがお前の兄弟姉妹はどうなる?
私と再び会うことはない。ましてや、お前の空白を埋めることもない。
ならば、我は消えぬ。いつまでも在り続ける。
この肉体を占める者が誰かに関わらず、空洞はすでに生じた。お前が穴を埋める気がないというのなら、我は永遠にここに在り続け……
……この肉体の主を苛み続けるのか?
……彼れの意志を体すること、彼れの精神を苛むこと、その二つは元より表裏一体だ。
お前の空白を埋めるものはやがて現れる。
今のお前に残るは感情のみ。満々と豊かな感情も、欠けた意識の前では、何ら意味を持たん。さもなくば、歳の怨恨がとうにすべてを満たしていよう。
……ふっ、案ずる必要はない。
間もなくお前を埋めるものは、お前より遥かに恐ろしい。
白い造物を背後に残し、代理人は歩みを進める。
空っぽな己の精神の中で溺れ、死に至ろうという巨獣が、痛ましい雄叫びを上げた。
しかしほどなくして苦痛と悔しさを示す叫び声すらも消え去ると、場には巨獣の死に間際の空虚なこだまだけが響く。
(混沌とした余喘)
お前は死ぬ。
……我が死ぬ?
我は誰だ? なぜ死ぬ?
……お前は、この上なく傲慢な夢想者だ。夢の中で進化の推論を果てなき星の海にまで広げた。
だがその驕誇な進化は人によって、正にお前が取るに足らぬと蔑んだ人間によって阻まれた。
お前の憤怒が、憎悪が、悔しさが、お前をついに死地へと導いた。
だが最後の最後、お前は私の手で死ぬ。
お前は……!
(混沌とした余喘)
未来を……己の手で壊すというのか?
滅亡から逃れ、際限なく膨張し、やがて虚無へと至る、あの進化を辿る未来か?
あれは、お前の決して実現しない夢だ。
進化はお前の死によって停滞しはしない。それは千年に亘り苦しみ続けた意志の終結であり、解放に過ぎない。
お前が、己のためだけに瞬くあの星の海、あの輝く未来への執着を到底手放せぬと言うのなら……
……良い夢を見ていろ。
空間が揺れ始め、遂に崩壊した。
代理人と巨獣の影が徐々に近づき、重なり、やがて二度と分かたれぬ一つとなった。
――こうして、新たな「歳」が誕生した。
シュウ姉、まだいけるか?
ええ、大丈夫よ。ただこうもずっと小粒な相手に力を振るっていると、どうしても気が滅入るわね。
おい、シー! あっちだ。あっちを叩け、字鬼がすげー集まってるぞ――
どっちよ?
私の指差してる方向だよ!
何もないわよ!
何言ってんだ、あんなに――
ニェンは言葉を失った。
そこには本当に何もなかったのだ。
そこだけではない。まるで誰かが密かに大地の上の汚れを拭い去ったかのように、先ほどまで跋扈していた字鬼が、忽然と消え失せていた。
刀を下ろせ! 俺を切るつもりか!
何言ってんだ! 俺は怪物を倒そうとして……
……あれ? さっきの怪物は?
……
了解した。
司歳台より急報。字鬼はすべて消失したとのことだ。
俺たちは……勝ったのか?
気を緩めるな――
地震!?
歳だ。
全部隊撤収。ただちに開けた場所へ移動せよ!
震動が遠方から伝わってくる。
……時は来た。
真龍は装置を起動するための玉璽(ぎょくじ)を握り締めた。錯覚であるかもしれないが、彼は確かに、目の前の装置と自身の血脈が繋がっているのを感じた。
少しの逡巡の後、巨大な幻影が目の前に現れ、源石の光をほぼ覆い隠した。
……
お前は……歳なのか?
幻影が威嚇にも似た唸り声を上げる。真龍はその中から、数十年前に耳にした、嗄れた声を聞き取った。
いや……お前はもうあの歳ではない。
だが、あれの記憶と夢を、思考と感情を受け継いでいるのか? どれほど?
お前はこの先、炎国の助けとなるのか、それとも災禍となるのか、どちらだ。
お前はウァンなのか、それとも新たな歳なのか、どちらだ。
あれの持っていた蒼白な記憶、枯死した夢境、衰え果てた思考、汚れた感情……今、それらすべてが私の意識の中で沸き立ち、ぶつかり合っている……
だが……お前の直感は当たっている。
歳は死した……!
巨大な幻影は天地を震わせる咆哮を上げた。
だがお前が、お前たちの先祖が、お前たちの国が――お前たちがあの歳に作った借りが、私と私たちに引き継がれるか否かはまた別の話だ。
お前の身に纏わりつく術法こそ、お前の先祖が私たちに対し、千年の束縛を課した厳然たる証しだ!
もはや記憶は色褪せた。夢は枯れた。思考力は衰えた。感情は沈んだ。だが、怒りだけは! 千年抱き続けたこの憤怒だけは、なお熾烈に燃え盛っている!
だがお前は……すでにあの真龍ではないことも確かだ。
……
消せぬ恨みがあるというなら、手を下せばよい。
……お前はこの源石を使って、己が命を賭し、私と相打ちを図るつもりか?
私は炎国のために、最後の決断を下す。
お前が新たな歳であるのならば、この身と引き換えに炎国の害を除こう。
もしお前がウァンであるなら……
私はかつての約定を守ろう。お前を見逃し、過去に君主を欺いた罪と……今お前が君主を弑する罪を赦す。
そして私自身も赦す。君主にあるまじき凡庸、不明、それゆえに親と子の間で猜疑と不信を招き、肉親を引き裂き、徒党を組んで害を為し、国家を揺るがせた罪を。
お前は、まさか死を望んでいるのか?
炎国の歴史に、新たな一篇を開けるのであれば……この命など惜しむに足らず。
それですべての恩讐に終止符を打てた気でいるのか?
遂に会えたな。
お前――
お前は……最早彼れではないのか?
成し遂げたというのか……あの荒唐無稽な策が、成ったと?
いいだろう……彼れに取って代わったのならば、我が怒りを受け止めるべきはお前だ!
太古の巨物は黙して語らず、目の前で寿命を終えんとする同族を見つめていた。
……その目は何だ?
お前、この我を、憐れんでいるのか――!?
長き旅路の果て。ここに至るまで、心中に渦巻く憤怒は片時たりとも弱まることなく、千年燃え続けた。
だがこの時、現実の彼れを前にして……
恨みのあった場所には、今や虚無のみが残されているような心地がした。
なぜ動かぬ……まさか、我が解脱を賜るのを待っているのか?
いや、我はお前を殺さぬ……
睚の持つ刀に躊躇がのる。
この復讐の先で、何が得られるというのだ? 両者ともに傷つき、共倒れに終わるのか?
なぜ戦争を起こし、なぜ同族を裏切った――睚はようやく悟った。歳の意識がこの世を去った今、自らが追い求めていた答えも、もはや存在しないことを。
だが我が……赦してなるものか!
……源石!?
すべてはお前の策略の内か!?
あの狂った老いぼれと結託し、苦心して我をここまで誘き寄せたのは、この場所と……あの醜い石の在り処を我に繋げさせるためなのか!?
痴れ者が――!!
存在の果てが近い巨獣は、人にとってはあまりに鋭く、同族にとってはあまりに脆すぎる刀を、新たなる歳の果てなき肉体に突き立てようとした……
だが睚がその一刀を突き出さんとするまさにその時、己を千年の間絶えず苛み続けた怒りの炎が、ついに獲物を手放した……
もはや歳ではなくなった目の前の歳を茫然と見つめてから、ほどなくして、其れは大声で笑いだした。
ははっ、はははははははは!!!
巨大な体躯は黙して語らない。
甚だ不可解だ。何故苦痛を受けることに執着する。何故この呪われるべき源石を体内に取り込もうとするのだ。
我が解るのは、お前はこの腐敗し、膨れ上がり、永遠に癒えることのない傷跡を、その体に自ら進んで刻みたいと望んでいるということだ!
よい。我が叶えてやる。
今のお前は歳ではなく、ウァン。歳を弑した者だ。ゆえに、我が力を貸す!
我は無尽の時をもって、お前に彼れの罪を償わせよう。
だが、ハッ。如何に強大な精神であっても、そのような肉体の中にあれば自然、摩耗し、同化し、彼れと変わらぬ姿へ転じる――
その時、我は現れる。この手でお前を殺し、我が復讐を遂げよう!
だが今は……お前の退屈な弁明や、虫けらどもとの小賢しい駆け引きに興味はない。
……ただその体に、刻むだけだ――
――お前に、我に、我ら始源の存在に最もふさわしい――
空前絶後の報復を。
裁錯春秋(さいさくしゅんじゅう)とは、決して代償なき権能ではない――ましてや死期迫る其れが、この大地の原初の力に干渉するとあってはなおさらだ。
それでも、睚は成し遂げた。
源石は、それが占めていた小さな空間ごと、睚によって裁ち切られ……
歳躯の奥深くへと容赦なく刺し込まれた。
その瞬間、睚の眼前に暗闇が広がる。
睚は自分が幻に閉じ込めた二体の同類のことなど、忘却の中に葬っていた。睚の力が完全に消え去ったことでようやく抜け出せた二体は、朽ちてゆく睚の肉体を悲しげに見つめていた。
やれやれ。獰猛な悪鬼が去ったかと思えば、今度は地震ですか?
リン天師、こちらです! こちらにまだ人が!
はい、向かいます!
リン・チンイェンが急ぎ駆け寄ると、慌てふためく器鬼たちを崩れかけの軒先から引き離した。しかし大地の揺れはますます激しさを増し、崩れ落ちた梁がプー先生の頭上に真っすぐ落ちてきた――
この貧乏書生、上にも気をつけなさいよ!
おお、これはかたじけない。若き侠客の方、助かりました!
……
祖師様!
あら、どいつもまだ生きてるわね。少しは骨があるじゃない。
じゃ、人助けは終わったし、地震も止んだし。荷物をまとめて、帰りましょ。
祖師様、此度の騒乱は、片付いたと言えるのでしょうか……
……
童姿の天師は目を細め、歳の陵墓の方角を見やる。普段は飄々として涼しげな顔に、珍しくわずかな厳粛さが宿った。
囲碁バカ、これは全部あんたが自分で選んで自分で謀ったことよ。
この源石が招ける災いも知った上で、こういう答えを導き出したんでしょ。
そうね。これで、あんたにちょっかいを出せる者はいなくなった……でもそれってあんたにとって、滅びることもできず永遠に囚われ続けることと何が違うの?
散々に頭を捻って、自分にこんな道を用意するなんて。私ですら、自分があんたを助けてるのか、それとも害してるのか分からないわよ……
「数多の生命のために大いなる利を謀る」、本当にそれを成し遂げてみせた……
――囲碁バカ、この一局、あんたの勝ちよ。
巨大な幻影、女性の狂った表情、源石の放つ橙色の閃光。真龍の目の前にあるすべてが色褪せていく。
彼は、あの者の最後の策が何であったのかをついに悟った。
巨獣と源石。
ウァンは未来永劫に近い苦痛と引き換えに、かつての歳に代わり睚の復讐を受け入れたのだ。
「不反」、あるいは炎国が長きにわたり拠り所としてきた最初の源石。それは今や巨獣の肉体とその意識の最奥に深々と埋め込まれている。
そしてこの密室も、源石エネルギーが消耗するにつれ、徐々に崩れつつあった。
真龍は出口へ歩み寄り、その扉を引いた。しかしどうやら崩落した瓦礫の一部に阻まれて開かないようだ。
だが慌てた様子はない。
ここで命果てるのも、そう悪いことではないと思っていた――
その瞬間、幻を見たのかと錯覚した。だが兄に酷似したその影は、しっかりと彼を支えて己の肩へと身を預けさせた。
……炎武(イェンウ)?
話すな、行くぞ。
血のように赤い密道が、「不反」が据えられていた場所から少しずつ崩れ始めた。
真龍はウェイの肩に顔を伏せながら、懸命に兄の歩調に合わせて歩いていく。
彼はまだ、これが死の間際に見る夢に過ぎないのだと思っていた。己の軟弱な意識が企てた、久方ぶりの兄との最期の再会なのだと。
弟は若き日に兄と共に及んだ愚行、駆け抜けた回廊を思い出そうとした。
あれはどの季節だったか……秋? いや、それほど肌寒くはなかったはずだ。きっと……
……
あれから随分経った。
彼は思い出せなかった。
長く続いた地震がようやく鎮まった。
朝廷の官吏たちは放心したように互いの顔を見つめ、次に何が起こるかも分からずにいるとやがて見慣れた人物がゆっくりと入ってきた。
皆、安心してくれ。
監正殿、と言いますと?
歳獣の禍は……完全に終結した。
皆、各々の職務に戻ってくれ。大乱が終わったといえども、百灶には皆の判断を仰がねばならぬ事柄がまだまだ山積みだ。
彼女の背後に佇む禁軍が、その言葉に一層の威厳を添えると、官吏たちはしばしの逡巡の後、次々と身なりを正し、室外へ歩み出していった。
最後の一人が去った後、チュエンが禁軍に対して軽く首肯すると、禁軍は脇へ退いたが、その視線はなおも強くチュエンに注がれていた。
彼は成し遂げた。
歳を除き、君を探し出す。彼はどちらも成し遂げたんだ。
かつての持燭人、現司歳台監正は、巨獣の心臓の鼓動を聞いた。
それは大いなる生命が己に抱く怒りであったが、鼓動の中には柔らかな息遣いも混じっていた。
彼女はその中から聞き取った――意識に属さず、あの肉体から離れつつあり、百灶のどこかに集いつつある、赦しを。
広大な宮殿の中には、やつれた一人の老人だけが残っていた。
真龍が地下に向かってから、彼はここで待ち続けていた。玉門からの急報、百灶の混乱、そして司歳台が百灶全域に向けて放送した、すべて収束したという報告を聞き届けた。
老人の咳はますます激しさを増し、腰はますます曲がっていく。司歳台の報告が届く頃には、彼はもはや立っていられず、地面にへたり込み、玉座の側面に寄りかかる他なかった。
彼は初め怒りを覚え、次いで焦りを感じ、最後に残ったのは、疲労感だけだった。
彼は我知らず思い出した。百年近く前、今の真龍の父に抜擢されたあの日のことを。
厳冬の頃、大雪が降っていた。かの真龍は晩年の昏さとはまだ無縁で、都の役人になったばかりの自分と炉を囲みながら、天下の大事について意気揚々と語り合っていた。
ラテラーノとイベリアの接触、クルビアとヴィクトリアの戦争、ウルサスの肥大する野心、極東で続く混乱、カズデルの謎の兵器……
そして、歳獣。一度目は除けず、二度目こそ何があろうと万全を期して歳を除くと、真龍は決意していた。
炎国が歳獣の骸を手にすれば、およそ倍近くのエネルギーが供給される。歳を除いた時に、炎国の時代が訪れるのだと。
話す内に興が乗った君主は、裸足で雪の中に歩み入ると、赤霄の剣気を指先に纏いながら、歳除きし後の炎国が実現するであろう、大いなる志を空中に描き出した……
俱(とも)に逸興(いっきょう)を懐きて壮思を飛ばす、青天に上りて明月を攬(と)らんと欲す!
そして……
そして、彼はかの真龍が歳を除く角笛を吹かせるのを見届けることはできなかった。代わりに目にしたのは、民に背かれ、肉親に見放されるほど耄碌した真龍の姿だけだった。
そして、あなたは現在の真龍の帰還を待つこともできなかった。
あなたは真龍に対して、自らの所業がすべて己の私心のためではなく、炎国の未来のためであると証明できなかった。
……
老人の濁った目は、目の前の人物が待ちわびた君主であると信じ込もうとしたが、耳鳴りの中で捉えた情報は、それとは相反するものだった。
感冒が口実であるのは、朝廷の誰もが知ること。太尉の長患いはその程度で済むものではありません。強硬策を用いて何としても歳を除くのが、太尉一人の考えではないこともまた皆が知る通りです。
かつてはあなたの一声に百が応じた。ですが今や、事態は収束しました。あなたに付き従った人々も……
……
老人にはもはや聞こえてはいなかった。
彼の喉がゴクリと動く。長らく心に鬱積してきた言葉を吐き出そうとする。
「さあ、この動乱を引き起こした老人が、今ここで、陛下の裁きを待っております!」
……ですがその言葉は、誰の耳にも届くことはありません。
彼が落ちぶれ、世の人々に理解されぬ英雄のように、君主に向かってすべての終わりを告げるその一言を吐き出すよりも前に、命は彼の身に留まることをやめていた。
彼は死んだのだ。
へぇ……こんな有様になっちまうとはな。
ようやくこの邪魔な墓をぶっ壊せたってわけだ。五百年前からこうしたいと思ってたぜ。
相変わらずの無神経ね……まだ中がどうなってるかも分からないのに。
どうもこうもねーだろ。私たち全員ピンピンしてんだから、あいつだって死んじゃいねぇさ。
ウァン兄さんは……きっと上手くやったわ。
長兄が中へ入ったらしいし、それほど時をかけずに引きずって来るんじゃないかな。
問いたいことがあるなら、出てきたら好きに問えばいい。
兄さんは私たちに対してあれほどの隠し事をしていたのですから、問うべき責は問います。決して逃しません。
ジュン姉は……相変わらずおっかねぇな。
ところでオメーら、思わねぇか……
こんな大々的な家族の集まりなんて、今までやったことなかったからな……これだけ大勢が集まると、なんだか却ってよそよそしく感じる気がする。
……同感ね。
このあと一緒に食事しようって話なら、私は先に帰るわ。
ダメ! 一家団欒で食卓を囲むって約束したでしょ。ニェンもシーも、逃がさないからね!
分かった分かった。チビのうまい飯が食えるって話だからな、参加してやるよ。
……お姉ちゃんと呼んだらいいわよ。
(舌を出す)
こうして皆が無事なのは、めでたいね。
おいおい、二人とも顔中埃まみれじゃねぇか――まっ、生きてりゃそれでいいけどよ。
そういや、前に誰かさんが決死の表情でカッコつけてたけど、結局ピンピンしてんじゃ――ってシュウ姉、なんで腕をつねるんだよ!
姉さん……
……戻ったのね。お帰りなさい。
心配をかけました。
……ふん。
これだけ長話をしたことだし、中の二人もそろそろ出てきてもいい頃だろ。
見て、あそこ――
やっとお出ましだ! 兄さん、お帰り。
ウァンは……?
どうしたんだよ――
チョンユエは、目の前の弟妹たちに目を向けた。皆は兄の険しい表情から、何やら不吉な予感を感じ取った。
チョンユエは、何かを宣言するような深いため息を呑み込んだ。