辞歳行 TA-11・戦闘前
長生劫
……反逆。
お前らは、一人の例外もなく徹底的に我と事を構えるつもりだというのだな。
……そうだ。我ら兄弟姉妹は、誰一人として大人しくお前の一部となるつもりはない。
私たちは、私たちとして生きた。それが我らとお前との根本的な違いだ。
はっ……人としてか?
お前らはどいつもこいつも只人を気取り、あまつさえ下らん妄念にとりつかれて我に挑もうとしている。
我から借り受けた強大な力で、矮小な群れの中に居場所を勝ち取る一方で、身を落として卑屈に己の爪と牙を隠し、無害を装う。
それがお前の言う、人として生きるということか!?
お前はやはり分かっていない……分かることもない。生きたことなどないのだから。
しかし私には分かっている……お前の傲慢さが何処から来るものかを。
お前は、その気になれば太古の昔から終末に至るまでのあらゆる時を一望できる。お前の意識は虚無の内を千万年彷徨ってきたが、語らうことのできる同族は一人として現れなかった。
お前はその憐れむべき虚無の中で、己を至高無上の神と思い込んできただけだ。
それが果たしてどのような感覚であるのか、私もこれ以上ないほどよく理解できていた。
ある者に、名を与えられるまでは。
しかし、お前が誰かの運命であったことはない……この大地の人々にとっても、我らにとっても。
お前が理解することもないだろう。何も持たざる者にとって……
……運命そのものが、如何に無力であるかを。
よかろう……お前が無謀な挑戦を繰り返すつもりなら、我もその思い上がりをもう一度叩き潰してやろう。
百二十年前、我はお前を殺した。もう一度殺すことなど、造作もないわ!
その程度の脅しで私が怖気づくとでも思ったのか?
……敗着など、慣れっこだ。
……?
とうに負けた。負けて失っている。あまりに多くを。
尊厳、栄誉、信頼、自由、自我。
そして、最も近しい者も。
最早失うものを持たぬ人間が、何かを恐れると思うか?
お前はどうだ?
まだ恐れているのか? 千年前の痛ましい敗北を再び味わうことを……
お前は恐れゆえに、躊躇しているのか?
……笑止!
お前は我に取って代わり、この体を奪おうとしているだけだ――目論見を成就はさせん!
先にこの肉体を目覚めさせておけば――
巨獣は、山のように巨大な爪を伸ばした。
無数の巨獣が無数の陵墓の内で、ただ一人の代理人へ向けて、無数の爪を伸ばす。
ここが未だ夢境の内であろうと、すべての夢の中で忌々しい顔を消し去ってしまえば、歳の覚醒を阻むものはなくなる。
――!
何が起きた……
凶悪無比な重い一撃が、歳獣の肉体に強かに叩きこまれた。その衝撃に歳はあろうことか懐かしさを覚えた。
この瞬間、歳は己の巨大な肉体と精神の接続が断たれたことを悟った。
一体誰が、今の世でこれほどの傷を己に与えられるというのか!?
空間がまず震え、それから歪み、裂けていく……
千年もの間、積み重ねられた武が、今この時に夢の境界を力づくで引き裂いていた。
なぜ――
……余計な世話を!
そう言うだろうと思っていた。
お前が道筋を導き出したのなら、私も共に行くと言ったはずだ。
それにジエを連れて来たかった。ウァン、お前のこれまでの策謀が……決して徒労に終わったわけではないのを知らせるために。
夢と現実の境を隔て、ウァンは先ずチョンユエが懐に抱える造物に視線を向け……
それから、二人の視線が交錯した。
もう行け……
……
生きろ。
……生きて戻ってこい。
お前に何か請け合うつもりはない。
二人の距離が急速に遠のいていく。
千年以上を生きた武の化身と言える者であっても、肉体は変わらず人の身である。
現実と夢を強引に繋ぐ力は急速に消え去っていったが、ウァンの耳元では、嫌になるほど聞き慣れたその人物の声が今も響き続けていた。
ならば私が探しに行く。見つけるまで探し続けよう。
……好きにしろ。
奴か……奴は一体何をした!?
だが構わん。構うものか! 奴がどのような小細工を弄そうが、所詮は一瞬……一瞬の出来事に過ぎぬ!
奴が再びこの場を乱しに来ることはない。お前のあの滑稽で、矮小な……兄弟姉妹は誰もお前を救うことはできぬのだ!
ここは我の見る夢だ。今この場には我とお前の二人のみだ!
我はこれまでお前への対処に力の大部分を割くべきと考えていた。しかしお前は一撃にすら耐えられぬほど弱り、残された石も最後の一掴みだけ……
お前を消すなど……容易い!
そして詩に、律、武……煩わしい虫けらどもだが、お前を滅するために積み上げてきた力を用いれば、愚かしくも醜い干渉を蚊帳の外へ弾くなど訳ないことよ!
お前は我が爪を振るうに値せぬ。ただ己の倒影の刃に倒れて……死ね!
ふっ……そうか?
しかし死はお前の終局であり、私のものではない。
そうだ。あらゆる因果、あらゆる可能性、あらゆる夢境の内で、お前は死す。
夢境の中で幾度も繰り返させてきた。お前の狂暴な想像は――お前の持ち得る最大の力は、すでに数え切れぬほどの虫食いで穴だらけだ。そして当のお前は、それに気づいてすらいない。
分かっていないのか? 今この時、私を閉じ込めるために編んでいる夢は、いずれも私と、我らと密接に結びついている。
己を駆り立てる憤怒の衝動と、復讐という鎖に身を縛られている……お前はそこまでだ。
そして我らは、今やお前を超えている。
だが、お前の肉体は残ることになる。
――私が、代わりとなろう。
その孤立無援の黒石と、もはやろくに形すら留められぬ、消えかけの肉体だけでか!?
私にこの黒石と……この肉体しかないと……誰が言った!
瀕死の代理人は、持てる最後の力を振り絞って、直刀を掲げた。
狂った巨獣が最後の怒号を上げる。