相変臨界 17-21・幕間
暗き夜に燃ゆる
手を差し伸べてくれたことに感謝します、タルラさん。
坑夫たちや、私たちを信じてついてきてくれた大勢の住民たち。彼らをレユニオンの農場で一気に受け入れることがどれほど重い負担になるかは理解しているつもりです。
あなた方にとっては、私たちのような非感染者の受け入れもまた難しいということも。
ですが、どうか信じてください。私たちはみな働き者です。わずかでも心安らげる場所さえあれば、自分たちの力で生きていけるし、困っている仲間を支えることだってできます。
あなたたちのことは全く心配していない。ゼルグラードで、存分に不屈の魂を見させてもらったからな。トゥーリン――いや、ミラーナ。
すまない、呼び慣れるにはもう少し時間がかかりそうだ。
むしろ私のほうが謝るべきです。身の程知らずな名前を名乗って、皆にずっと勘違いさせてしまっていたんですから。
それで、私だけをここへ呼んだのは、どうして……
これから為すべきこと……我々の未来について話すためだ。
かつて私は、荒野で帝国軍を相手にゲリラ戦を展開していた。それが帝国に対抗する最善の手段だと信じて疑わずにな。
だが当時のレユニオンは未熟で統制が取れておらず、ある者は己を見失い、ある者は道を踏み外した……そのほとんどは、すでにこの世を去ってしまった。
その後、私はいくらか穏やかな日々を過ごしながら、考え続けていた。もし我々がより強く団結し、より多くの人々を動かし、真の理想を胸に抱き続けることができていれば――
すべての感染者に……いや、すべてのウルサスの同胞に、より良い未来を手にできるのだと信じてもらえていれば、そして同じ理想を抱いてもらえていれば、違う結末があったのではないかと。
すでに倒すべき敵は見定めた。次に為すべきは、より多くの、共に歩む仲間を募ることだ。
そう言ってくれて嬉しいです。ですが、少し残念にも思うのです。
トゥーリンが、あなたと会えなかったことを……
ミラーナ、面目ない話だが……
リュドミラから、あなたの話をたくさん聞いた……我々は似たような道を歩み、同じ苦難を目の当たりにしてきた。だが、あなたは私などよりずっと気高く戦い抜いている。
……あなたは、一度たりとも絶望に屈しなかった。
すみません、あなたの言いたいことがよくわからないのですが……
レユニオンのメンバーは皆、これまで戦い抜いてきた立派な戦士たちではないのですか? どうしてそんな卑下するようなことを……
いつかその時が来たら、話をさせてもらおう。
ともかく、もしこれからも、あなたがこの国のあらゆる不条理に抗う道を歩み続けるというのなら……どうか私も肩を並べさせてほしい。
ええ、喜んで。私にとってはむしろ光栄ですから。
ミラーナは自ら一歩前に出て、タルラの手を握った。
だが、私はあなたの名前しか知らない。率いる組織の名は、なんという――
そんなものはありません……生き延びることに必死で、考える余裕もなかったので。
……ですが、もし認めてくれるのなら、レユニオンの名で行動させてもらえませんか?
何だと……?
誤解を避けるために伝えておくと、好きでいつも人の名前を借りるわけではないですよ。
いや、私が心配しているのは……レユニオンは多くの過ちを犯してきた。その名のせいで、あなたたちの立場が誤解されかねない、ということだ。
タルラさん、前に話したことを覚えていますか? 私があなたたちの話を語るだけで、誰より絶望していた坑夫の目にすら、希望が宿るのが見えたと。
ゼルグラードのような豊かな南方の都市でさえも、人々はレユニオンの名を借りて行動し、声を上げようとしたんです。
もし、このウルサスにおいて苦しむ人々を奮い立たせ、虐げる者たちを恐怖に震え上がらせる名前があるとすれば、それは間違いなく「レユニオン」しかありません。
そうかもしれないが……
タルラ、やっと見つけた――
少しだけ待っていてくれ、話の途中だ。
すまないが、一刻を争う事態なんだ。今さっき南から急報があって――
俺たちの農場が襲われた。
――!
薄暗い空の下、激しい火の手が上がっていた。
一発の砲弾が、穀物倉庫の屋根を吹き飛ばした。その木材が地面に落下するよりも早く、次の砲弾が家畜小屋をなぎ払い、井戸端の木桶をひっくり返す……
遙か彼方の山腹では、無数の砲口に火花が明滅していた。まるで誰かが一本ずつマッチを擦っているかのように。
敵襲だ! 急いで避難を――
叫び声をかき消すように、さらなる砲弾が降り注ぐ。木片と土くれが舞い落ちる中、駄獣のいななきと子供の泣き声が混ざり合い、彼らがようやく手に入れたはずの平穏な日々を引き裂いていく。
な、何てことだ……
うろたえるな、自分がすべきことを考えろ!
来てくれたのか、ナイン!
応援を連れてきた。避難誘導を支援する人員も手配してある。
もう一度、身動きが取れない者がいないか確認しろ。背負ってでも連れ出して、すぐに撤退するんだ。
何者が来ようとも、ここは我々が食い止める!
……はい!
大変申し訳ありません、ブルカさん。しばらく我々から離れて、避難の列へ加わってください。
それがあなたにとって最も安全です。
……わかりました、ナインさん。ええと、その――
我々は、今後も交流や取引を続けたいと思っています。もしあなた方が――
誰か、この方を避難させろ!
は、はいっ。すぐに行きます、行きますとも……
ナインと彼女に続くレユニオンの戦士たちは、農場の中央までやって来ると、斜面を駆け下りてくる歩兵の群れを見上げた。
彼女の前方に突如広がった花々は、さながら血の潮のごとき赤に染まり、狂い咲くかのように敵へと押し寄せていった。
ご報告します、長官! 先ほど続けざまに、二通の電報を受信しました。
読み上げろ。
一通目は、カジミエーシュ側からの抗議声明の転送文です。交戦地帯がウルサス゠カジミエーシュ国境地帯に位置しているため、すでに――
もういい、カジミエーシュ人の戯れ言など気にする必要はない。二通目を読み上げろ。
はっ……二通目は司令部からです。現在も怪我で療養中の元帥閣下は、現在の進軍状況に大変満足されており、一日も早く反逆者どもの拠点にウルサスの旗が上がるのを見たいとのことです。
ふん、最初からそうあるべきだったのだ……返信しろ。我々はウルサスの旗のみならず、第一軍の旗も上げてみせるとな。
すべてのウルサス人に知らしめてやる。この大地で最も栄えある軍隊は、我々第一軍以外にありえないということを。
最も栄えある軍隊……ね。
父上と母上が合葬されていないことなど、とうに知っていた。
父上は皇族の陵墓に埋葬されているが、母上は夏の離宮のリンゴ園に眠っている。その木々の奥には、小さな墓地があった。
……わざと思い出さないようにすれば、その事実を抹消できるとでもいうのか?
ここは……リンゴ園ではないな。
ええ、陛下。そのことについて、ずっと申し上げたいと思っていました。
先帝の時代、夏の離宮にあった果樹園は、大規模なさび病の流行により根こそぎ取り除かれ、別種の木々に植え替えられました。
それは、陛下がお生まれになるより、ずっと前の出来事です。
……
ならば、あの傍らにある墓碑は……
いったい、誰のものだ?
……陛下がこちらへお越しになるとご決断なさる前に調査しましたが、宮中に記録はありませんでした。実際に見ても、墓碑はかなり小さく、明らかに皇族のしきたりに倣っておりません。
ウルサスの風習からすれば、お母上が生前に寵愛されていたペットが埋葬されているという可能性も――
いいや、ペットであろうと名があるはずだ。しかしあの墓碑には、その名すらない。
そこには、たった一行の墓碑銘だけが刻まれていた。
「我が永遠の愛のために。彼女の魂をここに葬る。」
墓地の中に佇む、小さく飾り気のない墓碑。絢爛たる皇族の墓碑に寄り添うようなそれは、まるで母親に寄り添う子供のようだった。
掘り起こせ。
……陛下、何とおっしゃいましたか?
この墓碑の下の棺を掘り起こせと言ったのだ!
陛下!
陛下が何を証明しようとお望みであっても、そこに眠るものは偽物に過ぎません。偽物でしかありえないのです。
……どういう意味だ?
「皇女」を自称する身元不明の者が突如ブレスクに現れた件につきまして、その背後で女大公が糸を引いていることは明らかです。
その者が初めて街に姿を現し、民衆を手なずけた状況からも、それは容易に判断できます。ただ一つだけ、どうにも我々の情報部門でも理解できないことがございます。
その「皇女」は、素顔を隠す素振りを一切見せなかったそうです。しかし、その場にいた目撃者の証言を総合すると、彼女の顔立ちは……
普段は憚ることなく話す侍従は、不意に口をつぐんで皇帝の顔色を窺った。次の言葉を口にしてよいものか、測りかねているようだった。
続けろ。
……彼女の顔立ちは、肖像画に描かれた先の皇后と瓜二つだったとのことです。
そしてブレスク、ひいてはクライニ・セーヴェル全域においては、ほとんどの家庭の居間の隅――「赤い角」と呼ばれる場所に、先の皇帝と皇后の肖像画が飾られています。
民たちが彼女の姿を拝み、その声を聞き、さらに「天から」の施しを享受してしまえば……
この「皇女」という偽りの称号の噂がサンクト・グリファーブルクに伝わるのも、時間の問題でしょう。
……
ウルサスに皇女などおりませんし、先帝に他のお子様などおられません。陛下は誰よりも強くその事実を信じ抜かねばなりません。さもなくば、我々の為したすべてが水泡に帰してしまいます――
……同じことを何度も言わせるな、ヴィッテ。
ただ余のために、掘り起こしてくれ……
……
棺は浅い位置に埋まっていた。二人の手も必要ないほど、容易に掘り起こして地上に引き上げることができた。
しかし、その蓋を開くと――ペットか幼児の遺体しか収められないほど小さな棺の中には、何も入っていなかった。
遺骨もなければ、遺品もない。
そこには、何一つ存在していなかった。
……
皇帝は歩み寄り、空の棺の前で片膝をつくと、手を伸ばしてその表面をなぞった。
そうして彼は、棺に刻まれたとある名前を見つけた。
……「アナスタシア・ウラジミーロヴナ・ラチザーラ」。
アナスタシア。
姉上。
ナースチャ。
彼は顔を上げ、リンゴではない木々に生い茂る、黄と緑のまだら模様の枝葉を見つめた。
もし死者が死者ではなく、あれほど鮮明な記憶さえ偽りに過ぎず、忘却の彼方に葬り去ったはずのものさえ再び取り戻せるのだとしたら……
不可能なことなど、他にあるのだろうか?
……これでいい。
「奥行き2メートル、幅1.5メートル、深さ1.5メートル。」
人間の一生に必要な土地は、やはりこれだけなんだな。
棺はなくても、人ひとりが横たわるには十分だ。
そして、人ひとりしか収まりやしない。
……
できることなら……このままここに残って、君のそばにいたい。隣に同じような穴を掘り、そこに横たわり、目を閉じて、永遠に君と共にいたい。
でも、それはできない。ラーダの居場所がわかったんだ。あの人たちについていき、あの子のもとに行かなくては。
そうだ、君には伝えそびれてしまったが……
この前、通信からラーダの声が聞こえたんだ。
ラーダは立派に成長したようだ。けどあの子は、何一つ忘れていなかった……私たちが読み聞かせた物語を全部覚えていて、あの子の方からすぐに気づいてくれたんだ!
なんて賢くて、なんて……君にそっくりなんだろう。
……
君がチェルノボーグに帰りたいのはわかっている。だけど今の私では、ここまで連れてくるのが精一杯だった。
ラーダに会えたら、今度はあの子を連れて君に会いに来るよ。
……
その時は、皆で一緒に――
家に帰ろう。
「……アファナシー・イゴレヴィチ・フラトフ大将。元第六軍第一師団総司令官、兼参謀長。」
「四皇会戦で頭角を現し、第十次ウルサス゠カジミエーシュ戦争では少数の精鋭を指揮して敵の反攻計画を阻止。同世代で極めて突出した軍功を挙げた。」
「その後も国境紛争や局地的な衝突において数々の戦功を立て、正面衝突、奇襲、鎮圧や調停作戦に至るまで豊富な経験を持つ。」
「血峰の戦いでの敗北の痛みを教訓とし、『大反乱』の際には部隊を率いて第六軍を離脱。その後は帝国議会へと帰順し、後の反撃のための貴重な時間を稼ぎ出した……」
……
なあ、将軍さんよ。何してんだ?
本を読んでいただけだ。
何の本だ?
友人が返してくれた本だ。興味があるのか?
別に、そこまで興味ねぇけど……そういやアンタ、誰にも触らせない糸綴じの本を持ってたよな。この本はあれよりボロボロに見えるが。
内容は似たようなものだ。
読みたければ、これを持っていくといい。
そう言うと、ヘラグは軽やかに本を掲げて表紙を示した。同時に、先ほどまで読んでいたページをさり気なく本から千切り、手の中でそっと握り潰す。
その咄嗟の所作に、すでにボロボロの本の綴じ糸が少しほつれそうになったが、ページが散らばることはなかった。
……未練がましい悪あがきだと思ってください、将軍。
事態はひとまず収束しました。しかしその先に、さらに大きな波が押し寄せようとしています。
どうかもう一度だけお伺いさせてください。ここ数日、さらに多くの現実を目の当たりにしてもなお、我々の元へ戻ってきてはくださらないのですか?
ああ、そのつもりはない。
では、もし――もしそれが、全く新しいウルサスだったとしてもですか?
問題の核心はそこではないのだ、アロイジウス。
私が誘いを断るのは、国のありようがどうであれ……ここがもう私の帰る場所ではないと痛感しているからだ。
……
それならば、せめてこの本だけでもお受け取りください。
これは父の……副議長の書斎にあったものです。彼はことあるごとに、これを「持ち主のもとへ」返したがっておりました。
もちろん、ご助力いただいたことへのお礼でもあります。
あの時、身を挺してくださったことに心から感謝いたします、ヘラグ将軍。
『止まらぬ行軍』……? 小説か? それとも軍事史か?
好きに解釈してくれて構わない。
でもこれ、今にもバラバラになりそうだぜ。本当に借りてっていいのか?
もちろんだ。
なら遠慮なく……ありがとな。
そうだ、肝心なことを忘れるところだった。ドクターたちがゼルグラードから帰ってきたんだ。ウルサスを離れる前に事務所で軽く集まるらしいが、アンタも来るか?
いつだ?
今夜だ。
そうか、ならば行こう。
……誰をお探しですか?
中で直接お尋ねください……
あの……
この前の市民議会に現れた、坑夫のヴェトチキという子はここにいますか?
見覚えがある顔だが、君は?
あ、僕は……
(小声)実は僕も、クライニ・セーヴェルから生還した坑夫なんです。
……
……また雪か。
この雪で、またどれほどの人がサンクト・グリファーブルクで凍死してしまうか、見当もつかないわね。
だがどうであれ、お前の無謀な行動によって彼らが救われることはない。
……
気づくべきだった。アローダ、お前は昔から誇り高い子で、常に私にとっても誇りだったと。
その優秀さゆえに、私は最も根本的な道理を教え忘れてしまっていた。
この大地にはそれ自体の秩序がある。何人たりとも、自らの意志のみでそれを変えることはできないんだ。
先帝は失敗した。我らが陛下も、そしてヴィッテも……彼らを待ち受けるのも失敗の二文字のみだ。
それはつまり、彼らの失敗を望んでいるってことかしら?
彼らが失敗して初めて、あなたの利益は守られる。あなたの保ちたい秩序というのは、誰の利益を守るためのものなの?
どうやら失念しているようだが、お前が鼻で笑う「既得権益者」こそが、クライニ・セーヴェルから連れ帰った感染者たちを、そしてお前自身を守っているのだ。
それが彼らの生まれ持った権利ではなく、貴族の与える施しだと言いたいの?
確かに正しいかもしれないが、何の中身もない言葉だ。
いいえ……私は少しも正しくなんてない。正しいのはあなたの方よ――ただ何もせず足踏みしていれば、永遠に過ちを犯さなくて済むのだから。
ヴィッテ議長たちは過ちを犯すでしょうね。なぜなら、あの人たちは自ら何かを行い、変化を試みて、破滅を阻止しようともがいているから。
妥協や宥和を、さも知的な決断のように語らないで。立ち止まることは、いつでも一番簡単な選択なのよ。
お前は未だに、甘い理想論で現実に抗おうとしている……それはお前が陥りがちな過ちであり、私の過ちでもあるな。
明日、お前を市外へ退去させる。それまでは、そこで頭を冷やしておくといい。
そして自分の無謀な行為が、一族、ひいてはお前が仕える君主にどのような破滅的な結果をもたらしたのか、よく省みるといい。
お父様。
まさか、私が今でも「謹慎」や「反省」を言い渡されただけで、震え上がるような子供だと思っているの?
……
そんなの、とうの昔のことよ。知っているわよね。
わざわざここに戻って顔を見せたのは、ただそうしたかったから。でも今は……
お父様が頑なに目を覚まさないのなら、私自身の手ですべきことをするまで。そう思っているわ。
――アローダ!
夜風が、引き裂かれたカーテンを舞い上げる。窓枠には足跡と、真新しい血痕が残されていた。
割れた窓越しの夜空には、双月が天空に高くかかり、いつもと変わらぬ姿を見せていた。
だが次の瞬間、ある驚くべき変化が音もなく起きた。
極寒の夜の闇に沈んでいた街で、次々と街灯が灯り始めたのだ。
まずは街灯が。それに続いて、住居の明かりが。
暖かな明かりが一つ、また一つと点灯し、やがて街の大部分を満たしていく。それは鮮やかな色彩で満たされたキャンバスのようでもあり、再び脈打ち始めた鼓動のようでもあった。
お母さん、明かりがついたよ!
ほら、新年のイルミネーションも光ってる――
はしゃいじゃって、しょうがない子ね……でもこの明かりだけじゃなくて、ヒーターも点くようになったんですって。
そんなに走り回らないの。パンも買えたことだし、急いでお家に帰りましょう。
これで、雪が降っても寒くないね!
そうね。雪が溶けていく時だって、もう寒くないわ。
にぎやかな笑い声が、点灯する明かりと共に、寒々しい夜の街に響き渡る。
ただそびえ立つ壮麗なる琥珀宮だけが、暗闇の中で長い沈黙を守り続けていた。
……アリタ。
君がしたかったことを、私はやり遂げられたのだろうか?
本当にそうするつもりか?
なぜいけないんだ?
君たちは一時的に石棺の暴走による危機を解決した。しかしそれを安定したエネルギー源として運用するには、まだいくつか足りないものがある。
AMa-10のコアコードをここに残せば、管理プログラムとして永遠に機能し続けるだろう。
別の見方をすれば、石棺は「AMa-10」という名を埋葬するのにうってつけの場所だ。
まるで何かの偶然のようだ。
新たな物語は、いつもここから始まる。
ドクター、過ぎ去った歳月の中で、私は何度もこの石棺と関わってきた。そして幾度となく、この大地の文明から石棺の存在を隠し通してきた。
前回、他者を信頼することを選ぶまでは……知っての通り、その結果は理想的なものではなかったが。
最後に君と共にこの石棺を封印した時に言ったことを、まだ覚えている。
「もしウルサスがこれを再起動するようなことがあれば……それは善良なる人の手によるものだと信じることにする」。
「この大地を心から変えようとしている者たち……未来は彼らの手にある」。
そして今、我々は再び選択を迫られている――この大地のすべての文明と協力し合うか、あるいは単独で戦い抜くか。
現在の選択が、絶望に突き動かされた分の悪い賭けに等しいことは否定しようがない。理性では判断しかねるが、我々に時間がないのは確かだ。
ただひたすら保守的に走るのではなく……私たちは、「希望」の側に立つことを選ぶべきだ。
どこか、少し肩の荷が下りたように感じるが。
……
私の耳に入った情報から察するに、君も同じ選択をしたようだな。
素晴らしいことではないか。
たった一度きりの、真に「人」として生きる生涯。これもまた、運命からの贈り物と言えるだろう。
遠くの砲声が止み、硝煙が徐々に晴れていく。夕陽が、足元の破壊された都市を再び赤く染め上げていった。
あなたたちは、各方面の軍が一時的に休戦したとの知らせを耳にした。少なくとも現時点で、それはこの地に住む人々が避難するための時間を稼げたことを意味していた。
かくして、一行は帰途につく。
つまり、石棺は本当に安定してエネルギーを出力できるようになったってことだよね。ウルサスのエネルギー危機もちょっとはマシになるかな?
これで、サンクト・グリファーブルクでの約束を果たせたし、今回の任務は完璧にこなせたってことでいい?
石棺のエネルギーを得たところで、ウルサス中央部のいくつかの移動都市が辛うじてこの冬を越せる程度だろう。
長期的に見れば、ウルサスの状況は依然として厳しいままだ。
ここに封印された石棺が、再び不必要な争いを引き起こさないことを願うしかありませんね……
でも、ケルシー先生も戻ってきてくれましたし、誰一人欠けていません。今回の任務は大成功です。
その通り! 私たちはケルシーを連れ帰った! つまりロドスの完璧な勝利だ!
あなたは後ろを歩くケルシーへと視線を向ける。
ケルシー?
大丈夫か?
どうやら、遥か昔のことを、いくつものことを思い出したかもしれない。
この石棺のことも、これに関係した多くの人々や出来事についても……今になってようやく、それらに一つの決着がついたと言える。
あまりに遠い日々の記憶は、私の脳裏から薄れつつあるようだ。これまでに経験したことのない感覚と言える。
ふと、こうして呼吸する感覚すら……ひどく慣れないもののように思えてしまうな。
ケルシー! まだ気分が優れないなら、前みたいに私が抱えていっても――
いや……ありがとう、私は大丈夫だ。
今のこの状態にも……いずれは慣れるのだろう。
……こうして生きていくことに。
ドクター、私をどこに連れて行こうとしている? 早急に説明してもらえないか。
ロドスにおかえり、ケルシー。
……
驚きのあまり言葉も出ないか?
確かに、私が想像していたよりも遥かに壮観だ。
……やり遂げてくれたのだな。
君の言う通り、我々は誰かが欠けても止まりはしない。
同時に、誰も欠けてほしくないと心から願っている。
この装置は……広域源石停滞化装置か?
これが、ロドスの最新の研究成果なのだな?
称賛に値する成果だ……だが、これでも彼女と全面的に対峙するには不十分だろう。
未だに、彼女の真の目的がわからない……
ドクター、いくつか思い当たることがある。
君たちはゼルグラードの石棺の制御プログラムから、AMa-10のコアコードを発見した。
AMa-10は設計の初期段階において、確かに先史文明の多くの設備を管理する権限を与えられていた。しかし最終的に、その機能を完全に実行するには至らなかった。
つまり……石棺のコードは、彼女が目覚めた後に組み込んだものということだ。
なぜ彼女はそんなことを?
合理的な推測を述べるなら、彼女の次なる計画が、先史文明が残したさらに多くの遺産に向けられているということだろう。
具体的に何を企んでいるかは不明だが、もし彼女が現在のテラ文明に壊滅的な打撃を与えようとするなら、彼女にできることは決してあの災厄に留まらないはずだ。そう信じるに足る根拠がある。
君たちが経験した出来事は、彼女が現在のテラに対して、むしろ傍観の姿勢を取っていることをさらに裏づけている。
クライニ・セーヴェルの採掘場で、彼女の声を聞いた。
これは文明そのものが、一万年にもわたって続けてきた弁論のテーマだ。
ならば今、為すべきことはただ一つ……
彼女に証明してみせることだ――現在のテラ文明には、存続していく可能性と価値があるということを。
その招待を受けよう。
ヒアダさん……一体これからどこへ行けばいいんですか?
仲間たちも怯えてます。ゼルグラードであんな恐ろしい目に遭ったせいで、みんな参ってしまって。もう、ウルサスから離れるべきなんじゃ……
私たちは……
私は、あって当たり前の苦難が存在するなんて信じません。強いられた苦痛は、私たちが全力を尽くして抗うべきものだと思います。
苦しむ人々を助けて、害を及ぼす人々に打ち勝つこと……それこそが私たちのすべきことです。
……
私に理想を語り、この大地の別の姿を描いてみせてくださった方がいました……人々は隔たりを乗り越えられると、この大地はすべての人々にとっての家になりうるのだと。
苦難を終わらせることはできません。ですが希望もまた、絶えず続いていくものです。
……
いいえ……まだウルサスを離れはしません。
ここにはまだ苦難に耐え、救いを待つ同胞がたくさんいますから。彼らを見捨てることはできません。
ピョートル! どうした――
このシミは! ま、まさかあの病気に感染したのか!?
ああ……ゴホッ……結局、逃げ切れなかったよ。
もういい……俺のことは放っておいてくれ……どうせ死ぬんだ――
安心してください……私たちは、誰一人として仲間を見捨てたりしません。
ヒアダが手を伸ばすと、何もない空間から高純度の源石クラスターが彼女の手の中に現れた。
そして、彼女はその源石クラスターを、感染者の心臓へと突き立てる。
ぐっ――!
ヒアダさん! 何てことを――
傷口から鮮血が噴き出したが、それもほんの一瞬の出来事に過ぎなかった。
すぐに源石が傷口を覆い尽くし、そこから全身へと広がっていく。次いで彼の体は、源石の中から新たな血肉を再生させ始めた。
そうして彼の肉体は、生まれ変わったかのように一新された。
あれ、俺……なんだか、もう痛くないぞ。
もしかして……生まれ変わったってことなのか?
奇跡だ! またヒアダさんが奇跡を起こしてくれた!
人々は歓声を上げ、彼女の前にひれ伏した。
彼女もまた、その場に跪く。そして、遥か彼方の空に向かって両手を固く握り合わせ、祈りを捧げる仕草を見せた。
神よ……どうか教えてください……
苦痛こそが、本当にこの世界における唯一の法則なのでしょうか?
可哀想な子……あなたに、どう伝えればいいのかしら?
あらゆる精神的苦痛は、いずれも現実に対する誤った認識から生じるものよ。
けれどそれは、個々の生命とこの宇宙の間に横たわる永遠の隔たりであり、文明が必ず直面する分かれ道でもある。誰一人としてそこから逃れることなどできないの。
でも、そう長くは続かないわ。
私があなたたちに、答えをもたらしてあげるから。
双月の清らかな光を浴びながら、彼女は深き海へとその視線を向けるのだった。