快刀乱麻 5-9・戦闘後
業より出でし異形
ゴホッ……ゴホッ。
脆いな!
これだけの同胞を、全員片付けたのかい? 君を再評価せざるを得ないね、隊長さん。
もういい。黙れ。
いやいや、よくなんかないよ。ファウスト、彼女にサプライズをよろしく。
了解。
――!
オイ! 最上階、全員伏せろォォォ!
あっ!
クッ、狙撃手か……
(予め防御姿勢をとったにも関わらず、これほどの衝撃を受けるものか?)
だがお前の命を救うだけの力はない。そいつの攻撃が届く前に、お前は死ぬ。
……待て。お前は以前、近衛局が捕らえたあの感染者か?
……
そうさ、お前たち近衛局がファウストを苦しめたんだ。まあ、ウルサスの奴らが僕らにしたことを考えれば、なんてことないけどね。
さっきはわざと外してあげたんだよ、近衛局の隊長さん。ファウストが世話になった礼として一度だけね。
どうしてファウストがここに居るか分かるかい?
君たち近衛局はもう内部から腐り始めているのさ。そして君たちの腐敗が、ファウストの抜け出すチャンスを生み出したんだ。
……お前らは自分が上手くやったつもりだろうが、龍門というものを何も理解していないな。
ふーん、その言葉には何か深い意味があるのかな?
ファウストとやらは貴様らレユニオンが自分で救い出したとでも?
近衛局の内部にはたくさんの感染者がいるからね。
ああ、その通りだ。数は二十一人だ。
……
お前はそのうち、少なくとも四人は根っからのレユニオンだと考えているのではないか?
しかしその四人ですら私が手配したものであったらどうする? それを察知してか、彼らがお前に合流した後、そのうち一人を捕らえただろう?
よく分かってるね、隊長さん。あの女には逃げられたけど。
そしてお前は、まだ自分の境遇がわからないのか?
そうだね、僕も認めないとね。僕の部隊は壊滅だ、残されたのは僕一人。
近衛局内外を徘徊するのは戦闘能力を持たない兵だけ、僕の同胞たちにはもう抵抗する力は残っていない。
そう言いたいのかな?
ある程度は現状の認識はあるようだな。
じゃあ――さあ、僕の護衛たち。
立ち上がれ。
う、うう、うがあああ!!!
貴様! 何をっ!?
奴らの身体の源石が……成長している?
源石により刺し貫かれた身体は再構築され、新たな体躯となる。
さあ隊長さん、よく見ておくといい。これが僕の護衛隊、不死身の衛兵たちだ。
【雄叫び】
それに、僕の家畜、僕の同胞……
フーッ……
なんだあの粉末は……?
同胞たちには治療が必要だ、つまり僕から離れられないってこと。
アーツか? 各小隊、警戒しろ! 敵指揮官がアーツを放った、粉末は広範囲に飛散している!
安心しなよ、隊長さん。君たちは僕の同胞じゃない、君たちには関係のないものだよ。
……あ、あ――
……ぐ、ぐぅ!
うう、ううう……
うわああああ!
……血!! 血!! あああ!!! あ!!!
静まれ。
――
隊長! 緊急事態です!
敵の…か、身体が変形していきます。もう倒したはずなのに、あの粉が掛かるだけで……
ウワァァァァ、復活してこちらに向かってくる。畜生!
おい、復活した敵の数はどれほどいる?
ぜ、全員です!
――!
彼らは僕の家畜、そして僕の手足でもある。
g7、g6。
――があっ。
貴様……
彼らは絶対に死なない。僕が彼らの傷と痛みを全て治すからね。
こんなものを手足として従えるなんて、お前はもう人としての道を踏み外しているな。
そもそも君らは感染者を人として扱っていないじゃないか。僕たちはね、理想のためなら何にでもなるって決めたんだよ。
こんなものを理想と呼ぶのなら、お前だけは是が非でも始末する。
目標があって、やる気も十分。素敵だねぇ、隊長さん。
集中砲火だ! 目標は敵指揮官! 撃てッ!
――
(うめき声)
でも僕の護衛隊は普通の攻撃でどうにかできるものじゃない。
身体で爆発を受け止めて指揮官を守った……しかも無傷だと!?
こいつは都市の防壁を打ち砕くほどの威力なんだぞ!
無駄遣いはやめといたほうがいいよ。
傷口なんてすぐに塞がるし、そこはより厚く硬い皮になる。命すら簡単に再生できるんだからさ。
君たちの武器なんかじゃ僕の護衛隊に対抗するのは無理だよ。元々みんな隊長さん一人の為に用意したものだしね。
同胞たちよ、立ち上がれ。誰にも僕と隊長さんとのお話を邪魔させるな。
チェン隊長、レユニオンが波状攻撃を仕掛けてきます! 我々の武器では倒せそうにありません!
くそ、こいつら痛みや苦しみを一切感じないのか!
他の小隊も同じ状況です! ビル外で徘徊していたレユニオンの兵も行動を開始しました、ビルに向けて進攻し、先程設置した防護設備へ攻撃を行っています!
各小隊、まずは各個に周囲の敵を排除し自分の安全を確保しろ。
どけっ!
隊長、奴らに知覚は全くないようです。そして近衛局のビルはすでに包囲されました!
こちらは肉弾戦を強いられています、そちらに支援を送るのが難しい状況です。
とにかく自分たちの身を守れ。
了解!
壮観だよね? 何度も戦ってきたから、彼らの意識は負荷に耐えられなくなってきてるけど、肉体の方はまだまだ元気だ。
これだけの力があれば、少しの作戦ミスだって帳消しにできる。
これで少なくとも、君とゆっくりお話できるね。
一度君とちゃんと話しておきたかったんだ、隊長さん。この戦いとは関係なくね。
必要ない。
直接お前を切り伏せて終わりだ。
おっと、さすがに速いっ!
……
でもまだまだ足りない。
!
切っ先で弾を逸らした?
――
狙いは正確だな、黒髪。
チッ、狙撃で動きを止め、私の行動を予測し肉の壁を作るというわけか。
悪いね、隊長さん。君の行動パターンはもう予測できる。接近戦が出来ないように進攻ルートを封鎖してやればいいだけだよ。
こうすれば、もう僕には近づけないだろう。鋭利な矢、重たい矢、爆発する弾、どれが好みかな?
――
お前の用意は確かに周到だったのかもしれん。
だが、投了まで読みきった対局であっても、規格外のコマまでは予測できまい。
(待て、どうして粉末があいつの身体に……?)
(そうだったのか、そういうことだったのか。)
私はお前の思い通りには行かない。こちらとて準備は万全にしてここに立っている。
私をチェスの盤上に当てはめようなど無駄なことだ、私は誰のコマでもない、私は龍門の刃だ。
へぇ、そうなんだね。
勇敢と無鉄砲は似て非なるものだよ。
あるいは、切り札があるのかな? そのもう一本の刀、まだ抜いたところを見たことがないけど。
それは飾りじゃない、そうでしょ。
ふんっ。
この刀はお前たちの様な輩を斬るためのものではない。
どちらにせよ、お前たちにはこの刀を抜く価値すらない。
だが、お前たちには償いをしてもらう必要がある。お前たちが傷つけた龍門とチェルノボーグの全ての罪なき者たちのために。
……
今、ここで。
——これはもう君のものだ——
——必要ありません——
——ではひとまず君に預ける、ということにしておこう——
——怖くないんですか?——
——君が私に刃を向けるかもしれない、ということか?——
——はい——
——ああ、怖くないな——
——どうしてですか?——
——私はそれほど死を恐れていないのでね——
——……——
——それは普通の武器ではない、扱っていれば徐々に理解できるはずだ——
——そやつの殺意はしまっておけ。斬龍の剣を抜くだけの価値のある局面以外では——
——誰に刃を向けるかは、君が自分で決めればいい——
(……まだ寝ているのか。)
(こんな時であっても鞘から出たくないのか。)
(だが今は、赤霄(せきしょう)、お前は血を吸わねばならん!)