快刀乱麻 5-10・戦闘前
長夜の黎明
やる気みたいだね。
僕さえ殺せば、ここにいるレユニオン構成員はみんなバラバラに砕け散る。
君が僕との対話を拒んだこと、本当に残念だよ。じゃあどうぞ、僕を殺せばいい、もしそれができるならね。
チェン隊長!
敵の攻勢が増しています。これ以上は支えきれません。どうかすぐに決着を!
相対する指揮官のうち生き残った方が戦局全体の勝利を得る。実に分かりやすい構図だね。
なに、僕の遺言は短いものさ。隊長さん、君はそれを聞くことができるかな?
殉教者的なロマンチズムでも味わいたいというのか?
例え遺言を遺して殉教者になったとしても、お前のような者を誰が弔うというのだ。死ぬことと敬われることは全く別だ。それを決めるのはこれまでの行いであって、死に様ではない。
もちろん僕だって価値のある賭けをして、価値のある死に方をしたいよ。
でもその願いは叶いそうにない。君が惨敗するのは目に見えてるからね。僕が君の処遇を決める権利を持ってるんだ。
いくらチェルノボーグを陥落できたからと言って、それはただの過信だ。
だがここはチェルノボーグではない、ウルサスのような過酷な自然環境とは異なるからな。
龍門は強靱だ。お前のような一兵卒の手で、どうにかなるものではない。
口だけは達者だね。
ファウスト。
了解。
【咆哮】
斬撃? あの距離で……いやっ……ありえない! これはまさか……アーツ!?
下がれ。
クソッ……どうして?
【苦しげなうめき声】
恐れるな!
痛みはない、恐れるな。
【うめき声】
……
ふう。
(遠すぎるか。前へ数歩進むだけでも難しいというのに。消耗戦は不利だな。)
これは凄まじいアーツなんだね。
君のアーツはファウストの弾をかなりの距離で誘爆させ、衛兵の肉の壁に穴を開けた。斬撃痕は一人目から僕の前まで伸びている。
君にあと何歩か進まれたら、僕は真っ二つにされるだろうね。ファウストの援護射撃も間に合わない。
そうだ。だが、もう次はないぞ。
残念だけど君はもう無力だ。秘密は暴かれたからね。
稚拙なトリックは一回しか使えない。一回やってしまえばその秘密は全部白日の下にさらされるからね。
僕たちの位置は君のアーツの射程圏外にある、違うのかい?
展望デッキはこの広さだ。貴様はそれ以上後ろに下がれんだろう。
でも君だってそれ以上前に進めるのかな?
ファウスト、本当の魔術というものを見せてやれ。
お前の位置は分かっている。場所の分かっている狙撃手など何の脅威にも……
クッ、貴様……
すごいんだね、チェン隊長。どんな弾でも切り払えるのかな? 僕はさっきと同じで、何にも見えなかったよ。
――
あの狙撃手……ヤツとは別の三時の方向からも撃たれた、しかしあちらには誰もいない。
お前はそんなタイプの術師じゃないだろう。
頭を捻っても何も出ないよ、チェン隊長。
チッ。
さあ、あと何発しのげるかな。十発? 四十発? 百発かな?
でも、弾の破片は? 衝撃波は? 矢に込めたアーツは?
それも全部防げるっていうのかな?
そんなもの言うまでもない。
じゃあもう一度いくよ!
隊長さん、僕は君が一体何者なのか知ってるよ。僕のアーツは感染者にしか効果がないからね。
だから何だ。
君は奴らのコマとして動いても、使い捨てにされるって分かってるのかい?
その言葉、そっくりそのままお前に返してやる。
僕たちは君にチャンスを与えてあげられる、龍門には到底不可能なことさ。
チェン隊長、敵の攻勢が激しすぎます! 部隊が下の階に追いやられています。
(チッ、移動しようにも四方から攻撃がくる。敵の狙撃手はいったいどうやって……?)
(半寸の抜刀では狙撃手の攻撃を撃ち落とすことしかできん、このまま持久戦に持ち込まれると、いつかは消耗し力尽きてしまう)
(一瞬で勝負を決めなければ……!)
お前はまだお喋りを続けたそうだが、私にそれを聞いている時間はない。
(赤いゆらぎがヤツの周りに集まっている、アーツを放つ予兆。)
(メフィスト、計画通りにやるんだ。今ヤツを撃てば、アーツを止められる、爆発が直撃すればあるいはその命まで……)
(でも今はあいつの鋭気を削ぐいい機会だろう? まずは手を出さずに見ていよう。)
(好機を失う。)
(戦略的目標は戦術よりも重要だよ、ファウスト。)
(……)
——私と一緒に行こう! こんなところにいちゃダメだよ!——
——ここから離れたくないの? こんな人たちとも、こんな場所ともさよならしようよ!——
——知らないの? 大人たちが私やあなたをいじめるのは、あの人が悪いんだ! 全部あの人が悪いんだ!——
......
——この都市も、あの人も憎いが、お前のことまでは憎ませないでくれ。——
赤霄(せきしょう)――
――抜刀!
衛兵たち、横に並べ! あいつを止めろ!
【甲高い咆哮】
ぐっ……!
(だ、ダメだ! 赤霄が…言うことを聞かない? どうしてこんな時にッ!)
アーツの流れが止まった。うまく放てなかったか。
ファウスト、今だ。
命令、射撃。
クソっ……砕け散れ!
本当にすごい武器だよ。
溢れたアーツだけで、全ての弾を切り落とし、僕の衛兵を三人も行動不能にするなんて。
でも君の方もタダじゃすまなかったみたいだね?
ハアッ、ハアッ……
(肋骨が一本、いや、二本か? だがまだ耐えられる。これほど強大な火力とその出どころ、私には……)
あの人が言った通りだ。
隊長さん、君は僕を殺す気がないんじゃなくて、その剣が抜けないだけでしょ。
もう一度言ってみろ、誰が、なんと言った?
誰かは君も分かってるはずだよ。隊長さん、君が言った通り、その剣は僕たちに向けるためのものじゃない。感情任せに使ったんじゃ使いこなせないよ。
あの人は、君の弱点を知り尽くしているよ。例えば、どんな時に無防備で、どうすれば君を粉々にできるかもね。
戯言を抜かすな。
僕たちは今の大地を一度破壊しなくちゃいけない。
このまま腐敗が進めば、すべてグズグズに腐り落ちてしまうから。
全てを破壊することで初めて蝕まれた都市たちは鎖を断ち切り、生まれ変わることができる。
(悲痛な叫び)
邪魔だ。
さあ、僕の手を取りなよ、チェン隊長。君だって龍門には失望しているだろう?
……
僕たちのリーダーが待っている。君が龍門の為に働く義理なんてないだろう?
それがどうした。私には私の職責がある。
その職責というのは、本来の君の立場には相応しくないよ。世俗的な雑務にすぎないからね。それに奴らが僕たちの同胞にやってることを知ってるだろう。
君が少しでもその意を示してくれるなら、僕たちはすぐにでも攻撃を止めるよ。さあ、僕たちの仲間になろう。僕たちともっと偉大な目標を目指そうよ。
私がお前に示してやれる意思があるとするなら、血反吐を吹っかけてやるぐらいだな。
お前の様な下衆がいるレユニオンなどに、一体どんな崇高な理念がある? お前たちの言葉なぞ誰が信じるものか!
ああ、そうかい。君が信じないんなら、もういいよ。
じゃあ足掻いて見せてよ。僕の衛兵と彼の弾が、君に感染者の本当の力ってやつを見せてくれるよ。
君は一人だけど、僕たちは一致団結した強大な集団だ。ここが君の死に場所になる。
腐りきった言葉をこれ以上吐くのは死んでからにしてもらおう。
自分が劣勢なのぐらい理解している筈だよね。それとも、その剣を無理矢理にでも暴発させるつもりかな? 恐ろしいことになるだろうけどそれでもいい。ま、君の運命は君自身で決めてよ。
私に道連れにされても構わない……か。
人は死んだら何も残らない。
だが、この場でお前を殺すために、この命を捧げる必要があるなら……
価値があるとは思えんが、やってやってもいい。
言ってくれるね。
僕の話は終わりだ。さよなら、隊長さん。ファウスト!
命令、射――
チッ。
その必要はありません、チェンさん!
……?
あれは何だ?
ヘリ? いや、アレはヘリコプターには見えない、まるで……
ブレイズさん、降下してください!
降下の姿勢に注意して! 私の熱流から離れないでよ!
あれは何だ? 誰かが上から降下してくるぞ!?
「沸き出でる恐怖、かの女は盲目に――」
クソっ、ロドスか? 空からだと!?
この黒い帯状のアーツは……どういうことだ、まさか――
「――涙枯れ果て、かの女の慟哭は声にならず。」
……うっ。
ぐっ、うう……
う……うがぁ! がぁ!
何が起きてる? 僕の衛兵たちがこんな悲鳴を上げるなんて。
何があった? 僕のアーツでこいつらの感情は消し去ったはず、どうして、どうして!
お前の仕業かッ!! クソッ!!
ロドスのウサギめ!!
彼らの活動を抑えました。ですが十数秒ほどしか持ちません!
橋頭堡を確保するには十分よ!
お願いします、ブレイズさん!
ここ大一番を始めるよ、準備はいい!?
はいっ!
じゃあ降りるよ、お尻には気をつけて!
受け止めてください!
もちろん!
命令、射撃!
甘く見ないでくださいっ!
――矢が風でブレた? まさか――
デッキのあの部分を切り裂いて、レユニオンを下に落としてしまってください!
わかったわ。でも微調整なんて効かないんだから一緒に落とされないように気をつけて! ……この大技、何ヶ月かに一回しか使えないんだからね!
ぐ、ぐわあ?
ぐわあああ!!
展望デッキに巨大な亀裂がっ!
ビル内の総員へ! 展望デッキの床が崩れるぞ、気をつけろ!
マズイ。本当に崩落が来る。上のデッキで一体何が起きたんだ!?
くっ、大量のレユニオンの兵も降って来やがった。
敵に構うな! 全員、防御姿勢を取れ!
もしもし? もしもーし!
もう死んでるなら、死んでるって言いなさーい。
……
バカだろお前。こんな時に……で、何の用だ?
一応、アタシの任務が完了したからね。一言教えてあげようと思っただけ。
ロドスにもすごい秘密兵器があってね、彼女たちもそれですぐに飛んでくると思うわ。
もう来ている。ところで、お前の任務は結局何だったんだ?
もちろん“ロドスの救援”に決まっているじゃない。
着地成功!
ブレイズさん、もう下ろしてください。
お……お前たち……
チェンさん!
アーミヤ……!
申し訳ありません、遅くなりました。
協定に基づき、今よりロドスが近衛局を支援します!
数分前
a.m. 04:21 天気/晴れのち曇り
龍門アップタウン、「バッドガイ」号、近衛局ビル上空40メートル
やけにやる気ね。あいつはアーミヤちゃんを廃都市に放ったらかしにした張本人でしょ。もう少し高みの見物でもいいんじゃない?
ブレイズさん、やめてください。Dr.の言う通りです。すぐに支援に向かいましょう。
そうでなければ、ロドスのこれまでの努力が全て無駄になってしまいます。
わかったわかった、命令なら従うけどさ。
わかってはいてもね……
でも本当のところ、あんまりあいつを助けたくないのよね。
ブレイズさん、ロドスが三ヶ月かけてやってきた努力を無に帰するつもりですか?
投資に対する経済効果ってやつね、あーもう、わかったわかった。やればいいんでしょ。
色々と思うところもあると思いますが、よろしくお願いします。
いいわ、たーっぷりマージンを取ってやらないとね!
というか、あいつより今の私たちの方が戦いでボロボロになっていると思うけどね。
あー、イライラする。廃都市であいつがデカイ口叩いてたことも、ケルシー先生は教えてくれなかったし……
まぁまぁ、ロドスに戻ったらカレーでもご馳走しますから……
ロドスに戻れば休息もできますし、装備の修復だってできます。ですから、まずはこの戦いを終わらせましょう。
わかったわ。楽しみにしてる。それじゃあ、行くよ!
なぜ君たちがここにいる?
それは、私たちがどうしてでもここにいなければならない理由があるからです。メフィスト。
フロストノヴァは何してるんだ! まさかまた倒れでもしたのか!
本当は今頃、このウサギも、ロドスの連中も、氷漬けにされているはずだろう!
私たちはまだ立ち止まれません。
この大地に鉱石病がもたらす不幸がある限り、私たちの戦いに終わりはありません。
あなたの様な狂人も、感染者が受ける不公平も、一つ一つ片付けていかないといけませんから!
ハ、ハハ……
じゃあ来なよ、ウサギさん。僕が君の敵だって言うのなら、僕を殺せよッ! 今すぐにッ! 殺せッ!!
いいえ、『あなた』は敵ではありません。
じゃあ僕がお前を殺すッ!!
死が救いだと考えるなら大きな間違いです。私が消し去りたいのはあなたの『憎悪』と『悪辣さ』だけです。
あなたがどうなるかは私には関係ありません。この感染者たちを見ても、あなたの死が何かをもたらしてくれるとは思えません。
お前――
あなたがいくら自らの主張を叫ぼうとも、私たちは私たちの往く道を変えるつもりはありません。
レユニオンと真っ向から敵対するつもりか!? 感染者たちの真の怒りを味わいたいのか!?
あなたの様な人が感染者の代表などではありません。事実、フロストノヴァさんはあなたとは全然違いました。
あいつが何か言ったのか? あの女……!
勘違いをしてもらっては困るね。
僕こそが都市を陥とし、あの偉業をなし得たんだ!! あの女じゃない。
あなたがやったのは偉業なんかじゃありません。罰せられるべきことです。そして私たちはそれを正します。
そうそう、それに今さら敵対するのかって。そもそも、ずーっと前から敵同士でしょ?
そうです。
あなたがたが、あの恐怖と惨劇を生み出した瞬間から、私たちとあなたがたは相容れない存在となりました。
――
アーミヤ……
チェンさん、もう少しだけ保ちこたえてください。ロドスの支援部隊ももう近くまで来ています。
……すまなかった……
えっ?
……うーん。困りました。戦場は騒がしいですね。「作戦内容」がよく聞こえませんでした、チェンさん。
フッ、わかった。
チェンさん、もう一度お願いします。
「敵を擒(とら)えんとするならば、先ず王を擒(とら)えよ」炎国にはこういう言葉がある。
集団の敵を倒すなら、まずは敵の指揮官を捕らえろという意味だ。
気をつけろ、あの理性を失ったボロボロの兵士たちはヤツに操られて何度でも立ち上がってくる。
できれば、その苦しみから解放してやってくれ。
……わかりました。
ドクター。
わかった。指揮は任せろ。
はいっ!
ブレイズさん、私がアーツで敵の隊形を崩します、ブレイズさんは敵の攻勢を退けてください!
チェンさんが戦えるスペースを確保します!
あの坊や二人を片付けるのはチェンに任せるつもり? 確かに強いとは思うけど、いまの状況だと危険じゃない?
ドクターの指揮があればできると信じています。
――
Dr.。
聞いての通りだ。私が敵の指揮官に強襲をかける。
フッ。
何はどうあれ、今回は君のことを信じよう。
私もだ。
――
龍門と手を組むのか、ロドス。
それがどれだけ感染者に屈辱感を与えることか、この目で見てはっきりわかったよ。
屈辱うんぬんって言う前に、自分の追い込まれている状況を心配したら?
メフィスト、ここであなたの悪行を断ち切ります!
ファウスト! こいつら全員、全員僕の前から消せ!
……了解。
今ここでこの戦いを終わらせる。
そうしなければ、我々を待つ次の戦場へは行けないからな。
Dr.、指令を下せ。
ロドス総員へ。
チェンと協力し、近衛局を奪還する!