怒号光明 JT8-3・戦闘後
烈炎の中で「邁進」
見事だ。
実に見事だ……
何をした? 斬龍の剣では私を斬れず、魔王の剣でも私を刺し貫けない。ならばどうして……私のアーツが……私の支配力が、衰えつつある?
炎が徐々に消えていく。その温度は人を殺すにまだ十分だったが、数分前のような荒々しさはなくなっていた。
チェンの血に染まった手の震えは止まらない。彼女は、ほとんどまばたきをしなかった。
……
喜びを感じるか?
その味は甘いか?
勝利を間近にして、どうしてそんなにも神妙な表情をする?
勝利はお前たちの目前……そうだろう?
……うぐっ。
アーツが解けた……声が出せる。
アーミヤ、気を抜くな。私たちの体力も――
この体から私を追い出したいか?
ならば、どうぞお好きなように。
その態度、何の皮肉だ?
魔王……魔王よ、なぜ何も言わない?
私を彼女の体から追い出すことなど、お前たちなら、お前なら――
できるだろう?
……
彼女を裁くのと私を裁くのでは何が違う? 全てが私の犯した罪ではないのか?
魔王よ、答えろ。
その通りです、コシチェイ。
もし彼女が全く望んでいなかったのであれば、あなたにこのようなことはできませんでした。
……
あなたの考えは……それが捻じ曲げられていようが、それは確かにタルラ本人によるものです。
貴様!
タルラさんの肉体を傷つける気ですか!?
何をする気だ!? 剣を下ろせ!
人が自ら首を刎ねるのを見たことがあるか、「妹」よ?
ドラコの肉体であろうと、この剣の鋭さには敵わないだろう。
コータスの言う通り、彼女がやりたくないことならば、私にはできない。
ならば、タルラはこれ以上生きていられるかな?
よせ!
彼女の心の奥底の絶望、逃れられない恥辱、これらが十分に濃くなれば彼女は――
――
死にたくなるかな?
コシチェイ! タルラさんに対してあなたがしてきたことは全て、許されるものではありません!
あなたが彼女の影だろうと、彼女の覚醒の妨げだろうと、それとも彼女のもう一つの顔だろうと……タルラさん本人が犯した罪がどれだけあろうと、あなたが正しいなんてことはありえません。
私はただ彼女を「教育」しているだけだ。
私が失敗に至ったのは、未だ潰えぬ信念がもたらしたる結果だ。お前たちがいずれ信念を失った者と相まみえたならば、苦痛という言葉がどれだけのものを内包しているか、知ることもできるだろう。
哀れにも彼女の犠牲となったウルサスの戦士たちが、彼女の足元に敷かれる頑丈な道でしかなかったように。
悲しき感染者たち……世間からは見限られたその価値を、今こそ遺憾なく発揮できたはずの感染者たちは……全て無駄になってしまった。
私でさえ彼女の足元に敷かれる道に過ぎないのだ。「妹」よ、もし私がお前を殺せたら、あとは平坦な道が続くだけだ。
お前は、私たちを黒蛇と見なしても構わないし、私をタルラと思っても構わん。
チェン・フェイゼよ。父と娘の付き合い方は千差万別だ。タルラと私もその中の一種にすぎないのだよ。
私はウェイとも似た者同士なのかもしれない。
自分の「娘」を犠牲にしておいて、よくもぬけぬけとそんなことが言えたな!? 奴とお前は少しも似ていない!
ダ、ダメです……そんなことを――
もう遅い、魔王。私の秘密をお前たちに握らせやしない。
コシチェイ、あなたがチェンさんを殺そうとしている理由は、タルラさんを完全に消すためですね。
ですが、もうそれは失敗に終わりました。そして、私たちが呼び起こした彼女の記憶は、すでに彼女の脳内を駆け巡っています。彼女はこれ以上我慢ならないはずです。
タルラさん! 思い出してください……あなたが誰だったかを!
どんな場合だろうと、あなたなら……あなたこそ彼らのために最初に犠牲になろうとする人です、違いますか!?
フロストノヴァさんやファウストさんを……あなたを信じた全ての戦士を思い出してください! あなた自身を思い出してください!
あなたは本当に私たちに命を奪われることを望むんですか? 操られたまま死ぬなんて、あなたは望まないはずです!
もしあなたが後悔しているなら、もし罪悪感に苛まれているなら、呪われた身でなく、太古の邪念による被害者としてでもなく、あなた自身として背負ってください!
本当に死ぬつもりでも、タルラとして死んでください! 雪原を変える、感染者の運命を変える志を持ったタルラとして死ぬんです!
タルラさん、私はわかっています!
あなたが感染者のために戦ったのは、自分の将来や成功のためではないということを……あなたがそうする理由は、そうするのが正しいと信じていたからです!
だから私たちは、一度や二度の失敗では挫けず、相手がどんな人であろうと向き合い、大地がどんなものであろうと、倒れるまで歩み続けるんじゃないんですか?
あなたはそういう意志を持った人じゃないんですか? ……あなたの知り合いは、みんなそういう人たちじゃなかったんですか!
タルラ、お前は望んでその蛇の操り人形になるのか?
お前はこんな結末に満足するようなやつなのか? 私のよく知るタルラは、その程度のやつだったのか?
そんなお前が……感染者のリーダーに相応しいのか!?
なっ!
まさか……タルラさん……!
白髪のドラコが自らの「父親」に反抗するのは決してこれが初めてではない。
私が感染者のリーダー……?
彼の教えの全てが陰謀であり、それはあまりにも露骨だった。
しかし、たとえ彼女がその全貌を知っていようと、彼女が自分を止めることはできなかった。
耐え難いそれらの出来事を憎む前に、彼女はまず……
自分を憎んだ。
もういい。終わりにしよう。コシチェイはここまでだ。私とお前は違う……私はもう一匹の黒蛇などではない。
コシチェイ……私はお前に似ているかもしれない……だが、決して新たな黒蛇にはなり得ない。
お前の呪いは、今日ここで断ち切る。
私の憎しみは、あまりにも多くの人を殺してきた。だが、二度とこの憎しみを利用して私を扇動しようなどと思うな。
フッ、コシチェイ。お前が背負ってきた何世代にもわたる無数の恨みと物語は……私の代で終わりだ。
コシチェイ、お前は種であり、蔓であり、空高くそびえ立つ大樹だ……だが、構わない。
私は炎なのだから。
「私がこの全てを教えてやった」? 違う、違うぞ、コシチェイ。この大地、あの雪原、日の光を追い求めたあの人々……彼らが私に教えてくれたものを、お前は永遠に理解できない。
彼らこそが、私の炎の主たる者たちだった。たとえお前のせいで彼らを失ったとしても……お前ではもう私の感情を支配することはできない。
私の火は、私もろともお前を焼き尽くす。
まさか……まさか! 私に抵抗するだと? お前は――
……私の牙から逃れられると思っているのか?
己の陰謀が露呈したことにではなく、タルラを支配できなくなったことに腹を立てているのか?
支配だと? 彼女は私であり……私が彼女自身だ!
支配できなくて当然だ……ドラコの娘と、湿っぽくて気色の悪い蛇とが釣り合うわけがない!
チェ、チェンさん? その発言は、フィディアのオペレーターたちの前ではしないでくださいね!
ああ、済まない……そういえば、私にもかつてフィディアの上司がいたな。だが、彼女は思考と言葉が一致していた。そいつとはまるで違う。
コシチェイ……お前が失敗した原因はただ一つ。それはお前が相応しくないからだ。
お前は私の姉の体を奪うに相応しくない。戦争を引き起こすに相応しくない。そもそも、お前の経歴すらお前には相応しくない。
だから、今すぐ、タルラの体から……出て行け!
ふん、やはり去る前にこの首を……そうなれば、お前たちだけでこのチェルノボーグを止められるとでも思っているのか?
――ダメです!
私がここで命を断てば、全ては流れに沿って進むだけだ。お前たちでは決してウルサスは止められない――
……あなたは彼女を娘同然に――
黙れ! まだ私の感情を探ろうというのか? 混ざりものの魔王よ……それが事実であろうと、それを口に出す資格はお前にはない!
……ふぅ。
ふむ、だがお前の言うことも正しい。
いいだろう。
所詮、次のチェルノボーグと次の操り人形……そして次のタルラが現れるのだからな。
認めよう。今回は、自らの偉大な勝利を心ゆくまで祝うがいい。
もういい……なるようになればいい。だが覚えておけ、タルラ。
「私はどこにでもいる。たとえこの大地の果てであろうと。」
白髪のドラコはがくりとひざをついた。
……終わったんでしょうか?
……
待て!
まだ、あの蛇の罠ではないと言い切れない。本当にタルラの頭からあいつが消え去ったかもわからない。それと本当にタルラ自身が自分の行いを悔いているかどうかも……
それに――いや、まだ終わってはいない……私たちは、この都市を止めなければならないんだ!
こいつを止めたいならあれをあたしに渡しなさい、ウサギちゃん!
えっ……? W? 一体どこから……
いいから鍵を! 早くしないと間に合わなくなるわ! この鉄塊を止めないと、みんな仲良くお仕舞いよ!
わ、私は敵を信用できません。ロドスの仲間を殺した敵は……
どうしたら信じてくれるのかしら? ……じゃあこうしましょう、あたしの心を読んで。ほかの奴にそんなことされたら吹っ飛ばしてやるけど、今ならあんたに少し見られるくらいどうってことない。
それにウサギちゃん……あたしだってあんたを信じちゃいないわ。だけどあたしは、テレジアの継承者がこんな大事な時にバカな選択はしないって信じてんのよ!
!
もし鍵を渡してくれるんなら、都市が止まった後であたしを殺してくれてもいいわ。まぁタダでやられる気はないけど、あんたにならその機会を与えてあげてもいい。
早く決断しなさい、あたしがこんな譲歩してあげることなんてないんだから!
殺人狂を信じることなどできない。
なら、あんたは自分自身を信じるべきじゃないわね。
そうだな。
W……もう少しだけ、あなたを信用するに足る言葉をください。
えっ? そんなこと言われても……ええと……
あっ。
アーミヤ、この大地が……静かに眠れるように。
……
ふぅ、毎日あれこれ対応してると、本当に疲れるわ……アーミヤ、私にとって、夢とは手の届かないものなの。
それでも私は夢を追いかける。その夢のおかげで、ここでどんなにエネルギーを注ぎ込んでも、それは意味のあるものだと思えるからよ。
夜、眠りに着く時に、お父さんとお母さんがそばにいてくれたら、とても嬉しいでしょう、アーミヤ?
……ええ、そうね。うーん……わかるわ、色々小言を言われて喧嘩になっちゃうかもしれないわね。
家具をひっくり返したことや、ご飯の好き嫌いのことを言われちゃうわね。でもケルシーに当たり散らしちゃダメ、彼女もわざとやっているわけじゃないんだから。わかった? いい子ね。
そう、いずれにしろ、お父さんとお母さんがいれば、私たちは安心できるものなのよ。
お父さんとお母さんは、暗闇の中の明かりみたいなもの。隅っこに隠れている黒い怪物も、窓の外で舌舐めずりをする野獣も、みんなお父さんとお母さんが追い払っちゃうのよ。
あらあら、もっと寂しくさせちゃったかしら? はぁ、私ったら……
よしよし、大丈夫よアーミヤ、大丈夫……私がここにいるから。
大丈夫よ、アーミヤ。お父さんも、お母さんも、きっとあなたのことを想ってるわ。普段どんなに悩み事があっても、我が子を見ている間は、何よりもその子のことを愛おしく思うものよ。
時には、それこそが私たちの生きていく理由になるのよ。なぜなら……私たちが死んだ後も命が続くのは、生きている人がいるから。それが私たちが前へと進み続ける理由なの。
私は、子供たちに両親を失ってほしくない。同じように、両親にも子供を失ってほしくないの。
この大地では、命はあまりにも身勝手に奪われてしまう。私たちの愛する人を奪うものが――私たちを支えてくれる人を奪うものが、必ず存在するの……
それが、親子の間で起こることすらあるのよ。少しの言葉、少しの考えの違いだけで……彼らの間に憎しみが生まれてしまう。
でも、傷から流れる血では田畑を潤すことはできないわ。年々蓄積した痛みでは、甘い果実は実らないのよ。
アーミヤ、私たちは確かに弱い。たとえ、私たちの流した涙が砂地に流れ込んでも、種はそこから芽を出さない。
だけど、私には夢が――とても壮大な夢があるの。
私は、この大地の人々に、もう二度と別れや喪失による涙を流してほしくない。私たちの夜空を、悲痛と空虚で満たしたくない。
そう思ってるの。いつの日か……この大地の一人一人を、落ち着いて静かに眠りに就かせてあげたいって。
そう、全ての人を。もちろん私たちもその一部よ。
今、ロドスはまだその航路の途上を、音を立てながら進んでいる最中よ。でもね、アーミヤ……たとえ私たちが終点にたどり着けなくても――
たとえその未来が来なくても……たとえこの大地が暗闇に陥ったとしても……私たちがここで生きているのは、一つの答えのためだけじゃないのよ。
少し難しかったかしら? もう寝ましょう。おやすみ、アーミヤ……
ウサギちゃん、いや……アーミヤ!
あたしに、もう一度……テレジアのために、まだ死んでいない人たちのために、何か意義のあることをやらせてちょうだい!
今回だけ、あたしを助けると思って!
アーミヤの手に在った黒い長剣が、ゆっくりと灰になり、風とともに散っていく。
わかりました。Wさん、今回はあなたを信じます。
……この大地が静かに眠れるように。
お任せします、Wさん。
コータスの少女は、パトリオットから受け継いだ箱を、サルカズに手渡した。
……ありがとう。
ジジイ……あんたの最期の願いはわかってるわ。あたしにこの街を止めさせて……
……パスワード? どこに入力するの?
待って……何これ? この鍵は……
(ウルサス語)警告 十分な権限がありません この鍵は 起動時のみ使用可能です
権限がないってどういうこと?
……どういうことですか?
聞いて、これは確かに鍵だけど……でも……使い物にならない。この鍵では権限が足りないって。市長の鍵にも権限がないっていうんじゃ誰が止められるっていうのよ!?
つまり、最初から……みんな、騙されてた……?
でも、中枢区画には必ず緊急ブレーキ用の鍵があるはずです! 鍵が燃やされて……いない限り……
……違う。こんなはずじゃ! ミーシャ……!?
一体……どうすれば……
心配には及ばない。
鍵ならここにある。
えっ!?
この龍女……
ハッ、大人しく渡す気はないってことかしら?
もし、あんたが邪悪な計画に最後までこだわるつもりなら――
受け取れ。
えっ、ありがと。
本当のあんたって……意外と素直なのね。ちょっと気に入ったわ。
口の回るサルカズだ……
それをコントロールパネルに押し当てろ。その後はわかるだろう。
パスワードは知ってるわ。
アーミヤ、しっかり立ってなさい。どうなるかわかったもんじゃないんだから!
えぇと、「(ウルサス語)全人民の腹を満たさんがため」だっけ?
そうだ……それがパスワードだ。
その鍵、どこで手に入れたんだ?
フッ……もともと制動室の壁に掛かっていたんだ。パスワードさえあれば、誰にでも使えるものだ。だが、誰もそれを予め奪取してはいなかった。
……その先に、こんなバカげた展開と、残酷な目論見が待っているなどとは考えなかっただろうからな。
遊撃隊を追い払うため、そして近衛局を騙すため……その役に立たない鍵は、彼らを欺くための私の嘘にすぎなかったんだ。
私は移動都市に対する彼らの無知を利用した。スカルシュレッダーとパトリオットの信頼を利用した。それが……彼らが私に寄せた、最後の信頼だったというのに。
(ウルサス語)全人民の腹を満たさんがため。
5:42p.m.
鉄塊は轟音を響かせながら、壊滅へと向かうその歩みのスピードを否応なく緩めた。
ついに、チェルノボーグ中枢区画は、龍門の艦砲射程外ギリギリの位置で停止したのだった。
思ったほど危険じゃなかったわね。まあでも、無事に止めることができてよかったわ。
ヒュウ――
……龍女、あんた鍵を破壊してなかったのね。
……
あれ、口がきけなくなったのかしら?
――そうしたくなかったからだろう。
おそらくコシチェイは、あらゆる策を講じてタルラを誘導し、その鍵を破壊させようとしたはず……だが、結局できなかった。
なぜなら……どうやっても拭い去れない、アーツなどでは揺るがすことのできない良心がそこにあったからだ。
タルラが過ちから全てを滅ぼそうとしたとしても、別の道の可能性を断絶することはできなかったのだろう。
もがきながらでも感染者が生きていける道の可能性を……
……タルラ、立て。
……
そんな姿はやめろ。お前はもう、失望させるに十分な行いをした。立つんだ、タルラ!
立て、タルラ!
お前は何と向き合っている? 答えは自分で言っていたはずだ。本心だろうと見せかけだろうと、自分の言葉であろうと他人の口を借りた言葉であろうと、お前はわかっているはずだ。
お前の敵は、この腐りきった大地だろう! その意味がわからないのか、タルラ?
お前は私以上にその意味を痛感しているはずだ……!
感染者のため……いいや、感染者と一般人との間にある、高い壁を打ち砕くため、醜い謀殺や奴隷のような非道な扱いをなくすため。
感染者と共に何年も戦ってきたお前なら……当然私よりもわかっているはずだ!
そして、この大地に立ち向かっても、お前に勝算などこれっぽっちもないことも、お前はわかっている。
……お前を阻む者たちは、あらゆる手を講じてお前を押し倒し、罪を被せ、溺れさせ、蔑み、騙すだろう!
お前が立ち上がろうとするたび、お前を最も腐敗した場所へと引きずり込み、最も穢れた方法でお前をあしらう!
一つでも過ちを犯せばお前は打ち倒される。それでもお前は、前進を選び、尽きない敵に抵抗することを選び、命を投げ出すことを選ぶ。
その先にある結末はただ一つ……お前は打ち倒され、滅ぼされる。一歩道を誤っただけで、その結末はすぐにでも訪れる!
一歩道を誤れば、その一歩がお前を傷つける理由になる……お前を傷つける正当な理由になるんだ。
ひとたび道を誤れば、奴らは邪悪な獣が血の臭いを嗅ぎつけたように襲いかかり、お前の肉を裂き、お前の舌と目玉を抜き、大声でお前の尊厳を貶めるだろう!
だが、一度も道を誤らない者などいやしない。だからお前は必ず倒れる。お前は地面に這いつくばる。
……だがお前は、私よりもよくわかっているだろう。タルラ、お前は倒れてはならないんだ!
たとえ奴らが、お前を狙っているとしても。たとえ奴らが、お前のあらゆる弱点を突き、お前を引き裂こうとしても……
たとえ奴らが、お前を晒しものにし、嘲笑い、軽蔑したとしても。お前をゴミだと侮辱し、欲張りで幼稚な愚か者と罵ったとしても……
お前は倒れてはならない。
……私たちは、それぞれ別の街でお互い知らない姿へと成長した。過去の日々はもう戻ってこない。
私たちにはもう、それぞれのやるべきことがある。
だが今は、互いにそれを成し遂げられていない。
道はとても長いんだ。
だがその道がどれほど長くとも、やり遂げなくてはならない。
お前は私よりもわかっているはずだ。
タルラ……お前の道も、同じように長いんだ。
わぁお! 素晴らしいじゃないの。
(Wを睨みつける)
えっ? また余計なこと言っちゃった?
若き警官は、それ以上何も言わなかった。
なぜなら目の前の戦士が立ち上がったからだ。彼女は、ゆっくりと立ち上がった。
……
お前はいつからそんなトゲのある物言いをするようになった?
アリーナに見せてやりたいな。
ようやく口を開いたな。
――お前を逮捕する。
誰が私を裁く?
裁けるものはまだいない。ウルサスにも龍門にもお前を裁く資格はないのだから。
身内に庇ってもらいながら、辱めの中で細々と生き長らえるほど、私は落ちぶれてはいない。
違う、タルラ。庇っているわけじゃない。この大地にはまだ、お前を十分公正に裁ける場所がない。
感染者を裁ける場所は、まだ存在しないんだ。
そんな場所を創ることが、お前の理想か?
誰だろうと、どこから来ようと、病に罹っていようとそうでなかろうと、あらゆる人を公正に裁く場所を。
理想じゃない、それが私の仕事だ。
……
久しぶり。
久しぶり、姉さん。
ようやく助け出せた。
だがおとなしく逮捕される気はないぞ。たとえ……こんな状況に追いやられてもだ。
まだ死ぬことはできない。
まだ……償えるさ。
私は何も償えない。ある冬、私は無数の人々の全てを滅ぼした……そんな罪を償える者なんて誰もいない。
ただ私は……まだ死ねない。
そう、私は死ねない。死んだら終わりだ。死ねば奴らの思い通りになる。そうなれば、私だけがまだ名前を覚えているあの者たちが、本当に死んでしまうことになる。
生きていくんだな?
……
私には、生きる資格はないかもしれない。だがここで死ぬのは――こんな簡単に死んでケリをつけるのは、全く相応しくない。
――この大地はやり直しが効かない。起きたことはもう起き、まだ起きていないこともいずれ起こる。降り落ちた雨が、土に染み入って戻らぬように、死んだ者が還ってくることはない。
だが私は生きる。彼らのために殉死する資格が得られるまで……
……
子供の頃の遊びを覚えているか? ……顔3点、胸5点、腰2点。
ウェイがどうして私たちにあんな遊びを教えたのかはわからない。だが実際、そこそこ役に立った。
そのせいで私は学校で他の子たちに殴られたんだがな。
お前がベアトリクスを庇ったからだろう。ひどいやられっぷりだったな。
とはいえ、お前に殴られたことはなかったな。
今の私なら、ほんの数発でお前に勝てる。
やってみればいい。お前は確かに強くなったようだが……
その前に剣を置け。お前がそんな物を持っているのは、何だかおかしい。
なら、素手でやるか。そういえば、侠客になるとかってお前の夢、赤霄は叶えてくれたか?
「美食・美酒・美景、美人・美徳・美談」、あのわけのわからないおかしな小説のどこに感化されたんだ?
おい! その話はやめろ……!
まさか、まだ読んでるのか?
……その減らず口を叩けなくしてやる。
ふんっ。
だが、ありがとう、フェイゼ。
礼は私ではなく、彼女に言え。
お前が感謝すべきなのはあの勇敢な子ウサギと、彼女と共に戦った感染者たちだ。
お前の作り出した炎獄を一歩一歩突き進み、ここまでたどり着いたのは彼女だ。本当の意味でお前を救ったのはあのアーミヤさ。
わかった。だが彼女に感謝の気持ちを伝える前に……私たちのケリをつけるとしよう。
もう私たちの間にはちっぽけなものしか残っていないがな。
いいや、タルラ。未来はこれからだ。
あ、あの二人――
大丈夫よ、ウサギちゃん。誰にだってぶっ壊しておきたい過去やわだかまりってものがあるの。
そう……なんですか? ……Wさん、あの……どうして中枢区画の動きを止めるパスワードを知っていたんですか?
んー、誰にだって秘密のルートはあるものでしょ? その質問には答えたくないって言ったら、あなたはあたしを殺すかしら?
でもまぁ、さっき信じてくれたお礼に教えてあげてもいいわよ……怒らないって約束してくれればね。
ミーシャさんのことを言ってるんですね。
いいえ、アレックスよ。ああ、スカルシュレッダーのことね。
アレックスの父親が、死ぬ直前に彼に教えたそうよ。あいつもバカではなかったわ。レユニオンが何をしようとしていたのかも、大体把握していたはず。
でも、あいつにそれを止める力はなかった。ウルサスが同僚を殺すことも、自分の子供たちが死ぬことも……フッ。
ただ……あの時はね、誰も知らなかったのよ。少なくともあたしはついさっき知った……あのペテン野郎のコシチェイが、あたしたち全員を騙していたってことをね。
あたしも、パトリオット爺さんも、フロストノヴァ、ファウスト、メフィスト、スカルシュレッダー、クラウンスレイヤー、みぃんなあいつに騙されていたのよ。
本来ならミーシャが死ぬ必要なんてなかった。チェルノボーグを停めるために彼女をさらって、結果として死に追いやってしまった。チェルノボーグを停められないと知った時、本当に後悔したわ。
あの時は、あたしの馬鹿さのせいで全ての人が破滅することになるなんて思ったわ。だけど、あの龍女にまだ良識が残ってて助かったわ。
あたしは間違っていたの。でも許しを請うなんて真似はしないわ。あの時は自分が間違ってるなんて全く思ってなかったもの。みんなが常識通りに行動してたら、この大地はとっくに滅んでるわ。
ですが、ミーシャさんは命を落としました。その過ちを正すことなんて、私たちには永遠にできません。
Wさん……このようなことは二度と起こさせません。あなたが同じことをするのは、私が許しません。
約束していただけないのであれば、私たちはあなたをロドスに幽閉します。
あなたは、大勢の人を救おうとしたのかもしれませんが……一人の命であってもその重さは同じです。
ふぅん……
あら? どうやらタルラの体力も限界のようね。まぁあんなアーツを垂れ流してたんだから、身体はもうボロボロなのかもね。
ほら、倒れちゃったわ。
……ねぇ、ウサギちゃん。
はい。
前にも話したことがあったかも知れないけど……う~ん……なんて言えばいいのかしらね?
ウサギちゃんは……うん。あんた、ちょっと彼女に似てるみたい。
え? ……彼女って誰のことですか?
じゃあね、アーミヤ。
本当に――ふふっ。もう二度と、あんたに会わないことを願うわ。お互いこれっきりにしましょうね、ロドスのウサギちゃん。
あっ、Wさん!
止まった……チェルノボーグが止まった!
よくやった! よくやったぞ、ロドス!!
敵が撤退してる……? 混乱してるみたいだ!
追うか?
逃げまどっているようだな――
!
見捨てられたことに気付いたんだ!
我らの勝利だ!
やった……私たち、やったんだ!
ハハハハッ! 感染者が心を一つにすれば、こんなものだ! 全でお前たちのおかげだ! ロドス!
きゃっ……!
俺たちはやったんだ! 万歳! 小猫、お前はすごいぞ!!
万歳! ロドスのフェリーン!!
わぁっ……ははっ……あははっ……!
Ace、Scout、私、やったみたいだよ。
なんだか、わかった気がする。私には家族だけじゃない。
この大地には……いい人がたくさんいる。そして……温かい人たちもたくさんいる。
それはとても、とても温かい……
この温かさを忘れない……絶対に。忘れちゃいけないんだ。たとえどんなに苦しくても……頑張って覚えておくから。
ようやく着いた!
いいタイミングで着いたらしい。アーミヤは成し遂げたようだな。しかし……
あっ、ドクター!
また会えて……本当によかった……
いかん!
アーミヤ!?