空想の花庭 HE-1・戦闘前
麗しの我が故郷
……
この筆跡は、やっぱり……
「本来は入り混じることのない人々が」、「分け隔てなく」……
確かに、初めてここの光景を目にした時は、私も自分の目を疑ってしまったわ。
個人的には、こんな奇跡的な平和が、これからもずっと続けばいいのにと思わずにはいられないわね。
どうぞ。
レミュアンさん、今、大丈夫ですか?
あなたが前に話していた流行りのデザインを、皆で布団に刺繍してみたんです。これで合ってるでしょうか?
どれどれ……うん、すごく上手だわ。これならお店で売ってても違和感ないくらい。
いえ、そんなに褒められるようなものじゃ……
寒くなってきましたし、レミュアンさんもあの布団だけじゃ足りないだろうからって、皆で布をかき集めたんです。
お気遣いありがとうね。
でも私に作ってくれるってなると、布が足りなくなっちゃうんじゃないかしら? まずはみんなの方を優先して。
私はこう見えても結構丈夫なの。そう簡単に病気にかかったりはしないわよ。
ははっ、私たちなら心配いりません。皆で分けっこすれば平気ですから。
正直、レミュアンさんはか弱そうに見えますよ。まったくラテラーノはどうしてあなたのような方を、こんな遠いところまで遣わしたんでしょうね?
うーん、そうね……
それに関しては、私も上に問いただしたいと思ってるのよね。
……
どうして、帰らないなんて言うの?
ライムントたちが一緒に来られないからよ! あんたはこの理由だけじゃ納得できないの?
まさかあいつらを見捨てろとでも言うつもり? あたしにはそんなことできない!
(フィーナのバカ。私がそんなに冷たい人間に見える? 小さい頃から一緒に育ってきた仲間なんだよ。見捨てるなんて、嫌に決まってるじゃない。)
(けど、このままじゃどうしようもないんだよ。最近は皆もどんどん気が立ってきてるし……)
(何か、もっと良い解決方法はないのかな?)
はぁ……
またため息? 何かあったの?
お前一人とは珍しいな。デルフィナは一緒じゃねぇのか?
ライムント!
それどういう意味。私だって別に、四六時中フィーナと一緒ってわけじゃないよ。
大体そんな感じだろ。同じベッドで寝始めたらマジで一日中一緒なんじゃないかってくらい、仲が良いくせに。
たまに一緒に寝ることもあるけど……って、そんなことどうだっていいよ!
いつ帰ってきたの? 確かジェラルドおじさんと一緒に狩りに出かけたって聞いたけど。今回は順調だった? ケガとかしてない?
もしケガしたらすぐに言ってね。ジェラルドおじさんみたいに、何でも我慢しちゃダメなんだから。
平気だよ。余計な心配すんなって。
余計な心配って何? 前にケガしたこと黙ってて、結局傷口を化膿させちゃったのはどこの誰だっけ? 一人で勝手に鉱脈に行って、危うく戻れなくなっちゃうとこだったこともあるよね?
あなたって、本当──
あーあー、もう分かったって! 俺が悪かったってことにしといてやるよ!
んー? 「してやる」ってどういう意味かな?
……いや、俺が悪かったよ。
……
フォルトゥナ。
なに?
実は訊きたいことがあって来たんだよ。お前と……デルフィナと、もちろん他の奴らも含めてだが。
俺が訊きたいのはだな……お前ら、俺たちと一緒に……
青年の言葉はそこで途切れた。
彼はふいに黙り込んだ。
……
一緒に?
……いや、何でもねぇ。
後でまた出かける。帰りは少し遅くなるかもしれない。
フォルトゥナ、晩飯の前に屋上の聖堂に来てくれねぇか?
デルフィナも呼んどいてくれ……話したいことがあるんだ。
ちょっと、これってどうなってるの?
修道院の横に、集落まで作ったってこと? 道に沿って、移動区画の端っこまでずっと続いてるよ、これ……修道院内のスペースってそんなに余裕ないのかな? かなり広そうに見えるのに。
思ってたより人口が多いらしいな。これだけの人数を養うのは骨が折れそうだ……特にこんな荒野のど真ん中じゃな。
中へ入れば分かることです。
……誰かが来ます。
えっ? ああ、中から出てきたってことは、ここに住んでる人の可能性が高いね。
ハイマンの奴、一体どこに……
ハーイ、フードのイケメンさん。
──! 誰だ!?
その光輪……サンクタか。
お前らの正体や目的は知らんが、それ以上近付くんじゃねぇ!
会ったばかりなのに、いきなり物騒ですね。まあまあ落ち着いて話しをしましょうよ。
こんにちは、お兄さん。俺たち三人はラテラーノから来ました。怪しい者じゃないので、ピリピリしないでください……できればその手に持ってる武器を下ろしてくれると嬉しいんですけど。
……
ラテラーノの連中が、こんな荒れ果てた場所に何の用だ?
それは、教皇聖下の命を受けて、ここに二人の同僚を探しに……
時間の無駄です、リケーレ。
この方の態度から察するに、我々の身分やここへ来た動機は承知しているでしょう。加えて我々に対する敵意も抱いているようです。
あなたがラテラーノに反感を抱いており、不満と拒絶を示しているのは明らかです。その敵意は一体どこに由来するものでしょうか?
……何のことだか分かんねぇな。
あなたは先ほどからずっと、横の集落に通じる道の入口を塞ぐように立っていますね。
──!
意図的に我々の視線を遮っているようです。見られたくないものがあるのでしょう。
この先には、一体何が?
てめぇ──!
……
まあまあ、そうやって挑発するんじゃないよ、フェデリコ。お前にそんなつもりがないってことは分かってるけどさ。
教皇聖下から承った任務を忘れたわけじゃないだろ? 前みたいに無茶苦茶にやりすぎるなよ。穏便に、穏便にだ……
私は挑発などしていません。
ハッ、てめぇらラテラーノ人ってのはいつもそうだな。突然現れたと思ったら、全っ部滅茶苦茶にかき乱していきやがる……
資料によれば、ここの状況は、我々の存在に関係なく元より手のつけようがないものだったようですが。
……もういっぺん言ってみやがれ。
やろうってのか? 上等だ。付き合ってやるぜ。
あっちはバチバチやってるなぁ……
フェデリコはいっつも人目を引きつけてくれるからやりやすいね。おかげで思ったより楽に侵入できた。
けどあのフード被ったお兄さんは……確かに妙な感じがするね。
まあ、その辺はあとではっきりさせればいいか。
まずは捜索対象を見つけなきゃ……
ふふっ、さあて、レミュアン先輩はどこにいるのかな~?
今日はやけにお客さんの多い一日みたいね。
ごきげんよう、ジェラルドさん。
ここならステファノに会えると思ったんだが。
司教はやらなければならない仕事があるとかで、先ほど出かけられました。
まだ遠くへは行っていないはずだから、あなたの足なら、今からでも追いつけるのではないかしら。
感謝する。
……
……今日はまだ、チェロを弾いていないようだな。
私の奏でるチェロがお気に召したのなら、今すぐあなたのために一曲弾いてあげても構わないわ。
結構だ。
あんたは……ここの連中に楽しみを与えてくれた。そのことにはとても感謝している。
だが、誰もがあんたの音楽で安らぎを得るわけじゃないんだ。少なくとも、俺は違う。
あんたのような音楽家がなぜここに留まっているのかは分からんが……この地に災いをもたらすことがないよう、祈るばかりだ。
買い被りすぎよ。
私の知る限り、災いとはいつの日も土壌の中に元から蒔かれていた種が、芽吹き、花開いて、実を結ぶもの。
もしもこの花畑に種が蒔かれているのだとしたら、それは遅かれ早かれ、必ず土の中から顔を出すことでしょう。
私はせいぜい……それから起きる全ての出来事を目撃する、通りすがりの旅人に過ぎないわ。
……そのような種など、ありはしない。
じきにすべてが正常に戻る。不測の事態なんて起こりはしないし、ましてや災いが起こるなんてあり得ないことだ。
お嬢さん、どうか余計な真似は慎んでもらいたい。
それは忠告?
いや、違う。
これは俺からの警告だ。
ずいぶんずけずけと物を言う人だわ。直接手を下さないだけ、まだ温情があると言えるのでしょうけど。
年の功、と言ったところかしら?
……あら?
......
まあ。
綺麗な……
……お姉さん。
ほんと、今日は訪ねてくる人の多い一日ね。
お入りなさい、小さなお客さん。
……
……
私はアルトリア。あなたたちのお名前を聞いてもいいかしら?
まあまあ、そう言うなって、フェデリコ。
私の発言に問題はないと思いますが。
とにかく、今は黙っとけって。
……
それからそこのお兄さんも、早まらないでくださいよ。俺たちは本当に行方不明の同僚を探しに来ただけでね。そちらが……その、何者であろうと、俺たちに敵意はないんです。
ふん、言ってることはもっともらしいが……
こいつみたいな態度でも、敵意がねぇって言うのか?
?
ゴホッ、ないと言い切れますよ。とにかく……まずは中に入れてくれませんか? できれば、ここの責任者に会わせてくれると一番ありがたいんですけど。
スプリア……あれ、スプリアはどこ行った?
彼女はすでに中へ入りました。
はぁ? あの女、いつの間に──!?
つい先ほどです。
……チッ! てめぇらラテラーノ人どもに好き勝手させるわけにはいかねぇ!
そこの二人、司教に会いたいんだろ。さっさとついて来い!
ははっ……そいつは俺たちが中へ入ることに同意してくれた、って解釈してもいいんですよね?
……
警告しとくぜ。さっきの女みてぇに無闇に動き回るんじゃ──
大変だ! だ、誰か来てください!
クレマン? どうした、何があった!?
ライムント! 良かった、早く誰かに──
敵襲ですか?
ええ、そうなんです! あれ、ライムント、このお二方は……
そいつらのことは放っとけ! どういう状況なんだ!?
ああ、そ、そうだ……まずいことが起きたんです!
さっき窓を直していた時、近くで不審者を見かけたんです──
この間の盗賊が、またやって来たんですよ!