空想の花庭 HE-1・戦闘後
麗しの我が故郷
(ライムントの奴、どういうつもりなんだろ……)
(夜まで待たないと話せないようなことって、一体どんな話?)
(んー、分かんないや。まあいいか。とりあえず置いとこ。)
(今日は食事を届けるのがこんなに遅くなっちゃった。レミュアンさん、きっとお腹空かせてるだろうな……はぁ、それに量だってもうこれだけしかないし。)
(……)
(しっかりしなさい、私のお腹! 泣き声上げちゃダメ……さっき食べたばっかりでしょ!)
(はぁ……)
(いつか、ご飯をたらふく食べられる日が来ればいいなぁ……)
……!
だ、誰?
そこにいるのは誰? もうバレてるんだからね……!
……
出てきて。一体何者なの?
声を出さなくたって、いるのは分かってるんだよ。す、姿が見えたんだから! あなた、修道院の人じゃないでしょ!
早く出てきなさい! で、出てこないなら人を……いや、今すぐ引き金を引くからね!
はいはーい。出てきてあげたよ。
はあ、やっちゃったな……
ずいぶん勘が良いのね。ひょっとして翼が見えちゃってた? だからあれほど言ったのに……私たちサンクタの光輪と光の翼はそれぞれ形が違うんだから、見分けなんてすぐに付いちゃうってさ……
まったく、この辺ならそんなに慎重に動く必要もないと思ってたんだけどな。
……初めて見る顔だね。あなた誰?
こんにちは、お嬢さん。銃を下ろしてくれるかしら。それって、良い子が同族に向けていいものじゃないよ。
あなたもサンクタなら、分かるはずだよね? 私に悪意なんて全くないってことが。
私は、うーん……今回は正義の使者、と言えなくもないかな? まあそんなとこ。人助けに来たってことに変わりはないわけだし……
……話す気がないならいいよ。今すぐ人を呼んで──
まあまあ、そう焦らないで。
むぐぐっ!
(放して!)
オッケー。でも絶対に叫んだりしないでね。
……ゲホッ……ゲホゲホッ!
ごめんなさい、少し力の加減を間違えちゃったかも。大丈夫?
ふぅ……はぁ……あなた、何者なの? 何が目的!? 答えて!
別に教えてあげてもいいよ。人を捜しに来たの。
私たちと同じサンクタで、ピンク色の髪をしてて、今はまだ車椅子に乗ってるはずかな。見た目はすごく優しそうだけど、実際はそれほどお優しいってわけでもなくて……
(もしかして、レミュアンさんのこと!?)
おっ、その表情……知ってるみたいだね? 私ってばツイてる~。
さっき食事を運んでたけど、誰に届けるつもりだったのかな? 当ててみよっか。まさかレミュアン先輩?
(なっ!?)
(どうして分かったの?)
あははっ、また当たっちゃったっぽいね。あなた、すぐに顔に出るタイプでしょ!
じゃあもう一つ教えてもらえるかな? レミュアン先輩はここにいる間元気にしてた?
……
言いたくないの? それとも言えないの? 迷いと、それから少し怖がってるような感じがするけど……
て、適当なこと言わないで!
私が適当なこと言ってるかどうかは、あなたが一番よく分かってるはずでしょ。
何だかずいぶん悩みが多いみたいね。変だなぁ、こういう世間から隔絶された場所に住んでる人って、悩み事とはあんまり縁がないものだとばかり思ってたけど。
原因は何なんだろ? ここには同族が少ないから、他の人とケンカしちゃったとか?
……あなたには関係ないでしょ。
違うの? じゃあ、あなたが持ってる銃のせい? 長いこと手入れがされてなさそうだし、サビついてきちゃったとか?
もしそうだったら、力になれるかも。私、銃のメンテは得意なの。お礼はレミュアン先輩がどこにいるかだけ教えてくれればいいからさ。割に合う取引じゃない?
さ、教えてよ。実際のとこ、私の正体も見当ついてるんでしょ? あなた、とっても賢そうだもの。
……
レミュアンさんと同じ、ラテラーノから派遣されてきた人でしょ?
大正解。
じゃ、お喋りはここまでにしよっか。これでも結構急いでてさ……
レミュアン先輩の居場所、本当に教えるつもりはないわけ?
……
うーん、言いたくないならしょうがないか。
そうだ。
食事は私が届けておくよ。
あっ……!
じゃ、そういうことで。またね。
最後の一人だ。これで片付いたな。
こいつら……盗賊か? なかなか厄介な相手だったな。
フェデリコ、そっちはどうだ? なんかでかい物音が聞こえた気がするが、建物を壊したりしてないだろうな?
いいえ、壊してはいません。
そりゃよかった。お疲れさん、こっちも全部片付いたぜ。
本当にありがとうございます。お強いですね……
これであの盗賊たちもしばらくはおとなしくしてくれるでしょう。
その口ぶり、ちょっかい出されたのはこれが初めてじゃないみたいですね?
こういうことは結構多いんですか?
ラテラーノから来たんなら、ここまでの道がどれだけ険しいかは、よく分かるはずだろ。
確かに、移動手段がなかったら、俺たちも簡単には入れませんでしたよ。
こんな場所をうろつきたがるような奴は、行き場のない連中くらいしかいねぇんだよ。
お前らも見ただろ。この荒野にゃ修道院以外に何もありゃしねぇ。盗賊どもが数少ない獲物を、見逃すはずがないんだよ。
ええ、それにもうすぐ冬になりますし、ますます頻繁に略奪しに来ることでしょう。
そういえば、確か前回はベニーが右脚を負傷しましたね。彼の容態はどうですか?
まだうまく動かねぇが、我慢するしかねぇみてぇだ。
……
ああ、それで、そこのお二方は……
俺たちはラテラーノから来ました。まあ、使者みたいな者です。
おお、ラテラーノからのお客人ですか……では何とお呼びすれば?
ラテラーノ公証人役場から参りました、執行人のフェデリコと申します。
同じく執行人のリケーレです。あと一人同行者が来てるんですが、先に中へ入ってしまったみたいで。
フェデリコさんに、リケーレさんですか。
まったく驚いていないように見えますね。
ええ。ラテラーノからまた使者がやって来るであろうことは、皆も分かっていたことですからね。ただ、どのような方が訪れるかは、定かではありませんでしたが。
私はてっきり……
痩せぎすで背の高い中年男は、ラテラーノから来た二人の来訪者が持つ銃に、無意識に目をやった。
ラテラーノからの使者は、我々の罪を裁きに来るものかと……
罪? あなた方はどんな罪を犯したのですか?
大多数の犯罪者は、中庭公証人役場で自首及び被害者との示談を成立させることで、減刑を求めることが可能です。
じ、自首? 減刑?
はぁ? てめぇ、何言ってやがんだ!?
待てって、フェデリコ! まだ状況が不透明なんだ。そういう話はレミュアンとオレンを見つけてからにしよう。
すみません、俺たちはここの責任者の方にお会いしたいのですが、そのように伝えていただいても構いませんか?
ええ、分かりました! 少々お待ちください、今呼びに行きますので……
その必要はない。
ご協力、大変感謝する。お二方が探しておられるのは、この私だ。
すまない、一足遅かったようだ。
司教! それにジェラルドも……
ジェラルドの旦那!
あなたがこの修道院の司教様ですか? ええと、そこのジェラルドさんも、ここの責任者の方でしょうか?
……いえ。
彼は違います。
はは、確かに俺は、そんな大層な立場じゃあない。
……
訊きたいことが色々とあるのは承知しているよ。
場所を変えよう。もっと話し合いに相応しい所へ。
クレマン、門を閉じてくれたまえ。ひとまず誰もここに近づかせんようにな。
ですが、司教……
俺がついている。
ライムント、お前は自分の仕事を続けろ。
……ああ。旦那も気をつけろよ。
では私は入口で待ちましょう……何かありましたら、いつでもお申しつけください。
さて、これなら邪魔は入らんだろう。
私はここの司教、ステファノ・トレグロッサだ。修道院の院長も兼任している。
お二方、遠路はるばるここまでたどり着くのは大変だっただろう。大したもてなしもできんが……
無意味な挨拶は必要ありません。
私は同僚らと共に、教皇聖下イヴァンジェリスタⅪ世の命を受け、ラテラーノ特使二名の捜索に参りました。レミュアン及びオレン・アルジオラスはどこにいるのでしょうか? お答えください。
……
私に言えることは、ただ一つだけだ……
レミュアン特使は、現在修道院に客人として滞在している。
案ずるな、我々は客人に不義を働いたりはしない。彼女はつつがなく過ごしているよ。
オレン・アルジオラスに関しての言及がないようですが。
オレン特使の行方に関しては……私の方が尋ねたいほどでね。
オレン特使がラテラーノに連絡を取ったからこそ、あなた方二人は迅速にここまで辿り着くことができたのではないのかね?
……どういう意味ですか?
申し訳ありませんが、司教。それは我々が受け取った情報とはいささか乖離があるようですね。
我々の受けた情報によると、荒野に位置するアンブロシウス修道院からラテラーノに救援を要請する旨の手紙が一通届いた。その後、我々は特使二名をこの地に派遣したが連絡が途絶えてしまった。
そこで教皇聖下は、二人の捜索及び状況調査のため、俺たちを特別に遣わされた……
ここまでで、あなたの知る情報と矛盾する点は何かありますか?
……オレン特使を留め置くことは叶わなかった。
つまり、オレンは行動制限を受けたわけではないのですね?
その点は保証しよう。あの特使の警戒心の強さは折り紙付きでね。
客人として留まっていただくようレミュアンさんを「お誘い」した時に、彼は俺たちの隙を突いて包囲から逃れたよ。
その後どこへ行ったのかは、俺たちにも分からない。
フェデリコ。
はい?
オレンが逃げた。だが奴は姿を現さず、連絡すら寄越さない。
何か嫌な予感がしてこないか?
はい。
いや、「はい」じゃなくてさ……
それと、そこのマントのお方。俺が思うに、一般の住民はそこまで事情に詳しくはないはずですが、あなたはどういったご身分で?
ここの猟師代表、兼用心棒と言ったところだ。俺のことは気にしないでくれ。
……
分かりました。ひとまずはそういうことにしておきましょう……
オレンのことについては一旦保留します。レミュアン特使の件について、納得のいく説明をください。
修道院は如何なる理由で、ラテラーノから救援にやって来た特使の行動を制限するのでしょうか? あなたの回答次第で、我々が今後どういった行動を取るべきかを判断します。
……あなた方もラテラーノの使者なら、この修道院の素性はよくご存じのはずだ。
任務の資料に記載された事柄以外は存じ上げません。
十年以上前のこと……我々は天災を避けるために誤って荒野に迷い込んだ末、燃料を使い果たし、この地に閉じ込められた。
外界との交流手段を持たぬ我々は、自分たちの手で農業を試みる他なかった。だがこの地の土壌はもともと痩せており、今となっては畑で穫れる食糧もごくわずかだ。
それだけでなく、荒野に蔓延る野獣や、野獣よりも凶悪な略奪者などといった、甚大な脅威にまで晒される有様だ。
当時の我々に、選択の余地はなかったのだ……
それであなた方は、荒野をさすらう流浪者を取り込んだというわけですか。
……
「取り込んだ」という表現は、あまりに傲慢だろう。そうではない……決して、そうではないのだ。
我々はただ、行き場のない人々を受け入れたに過ぎないのだ。彼らが何かしらの理由で帰る場所を失くしたというのなら、我々が再び居場所を与えてやるべきだ。
ステファノ……
少しよろしいでしょうか。
一つ確認すべき事項があります。
おいフェデリコ、何をするつもりだ……
──! やめろ!
執行人! 何をする!
確認は済みました。
……
無茶しやがって……
だが、こいつは確かに驚きだ。司教、説明していただけますか?
なぜ、ラテラーノの修道院の中に──
サルカズがいるのでしょうか?
……
……やれやれ……
不快にさせたのでしたら、謝罪いたします。
あなたは一体何者ですか?
さっきも言ったはずだがな。俺はただの猟師さ。猟師のジェラルドだよ。
……残念ながら、信じてはもらえないようだな。