悪兆渦流13-2・戦闘後目の前の傷
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ウルサス炎カジミエーシュクルビアボリバルリターニアヴィクトリアイェラグカズデルシラクーザレム・ビリトンサルゴンミノスラテラーノシエスタイベリア
ウルサスカジミエーシュクルビアリターニアヴィクトリアイェラグシラクーザサルゴンミノスラテラーノシエスタイベリア

名前

悪兆渦流 13-2・戦闘後

目の前の傷

俺が初めて感染者の崩壊を見たのは、湖の真ん中だった。

当時の俺は七歳で、何も知らず無邪気だった。鉱区治安維持隊の隊長になることが一番の夢だったんだ。

夜になっても寝かしつけられることはないし、勇ましい制服に身を包んで、ピカピカ光る懐中電灯を片手に外をぶらつけるから。

レム・ビリトンでは、ほとんどの家庭が鉱脈に頼って生活している。採掘したり、加工したりする時にも、あらゆる手を尽くして感染防止に努める。

しかし、相手は源石だ。だからどうやったってアクシデントは起きてしまう。


ある日、大人たちが早めに家に帰ってきた。

母と叔母が客間の隅でひそひそと話していた。男たちは一言も話さず、ただタバコを吹かしていた。部屋中がむせ返るような煙に包まれて、何も見えなくなるまで。

俺は咳き込みながら客間を駆け回っていた。自分が鉱脈探検家になって、山間に立ち込める濃霧の中、自分だけの採掘場を探し求める様を想像しながら。

父に自室へ連れられて寝かしつけられるまで、ずっとそうしていた。

その翌日は……いつもより早く目覚めたのを覚えている。確か、サイダーをこっそり飲もうとしてたんだったかな。

すると、祖母が客間に座っていることに気づいた。祖母はそばに荷物を置いていて、俺に向かってこう言った。おばあちゃんはこれから遠くへ行くんだよ、と。

俺が一緒に行きたいと駄々をこねたら、祖母は仕方なさそうに聞き入れてくれた。それも当然だ、祖母はいつも俺に甘かったからな。少しだけならついてきてもいいから、そこからはおとなしくお家に帰りなさいと、そう約束してくれたんだ。


二人で歩いていると、遠くに塩水湖が見えた。それは雨季にしか現れない浅い湖だったが、その年は降水量が特に多かったせいで、対岸がほとんど見えなかった。

祖母はそれ以上進ませてくれなかった。俺は言うことを聞いた。祖母は、俺に誓いの約束までさせてきたんだ――きっと良い子にするよ、とそう誓ったのは、学校に入った時以来だった。

だけど、俺はもう良い子じゃなくなってたんだ。だから湖のそばまで、こっそり祖母についていき、近くの低木の後ろに隠れていた。

祖母は船に乗った。船には他に何人かいて、全員……身体に奇妙な石が生えていて、毛布に包まっている人もいたことを覚えている。船頭がエンジンをかけた。

俺はまだ岸辺に立って、小船がゆっくりと霧の中に進んでいく様を眺めていた。

状況がよく飲み込めず、頭がぼーっとしていた。来るまでの道すがら祖母は黙ったままだった。俺たちはただ手をつないでお散歩でもしていたようだった。

家に帰る前に、どこかで朝食でも食べていくか。そう思いながら帰ろうとした矢先、まるで水晶が砕けるような音が聞こえてきた。

振り返ると、霧の中で飛び散った源石粉塵が、太陽に照らされて怪しい光を放っていた。

まるで夢のようだった。


レイド

つまり、あなたはそのせいで感染したと?

Guard

いや、その時は運が良かったんだ。その時に限ってはね。

もしかしたら、あれは本当に夢だったのかもしれない。夏の朝の……幻だったのかも。

だが事実として、それから祖母には一度も会っていない。家族も二度と祖母のことは口にしなかった。

レイド

そうか……

Guard

祖母は、普段はとても思慮深い人だった。子供についてこさせるなんて危険な真似は、するべきじゃなかったと思う。

だけど……まるで掟に従うようにして死へと向かったあの時に、それでも一つだけわがままを通そうとしたんだ。

「死ぬ前に孫の姿をよく見ておきたい」、と。もしかしたら、俺にハグしようとも考えていたのかもしれない。

今思えば、あの学期にもらった成績表も見せてあげられなかった。

俺の子供時代で一番成績の良かった回だった。

前方の林からの音が止んだ。揺らめく灯りが動きを止める様が、交錯する樹影越しに見えた。

ほどなくして、人々のつぶやきとため息、それから苦痛に呻く声が聞こえてきた。

Guard

ヴィクトリア人の部隊が動きを止めた。レイド、警戒しろ。

どうやら、野営するつもりのようだ。

レイド

あんなところで? 俺たちの野営地から数百メートルも離れていないけど。

見てくれ、奴らを。足跡を隠す余力もないようだ。後ろからどこかの斥候部隊が跡をつけて来ててもおかしくないのにな。

ぶつぶつと文句を言いながらも、レイドの動きは素早かった。彼は俺の一歩先へ出て、邪魔な蔓を切り裂いた。

奴らのいる位置まで少し近付くと、比較的まばらな茂み越しに揺らめく彼らの影が見えた。

兵士たちは精魂尽き果てたように地面に横たわり、落葉に顔をうずめて絶望に打ちひしがれている。あの士官は石の上に座って、唯一残った自分の武器である直剣を黙々と拭っていた。

Guard

彼らは、単に動けなくなっただけのように見えた。

レイド

連中には考える時間もあまりなかったからな。いまだ幻想の中に生きているのかもしれない。

Guard

「何もかもいずれは終わる」、か。

レイド

そもそも奴らは、本当に行軍中に「はぐれた」だけなのか?

ヴィクトリア人は幸運だよ。ただ優しく追放されただけで、仲間に刀を直接突きつけられたわけではないのだから。

Guard

だが自分が感染者であることを受け入れるのはそう簡単じゃない。

彼らが自分の正体に気づいて……選択を下すまで待つこと。もしかしたら、俺たちがすべきことはそれくらいなのかもしれない。

レイド

本当に受け入れるつもりなのか? あの……「軍人」たちを?

Guard

俺たちはあまりに脆弱だ。そして、それは彼らとて同じだ。

レイド

では、これからどうする?

Guard

引き続き見張り番を続けよう。あの野営地も含めて巡回範囲を拡大するよう、歩哨たちに伝えるんだ。

感染者たちは、共に立つべきなのだから。

「共に立つ」だなんて、なんて浮ついたスローガンだろう。

そうだ、俺たちは団結すべきだ。団結するほかないんだ。

だけど……「共に立つ」なんて言葉はシンプルすぎて、そこに含まれる本当の意味を、俺たちはよく理解していないんじゃないか?

鉱石病という病気は、俺たちの生活を平等に変え、俺たちから将来のあらゆる可能性を平等に奪っていった。

けど、不作の年に税金を納めるため、来年に残しておいた種を差し出す農夫と、金庫いっぱいに金塊を詰め込んだ富豪……彼らの「奪われた感覚」が同じであるはずがない。

結局のところ、元々持っていたものが違うんだ。奪われた後に残る選択肢も……同じように異なる。

なら俺たちは、一体誰と「共に立つ」って言うんだ?


興奮する感染者

あんたがタルラさんだな?

緊張する感染者

レユニオンの創設者であり、感染者のリーダーだろ! ウルサスですげぇことを仕出かしたって、みんな言ってるぜ!

興奮する感染者

ヴィクトリアの感染者たちの間にも、あんたたちの話は伝わってきてんだ! 噂じゃ……都市を一つ奪ったことがあるんだって? そりゃホントなのか?

緊張する感染者

感染者たちの都市とはな! その都市ってまだ存在してるのかい?

タルラ

……私はリーダーではない。単なるレユニオンの一構成員だ。

粥でも食うといい。少ししたら出発するぞ。

興奮する感染者

タルラさん、あんたらが奪った都市の話を聞かせてくれよ!

タルラ

……

そのことは……

興奮する感染者

大丈夫だって、分かってるから暗い顔するなよ! ヴィクトリアに来たってことは、あまりうまくはいかなかったんだろ?

緊張する感染者

あいつら非感染者どもは、俺たちにこんだけ長いこと威張りくさってんだ。そう易々と成功させちゃくれねぇだろうさ。

興奮する感染者

あのクズどもにちょっとくらい厄介な目に遭わされたからって、それが何だってんだ? あんたらはレユニオンじゃないか!

元気出せって、みんなあんたのことを信じてるからよ!

タルラはうつむいたまま、目の前の大きな鍋をかき混ぜると、熱い粥を一杯、また一杯とお碗に盛っていった。

立ち昇る湯気が彼女の視界を曇らせていた。

タルラ

気をつけろ、少し熱いぞ。

レユニオン兵士

あんたのことを「信じてる」だとよ。

あんたはどう思う? ん? これだけ多くの奴らに希望と見なされることを。

緊張する感染者

えーと、あんた確かウルサス出身の古参メンバーだよな? 一体なに言ってんだ?

Guard

ワリア。

レユニオン兵士

分かってる……すまん、我慢できなかっただけだ。フンッ。

興奮する感染者

Guardさん、昨日は野営地で騒ぎがあったそうだな?

Guard

大丈夫だ、それならもう片付いた。

さあ、もうタルラを取り囲むのはよして、荷物をまとめよう。今日はまだまだ歩かなきゃいけないんだ。

緊張する感染者

おお、そうだった。肥料袋を車に積んでこなきゃ。

Guard

それと、「あんたらはレユニオンだ」ってのはもうやめにしよう。

興奮する感染者

そうだ――俺たちがレユニオンなんだ、ハハッ!

じゃあ、また!

タルラ

Guard……

Guard

いいんだ、それ以上は言わないでくれ。

俺はタルラから粥を受け取った。彼女はひどい顔色をしている。

Guard

今はまだ、彼らに教えてはならない。

タルラ

分かっている。お前たちが決めたことだ。

Guard

レユニオンは、二度と崩れるわけにはいかない。

タルラ

ヴィクトリアで振りかざす旗が、お前たちに必要だというのなら……受け入れよう。

だが私は彼らを欺いている。私はまだ……

Guard

それが然るべき報いってものだろう。

あんたがそれを栄誉と見なすか、拷問と見なすかについて俺は興味ない。あんたは罪人だ。だけど今、人々は団結するための「希望」を何より求めている。

実はあんたは憎き「邪神」に惑わされただけで、チェルノボーグで起きた全てはウルサスによって操られた陰謀に過ぎなかった……こんなことを彼らに伝えるわけにはいかないだろう?

だったら俺はむしろ、まずは嘘の上にでもいいから俺たちの組織を築き上げたい。

タルラ

かつての私たちも、また嘘の上に築き上げられていた。

Guard

分かってる。いつかは報いを受けることだ。けど少なくとも今回の嘘は、感染者たちをまとめ上げるためのものなんだ。

レユニオンは崖っぷちで次のチャンスは残されていない。あんたの二の轍を踏まないよう、祈るばかりだ。

あんたの妹さんは、チェルノボーグで何と言っていた?

「感染者を公正に裁ける日が来るまで。」

タルラ

……

私はその日を待とう。

それまで、私をお前たちの道具として扱うといい。

負傷した兵士

あの、すみません……

Guard

ヴィクトリア人? 何をしにここへ?

負傷した兵士

武器は持っていません。あなた方の歩哨からもすでに調べを受けてます。

その……良い香りが漂ってきたもので。うちの仲間たちは、もう四日も何も食べてないんです。そいつらの何人かが――よく分かりませんが、かなり具合が悪そうで。

こっちにはライターがあります。それから……ええと、ボタンなんかは役立つでしょうか? どれも真鍮製です。もしよければ……これらとパンを交換してもらえないでしょうか?

こんなんじゃ足りないことは分かってます! ブラックブルク村にはまだ上等ななめし皮をたくさん保存してるので、帰ったらそいつを金に換えて、倍にして返しますから!

まだヒゲも生えていないような若者が、目を輝かせながら鍋を見つめている。片手で制服の裾を強く掴んでいるのは緊張しているからか、あるいは少しでも体裁を繕おうという表れからか。

タルラは粥がいっぱいに入ったお碗を彼の前に差し出した。

タルラ

鍋の中の余りも全部持っていって構わない。

負傷した兵士

あ、ありがとうございます! その――これライターです! 大して良い物じゃないので、何度か点火しないといけないかも……それと、ボタンも――

俺は彼からライターを受け取ると、ボタンを引きちぎろうとする彼の手を止めた。

Guard

いいよ、食べてくれ。

彼はほとんど口の中に流し込むようにして粥を食べた。

Guard

君の上官は?

負傷した兵士

分かりません。朝には見かけなくなっていました。またあなた方の野営地へ突っ込むのではないかと心配だったんですが。

そういえば、昨晩何か音が聞こえませんでしたか? 何というか……砲声のような?

Guard

何も報告は受けてない。

負傷した兵士

上官は……いえ、皆もうおかしくなってるんです。俺たちも彼らも前線にはまともなヤツなんて一人もいやしません。

Guard

相当苦戦してるようだな。

負傷した兵士

「苦戦」、ですか……サルカズどもがどうやって俺たちに対抗してくるのか、あなた方には想像もつかないでしょう。

サルカズは高速軍艦も、歩兵戦闘車も持ってないから、魔族どもなんて、刀や弓で俺たち制式部隊に立ち向かってくる野蛮人の集まりだとばかり思ってたんです。

とんだ勘違いでした。想像できますか? 大部隊のサルカズ術師たちが、一斉にアーツを放つ光景を――

俺たちの砲兵や重弩の陣地なんかよりよっぽど恐ろしいですよ。っそりゃ大砲だって一発でも食らえば、腕や足が吹き飛んだり、破片が肉に食い込んで、死んだ方がマシなほどの苦痛を味わうかもしれませんけど。

サルカズどもはもっと劇的に戦場を……ラテラーノの物語にあるような、地獄に変えるんです。

装甲車が血でできた雷に貫かれて、そばにいた仲間が膿の塊と化す様を、俺は黙って見ていることしかできませんでした……

ファイフ公爵様の人たちに瘤獣小屋から連れ出された時は、思ってもみませんでした。こんなことになるなんて――

……やめよう、今は何も考えない方がいい。お粥を持って帰ってあげなきゃ。ありがとうございました、この鍋は後でお返ししますので。

タルラ

取っておけ、何かと役に立つだろう。こちらには同じものがまだたくさんある。

負傷した兵士

本当に、本当にありがとうございます。このご恩は、決して忘れません。それで……あなた方はそろそろ出発する予定ですか? ……次はどこへ向かうんですか?

何しろ、ここは戦場みたいなもんですし……周りは全部ヴィクトリア領地です。感染者はおそらく……

Guard

……

負傷した兵士

すみません! きっと機密事項ですよね? 余計な質問でした、聞かなかったことにしてください!

兵士は慌ててその場を離れようとした。無傷な方の手で鍋の縁を掴むと、ギプスを嵌めた腕で鍋底を支え、熱さに口を歪めながら戻っていく。

俺は懐を探った。先ほど医者からもらったあれが、まだ残っている。

Guard

おい! ちょっと待てよ!

俺は彼の元へ行き、上着のポケットに薬の小瓶を押し込んだ。

負傷した兵士

何ですか、これ?

Guard

仲間たちと分けてくれ。急性症状を少しくらいなら抑えられる。

ブラックブルク村だったな、覚えておく。いつか取り立てに行かせてもらうから。

負傷した兵士

俺――その……

Guard

もう行きな。

負傷した兵士

……俺たちの村、きっと気に入ってくれると思います。

ありがとうございました。

タルラ

お前は確かに、ロドスの者らしいな。

野営地にいる薬の配合に詳しい医者たちも、皆お前が連れてきたと聞いている。

Guard

正直言えば、俺たちが今作っているのは、俺の知る正規の抑制剤と比べれば薬とも言えないような代物だ。

ロドスにも安価な治療計画はたくさんあるが、結局のところは、一企業がベースだ。開発には資金がいるだけでなく、ビジネス面で考慮しなきゃいけないことも多い。

カジミエーシュやクルビアから、彼らに注がれている視線が一体どれほどあるのか、分かったもんじゃない。

タルラ

だからこそお前はナインを説得して、部隊を北に向かわせているわけか。戦士たちから聞いたが、そこには「工場」があるらしいな。

Guard

ほんの小さな製薬工場だ。

規模が大きいわけでも、移動区画の上にあるわけでもない。だが、そのちっぽけな土地は、一時期周囲の多くの感染者たちにとっては救いだった。

おそらく噂が広まりすぎたせいで存在が発覚してしまってな。後のことは語るべくもない。追い出された一部の人たちが俺たちに加わり、俺はそこから話を聞いたんだ。

工場は森の奥深くにあるから、監視はされていないはずだ。たとえ粗悪品だとしても薬は俺たちに絶対に必要だと思う。だがより重要なのは――

――そこは、ヴィクトリアのレユニオンが始まった場所だと言うことさ。

ヴィクトリアの各地に散らばった感染者たちは、まだまだたくさんいる。俺たちは、彼らと団結しなきゃいけない。君たちを助けに来たって、彼らに伝えてあげなきゃいけないんだ。

感染者たちが作った自救組織はいくつも見てきたし、俺たちを助けてくれる優しい人にも出会った。だが結局彼らも、最後にはいつもいなくなってしまう。

ロドスにいた頃、考えていたんだ。皆がもっと努力して、もっと薬をたくさん作れば、状況は良くなるんじゃないかって。

あるいはそうかもしれない。けどチェルノボーグへ行ったことで、考えが変わったんだ。

ああいう工場がいつまでも規制されるのはなぜだ? 努力や善意がいくらあったところで、憎悪と偏見の下で変わってしまうのは一体なぜだ?

悪意すら霧のように曖昧になった時、あらゆる人々が……感染者自身も含めたすべての人々が、湖の上で死を待つしかない事実を受け入れることができるのは、一体どうしてなんだ?

俺はタルラを見やった。彼女は俺の言葉に反応することもなく、驚くほど静かな目をしていた。

彼女の魂は、長らく疲弊という名の隧道を通っていた。かつて俺たちのリーダーだったこの人は、今、一体どんな姿をしているのだろう?

それとも、今俺が激情に駆られて語った回りくどい話など、彼女はとっくに誰かに話したことがあったのだろうか?

Guard

……はぁ。あんたなら分かるだろ。

鉱石病は病だ。だが……病気の治療については、ひとまずロドスに任せよう。

俺たちの敵は鉱石病だけじゃない。むしろもっと直接的な迫害や差別が――鉱石病にかこつけて隠された真理や真相こそが、俺たちの敵なんだ。

鉱石病は、この大地のあらゆるものが、最後に落ちていく先でしかない。

一つの象徴を奪い返すことで、ヴィクトリアの感染者たちがそれに気付いてくれればいい。そして、再び俺たちと共に立ってくれるように願っている。

タルラ

……「共に立つ」。

Guard

こういうのは、レユニオンにしかできないことだ。

タルラ

その考えを、他の者に話したことはあるか?

Guard

え? ああ、もちろんだ。時間がある時にはナインと話し合って――

タルラ

そうじゃない。私が誰のことを指しているのかは分かるだろう。

Guard

ああ……

少しだけ話したことはある。そしたら……優しい返事をくれたよ。だからこそ、俺は今ここにいる。

だがいずれにせよ、俺たちは同じ道を選びはしなかった。だから俺は……その……

今の俺にも多くを望むような資格はない。


ああ、そうだとも。

ロドスは理想主義者たちの楽園だ。けど俺は、いま目の前のことだけを見つめる人間だ。

目の前の利益、目の前の損得……

古参の遊撃隊員たちから、凍原でレユニオンが過ごしていた日々の話を聞いたことがある。彼らの口から、レユニオンの皆の理想を聞いたことがある。

「感染者たちが暮らす、一つの都市。俺たちの故郷。」

部隊の中にはこう考える者もいた。かつてチェルノボーグで、俺たちはその理想の実現に限りなく近くまで迫っていたが、あと一歩というところで惜しくも逃してしまったと。

だけど俺には分かる。その夢の都市は、俺たちからまだ遥か遠くにあるってことが。

それに、一つの都市だけで足りるはずがない。

あるいは、こうも言える。一つの都市だけで、一体何ができるって言うんだろう?


パーシヴァル

Guard、まだ足を引きずってるんですね? 後方に下がって車に乗ったらどうです?

Guard

ただの捻挫さ。

パーシヴァル

最近はどの作戦にも参加してなかったじゃないですか。

Guard

三日前、遊撃隊と一緒にグリウィチの辺りの感染者たちを連れて荒野を渡ったんだ。

土地はひどい有様で、そこら中に何本も溝が走っていた。俺の故郷のニンジン畑も確かあんな感じだった。もっと小さかったけどな。

そこで転んでしまったんだ。

パーシヴァル

ぷっ。

で、それって何だったんです? ロンディニウムの近くにそんな風景があるなんて聞いたことありませんけど。

Guard

あそこに何百本と溝が走っている。俺たちの全部隊がすっぽり収まるほどの溝だ。ワルターが言うには……全部、高速戦艦が通った後の轍らしい。

パーシヴァル

……

道理で一日中浮かない顔をしてたわけですね。

あたしたちは目の前の一日を生き延びることだけで、もう精一杯なんですよ。

あれこれ考えるのはよしましょうよ、ね?

レユニオンメンバー

Guardさん、前哨小隊から報告があります。

ルートの捜索中、左前方の林から音が途切れ途切れに聞こえてきたそうです。

正体は不明ですが……近付いた時に、源石環境観測器からアラートが鳴ったとのことです。

Guard

後方の部隊に迂回するよう伝えてくれ。

レユニオンメンバー

了解。

Guard

パーシヴァル。

パーシヴァル

あたしも仲間と一緒について行きます。あなたがまた転んじゃわないか心配ですし。


不穏な気配が辺りに漂っている。

機器にはかなり高い活性源石数値が表示されている。良くない兆候だ。

Guard

皆、防護装備を整え、マスクを着けるように。

木の下には、人影?

いや、あれはボロボロに破れたヴィクトリアの軍服だ。もはや原型を留めないほど引き裂かれているが、どことなく見覚えがある。そばには曹長の階級章が落ちていた。

その近くには、小さなオルゴールがあった。分厚い源石粉塵に埋もれてしまっているが、まだ辛うじて動いていた。

パーシヴァル

……

Guard

……感染者。死亡確認。なるべく早くここを離れよう。


パーシヴァルが足取りを緩めた。断続的に聞こえる音楽に合わせて鼻歌を歌っている。

パーシヴァル

Guardは、この曲知ってます?

Guard

分からない。けど聞き覚えがあるような。

パーシヴァル

……田畑には暖かな風が吹き♪ 朝日が故郷を照らし出す♪

我らが手を組めば、嵐すら恐るるに足らず♪ いつの日か、未来は我らがヴィクトリアの手に♪

……ヴィクトリアの国歌です。

子供の頃――まだ病気じゃなかった頃、先生から何度も何度も、この歌を教わりました。

もうずいぶん聞いてなかったな。

あたしはヴィクトリアで生まれました。だから理屈から言えば、あたしはヴィクトリア人ですけど……今はどうなんでしょうかね?

Guard

あの士官は、最期の瞬間まで自分はヴィクトリアのものだと信じていた。

パーシヴァル

ええ、彼は幸運だったんですよ……本来経験するはずだったことを経験する間もなかったんですから。

Guard、あたしがレユニオンを名乗っている理由は――

もう懲り懲りだからなんです。痛めつけられることに、タダ働きした翌日に工場から追い出されることに。どれだけお金を払っても、旅館の中で一番安い一部屋すら借りられないことに。

レユニオンはあたしに教えてくれました。周りからの仕打ちに耐え続け、黙々と死を迎えること以外にも、選べる道がもう一つあるって。それだけで十分です。

たとえその選択の代償が、自分の家を、国を、かつての生活を捨てることだろうとね。

……ハッ、そんなもの本当は、この身体に初めて結晶が生えてきた時に、とっくに失ってたんですけどね。ただ……それを認めるのにとても長い時間がかかったってだけで。

ウルサス人に、クルビア人、ヴィクトリア人。それから、サルカズとフェリーン、リーベリ……あたしたちの……この部隊にいる全ての人たちが……

今持っている唯一のアイデンティティは、レユニオンであることだけです。

Guard

……

あらゆる戦線を潜り抜け、この戦場を、全ての屍を踏み越えていかなければ……この大地の目と耳に、俺たちの死が届くことはないというのなら。

俺たちは……踏み越えるさ。