解離結合 15-2・戦闘後
この剣を執る者
菱形の目は、今まさに崩壊の途にある。
テレシスが頭上にある金色の海を見上げた。足場の「落下」する速度が緩やかになり始めていたとしても、いずれは海に衝突するだろう。
彼がこの足場に踏み入れた時、天と地が、そして上下が一瞬にしてひっくり返った。
――破滅。規則の存在しない虚無においてそれは何を意味するのだろうか?
破滅が訪れたその時、自分はどうなるのだろうか? テレシスには分からない。
消えゆこうとしているぞ、「アスカロン」。
お前と何らかの意志との繋がりは断ち切った。
……師匠、たった今多くの光景がよぎった。
そこに映る人物は全て私だった。しかしなぜ、自分が自分から……こんなにも遠く離れているように感じるのだろうか。
それは私の持つお前の記憶にすぎぬ。
……私の?
お前は偽りの幻影ではない、されど本物でもない。
彼奴らは私を侮辱し、お前をも穢した。
私が手ずからこの茶番を終わらせよう。
それが自分の死を意味するとしても?
だとしたら何だ?
すまない。私では師匠を救えなかった――
否、お前はよくやった。
テレシスはあらん限りの力で剣を振るい、記憶から成る眼前の存在を打ち砕くと、すでにバラバラになりかけていた足場をも引き裂いた。
「アスカロン」は砕け始め、破片は他の塵屑と同様に金色の海へと「落下」し、そのまま無秩序な情報と化した。
去ね。
せめて私の記憶の一部を携えてこの場を離れ、テレジアとサルカズの魂たちの遠出を追うのだ――
テレジアとサルカズの魂の声は、もうテレシスには届いていなかった。しかし周囲の溢れる情報の中から、微弱な親しみを彼はいまだ感じることができた。
至る所にいるが、すぐに消えてしまう――
サルカズの魂が、彼女が、未だに抵抗している。
塔が、完全に崩れ落ちた。
何もかもが情報の海へと帰り、海はゆっくりと静けさを取り戻しつつある。
テレシスもまた金色の海へと落ちた。静かで、卑小な――
これは決して終わりではない。しかしながら間に合うかどうかは――
テレシスはいささかも躊躇することなく身を翻し、さらなる深奥へと泳ぐと、暗い情報の深淵へと完全に消えていった。
次の瞬間、黄金の海面が再び波立ち、沸騰し始めた。
続けて情報の海は鋭い剣に引き裂かれたかのように、無秩序な情報が深淵へと絶え間なく流れ込んでいく――
(未知の言語)接続が……不安定になったわ。
(未知の言語)あなたなの?
彼女は目を開き、その弱くて小さい生命を見た。
そうして、荒れ狂っていた景色は完全に停滞した。
聖王会西部大広間地下玉座の間
1098年秋
(怒るように低くうなる)
アスカロンは君の助太刀など無用だろう。
(見下すような雄たけび)
支障はない。
エンテレケイアの助けのおかげで、順調に回復している。
やはり来るのが一足遅かった。
テレシスはここにはいない。見つけたのはマンフレッドだけだ。
アスカロンから送られた情報を分析したところ、テレシスが司令部を離れこちらに来ているのは確実だ。
ネツァレムが最後の決戦の地を聖王会西部大広間に選んだのは、テレシスの行動に対する目くらましの考えもあってのことだろう。
しかし現状から鑑みると、テレシスとテレジアは軍事委員会の他のメンバーに対して真の目的を隠していたようだ。
そして名義上の軍事委員会指揮官であるマンフレッドもその中に含まれていた。
……
マンフレッドは空の玉座の前に一人で立ちはだかり、あなたたちと対峙している。
アスカロンが狙いを定めているため、マンフレッドは身動ぎすることもできない。
アスカロンとの戦闘で跳ねた水たまりの飛沫がマントを濡らして、それが彼をいくらかみすぼらしく見せた。
テレジアさんが「アナンナ」を奪い取ってテレシスに渡したのは間違いありません。ですが、当のテレシスがこの場にいないだけでなく、マンフレッドも行方を知らないとなると……
ドクター、まさかテレシスもあの場所へ行ったのでしょうか――
テレジアの行いはすでに度を越していた。そうした状態で不用意にまた内なる宇宙に入るとなれば、必ずや取り返しのつかない結果に繋がるだろう。
それがどのようなものであるにしろ、今のテラに受け止める準備ができていないのは確かだ。
内なる宇宙において我々が経験した出来事から判断すると、テレジアはあの空間の規則の大部分を掌握していたはずだ。
規則を解析し、秩序を再構築した上で、テレシスと協力して最初の源石を奪取することは……彼女の能力を考えれば、決して夢物語ではないだろう。
最初の源石に関する、さらに踏み込んだ詳細な情報は私も知り得ない。当然有効な対応手段も提示することはできない。
言い方を変えると、ここまで事態が発展した以上、もはや我々は過去の経験や知識によって先行きを判断することは難しい。
……
ケルシー先生、私たちには何もできず最悪の結果を待つしかないのでしょうか?
いいや。もし彼らの計画が成功すれば、テレシスとテレジアの望みはやはり我々の認識の範囲内であり、事態が必ずしも最悪の結果に向かうとは限らない。
だがもし彼らが失敗すれば……
ケルシーがあなたの方を見る。その眼差しには色濃い憂慮が表れていた。
Dr.、我々は可能な限り急ぎロドス本艦に戻らねばならない。
テラにひと時の猶予を稼ぐため、最後に試みる余地がまだあるかもしれない。
(興奮した雄たけび)
私がドクターを守ります。それと、可能な限りマンフレッドの動きを制限します。
速戦即決する。奴が持つ「ティカズの根」に注意を払え。
マンフレッドの握る「ティカズの根」が赤い光を放とうとした時には、魔王のアーツとアスカロンの刃はすでに眼前に迫っていた。
終わるべき時だ。
――避けろ!
――!
アスカロンは瞬時に紫の霧と化し、刃の放つ光の中で広がり、また集まった。
アーミヤが編んだバリアはあなたとケルシーを守っていたが、それも光の中で脆くなっていた。
(怒ったような雄たけび)
(全力で守っている)
剣の光の主が暗闇からゆるりと現れる。微弱な光がその恐ろしさをより一層際立たせている。
お前は、己を愚かな境地へと陥れた。
……殿下……あなた……
どうやらネツァレムは私との約定を果たしたようだ……
私の前へと来たか。よい。
……
……
……
……
あなたは、玉座の前に静かに佇む落ち着いた表情の人物――テレシスを見た。
彼はあなたのよく知る姿とは全く違った。その手には、あでやかな結晶がしっかりと握られている。
どうやら驚いているようだ。
お前たちもかの地に足を踏み入れ、彼女の旅立ちを見届けたな。
この手にあるもののために、サルカズがいかなる代償を支払ったかも、よく承知しているだろう。
しかしながら、お前たちは一度たりともサルカズがこれを持つことは当然の理であると思ったことがない。
……ケルシー士爵、私の言葉に誤りはあるか?
少なくとも今現時点の私は、君たちの成功を喜んでいる。
そうか。お前が喜んでいるのは私の死であると思っていた。
――!?
……
彼に何があったか判然としない。だが一つ確かなのは、内なる宇宙の無秩序な情報が、いまだ彼の意識を急速に蝕んでいるということだ――
彼の物質的存在が別の種類の情報に完全に変換されるまで、浸蝕が止まることはないだろう。
源石……
奴はあとどれだけ持つ?
今なお生きて私たちの前に立っていることが、すでに私の想像を遥かに超えた奇跡だ。
殿下、私がお守りいたします。ひとまず共に、ここを離脱しましょう。まだ何か方法があるかもしれ――
ロンディニウムはもはや私を必要とはしておらぬ。
残りのことは、お前が処理せよ。
意識がいまだ鮮明であるうちに、私はサルカズのために最後に成さねばならぬことがある。
ロドス、お前たちの求める平等がテラにとって偉大であるのは確かだ。されどサルカズは、その日を訪れを待てはしないのだ。
なんたる皮肉。お前と私がその結果を自らの手で作り上げたのだ、。されどお前は、彼女が私に打ち明けたその道を再び歩み始めた――
「アナンナ」がテレシスの呼びかけに応えている。
地下玉座の間の空間が変化し始め、来た道はすでに消えていた。
ロンディニウムの下層に封じられた空洞が、肉眼で見える速度で埋められていく。
彼を止めてください!
アーミヤが放ったアーツを湧き返る源石が内に取り込んだ。それは彼女が遭遇したことのない状況だった。
効かない!?
アーツは届いていない。だが、テレシスは珍しく苦痛の表情をあらわにしていた。
コータス、お前は……彼女によく似ている。
テレシスは今「アナンナ」に適応し、学習をしている最中だ。だが「アナンナ」との繋がりが深くなるほど、無秩序な情報の奔流が彼に与える衝撃も強くなるようだ。
暴力的に権限を奪われた最初の源石は、創造された時の状態を保っているはずがない。我々にはまだチャンスがある。
彼と「アナンナ」にもっと近付く必要がある!
アーミヤを失いかけた瞬間に覚えた気持ちを、あなたは決して忘れない。
しかし……膨大で雑然とした情報があなたの脳内で音を立てて流れていくのを感じた――
時間はその瞬間に停止した。そして、あなたは源石を感じた。あなたは源石を掌握した。
もしかすると、あなたには、まだチャンスがあるのかもしれない。かつて持ち得ていたものを全て思い出すことさえできれば、あるいは。
あなたならば、最初の源石を止められる。
私が全力で道を切り拓きます、Dr.!
Mon3tr、私はいい。ドクターを守れ。
ここにいる者の中で、「アナンナ」を止められる可能性があるのはドクターだけだ。
(ためらうような鳴き声)
私を信じろ。
(手を広げてあなたを守る)
無秩序に波打つ源石は、長い歳月の間静まり返っていた水たまりをも巻き上げた。マスクに付着した水煙のせいで、あなたは前方がよく見えない。
しかし柔らかな糸が腰にまとわりつき、正しい方向へと導いてくれているのを感じた。
……アーミヤ?
そのまま進んでください!
言ったであろう、この争いはとうに終わっていると。
、私もテレジアも、サルカズの未来に我らの居場所は存在し得ないことなどよく知っている。
そして、お前たちの未来はここにはないのだ、アスカロン、マンフレッド。
源石がマンフレッドとアスカロンの体を這い上がり、二人を境界へと、戦場の外へと押し出した。
――!?
……
去ね。安全な場所で待っていろ。
「アナンナ」をカズデルへと持ち帰るのだ。
――お待ちください、殿下――
マンフレッドが全て言い終わる前に彼はテレシスに安全な場所に送られ、残響が地下玉座の間の中に消えた。
お前に私の行動を決める資格などない。
言うや否やアスカロンは完全に紫の霧となって源石の隙間から逃げ出すと地下玉座の間にとどまった。
至る所から、機をうかがっている。
愚かな……
「アナンナ」はいまだ光を放っている。その一方で、テレシスは動きづらくなっていた。
源石が彼の手を、目を、ひいては思考さえも制限している。
しかしテレシスは一つのことだけは決して忘れぬよう己に言い聞かせていた――この場所の全てを葬れと、それだけを一心に考える。
残されたわずかな理性をなんとか保ち、すでに安全圏にいるマンフレッドへ「アナンナ」を託せればそれでいい――
テレシスは苦しみの中で剣を掲げた。かつて、彼の魔王の隣に立っていた時にそうしたように。
最後にもう一度、サルカズのために剣を掲げた。
、ついに再び私の前に辿り着いたか。
君は……空を見たことがあるか?
あの空の外、双月よりもさらに遠くにあるところが、かつての我々の帰る場所であり、我々の眠る地だった。
しかし今や、ただ一人残った自分が、こうして君と対話している。サルカズが外敵に対抗するため、死した神々のなきがらを探し求めている時、君たちは一瞬でも疑問に思ったことはないだろうか……
神々はいかにして死んだのか、と。
テレシスの剣が振り下ろされた。
一筋の光があなたの目を刺す。あなたは「アナンナ」を止める方法を脳内で必死に思い出す――
アーミヤのバリアが剣の光の下で次々に砕けた。Mon3trの巨大な体があなたの前で壁になってくれているのが見えた。
止まれ!
あなたはついにアーミヤを失いかけたあの瞬間を思い出し、この全てを止める方法を思い出した――
あなたは思い出した――
お前は――!
……?
手を下すチャンスは一度きり。お前が教えてくれたことだ。
随分と動きが鈍ったな……
テレシスが苦しげに下を見る。そこには自身の心臓を貫く仕込み刀があり、決して揺らぐことのない表情で涙をたたえるアスカロンがいた。
霧の中から出てきた人影があらん限りの力でテレシスを玉座にはりつけにした。
「アナンナ」と彼の剣は地面に落ち、浅い水たまりの中でかすかな光を映す。
……終わりだ、師匠。
テレシスが腕を上げる。
気をつけろ、もうそれらへ触れさせるな。
しかしテレシスはただアスカロンの仕込み刀を握り締め、心臓からゆっくりと引き抜く。
刃に残るべきものは何も残されていなかった。血も、温度もない。いくつかの砕けた結晶がついているだけだ。
よい、お前は己の信念を見つけたようだ。
……お前の心臓は……
とうに止まっている。
――これであの時の償いは果たしたぞ。
あれを持っていけ……
テレシスは苦しげに地面の「アナンナ」へと目線を向けた。
マンフレッドを見つけよ……
そしてカズデルに……家に帰れ……
お前――
アスカロンは、弱々しい力でそっと押しのけられるのを感じた。
私はここに残る。
サルカズに……私の結末を知られてはならぬのだ……
上方からかすかに響く歓声を彼は聞いた。ヴィクトリア人のあげる歓声だ。
彼奴の戦争は、私に先んじて終わったのだ。
、私は中で真の神を仰ぎ見た――
惜しむらくは完全に始末するのが叶わなかったことだ……お前たちをな。
――!
ケルシー?
もしもテレシスの話が嘘でないのならば、テラのために一息つけるチャンスを勝ち取ってくれたのかもしれない。
いずれにせよ、我々はさらなる準備をする必要がある、ドクター。
ではテレシスは……
ここに残る。邪魔されることも、見つかることもないよう私が保証する。
アスカロンは「アナンナ」とテレシスの剣を手に取った。
ドクター、ケルシー先生、「アナンナ」はカズデルのものだ。
カズデルの元に戻らねばならない。
それに関しては、慎重に考えねばならない。
サルカズがロンディニウムに与えた被害は必ず新たな憎しみを引き起こします。きちんと制御しないと、さらなる災いに発展する恐れがあります。
戦争は必ず終わらせなければなりません。ですが、サルカズにも自己防衛の手段が必要です。私も一緒にカズデルへ向かって、彼らの「アナンナ」の使用を監視しておきましょう。
ケルシー、これは確かに現状の最善策だ。
そうなると我々には早急な議論が待たれる事項がたくさんあるな。だがここは相応しくない。
まずは「アナンナ」でここを離れるとしよう。ドクター、試してみてくれ。
おかしい……反応がない。
私がやろう。微かに……繋がりを感じる。私に応えてくれそうだ。
閉ざされていた通路が再び開いた。
「アナンナ」が私の思考にぶつかってきている?
十分だ。むやみに使用を続けるな。それの作用ともたらす恐れのある危害に関してはさらなる研究が必要だ。
……
アスカロンは玉座に視線を向けたが、暗闇の中では、もはやそこに座す者の顔をはっきりと見ることは叶わなかった。
彼女の視界はいくらか滲んでいた。
……
お前たちと共に行こう。
師匠の望み通りにする。最後の安らかな眠りに私が立ち会う必要はない。
アスカロンさん……
コータスが、アスカロンを強く抱きしめた。アスカロンはふと、かつて荒野にいた小さくひ弱なコータスも成長したのだと気付いた。
一緒に帰りましょう。
……ドクター?
先に行っててくれ。後から追いつく。
私が残ってドクターを守ります。
Mon3trが残って守れば十分だ。テレシスはもはや脅威ではない。
外で待っているぞ。
この場所はとても静かで、聞こえるのは水滴の落ちる音だけだ。あなたは玉座の上の人物に少しばかり近付いた。
お前は死を恐れぬのか、?
……確かにな。
それが、私を愚弄するためにここに残った理由か?
はは――ごほっ、はは……
なんと傲慢な態度か。
彼の声はひどくかすれていた。
この会話をするために相当な無理をしているな。
お前は私の尊重を勝ち得たのだ、。
お前は私が想像していたよりも、遥かに意志が強い。
されど……死を求める道を歩んでもいる。
君たちがあの源石を奪取できるとは思っていなかった。
サルカズにとって君たちは確かに英雄だ。だが――
ごほっ――はははは……
……なぜ笑う?
お前を笑っているのだ、。
お前は……何も知らぬ。
源石の内なる宇宙で一体何があったんだ?
それは私の秘密だ。お前に知る権利はない。
源石がもたらす傷を治癒したいと望むロドスを蔑もうとは思わぬ。
されど、なんという皮肉であろうか、ははは――
もしもいつの日か、本当の怪物は自分自身であると気付いたなら――
お前はいかにする、?
ごほっ、その日を見られぬとは実に残念だ――お前とは気が合ったことがないな。
あの時も、今もなおそうだ。
彼は苦しそうに体を探り、何かを取り出そうとしている。
胸当ての心臓の部分には損傷した跡がある。アスカロンが残した傷口だ。
……
テレシスの指がようやく、いつも身につけている石の刃に触れた――
(警告するような雄たけび)
静まれ……ケルシーの怪物よ。
Mon3trの警戒に反して、テレシスは手に持った石の刃をあなたの前に投げただけだった。
アスカロンのものだ。
……
去れ。
私の最期を見届けるのは、お前には分不相応だ。
聖王会西部大広間地下玉座の間
カズデル「英雄時代」の終幕の時
彼の両耳は、とうに音を捉える力を失っていた。しかし、波の寄せる音がいまだ頭の中で満ちている――それは内なる宇宙より来たる音だ。
尽きることのない情報の奔流が彼の意識に押し寄せ、理解できるものと彼の認識を超えたもの……それらが入り乱れる。
テレシスが考えを巡らせることができる時間はいくらもない。波に揉まれる中で残っていたわずかな意識も、情報の海原の中で足掻くのをやめた。
彼の意識は、一人の孤独な怪物の傍に留まった。
醜いティカズは、黒い王冠を頭に載せたまま銀色の山脈を出ると、吸い込まれるような星空を眺めた。
永久なる星空。荒涼たる大地。大地の外、星の上、数々の生命が同じ宇宙を見上げている。
このとき、彼は孤独ではなかった。彼の一生で最も静かな時間だった。
ついに、私もそなたが見た過去を……
……そして、未来を見た。
彼は何かを言おうとした。最後にあの名を懐かしみたかった。しかし彼の喉は、もはやどのような音も発することができない。
彼はすでに疲弊し、目を閉じようとした。しかし一筋の白い何かが薄暗い中から浮かび上がる――
彼女が最期に残した言葉を、あなたは知るべきだと思うわ。
テレジアとサルカズの魂が去りゆく時……彼女は、無数の呼び声の中であなたの声を聞いた。
「私たちの時代にも、ついに終わりがやってきたわ――」
「さようなら、テレシス。」
彼はどうにか目を開けようとしたが、視界は暗くなるばかりだ。
しかし、たとえ見えずとも彼にはその白い人影が誰であるかはっきりと分かっていた。
もう、彼には踏み止まる理由はなくなった。
テレシスは微笑み、最後の意識が散るに任せた。
光が暗闇を追い払った。
光が暗闇をもたらした。
光が再び視界に押し寄せ、崩壊前の瞬間に時が戻ったかのようだった。
(未知の言語)迷子かな。
(未知の言語)新しいお客さんが来るなんて、いつぶりだろう。
(未知の言語)それとも、君があの廃墟となった惑星の最後の生存者かな?
(未知の言語)いずれにしても、君の訪問を歓迎しよう。
(未知の言語)私に会いにおいで。
……たしか、死ぬ前に……誰かに手を掴まれたような。
ここは――
本来は崩壊して死に、テラの大地に還るはずだったコータスは、困惑しつつ周囲を見渡す。
これまで、似ているところすら見たことがない場所だ。光が体に注ぎ、彼女は温かさを感じる。
ここはどこ?
死んだ後の大地? 神様の住む場所なの?