相変臨界17-9・戦闘前祈りは永遠に届かず
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  • ウルサス、ゼルグラード、サンクト・グリファーブルク
ウルサスサーミ極東炎カジミエーシュクルビアボリバルリターニアヴィクトリアイェラグカズデルシラクーザ
ウルサスサーミ極東炎カジミエーシュクルビアリターニアヴィクトリアイェラグカズデルシラクーザレム・ビリトン

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相変臨界 17-9・戦闘前

祈りは永遠に届かず

スチョーパ

……

オレグ

皆散ったし、これで具体的な計画の内容について話せるか? 今の話で他の奴らは誤魔化されただろうが、俺には通用しないぞ。

スチョーパ

なんだ。あんなので、ほとんどの連中は誤魔化せちまうんだな。

オレグ

お前、いったいどうしたんだ? エフゲニーのクソ野郎に何かされたのか? 怪我してるとか? 見せてみろ――

スチョーパ

あの十二月の掃討から今まで、どいつもこいつも訓練場で俺に会うたびに山ほど質問してきた。なのに今日に限っては、何も言ってこなかった。

これは何故だ。能天気で自由なことが俺たちの天性だからかよ、オレグ? それ以外は何も重要じゃないって?

オレグ

……もちろん、お前を信じているからだ! 「進む道を示すアタマン」、「伝説の退役戦争術師」、「敵を苔麦のように刈り取る自由民の首領」……

お前を信じないで、誰を信じろって言うんだ。

スチョーパ

おお、悪くないな。もっと聞かせてくれよ。他にも俺の知らない肩書きが――

オレグ

――だが俺に言わせれば、愚かさこそが俺たちの天性だ。

愚かだからこそ痛みを忘れられるし、愚かだからこそ生き延びられる。そして愚かだからこそ、お偉いさんたちは俺たちを疑わず、手を噛まれることはないと信じてくれる。

スチョーパ

……今の言葉、シルカに聞かれなくてよかったな。

オレグ

今のお前の副官は誰でもなく俺だ。あのお嬢様を恋しがるのはほどほどにしろ。もう耳にタコができそうだ。

スチョーパ

だってお前、パヴェルの話をすると不機嫌になるだろ。

オレグ

あいつが去ってからもう三年だぞ。今頃どこかでまたうまくやってるに違いない。俺たちが気にかける必要なんてどこにある?

大祖母様の御加護があらんことを。あいつはどこにいたって、自分のポケットをいっぱいにできるようなやつだろ。生まれながらの補給官気質だ。鉱石病にさえかかっていなければな……

スチョーパ

結局今まで一通も手紙を寄越してないしな。

オレグ

その言い草だと、またトランスポーターからゆすり取ったみたいだな。

スチョーパ

人聞きの悪いことを言わないでくれよな、オレグの旦那。ここ二日間、俺がどこにいたかは知ってるだろ。どこにそんな時間があるんだ。

……

オレグ

話を逸らすのはおしまいか? じゃあ言ってみろよ、一体どういうことなんだ?

スチョーパ

逸らすもなにも、だいたい俺が言った通りだ。

オレグ

「だいたい」じゃない部分は?

スチョーパ

そいつはまぁ……俺がバスマノフを殺した時、お前もそこにいたよな?

それなら、あの時あいつが俺に何を言ったか、お前も聞いてたはずだ。


スチョーパ

……エフゲニーに投降しろ、あいつが求めてんのはそれだけだ。

無駄なあがきはやめとけ、バスマノフ。出撃時に回れ右をして指揮官に反旗を翻すなんて、正気の沙汰じゃない。それに、お前の副官はとっくに計画を漏らしてたんだぞ――

将校

彼のことは責める気はない。

スチョーパ

……何?

将校

彼は責められない。誰も責められやしない……

責められるべきは、もっと早くに真実を見抜けなかった自分だ。

スチョーパ

何を見抜けなかったって? 明らかに勝てないだろうという事実をか?

将校

生温かい炎が家や服をじわじわと焼き尽くしたことを。そして、次に焼かれるのは、剥き出しの皮膚とその奥深くの血肉だということを……我々はもっと早くに目を覚ますべきだったのだ、友よ。

スチョーパ

一体何の話をして――

将校

君のことを責めはしないさ、本当だ。しがない二等兵のヴャチェスラーフが、生きて司令室まで辿り着き報告を行ってくれた。あの瞬間、来たのは君たちに違いないとわかった。

特殊戦術兵団……隔絶され、使い捨てられる、立場が定まらない処刑人。決して自由ではない「自由民」の群れ――

スチョーパ

俺にわかるのは、「セーチン」が来た以上、お前らは軍法会議に立つ機会すら与えられないってことだけだ。

将校

だが、君は私に逃げる機会を与えてくれた。あの時坑夫たちを見逃したようにな。

表面上は、君はただエフゲニーの要求に応えているように見える。だが実のところ、今この状況ですら、君は彼の意向に背いて私に生きる道を残そうとしているのだ。

スチョーパ

……今は戦況が膠着してるから、とにかく人数が必要なんだ。降伏しろ。エフゲニーがお前に求めてんのはそれだけだ。そうすれば、あいつも悪いようにはしないだろう。

将校

ラージン少佐、ヤーコフ・ペトロフという名前を聞いたことがあるか?

スチョーパ

いや。

将校

ああ……それは実に残念だ。

今になってようやく知ったのだ。当時からすでに家が燃えていることに気づいた者がいたことを。それなのに、当時の人々は彼の叫びに耳を貸さず、狂人扱いさえしていたことも……

おそらく後世では、私の名も同様に語られるのだろう。「戦犯ヤーコフ・ペトロフと世紀を越えて握手した反逆者」オシップ・バスマノフと。

もういいだろう、ラージン少佐。私は降伏しない。君も、君の為すべきことを果たせばいい。

スチョーパ

……

将校

その手にあるサーベルが、君が何者であるかをいつまでも覚えてくれることを願っておこう。

「リヴァーノフ号」強襲艦 司令室

1102年1月21日 09:21

落ち着いた兵士

報告。本艦は現在、最前線まで32キロ、第一軍の駐屯地である周辺都市ゼルグラードまでは751キロの地点を航行中。

最前線には五時間後、ゼルグラードには七日後に到着する見込み。

スチョーパ

わかった、お疲れ様。

あと三十分頑張ったら交代だ、オレグが代わりに来る。

落ち着いた兵士

待ってくれ、俺はまだやれ――

オレグ

やれるかよ。さっさと寝てこい。

お前が戻ってこなかった間、こいつは丸一日制御室で当直をしてたんだ。それでたった二時間寝て、また起きてきやがった。俺の言うことなんて聞きやしない。

落ち着いた兵士

俺はただ心配で……!

オレグ

わかったっての。でも、お前がどうにかできることじゃないだろ。頭の中であれこれ考えるのが役立つなら、大祖母様にお祈りでもして、エフゲニーに雷を落として殺してもらう方がずっと早いだろ?

ほら行った行った。二時間後に見回りに行くからな。

スチョーパ

どうやら俺に万が一のことがあっても、お前らで何の問題もなく回していけそうだな。これなら安心だ。

オレグ

その両目はどっちも節穴なのか? 誰も俺の言うことを聞いてくれないのを見ただろ?

スチョーパ

俺がいなくなったら聞くようになるだろ。それにオレグ、お前は俺よりずっとリーダーの風格がある。お前を後方支援班から引き抜いた俺の目は間違ってなかった――

オレグ

何言ってやがる。俺が最高のパイを作った時に、多めに分けてもらえなかった腹いせだろ?

スチョーパ

まあ、それも理由の一部だが。

オレグ

知ってたっての。俺にやり返したいだけだってな。

スチョーパ

そんなこと言うなよ――

オレグ

お前、まだバスマノフが残したあの言葉を考えてるんだろ。

スチョーパ

――えっ?

オレグ

あの戯言も、あいつ自身の脳内ではそれなりに理屈が通ってるのかもしれん。だが、最後のひと言だけは挑発だって断言できるぞ、スチョーパ。

お前は何より、自分のサーベルを信じてるだろ?

スチョーパ

そりゃ誤解だ。当然、サーベルよりお前たちの方を信じてるさ。

オレグ

ほざけ。俺たちが「自由民」って呼ばれてるのは、いつでも自由に手を組めて、いつでも自由に切れるからだってことくらい、誰でも知ってんだ――

だから俺たちが信じられるのは、そして信じなきゃならないのは、自分自身とその手に握った武器だけだ。

……いや、お前のはアーツユニットか……それともサーベルで合ってるのか? 一体何なんだ、それは?

スチョーパ

……

オレグ

まあどっちでもいい。とにかく、そいつがお前を知らないわけがないし、お前がそいつに殺されるわけもない。言いたいのはそれだけだ。

スチョーパ

なあオレグ。

オレグ

なんだ?

スチョーパ

いつも「大祖母様」、「大祖母様」って言ってるが、その万能な大祖母様が一体誰で、どんな姿をしてるか知ってるのか?

オレグ

知らんな。まあでも、俺たちの「大祖母様」は、クランタかもしれないし、リーベリかエラフィアかもしれないが、ウルサスだけは有り得ないな。

なんであれ、所詮は暇潰しのための作り話だ。俺たちには、お互いの距離を縮めるために物語と歌が必要なのさ。お前のシルカもそう言ってただろ?

スチョーパ

……「大祖母様は、羽獣の両脚にガラスの小屋を乗せた」……

オレグ

……ふふん♪……ふん♪……

大祖母様は、羽獣の両脚にガラスの小屋を乗せた。

我らのように移動するためではなく、いつでも振り返り、拒絶することができるよう。

彼女は人々の求めるものを尋ねることなく、ただこう告げる――

「そなたは、あと何を差し出せる?」

彼女はあなたの駄獣を、刀と弓矢を、あなたが己の血と引き換えに勝ち取った富を求める。

さらには、あなたの母が何より誇りに思う勝利すらも取り上げていく。

我らの祖先は若い時分に、軽率にも彼女を邪悪な魔女と呼んだ。しかし歳を重ねて死期が近くなる頃、ようやく悟った――

大祖母様はただ、死に代わって我らから対価を持っていくだけだと。

なぜなら、その者が何も差し出せなくなった時――

刀はすでに三度折れ、兄弟姉妹は別々の戦場に散り、もはや憎悪を抱く力さえ残されていない時――

大祖母様は沈黙するからだ。

彼女はもう行く手を遮ることなく、小屋を退け、こだまの返らない小道を指し示す。

スチョーパ

「彼女が我らに告げた最後の言葉は……」

オレグ

「『もう守ってやることはできない。』」

スチョーパ

その通りだ。

オレグ

歌えないくせに、歌詞はよく覚えてるな。

スチョーパ

シルカがいつも俺に歌ってくれてたからな。

オレグ

はいはい、そこまでにしてくれ――

スチョーパ

それにいつも考えているんだ。もし万能な「大祖母様」でさえ、俺たちに代わって災難を止められない時があるなら……

俺たちは、生きるためにどこまでできるんだろう、ってな。

オレグ

……

総司令部からの通信だ。

スチョーパ

とりあえず出よう。

エフゲニー

駐屯地を離れたようだな。

スチョーパ

鋭いご明察ですね、総司令閣下。

エフゲニー

本来であれば、二時間ごとに自ら進行距離と状況を私に報告すべきなのだがな、ラージン少佐。

スチョーパ

二時間ごとの報告なんて非現実的ですよ。理由をもう一度詳しくご説明して差し上げましょうか?

エフゲニー

遠距離通信の時間を無駄にするな。先に進捗を報告しろ。

スチョーパ

ご存じの通り、「リヴァーノフ号」は順調に駐屯地を出発し、前線へと航行中です。我々が前線に留まって状況を観察する必要はないと仮定して話を続けますが――

エフゲニー

ああ、必要ない。そのまま前進を続けろ。

スチョーパ

……たとえ、第二軍の攻撃を受ける可能性があっても?

エフゲニー

君が心配することではないと言ったはずだ。それよりエネルギーが尽きる前に、自分の部隊をいかに周辺都市の近くまで移動させるかを考えるといい。

日程上、君たちに立ち止まっている暇はない。「リヴァーノフ号」には三日以内に指定地点へ到着し、別働隊と連携して後続任務を完了してもらう必要がある。

スチョーパ

別働隊との連携が必要だなんて話、一度も聞いてませんよ。

エフゲニー

だが、今聞いただろう。

「リヴァーノフ号」の現在の進行速度を教えるんだ。

スチョーパはすぐには答えなかった。彼はさりげなくコントロールパネルを一瞥してから、再び口を開いた。

スチョーパ

……現在順調に加速を続けています。正確な数値を出すことはできませんが、最終的には予定時間内に到着できるだけの数値に達する見込みです。

オレグ

――?

エフゲニー

そうか……

では、次回の報告は、総司令部から催促される前に行うように。

スチョーパ

……

オレグ

なぜ嘘をついた? その場しのぎにしかならないぞ?

スチョーパ

生きるためには、少なくともまず俺たちのすぐ目の前にある問題を解決しないとな。

ひとまずは第二軍が十分に対応できるだけの時間を残してやる。あとはエフゲニーの「保証」が……俺たちが源石砲で木っ端微塵にされる前に、本当に役立つことを祈ろう。


ぐすっ……ううっ……

???

フェージャ? また一人で隠れてたのね。

どうしてお母様のそばから離れたの?

ぼくは……お姉様のリンゴの木が好きだから。それに――ぼ、ぼくはもうあそこにはいたくないんだ……

寝室はあの匂いばかりで……お姉様、ぼく嫌だよ!

???

何のことかしら? 消毒液の匂い? それともビターアーモンド?

あれはすべてお母様を助けるための匂いなの。私も咳き込まないように、痛みも和らぐようにと、ビターアーモンドの香を部屋で焚いているのよ……

あなたも知っているでしょう?

……でも、あの部屋にはお姉様もいないし。

???

黒い服を着た大人たちが、もう中に入れてくれないの。

ふぅ、あの人たちは私とあなたを近づかせたくないのね。

お姉様……

彼女は低く垂れた枝から果実を一つ摘み取ると、少年の手の上に置いた。

瑪瑙のような赤は滴るほどに艶やかで、まるで離宮の外に降り注いだ無数の夏の日の陽光を、彼がとうに忘れてしまった無数の夏の日を、そこに凝縮したかのようだった。

もはや少年の目には、あのガラスの離宮にある暗い赤の廊下は映っていない。残されたのは、生い茂る枝葉の隙間から零れる砕けたガラスのような木漏れ日と、掌の上のひんやりとしたリンゴだけ。

そして耳元では、あのガラスのような甘い声だけが響いていた。

???

でも、あの人たちの言うことなんて聞くつもりはないわ。

あなたは私のたった一人の弟だもの。私たちの間にある血の繋がりを断ち切れるものなんて、何もない。

いつどんな時でも、私はあなたを見つけ出すわ。


???

フェージャ……フェージャ!

コホッ、コホッ! よかった、まだここにいたのね。

聞いて。嫌なのはわかっているけれど、あなたは戻らなければいけないわ。あの人たちについて行って、お母様のお葬式に出るの。わかった?

私は行くことはできないけれど、あなたなら……

おいで、タイを直してあげる。本当におっちょこちょいね。またどこかで転んだのでしょう? ズボンも汚れているし――

ええ、これでいいわね。早く行きなさい。

……私?

私は……リンゴの木の下で、あなたを待っているから。

そう、あなたは勇敢なフェージャで、私の勇者様よ。たとえ誰かがあなたを惑わし、操ろうとしても、恐れないで。あなたは誰よりも強いのだから。

あなたにはきっと、何よりはっきりと聞こえるはずよ。私があなたを呼ぶ声が。

そして、私はずっとここで、あなたを待っているわ。


フェージャ。


フョードル

――!

あれは……夏の離宮か? なぜ突然、あれほど昔の夢を見たのであろうか。

夢の中のあの人物は……「お姉様」だと?

バカげている……余に兄弟姉妹などいるものか。

くっ――

(頭痛の頻度が増している。)

(カトルガ区から戻って以来……)

……

ヴィッテ

陛下、「市民議会」の開催に向けて、準備の各段階の進捗に関する最新の報告書をお持ちいたしました。

フョードル

ちょうどいいところに来たな。これで余計な思索に時間を費やさずに済みそうだ。

ヴィッテ

ひどくお疲れのようですね。

フョードル

夢を見たのだ……久しく足を踏み入れていない、夏の離宮のな。可笑しいだろう?

あの近くに、美しいリンゴ園があったのを覚えている。もしいつかお前が療養を欲した時は、あれはなかなかに相応しい場所になりそうだ。

ヴィッテ

……リンゴ園、ですか?

フョードル

ああ……まあよい。些事だ――進捗はどうなっている?

ヴィッテ

元より我々の側に与していた貴族の大半は、カトルガ区での事件を経た後も、引き続き我々の方針に従う傾向にあります。

誰もが「市民議会」の試験的導入という決定を速やかに受け入れ、積極的に協力しています。自分たちの領地でも同様の施策を試すため、税収の譲渡を申し出る者たちもいるほどです。

悪くない滑り出しと言えるでしょう。

フョードル

して、良い知らせばかりでもないのだろう?

ヴィッテ

陛下もお気付きのことと存じますが……

陛下肝入りの「冬季臨時資源配給法」ですが、法案が市民議会で可決されたからといって、上院の保守派の首を縦に振らせることができるとは限りません。

保守派だけではありません。何らかの産業を営む貴族であれば、自身の利益をみすみす他者に譲りはしないはず。国内に残った数少ない源石資源を議会が掌握することなど、彼らは認めないでしょう。

フョードル

……それがウルサスを救う唯一の道だとしてもか。

ヴィッテ

多くの者が「唯一」であると思っていないのは明らかでしょう。

フョードル

我が帝国の将官どもは、未だ先帝が奴らのために編んだ美しい夢に押し並べて酔いしれているのだな。

血峰の戦いで流した血ではまだ足りぬというのか? あれを名誉の敗北だとでも思っているのか? 奴らが本当に気概を持っているのであれば、今頃ウルサスの領土はもう一回り広がっていただろう!

バカげている……なんと滑稽な! ……ゴホッ、ゴホッ!

ヴィッテ

陛下、心を乱されるとお体に障ります、どうぞお鎮めになってください。これは侍医からの申しつけです。

彼らもその事実は重々承知しているはずです。彼らの望みは、取り返しのつかない大きな混乱が訪れる前に、ウルサスの躯から可能な限り多くの血肉を削ぎ落とすことだけなのでしょう。

統一された国家が存続できるか、統治下の民が悲鳴を上げているかなど、一部の者にとっては些細なことなのでしょう。自身と子孫が末永く豊かな生活を享受できるかどうかに比べれば。

フョードル

何が言いたい。

ヴィッテ

一つ、情報を入手しました。

フョードル

なんだ。

ヴィッテ

「プロジェクト・ゼロ」のエネルギー研究の進捗が芳しくないことは、琥珀宮に出入りできる限られた数名のみが知る事実です。情報に触れられる者は、一人残らず厳しく管理されています。

しかし内通者によれば、我々が情報を確認したのとほぼ同時期に、第四軍が動きを見せたとのこと。

密かに部隊を集結させ、前線へのさらなる進軍の準備を整える一方で、第一軍の駐屯地へ別働隊を派遣しているようです。

フョードル

……今回、奴らは二段構えの準備までしているというわけか。

ヴィッテ

陛下、私が申し上げたいのは、第四軍によるサンクト・グリファーブルク、ひいてはツァレフグラード区での工作が、もはや目に見える所にまで行き届いているということです。

これは極めて重く受け止めるべき事態です。

フョードル

お前は憶測だけで報告に来るような男ではない。誰を疑っている?

ヴィッテ

……

(小声)ヴァシリー・ゴルシコフです。

フョードル

副議長だと? だがあやつは下院の新興貴族代表ではないのか――

ヴィッテ

おっしゃる通りです。しかし彼の営む産業は、軍事貴族の一団と非常に緊密な繋がりを持っています。亡き妻の生家であるゴルシコフ家に至っては、由緒ある勲功貴族の家系です。

かつて彼は、妻の家系からの援助を得るために自ら進んで改姓しました。そうしてようやく、家系の縁を通じて近衛軍に入隊し、経歴に箔をつけることができたのです。

客観的に見て、ヴァシリーの立場は……盤石とは言えず、揺らぎうるものです。

フョードル

……琥珀宮の侍従にサヴェリーという者がいる。奴はあの一族の分家の出であったはずだ。

ヴィッテ

お伝えしたいことを、改めて私から申し上げる必要はなさそうですね。

フョードル

議会の趨勢に影響を与える層の中に、開戦派の側へと明確に傾き始める者がいるとすれば――

いや、ヴォルキナ公爵もだろう。会議には決して参加せぬ名誉副議長、あの者も軍事貴族だ!

ヴィッテ

しかし、彼女が意見を表明することはありません。

フョードル

重要なのは言葉ではない、行動だ。それはヴァシリーにとっても同じこと……

奴らを監視せよ。誰一人として見逃してはならぬ。表立った動きであろうと、裏に隠された事実であろうと、我々は如何なる分裂の兆候もすべて排除せねばならぬのだ。

ヴィッテ

仰せのままに……

フョードル

……ヴィッテ、疲れたか?

ヴィッテ

滅相もございません……陛下。

フョードル

余は無力感を覚え始めている……ヴィッテ、我々は本当に何かを変えられるのだろうか? 我々にはあと何ができる?

ヴィッテ

成せることは、まだ数多くございます。

陛下はすでに先帝が残した影を払拭なさいました。次は陛下のお慈悲が軟弱でないことを証明するため、より強大な力が必要です。

陛下が良しとしないもの、それが何であろうと我々は屈してはなりません。

フョードル

もうよい……そうした耳障りのよい言葉は聞き飽きた。お前にだけは、そのように扱われたくないのだ。

「市民議会」は推し進めねばならぬ。一人でも多くの者を我々の側に立たせるため、あれは必須の改革だ。もはや時間はさほど残されていないのだ。

ウルサスはこれ以上の内乱に耐えられぬ。考えが異なるからと言って、暴力的な手段をその者たちに向けてはならぬのだ。

もっと辛抱強く……説得を試み、彼らの持つこの国に対する愛を少しでも呼び起こすように、人として生まれ持った良心を少しでも引き出すように努力しなければならない。

ヴィッテ、お前の言う通りだ……我々はここで屈するわけにはいかぬ。

サンクト・グリファーブルク オドエフ区 ロドス臨時治療センター

アロイジウス

……へぇ、これならもっと早く入ってみればよかったわ。中はすっかり様変わりしていたんですね。

ヘラグ

なぜこれまで入らなかった?

アロイジウス

いつも治療を求める人々が列をなしていましたから。列がない日がいずれ来るでしょうし、入るのはその時でいいと思って、ずっと外から眺めるばかりでした。

今もいくらか混み合ってはいるようですが、少なくとも全員が中に入れているようですね。

ヘラグ

君にはいろいろと助けられたと聞いている。

アロイジウス

いいえ、私の助力などまるで不十分です。

クライニ・セーヴェルの事件から生還した子が教えてくれました。ロビーはこの建物で真っ先に整えられた場所で、夜も明るく、暖かいので気に入っているとか。

ですが私は知っているのです。ロドスが何より先に入口の整備に労力を割かなければならなかったのは、貴族の目を誤魔化し、彼らに政治的実績を献上して、後の有事に便宜を図ってもらうためだと。

そうでなければ、あの人たちが突然これほどの関心を、中心部から離れた感染者治療センターに寄せる理由がありません。

ヘラグ

理由はどうあれ、ここはとても明るく暖かい。そうだろう?

アロイジウス

……時々わからなくなります。あなたはわざとおとぼけになっているのか、それとも――

途切れ途切れの声

……必要だと、思って、います。

でも、もうちょっとだけ待って……ジュナーおねえちゃんが、帰ってからでも、いいですか?

アロイジウス

ちょうどいいところにいたわね。私が言っていた子というのは、彼女のことです。

ヴェトチキ

とにかく、まずはみんなを中に……入れないと。外にいるよりは、絶対に暖かい、から。

それで、どう、分けるかは……ええと。まずは、わたしが、運ぶのを少し、手伝って――

アロイジウス

ヴェトチキ。

ヴェトチキ

――あっ!

アロイジウス

あら、ごめんなさい。驚かせてしまったかしら?

ヴェトチキ

い、いえ。そんなことない、です! わたし、ただ聞こえてなくて……

また来て、くれたんですね。ありがとうございます!

アロイジウス

通りがかりに寄っただけだから気にしないで。外の路地には誰もいなかったし、ストーブもなくなっていたけれど、空き部屋の片付けが終わったのかしら? 家具や設備も分け合って使えてる?

ヴェトチキ

ま、まだです。マットレスや毛布は、いくつか運ばれて、きましたが、人手が足りなくて。外は……さ、寒すぎますし。

とりあえず、皆さんには、ロビーで座って、もらうだけでも、いいかなって。

あっ! 夜にはちゃんと、なんとかして、みんなが、使えるようにします――ベッドを! 検査の時、ロビーには、誰もいないように……

アロイジウス

……はぁ。

いい? ヴェトチキ。あの通達は確かに、治療センターを常に清潔で整えられた状態に保つよう求めているわ。でもそれが現実的じゃないってことくらい、私たちは皆わかっているの。

だから今は、そんなことを気にしなくてもいい。もし他に必要なものがあれば、遠慮なく言ってちょうだい。私に手伝えることなら何でもするわ――

ヴェトチキ

そんな……さっきも、マットレスや、毛布を、届けてくれましたよね? あんなに、たくさん。

アロイジウス

……え? 次に送る物資はまだ集め終わっていないわ――

ヘラグ

……

アロイジウス

ヴェトチキ、誰が来たの?

ヴェトチキ

おねえちゃんと、そっくりな服を、着たおにいちゃんが……物資を持って、何人かを連れて、ここに来ました。

つい、さっき……

あっ、この人です!

アロイジウス

……プラトン?

プラトン

……チッ。

アロイジウス

なぜここに?

お母様が病気で、休暇を取って帰省したんじゃなかったかしら?

プラトン

ああ。ここは母が出資をしている慈善団体の一つだからな。君の方こそ……忙しいはずの君が、オドエフ区まで来て平民の生き死にを気にかける暇があるとは。

君の目には、陛下と自分の輝かしい未来しか映っていないものだとばかり思っていたよ。

ヴェトチキ

おねえちゃんは、そんな人じゃ――

用心棒

下がれ。

ヘラグ

ヴェトチキ、私の後ろへ。

アロイジウス

あら? それは奇遇ね。

私の方も、ルーニン家がロドスの支援者になる気があるなんて知らなかったわ。この件に関してはすでに我が家が全責任を負うと宣言しているというのにね。

プラトン

……次からは契約書にサインする前に、独占契約かどうかを確認したほうが賢明かもしれないな。

アロイジウス

その言葉、そっくりそのままお返しするわ。

でも真面目な話、どうしてここに来たの? あなたはこういうものに……市民の生活や慈善事業には、これまでまるで興味を示していなかったじゃない。

それが急にこんなことを始めて、用心棒までぞろぞろ連れているなんて。急に善意に目覚めたか、ここを自分のパフォーマンス会場だと勘違いしているかとしか思えないわ。

でも、あなたがお涙ちょうだいの写真を撮って、新聞や都市間ネットワークに載せたいだけなのだとしたら、専属カメラマンと照明スタッフはどこにいるの?

プラトン

君には関係のない話だ。結局君たちは、我々の援助が要るのか、それとも要らないのか。どっちなんだ?

アロイジウス

もちろん、いただくわ。要るに決まっているでしょう。そしてお礼も言っておくわね。善意の寄付は多ければ多いほどいいもの。だけど次からは、正規の手順を踏んでもらいたいわね。

だってここには、感染者だけじゃなくて、陛下にとって非常に重要な証人たちもいるんだから……万が一何か事故にでも巻き込まれたら、あなたも弁明しきれないでしょう?

プラトン

……ふん!

アロイジウス

……

ヴェトチキ、彼が持ってきた物資はどこにあるかしら?

ヴェトチキ

毛布はもう、使っていて。マットレスは……まだ、倉庫の中です。

まずは、もっと多くの、部屋を片付けてから、マ、マットレスを、使おうと、考えてて。

アロイジウスは、ロビーにいる様々な患者の顔を眺めた。真新しい毛布に身を包む彼らの中には、身を寄せ合って座る者もいれば、床にうずくまる者もいた。

誰も、このような時間を邪魔したいとは思わないだろう。

アロイジウス

まずは残りの物資を見に行きましょう。


アロイジウス

彼が持ってきた物資はここね。

ヘラグ将軍、手を貸していただけますか? 物資に問題がないか確認しておきたいのです。

ヘラグ

彼を疑っているのか。

アロイジウス

この手の話には、あなたは興味をお持ちにならないかと思っていましたが。

どうお伝えしたものか……疑っているというよりは、直感的に違和感を覚えているのです。近頃、この街では暗殺やスパイなどの騒ぎが続いているので、神経質になっているだけかもしれませんが。

よくよく考えれば、この程度の物資を調達するくらい、彼の家からすれば容易いことかもしれませんね。これまでその気がなかっただけで。

はぁ、私も半分は彼の上司のようなものですが、望ましい方向には導けませんでしたね――

ヘラグ

私の記憶では、近衛軍における上下関係は、常に他の軍とは異なっていたはずだが。

軍では階級の昇進過程が厳格に定められているが、ほとんどが士官学校から直接入隊する近衛軍では事情が異なる。その上、同じ貴族の出となれば、二人とも入隊時は中尉に任じられていただろう。

階級の上では同格だ。仮にその後、異なる役職に就いたとしても、それが短期間で変わることはない。

アロイジウス

彼が私を上司だと認めないのも無理はないと、そうおっしゃりたいのでしょうか?

ヘラグ

似たような事例はいくつも見てきた。それに、在役年数を満たせば自動的に昇進するという規定は、近衛軍には適用されないだろう。

アロイジウス

ええ。ましてや今は平和な時代ですし、サンクト・グリファーブルクは大反乱の時でさえ陥落しなかった要塞です。ここで立てられる手柄など知れていますから、昇進できるはずもありませんね。

ヘラグ

それは君自身の抱える不満か。

アロイジウス

まさか、決してそのようなことはありません! それに今は状況も変わってきています。ふっ……手柄を立てる機会なんて、ないに越したことはないのですが。

プラトンの一族は、彼を中央軍に編入させて前線に送り込むため、常に画策を続けてきました。私が彼の異動申請を却下したのも、目の敵にされている理由の一つなのでしょう。

もし中央軍からの動員までもが必要な局面に至っているなら、このサンクト・グリファーブルクにおいても、誰一人として無関係ではいられないでしょう。

中央軍に所属する首都駐屯軍団は、近衛軍と並び立ち、我が国最後の防衛線とならなければなりません。

ヘラグ

人心が一つにならないこと、それこそが君の真の懸念事項というわけだ。

アロイジウス

……おとぼけにならなくなった将軍は、ずいぶん話しやすい方ですね。もし副議長がここにいたら、あちこち動き回るのを控え、まずは私自身と一族のことを第一に考えろと説教していたでしょう。

クライニ・セーヴェルでの事件以降、サンクト・グリファーブルクの各陣営の分裂は表面化し、あのカトルガ区での惨劇もまた、日和見主義者たちに警鐘を鳴らしました……

ここ最近で未遂に終わった暗殺のうち、もし一つでも成功していれば、サンクト・グリファーブルクは直ちに物理的にも瓦解していたことでしょう――

待ってください、この物資は……

ヘラグ

何かおかしなところでも?

アロイジウス

今気づいたのですが、ここに置かれている物資はどれも軍需品で、通常は軍需工場と軍隊の間でしか流通しないものです。

緊急事態の時であれば、議会が軍の物資をいくらか調達することは稀にありますが――プラトンが? こんなものをどこから調達してきたの?

あいつ、一体何をしに来たの?

???

フゥー……

アロイジウス

……誰――!?

「皇帝の利刃」

感染者治療センターに偽装し、裏で反逆者と通じる。まさに私の推測通りだ。

教えてもらおう、中尉。

反逆者はどこだ?