相変臨界17-10・戦闘後愛の尺度
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  • ウルサス、ゼルグラード、サンクト・グリファーブルク
ウルサスサーミ極東炎カジミエーシュクルビアボリバルリターニアヴィクトリアイェラグカズデルシラクーザ
ウルサスサーミ極東炎カジミエーシュクルビアリターニアヴィクトリアイェラグカズデルシラクーザレム・ビリトン

名前

相変臨界 17-10・戦闘後

愛の尺度

アロイジウス

……反逆者ってどういうことかしら? 話が見えないわ。

「皇帝の利刃」

ここは感染者治療センターに偽装された、諜報活動の拠点だ。金銭のやり取りの代わりに物資の交換を行っているのだろう……

すべての手がかりが、周囲とは相容れないこの場所を指し示している。

貴様らはここに何を隠し、誰を庇っている?

シュー……目の前に一人いるではないか。過去の亡霊、疑わしい人物が。

ヘラグ

……

「皇帝の利刃」

貴様は……過去に成し遂げられなかった使命を携えてウルサスへ戻り、またしても途中で投げ出すつもりか?

だが、今の貴様が提げているのは真剣ですらない。

アロイジウス

この方は関係ないでしょう! 今の近衛兵の最優先任務は暗殺者を追うことなんじゃ――

うっ……

「皇帝の利刃」

話題を逸らすのは、この場で最善の戦術とは言えないな、中尉。

スパイを引き渡せ。

アロイジウス

つまり、こういうことかしら。宮殿に暗殺者を招き入れたスパイがこの場所にいる、そう近衛兵が確信する手がかりがあるのね。

いいでしょう。だけど、私もあなたが探しているスパイが誰なのか本当に知らないの。もう少し時間をちょうだい。絶対に真相を明らかにしてみせるから――

「皇帝の利刃」

フゥー……しかし私の持ち得る時間には限りがある、中尉。

もし私の求める答えを差し出せないというのなら、最も単純で早い方法を用いて、綺麗に解決するしかない。

この場所を完全に抹消するのは造作もないことだ。

アロイジウス

……「抹消」? 第四軍が坑夫たちを消し去ったのと同じようにという意味かしら?

「皇帝の利刃」

正義と不義を混同しているようだな。

アロイジウス

あなたたちの出発点は疑っていないわ。けれど、どうしてその行動が正当であり、得られた情報が何者かの手で歪められてはいないと言い切れるの?

あなたが蔑み疑う相手の中には、他の地域から来た立場の弱い人たちや感染者だけでなく、女大公の罪を告発できる生還者や証人もいるのよ!

これほど重い問題だというのに、あなたは独断で動こうとしているわ。でも近衛兵が騙されていないのだと、間違った判断をしていないのだと、どう証明するつもり?

「皇帝の利刃」

……

我々はそのようなことをしない。それが証明だ。

我々はただの武器、陛下の両手の延伸に過ぎない。

武器は価値を量ることも、善悪の判断を下すこともない。近衛兵の手によって蒔かれた「因」の種が「果」を実らせることはなく、育むものはただ黙然とした血生臭さのみ。

アロイジウスは、自分があまりに致命的な過ちを犯したことに気づいた。それは、目の前の悪魔の被造物に対し、理性と感情を持つ個体として接したことだ――

「皇帝の利刃」

そして、貴様が……

教えてもらおう、中尉。

貴様が疑っているのは、一体何だ?

「国土」の息吹が突如として解き放たれ、閉鎖された空間の中で瞬く間に広がっていく。

それはいつものように絶望を撒き散らし、恐怖をもたらさんとする――

その刹那、アロイジウスの前に何者かが立ちはだかり、彼女を庇った。その時ようやく、彼女は自分が腰に提げた鞘が空になっていることに気づいた。

剣を奪った者の動きは、目で追うことができないほど速かった。人影がすれ違うや否や、寒々とした光が空中で一閃し、周囲に蔓延する黒を切り払う。

アロイジウス

何――

アーツの気配は、ほとんど感じられなかった。つまり目の前の人物は、剣を抜き、握りしめた時の衝撃だけで、一時的とはいえ近衛兵を牽制するほどの力を生み出したということになる。

その手に握られたものが、ほとんど飾り物に近い儀式用の剣であるにもかかわらず。

ヘラグ

どうやら君たちですら窮地に立たされるほど、目下の事態は深刻なようだ。

さもなければ、君たちが都市内で直接行動を起こし、得られるかどうかも不確かな手がかりを追って時間を浪費することはなかったはずだ。

少なくとも、大反乱以来の数十年間、このようなことは一度も起きなかったはずだ。

「皇帝の利刃」

……貴様は「国土」を切り裂いた。貴様は――

ヘラグ

ウルサスの各軍が、真の意味で近衛兵と同じ陣営に立ったことはない。彼らがかつて研究し磨いていた悪魔や怪物に対する術は……どうやら今でも有効なようだな。

「皇帝の利刃」

悪足掻きを。

ヘラグ

そちらも同様だろう? 以前近衛兵がサンクト・グリファーブルクで独断専行に走り、罪に問われた一件から久しい。

後になって、それは陛下の身を案じた個体による誤判断だったと認定された。しかし極北への追放処分が覆ることはなかった。

私の知る限り、その者は二度とサンクト・グリファーブルクの地を踏んでいない。今なおサーミの吹雪の中を彷徨い、かつての戦友から災厄として追われているかもしれん――

「皇帝の利刃」

我々に過ちは許されん。追放の裁きを下したのは我々自身であり、陛下ではない!

ヘラグ

いずれにせよ、猜疑の種はすでに蒔かれた。多くの者が陛下と君たちの間に溝が存在し続けることを期待しているが、君たちは……そのことに対し、表立って何らかの反応を示すことができない。

謂れのない疑惑を受けようと、陛下に剣を向けることはできない。ゆえに下策を繰り返すのだろう。シモンクやチェルノボーグ……あるいはさらに多くの、人知れず起きてきた惨劇のように。

「皇帝の利刃」

貴様に何がわかる――

ヘラグ

教えてくれ、「皇帝の利刃」よ……

君が再び無謀な行動に出ようとしていることを、同僚たちは知っているのか?

「皇帝の利刃」

……以前言葉遊びに興じた道化は、すでに炎の中で灰と化した。

貴様は奴の二の舞を演じるつもりか?

ヘラグ

生憎だが、私に脅しは通用しない。

私が過去の幽霊でしかないことは君も知っての通りだ。進んで表舞台に出る気はないが、いざとなれば「幽霊」の本分から逸脱することも厭わん。

今この建物で、ロドスの庇護を受けているすべての者たちのために……私はこうして剣を抜くのだ。

一千度でも、一万度でも、幾度でも。

君たちのような者が退くか、あるいは私が二度と立ち上がれなくなるまで。

「皇帝の利刃」

とうの昔にウルサスに背を向けておきながら、今更その民に忠誠を誓い、守護を約束するとは。

なんたる偽善、片腹痛い……思い上がりも甚だしい!

ヘラグ

私の言葉をどれほど否定しても構わん。だがそうしたところで……君が賭けに出ることはないだろう。

私に殺される前に、この場を掃討し尽くせるかどうかという程度の賭けであってもな。

――ウルサスに、これ以上の「皇帝の利刃」を失わせたくはあるまい。


闇からの声

ならば見せてもらおう。貴様のその覚悟がいつまで持つかをな。

ヘラグ

……

闇からの声

中尉。

恐怖が霧散し、近衛軍の若者はようやく、絞り出すように声を取り戻した。

アロイジウス

……何かしら。

闇からの声

時間をやろう。だが……

ウルサスと共にあることを選ぶか、それともウルサスに背を向け、仇なす者たちと群れ続けるか……

次に会う時、貴様の答えを聞かせてもらおう。


扉の外の声

女大公殿下、トランスポーターが戻りました。予定より三日ほど早い帰還です。

このまま通してもよろしいでしょうか?

エリザベト女大公

ええ、ひとまず通してちょうだい。

エリザヴェータは机の前から立ち上がり、慣れた手つきでまだ目を通していない報告書をそっと脇へと押しやった。

手元の茶はすっかり冷めきり、淀んだ暗褐色の濁りが沈んでいた。彼女は指を曲げてカップの縁を小突いたが、まるで中身の詰まったものを叩いたように、何の音も響かなかった。

エリザベト女大公

……

扉の外で、侍従はまだ誰かと話しているようだった。しかしその声は、先ほどまでの明瞭さとはかけ離れており、内容がほとんど聞き取れない。

彼女は足を踏み出し、扉へと歩き始めた。

室内の黒い石造りの暖炉の中で、リンゴの木の薪が燃え続けているが、もはや弾けるような音は立てていない。それどころか、炎の色もすぐに暗色に染まり、それを囲む黒と溶け合っていく。

その黒はエリザヴェータへと流れ込み、そして部屋全体、四方の壁へと広がっていった。

エリザベト女大公

イリューシャ。

扉の外の声

はっ、控えております。

エリザベト女大公

トランスポーターが何か懸念を抱いているようであれば、明日改めて訪ねるよう伝えてください。

それと、お茶が冷めてしまったから、もう一杯薄めのものを淹れてくださらない? シナノキのハチミツと、レモンスライスも添えて……昔みたいに。

扉の外の声

……

はい。

エリザベト女大公

地図の上で、サンクト・グリファーブルクを指し示す亀裂と、生きているかのように蠢く国境線……

また、私に何かを伝えようとしているのですか?

「皇帝の利刃」

エフゲニーは責を問われることだろう。奴の敗色は濃厚だ。

エリザベト女大公

あら? 彼はまだ若さを謳歌しているのですね。だからこそ勝機も定かではない賭けにすべてを注ぎ込む真似ができたのでしょう。待ち続けるうちに時間とチップを使い果たすのも、当然の帰結です。

ですが、それと私の間に何の関係があるのですか?

「皇帝の利刃」

領内で近衛兵が死亡した事実を知りながら報告を怠り、第四軍が反乱を起こした感染者の掃討を口実に中央区へと進軍し、サンクト・グリファーブルクに圧力をかけることを幇助した。

貴様はこの一連のすべてに関与している。

貴様のトランスポーターは、私が必要とする情報をすべて吐いた。貴様がエフゲニーに提供した軍事物資や資金の総額まで、我々はすでに把握している。

エリザベト女大公

聞いた話では、あなたたちのそうした交渉術――あるいは脅迫は、近衛兵の印象を深めるための一手に過ぎないそうね。子供にとっては恐怖の象徴、大人にとっては頭上に吊るされた剣となるための。

「皇帝の利刃」

時間稼ぎは無駄だ、エリザヴェータ・コンスタンチノヴナ。

エリザベト女大公

こういった時は、今の陛下と同じ流れを汲む姓で呼んではもらえないのですね。

「皇帝の利刃」

たとえ貴様が、今や数少なくなった陛下の親族の一人であったとしても、ウルサスに裁かれるという事実に変わりはない。

かつての大反乱で、貴様は正義の側に立った。それは確かだ。だからといって、あの決断が今回の件の免罪符になるわけではない。

エリザベト女大公

そうなると考えたことすらありません。当時まだ幼かった陛下をお守りしたのも、ひとえにそれが正しい行いだと信じていたから。見返りや後々の利益なんて、私は一切求めていないのです。

今日に至るまで、私はクライニ・セーヴェルの女大公に過ぎず、自分自身のために何かを求めたことなど一度もないのですよ。

そういえば、かつてクライニ・セーヴェルの戦士たちも、悪魔との戦いにおいて幾度となくあなたたちと共闘をしてきました。それなのに、こうしてお会いするのは初めてです。

「皇帝の利刃」……近衛兵。

教えてください。あなたたちのような存在が、どうして哀れで弱々しい感染者たちの手によって、いとも容易く命を奪われるのでしょうか?

「皇帝の利刃」

……

物静かな侍従

殿下、お茶をお持ちしました。

熱湯で三分間ほど蒸らし、レモンスライスとシナノキのハチミツを入れてあります。

エリザベト女大公

あら、ありがとう、イリューシャ。

いつも非の打ち所のないお仕事。あなたのお姉様のことを思い出させてくれます……

「皇帝の利刃」

エリザヴェータ。

エリザベト女大公

あら、失礼。どこまで話をしたかしら? 私の管轄区で死んだという、あなたの同僚のことでしたね――

物静かな侍従

恐れながら。もしお二方が例の件と、それに伴って引き起こされた数々の出来事についてお話しされているのなら……

エリザベト女大公

……イリューシャ?

物静かな侍従

その主たる責任は、この私にあると考えます。

殿下のご信頼により、私はここに自由に出入りすることを許されました。殿下を差し置いて、情報の封鎖を命じる政令を各自治体に先んじて通達したのは私です。

エリザベト女大公

イリューシャ。

物静かな侍従

第四軍の行動に対する黙認も、私と使者との話し合いで決まったことです。

サンクト・グリファーブルクから届いたきり、返信されることのなかった数々の手紙もまた、閣下の目前にある私のこの両手によって破棄されました。

殿下は何もご存じではないのです。

エリザベト女大公

言ったはずです、その方法を使うまでもないと――

「皇帝の利刃」

……陛下がそのような言い訳を信じるとでも思うのか?

罪をすべて一人の侍従に押し付けるとはな。貴様を買い被っていたようだ、エリザヴェータ。

だが、どう消えるかを選ぶ権利はまだ貴様に残されている。ここで自刃するか、それともサンクト・グリファーブルクの裁きを受けるかだ。

時間はそれほど残されていないがな――

その時、一見ほっそりとした侍従が、咄嗟に腰元から一本の短剣を抜いた。

彼はその剣先を、眼前で微動だにしない存在へと向け、そして――

物静かな侍従

先ほども伝えた通り、殿下は何もご存じではないのだ。

「皇帝の利刃」

身の程知らずめ。

黒がいとも容易く彼を侵し尽くしてしまう前に、侍従は不意に剣先を自分へと向け、力を込めて己の胸に突き刺した。

弱々しい声

私が……証明……

エリザベト女大公

……

イリューシャ……

「皇帝の利刃」

愚か者め。何の証明にもならぬことを。

女大公の表情に一切の乱れはなかった。ただ頬を伝う涙だけが、彼女の隠した思いを少しばかり語っていた。

彼女は歩み出し、死者の両瞼を閉じた。

エリザベト女大公

……おっしゃる通り、彼はただの愚かな子です。

あまりに事を性急に運ぼうとしすぎました。その方法を使うまでもないと言ったのに、少しも待ってくれないなんて。

「皇帝の利刃」

エリザヴェータ。

エリザベト女大公

しーっ……

先ほどの私の質問に、あなたはまだ答えていませんよ。

ですが、今となっては些末なことです。私からお答えしましょう、近衛兵をいとも容易く殺し、塵のごとく消し去れるものが何であるか……

「皇帝の利刃」

貴様、やはり佯狂者を知って――

エリザベト女大公

「デーモンよ、時は来た。」

???

(サーミの古い方言)「彼方の恩主よ――」

(サーミの古い方言)「混沌より引き裂かれし、かの御方のご意志よ!」

(サーミの古い方言)「我、汝に求めん――その悉くを。」

「皇帝の利刃」

――!

エリザヴェータ、貴様は佯狂者を支配するために、サーミ人と結託したというのか――

運命よ、その口を開け!Ó Urðr, opna munn!

供物を余さず喰らうといい!Gleyptu allar fórnir!

記憶せよ、天に輝く日を遮るものは、Minnstu: þat er himin hylr,

災いではなく、眼差しであると。er eigi ógæfa, heldr augna máttur.

其は我を貫き、Sá máttur stingr mik,

森羅万象をも貫くのだ。ok stingr alla hluti.

呼び声の中から、腥い血の中から、凍える虚空の中から現れた奇妙で不可解な幻影は、純白から深紅へと裂けては爆ぜ、空間そのものを支配した。

幾千万もの顔が交錯し、幾千万もの眼差しが注がれる。

其は、佯狂者――ガブリエルス。

「皇帝の利刃」

……

やはり……


佯狂者

■■■……■■?

耳障りな低周波のうなり声が、空気中を渦巻く。それは何らかの言語のようだが、現実の法則にそれを理解する術は存在しなかった。

エリザベト女大公

あなたは、本当に――

(小声)ついに……成功したのですね。

室内は無風で、唯一の入口も閉ざされたままだ。それにもかかわらず、漆黒の二つの影が、突如として青白い怪物の両側に現れた。

エリザベト女大公

――!?

「皇帝の利刃」

奴を捕らえろ。

影が標的へと襲いかかった瞬間、それの足元の床が崩落した。あるいは、溶け出したと言うべきか――

佯狂者は脅威などまるで感じていないかのように、ただ立ち尽くしている。

佯狂者

■■。

「皇帝の利刃」

佯狂者、ガブリエルス。

ウルサスは、もはや貴様を必要としていない。

我々にとっても、貴様は不要な存在なのだ!

エリザベト女大公

いけません――!

その刹那、「佯狂者」と呼ばれたものの輪郭が曖昧になった。消滅へと向かっているのではなく、層を無数に重ね合わせた姿形へと分裂したのだ。

それは何かを囁きながら、この場で唯一生命を持ち合わせている者へ、悪魔の被造物ではない存在へ――

女大公へ向けて、手を伸ばした。

佯狂者

■■、■■■■■。

■■■■■……

最初の襲撃が通じなかったと見るや、近衛兵はすぐに立ち位置を移した。

漆黒を凝集して形作られた数本の凶刃が、絶えず明滅しては歪む佯狂者の胸を貫く。白と赤の欠片がはらりと剥がれ落ち、透明で底知れぬ円形が露わになった。

そのうなり声はまだ止まない。

エリザベト女大公

いけません、いけません……


物静かな侍従

……佯狂者は、とある坑夫の親族に擬態していたと思われます……

……その子供は……四人家族で、両親は処刑され、祖母は自殺しました。1096年以降、戸籍上は彼女一人となっています。

彼女もまた鉱区から逃げ出した坑夫たちに紛れ込んでいました。彼女だとしか考えられません。

どうやら、トラウマに対する極端な反応や、ある種の感情への強い渇望さえあれば、佯狂者を私たちのいるこの現実に繋ぎ止めることができるようです。


???

エリザベト叔母様――エリザベト叔母様!

私のリンゴの木々はどこに行ってしまったの? どうして残してはおけずに、他の木に植え替えなければならないのですか?

フェージャはまだ来ていません。あの子はいつもお母様の寝室を呆然と眺めているか、隠れて泣いているかで。もし、リンゴの木までなくなってしまったと知ったら――

エリザヴェータ

まあ、私の愛しいナースチャ。

リンゴの木はとても恐ろしい病気にかかってしまったのよ。他の木でなければ、あの環境では生き残れないわ……

???

もしかして「さび病」のこと? まさかお母様も?

エリザヴェータ

……いいえ、違うわ。いずれにせよ、お母様のご病気はきっとよくなるから。

人間は「さび病」になんてかからないわ。お母様はただの風邪だから、きっと治るはずよ。

???

「ただの風邪」?

エリザヴェータ

……どうしたの?

???

ただの風邪なら……

なぜお母様はあれほどやつれて、二度と目を覚まさなかったのですか?

エリザヴェータ

あなたは誰なの――

いったい何を言っているの?


「皇帝の利刃」

消え去れ。

佯狂者

■■■■■■■■、■■■■――

エリザベト女大公

いけません……

いけません! そんなことをしては!

あの子はナースチャ――アナスタシアです。ただ望まれなかっただけの、可哀想な子なのです!

あなたたちは彼女を利用しておきながら、いとも簡単に見捨てました。今度こそ、私は決して許しはしません――

戻りなさい、アナスタシア! 私のところへ戻って、もう二度と離れないで!

アナスタシア――

???

(サーミの古い方言)「炎と鮮血よ、我が願いを担え。」

アナスタシア?

……

「皇帝の利刃」

――エリザヴェータ、貴様――貴様ら! 一体何をしたかわかっているのか!

しくじったな……失敗だ。退け、全員退却だ!

エリザベト女大公

……あなたは、アナスタシアなの? それとも……

あなたはお母様に瓜二つだわ、その身から漂うビターアーモンドの香りさえも――彼女はそう語りかけようとしたが、どうしても声を紡ぎ出すことができなかった。

甘ったるい腥さにむせ返り、声を出すこともかなわない。彼女は呼吸さえ忘れ、この奇跡のような光景をただ見つめていた。

一秒、また一秒と過ぎていく中、誰一人として動こうとする者はいなかった。

「皇帝の利刃」

ウルサスは……

飼い慣らせない佯狂者も、本来存在するはずのない皇女も必要としていない。

エリザヴェータ、貴様の行いはウルサス全土を公然と敵に回す行為だ。

アナスタシア?

……

エリザベト女大公

……アナスタシア。

あの人たちを助けてあげましょう?

哀れな狂人たちに手を差し伸べ、彼らに苦痛を与えてあげなさい。あなたを傷つけ、支配し、存在することすら許さない者たちに!

与えなさい。彼らが足掻くのを止めるまで。そうすれば、彼らは悟るでしょう――

アナスタシア?

叔母様……

エリザベト女大公

ええ、そうよ。私はここにいるわ! 愛しい子、私のナースチャ。

アナスタシア

……叔母様。

あなたの望むままに。

彼女は顔を上げ、熱を帯びた眼差しで周囲を見回す。その瞳には彼女に喜びをもたらすものは何一つ存在せず、顔には偽りの笑みを浮かべているかのようだった。

かつては「怪物」と呼ばれ、今はアナスタシアと呼ばれる女性は、ゆっくりと手を挙げ、エリザヴェータの背後を指さした。

アナスタシア

あなたたちに、生きる道を授けます。

そして、死も授けましょう。

「皇帝の利刃」

ガブリエルス、貴様の責務は――

アナスタシア

受け入れなさい。

近衛兵に恐れの色は見えない。彼らは逃げも隠れもせず、自身の肉体が非対称な影の構造体に侵され、元の人型を引き裂かれるに任せた――

その只中では黒が滴り落ち、絶えることなく砕かれ、そして再構成されていく……

真新しい存在が、それを満たし、取って代わるまで。


クロージャ

ZOOT、もう一度シミュレートして。

バイタルサインの乱れを最小レベルに調整して……そう、今は余計なことを考えずに、理想的な状態を想定してシミュレートしてみてね。

……

フィッティング失敗。

クロージャ

……これでもダメなの……?

ZOOT、データを記録して……

2068回目……


クロージャ

今回も……成功しなかった。

ねぇケルシー、あたしたち、一体どうしたら……

ロドスは自分がいなくてもやっていけるとか言っちゃってさ……

……大ウソつき。


クロージャ

ケルシー! ケルシー――待って!

キミが隠したあの極秘資料は何? 読んでもさっぱり意味わかんなかったんだけど!

ケルシー

もう読んだのか。

あれらはしかるべき時が来れば閲覧することが可能となる資料に過ぎない。君にはいくらでも解読する時間が残されているだろう。今気にする必要はない。

クロージャ

待って、はぐらかさないでよ。じゃあロドスの全権限があたしに移管されたっていうのは、どういうことなの?

ケルシー

君に正式に頼みたい。

今後ロドスが困難に直面した時、君はドクターとアーミヤの傍で二人を支える極めて重要な存在となるだろう――その本意は、単にロドスのチーフエンジニアとしての価値だけを論じたものではない。

クロージャ

エンジニアとしてだけじゃなくて? あたしに他に何ができるって言うの?

アーミヤちゃんがどんなに成長したかわかってるでしょ。ドクターだって、当然ものすごいキレ者なわけだし。あたしが支えてあげられることなんて――

ケルシー

アーミヤが素晴らしいリーダーであることについて、私は微塵も疑いを抱いていない。同様にドクターの決断も信頼に値するものだ。そして、エリートオペレーターの面々も、傑出した人物と言える。

しかし、ロドスが港となり、多くの者にとっての帰るべき場所となるためには、それだけではまだ足りない。

誰もが重い責任を背負っている時にこそ、他者に力を与えられる人物がロドスには必要だ。

長期的な視野を持つことは確かに得難い能力だが、目の前に困難があってなお挫折しない楽観的な性分もまた、能力の一種であると言えるだろう。

クロージャ、これはまさに、君が授かった天賦の才と呼ぶべきものだ。その点において、君以上に上手くやれる者はいない。

クロージャ

うぅ……あっ、ちょっと待って! やっとわかったよ! それって遠回しに、あたしが何も考えてないおバカさんだって言いたいんでしょ!

ケルシー

……

クロージャ

でも、いくらあたしがチョロくて扱いやすい人間だからって、仕事を全部押しつけるのは酷くない!?

このあたしでも、仕事をいっぱい引き受けたら、ケルシーみたいに気難しい人間にならないとは限らないんだから……

ケルシー

もし君がこの責任を引き受けたくないと言うのであれば、私も代替案を用意するしかないが――

クロージャ

待った、ストップ!

ケルシー、いいよ、約束しても。絶対にあたしの全力を尽くして、ドクターとアーミヤちゃんを支えるって。

でも、本当のことを言ってくれない? ロンディニウムから戻ってきて以来、ずっと様子がおかしいよ。みんな気づいてるんだから。

本当に疲れたなら、とびっっっきり長い休暇を取りなよ。でもその代わり、二度と「私はもうじき永遠に消える」みたいな口ぶりで話さないでよね。

正直に教えて。一体どんな未来を想定して準備してるの?

ケルシー

未来を悲観しているから準備をしているわけではない。私はただ、いかなる状況にも対応できる余裕をロドスに持たせておきたいだけだ。

私は誰か一人が欠けたからといって、ロドスが立ち止まることはないと信じている。


クロージャ

ケルシーってば、いつも冷たくてロボットみたいだったし、いっそ本当にロボットだったらよかったのになぁ。それなら「復活」も、こんなに難しくなかっただろうし。

まったく、このデータの山から、どうやって完全なキミを組み上げろって言うのさ。

ケルシー、さっさと帰ってきてくれなきゃ、本当にいつまで持ちこたえられるかわからないよー……

ああああ――! もう、イライラする!!

お腹ペコペコだし、何か食べれるもの探そっと……

そういえば、他のみんなはもう休んだのかな? こっそり残業してる子とかいないよね……

Raidianの部屋にはしっかり鍵がかかってる……Mon3trはドアを閉め忘れたのかな? うわー……めっちゃ寝相悪いし。

アーミヤちゃんの部屋は……って、ドクターがいる?


アーミヤ

……

ドクター

眠れないのか?

アーミヤ

……

(小さくうなずく)

ドクター

アーミヤ

ドクター、子供扱いしないでください……ドクターが冗談を言っているのはわかっているんですから。

実は最近……ケルシー先生や、テレジアさんの夢をよく見るんです……きっと、あれは悪夢なんかじゃないはずです。

ドクターも、お休みしないんですか?

ドクター

アーミヤ

そうなんですね……では、今度は私がドクターを安心させる番ですね。

大丈夫ですよ。眠れないなら、一緒にお話をしましょう……こうして落ち着いてドクターと話せるのは、ずいぶん久しぶりな気がします。

ドクター

アーミヤ

いえ……実は自分のことよりも、ロドスの皆さんのことが気がかりなんです。

まだ本艦の事件から完全には立ち直れていないのに、次々と事件に巻き込まれてしまいました。そして今も……また困難な状況に直面しています。

この厳しい状況で、心が挫けそうになった方もいると思います。私も皆さんのために何かしたいと思ってはいるのですが、具体的にどうすればいいのかわからなくて……

ドクター

ドクター

アーミヤはたくさんの人に力を与えてきた。

アーミヤ

本当ですか? 私を喜ばせるための言葉じゃないって、信じてもいいのでしょうか……

でも……少なくともドクターが頼れる存在にはなれている、そうは思えるんです。

……

ドクター……ヴィッテ議長は、信用に足る方だと思いますか?

ドクター

アーミヤ

そうですね……覚えています。ヴィッテ議長は、五年前も平和の維持を支持されていました。

でも議長でさえ、クライニ・セーヴェル鉱区で起きた事件を止めることはできませんでした……あのような惨劇が、二度と起こらないという保証は誰もできません。

アーミヤ

議長は明らかに多くの情報を隠していますからね。

議長の立場も理解できますが、ゼルグラードに隠された謎には、やはり不安を感じてしまいます。

アーミヤ

それでも、ドクターは議長と利害が一致した協力関係を結ぶ自信があるんですね。

ドクター

ウルサスの情勢は非常に複雑だ。

その鍵となるのはゼルグラードの石棺だろう。

ここで行われている研究は、恐らく国外にも影響する。

アーミヤ

私たちが今対処している問題が、とても重要なものだということは理解しています。

こういう時はいつも考えてしまうんです……ケルシー先生は、何度もこんな難題に直面してきたのかもしれないって。

選択を迫られるたびに、ケルシー先生はどう考えてきたのでしょうか……

ドクター

アーミヤ

はい……

ドクター、私も責任を果たせるように努力しているつもりです。でも、ふとした瞬間に、どうしても思ってしまいます。ケルシー先生が今もいてくれたらって……

ドクター……実は、少しわからないことがあるんです。

チェルノボーグでも、ロンディニウムでも、私たちには明確な目標があって、打ち倒すべき敵がいました……でも今は、私たちは誰を相手に戦っているのでしょうか?

私たちには、源石の枯渇がもたらす災厄を阻止する術も、人間同士の対立による殺し合いを防ぐ術もありません。人と人が憎み合う理由は、決して鉱石病や種族の違いだけではないんです。

私たちが抗おうとしているのは、この大地そのものなのかもしれない……そんな気さえしているんです。

ドクター

アーミヤ

実を言うと、ドクターにこんな話をしたのは……今日の夜、変わった女の子と出会ったからなんです。同じコータスで、私よりいくらか年下に見えました。

その子からこんなことを聞かれました。どうしても救われない人がいるのなら、私たちがしていることに意味はあるのかと。

その時は肯定的な答えを返しました。でも、認めないといけませんね……私も時々、遠すぎる理想に焦りや不安を感じてしまいます。

ここ最近、そういう時間が増えた気がして……

ドクター

ドクター

ドクター

とにかく……

ドクター

アーミヤ

とてもドクターらしい答えですね。

ずっと昔、ドクターが語ってくれた童話のようです。お話に出てくる不思議なことの内容はそれぞれ違っていましたが、最後はどれも――

あっ……ドクターはもう覚えていないんですよね……

ドクター

それなら、いつかアーミヤから語ってほしい。

アーミヤ

はい……!

夜のいくらか冷たい空気の中で、アーミヤは少しばかりあなたの傍へと寄り添った。

アーミヤ

――!

ええ、すべてわかっているわ。

あなたは命を愛し、希望を信じている。だって、それがあなたの本質だもの。私たちを強く結びつける、あなたの本質。

でも、どうか忘れないで……


決して実現しない希望は、ただの嘘にすぎないということを。